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LV.999(part1)
しおりを挟むーある街にて
2人の男が道端で話していた。
「おい、知ってるか?また悪魔が現れたんだとよ。」
「悪魔ぁ?どうせ下級のデビルだろ。」
「いやそれがさ、どう見てもそうじゃなかったんだよ。」
「上級か。…昔は出なかったよな。」
「多分レイト様の魔法が強いから…」
「やはりレイト様か。全く…ここ数年の成果だけで国王にまでなった奴だけに起きている事がとんでもねぇな。」
「まぁあの人は与えられた者だからな。」
冒険者の街、アストレア。
ここは大陸と幾つかの村を繋いでいる大規模な街であり、どの冒険者でも必ず初めて来る場所である。土地柄もあってか皆おもてなしを重んじている。
そのおかげで今も尚この街は繁栄していた。
「…変わらないな。」
そのアストレアの人々の喧騒の中にエルとテレシアはいた。
「へー。どこに行くかと思えば始まりの街ねぇ。」
「何だよ。ここは冒険者の街なだけあって大量の情報が溢れ返ってるんだ。ここに来るだけ損は無い筈…」
そこまで言うとエルは足を止めた。
「どうしたの?エル?」
テレシアが心配そうに声をかける。
するとエルはテレシアを抱き寄せた。
「⁉︎」
テレシアの頬が赤く染まる。
しかしエルは違った。
(尾行されている…)
何かの気配に気づいたエルはテレシアを抱えながら足早になって裏路地に行った。
「な、何してんのよ!」
小声でテレシアが怒る。
「誰かに尾けられてる。」
しかし彼女はさも当然の様に言った。
「そりゃあ、季節外れの狩人って呼ばれたアナタがこんな所に来るって他の冒険者から見たら不思議に思うわよ。」
確かにエルが突然ここに来るとなると尾行されてもおかしくはない。
「ただの尾行ならいいけど…」
そう言ってエルは裏路地から顔を出して自分達が来た道を見る。
そこには道を通る人々しかいなかった。
(おかしいな……気のせいか?)
「ねぇいつまでここにいるつもりなのよ。」
「少し待って…」
テレシアの声がしたので振り返るとそこにはテレシアではなく、青年がいた。
「誰だ。」
エルは警戒態勢になる。
しかし青年は何も言わずに立ったままである。日が当たらないせいか青年の顔が見えない。
「テレシアはどこだ。」
「テレシア?この少女の事か。」
するとその青年は片手でテレシアの服を掴んでいた。
テレシアは精一杯じたばたしている。
「秩序の妖精の一族か。最近は崩壊寸前みたいだが。」
青年の言葉にエルは一層表情を厳しくする。
「慌てるな、俺は敵ではない。お前に一つヒントを与えに来ただけだ。」
「ヒント?」
「あぁまず、お前がいたギルドの集会所に行け。そこでお前は斃すべき敵を知る。」
予言の様な奇妙な事を言うと青年はテレシアをエルの方に投げた。そしてテレシアの声で
「秩序を保ちたいなら自分の命を捨てなさい。お前は死んで初めて強くなる。」
と言って、どこかへ消えていった。
「何だったんだろ。」
「知らないわよ。あんなの。」
「あいつはお前の事知ってるらしいけど…」
しかしテレシアは大きく頭を横に振った。
青年の言葉はどこか神秘的だった。
まるで神のお告げの様な感じだった。
「死んで初めて強くなる……ねぇ。」
そしてエルはテレシアと共に青年に言われた通り集会所に行った。
エルヴァー・シーズンがいたギルドはそれはそれは平凡なものだった。
砦の蟻勇団
義勇と蟻を掛けているという遊び心があるが意味は無いという。
最近では魔王の存在がないせいか全てのギルドに、害獣駆除程度の依頼しか入って来なくなっていた。
冒険者も全盛期と比べて60%も少なくなり、集会所も多くは寂れていた。
その砦の蟻勇団にエルはテレシアを連れて、集会所の錆びたドアを開けた。
ギィィィという不快な音が辺りに響く。
中はバーの様なつくりで自然光だけで部屋が明るくなっていた。
「もうっ、うるさいわね!」
中に入っての第一声がそれだった。
カウンターの中から飛び出した青い髪の女性が大きな胸を揺らしながら入り口の元まで歩いて来た。
「このドアも建て付けが悪くなってきたからあまり動かさないでって……」
そこまで言って女性がエルの方をみると急にのけ反った。
「え、エルくん⁉︎」
「久しぶりですね。ルナさん。」
