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LV.999(part2)
しおりを挟む夜空に月が輝いている中で…
「はぁはぁ…」
男はただ闇雲に街を走っていた。
「いやだ…死にたくない…」
絶望が溢れんばかりのその表情は男の死を予見していた。
「見つけたぞ。」
ふとどこかから声がする。男が後ろを振り向くがそこには誰もいない。
前にも、左右にもいない。
「どう足掻いても俺の聖なる力からは逃げられない。」
男はその声でさらに恐怖が掻き立てられる。
「分かった…分かったからもう許して…」
男は必死になって嘆願する。
「正義の為に殉じよ。」
そう言って掌から巨大な光の玉を出す。
「究極魔法"煌天神"」
その光の玉は紅蓮の炎を纏い出す。
「グッバイ。」
そう言って、男に向かってその巨大な火球を投げる。
男は苦しみに悶える事なく灰と化した。
月は何事もなかったかのようにただ街を照らしていた。
集会所でルナと話してから約4日後、あの話を聞いてからエルはずっと魔法使いの事を街で聞いていた。
しかしトワダ レントの名前を出すと皆そそくさとどこかへ行くのであまり聞き込む事はできなかった。
一人、野菜売りのおばちゃんが逃げずに喋ってくれた。
「いやね。トワダ様はいい人だよ。モンスターを倒してくれたおかげでアストレアまでの道が通れるようになったんだから。」
おばちゃんはトワダに感謝しているのかウキウキしながら話していた。
「しかしあんたはトワダの事知らないのかい?みんな知ってるのに。」
「知りませんよ。僕は5年前に引っ越したから…」
そんな事を話しているとエル達の目の前に
男が現れた。
男は痩せこけていて包帯でめ巻いていた。
「大丈夫ですか?」
エルは怪しむ事なく男に話しかける。
「あぁ…」
男は震えながら喋り出す。
「嫌だ…また一人殺された。あいつは悪魔だ…」
独り言だろうか。男の言葉には恐怖が滲み出ていた。
「あいつって誰だ?」
エルは男の独り言に乗っかるように尋ねた。
「あいつは…トワダは、人を物としか見ていない…」
男の言ったトワダの名前はエルの頭に強く残った。
「トワダ レントを知ってるのか?」
そう訊くと男はさらに震え出し
「知ってるも何も彼はこの国の王さ…」
エルは彼の言葉に驚いた。
どれほどの強さを持ってしても貴族の血を越える事ができない。
それを無視して、ただの冒険者がホロイスの貴族達の上に立っているのである。
「で、そのトワダがどうしたんだ?」
エルはさらに訊いた。
「あいつは国を乗っ取ったんだ。俺達はありえないからって反対したらその日から一人ずつ殺していった。そして昨日も1人消えちまった…」
「乗っ取った?一人ずつ殺された?」
「もうこれで4人目だ。次は…俺かもしれない。」
男の話はこれ以上なかった。
押し黙り、踵を返してどこかへ行ってしまった。
「ちょっと…」
エルは男の後を追ったがとっくにどこかへ去っていた。
「どっか行ったじゃない。どーするのよ、これから。」
テレシアがエルを横目で見ながら言った。
「いやもう決まりだ。トワダを斃す。」
「斃すって…アイツは王様なのよ?」
「いや、いける。きっと。」
エルは不敵な笑みを浮かべてある所へ行った。
彼が来た所は家だった。
その家は壁だけでなく屋根や扉まで黒塗りにされていて、皆、目的がない限りここを気付かずに素通りする。
「ちょっと待ってよ。ここって…」
テレシアが慌てふためく。
そう、ここは呪具屋"黒い家"。
普通の武具屋とは違い、強力な魔法武器を取り揃えている。
「何でこんなトコ…」
「そうかテレシアは妖精だからこういう裏町系な奴は知らないのか。」
エルは何食わぬ顔で中に入った。
「イらっしゃイ。」
中にはおぞましい呪具に囲まれた老婆がいた。
「ゴ用は何ぞネ。」
「僕のアレを返して貰いに来た。」
「アれかい?分かっタ。」
そう言うと老婆は皺だらけの左手で宙に何かを書く。
すると何も持ってなかった右手から一つ、籠手が現れた。
「アんたの、これだネ。」
老婆がエルにその籠手を渡す。
エルは貰った籠手をそのまま右手にはめた。
「ありがとう。」
「イんや。もともとあんたのやかラ。シかし、あんたの後ろの児見ない貌ネ。」
老婆はエルの後ろで隠れていたテレシアに気付いていた。
「あぁ、この娘は妖精でしてね。何でも秩序を守る妖精みたいで。」
「ち、ちょっと!」
テレシアが慌ててエルを見上げる。
しかしエルは笑っていた。
「心配しないでいい。実はこの人も妖精なんだ。」
エルがそう言うと、老婆は皺だらけの手でテレシアの頬を触る。
「秩序の妖精…
最近見ないと思ったラ、滅亡寸前なのかいナ。」
老婆が手を離すと共に
エルはテレシアを連れて外へ出る。
「気を付けナ。その籠手はその児に逢わない運命だったからネ。」
老婆はそう言い残して、家の扉を閉めた。
そしてアストレアの城下町。
元々、アストレアには城下町はなかった。
噂のトワダが王になってから5年の内で町をつくったのだろう。
そのせいか道も建物も中途半端にできていた。
「何だ、これ…」
その町は人がいるにはいるがまるで時が止まったかのように動いてなかった。
「町が止まっているのかしら?」
テレシアが言う。
トワダは一体何がしたいのだろうか。
その真相を確かめる為にエルとテレシアは城へ向かった。
その途端ー
「防衛魔法 鋼鉄の神盾!」
どこかから魔法の詠唱が聞こえると、目の前に光の壁が出来た。
「これは…まさか!」
エルが上を見るとそこに2人の男女が浮いていた。
「まさかレントの邪魔しに来たんじゃないだろうなぁ。」
左の白髪の男が自分の身長ほどの大剣を担ぎながら言う。
「貴様の様な不躾者は帰るがいい。」
次いで右の赤髪の女が言った。
(護衛!しかもアイツらただならないオーラが…!)
テレシアは怯えたが、エルは気にせず静かに笑っていた。
そして城に向かって再び進み始めた。
「忠告を無視するか。なら死ねっ!」
白髪の男が大剣でエルの方に斬り込む。
その一撃は見事にエルに必中