ルナとよばれた女性は目を丸くしたままエルの体をツンツン突っつく。
幽霊ではないと認識したのか、今度は顔を鼻の先まで近づける。
「あのエルくん?私の椅子にスライム置いて身体中をヌルヌルにさせたエルくん⁉︎」
「とんでもない変態なのねアナタ。」
ルナの一言でテレシアがエルを蔑視する。
「あれはちょっとしたイタズラだったんだけどなぁ。」
驚きを隠せないルナだったが気を取り直しエルの方を見る。
「お久しぶりね、エルくん。もう5年も会ってなかったからどんな顔か忘れてたの~」
「いや~僕こそもう少し若かったと…」
そう言うと目の前から押しピンが飛んできた。
それを何気なく避けて、エルは言葉を続ける。
「そういえば、この5年で随分人がいなくなりましたね。」
押しピンの箱を持っていたルナは近くの椅子に座った。
「そうよ。魔王がいなくなってから最近はこんな感じ。あっても納品や小型モンスターの退治ぐらいしかないわ。」
するとルナはエルの後ろにいる少女の存在に気づいた。
「あら?まさかあなたどっかでヤっちゃった?」
あまりの唐突な発言にエルは固まる。
「まぁ5年も暇してたらねぇ。やる事やりたくなっちゃうよねぇ。」
全く…この人は。
いつもこんな感じだ。冒険者達に変な事言ってあたふたさせていて。それに彼女のグラマーな体型も相まってより困惑度が増していた。
「いや、突然僕の家に来た娘です。テレシアっていいます」
「へぇ…」
ルナの視線が鋭くなる。
「ホントにそうですって!!」
ルナは椅子に座り直してエルの方を再び見る。
「そんな事より何でここに?」
「いや、最近のアストレアってどうかなって。」
するとルナは深く考え込んだ。
そして間を置いて語った。
「最近…というか2年前かな。急にアストレアの西側に大型のモンスターが現れたみたいなの。王宮騎士団でも太刀打ち出来なかったっていうからそのモンスター討伐に多くの冒険者が駆り出されたの。でも無理だった。そんな時に1人変なやつがきた。」
「変なやつって?」
「そいつ、魔法使いみたいなんだけど全属性の究極魔法一個でモンスターを倒しちゃった。」
エルは彼女の話に違和感を感じていた。
そんなエルを見てルナは真剣な表情になる。
「あなたもわかっていると思うけど、この話には2つおかしな事があるの。
1つ目はアストレアの西側には小型モンスターしか生息していない事。そして2つ目は全属性究極魔法は存在しないはずの魔法だという事。」
究極魔法とは炎、水、雷、風の4つの属性のうちどれか1つを極めた者が使える魔法。その魔法が使えるには例外を除き最低50年を必要とする。さらに膨大な魔力を技一つで消費してしまう。さらに自分の魔力のキャパシティが超えてしまい暴走という事も少なくない。
そんな代償の大きい究極魔法を全属性扱うというのは自身が爆発四散する程の自殺行為である。
そして今話している全属性究極魔法。
それは名前の如く全ての属性の究極魔法を放つ事。
これが存在しない理由は簡単。
属性が相殺されてしまうからである。
炎を水に弱く、水は雷に弱い。
こんな感じで属性が打ち消されてしまいほぼ0に近い状態になるのだ。
「それって相殺という属性混合の壁を越えたって事?」
「さぁ、詳しいことはわからない。でもその魔法使いには莫大な報酬が貰えたみたいよ。」
そしてルナはエルの方を上目で見ながら
「まぁあなたならそんな奴がいなくても一捻りでモンスターを倒したと思うでしょうけど…」
しかしそんなルナの言葉をよそにエルは近くの椅子に座りながら考えていた。
「魔法使いねぇ… ルナさんはそいつの名前を知ってるんで?」
「えーと確か…"トワダ レント"だったような…」
「聞いた事ない名前だなぁ。極東の者かな。」
「さぁね。でもアストレアでレントって言うと結構有名みたいだわ。」
ルナの話を聞きエルは集会所を後にした。
「またいらっしゃい。今度はテレシアちゃんにお菓子を出さないとね。」
別れ際にルナがそう言って錆びついたドアを閉める。
「ねぇあの人ってどんな人なの?」
ルナと別れて開口一番にテレシアが言った。
「ん?変態だよ。」
そう言うとどこかから飛んできた。押しピンが後頭部に刺さった。
「痛ってえ!!!」
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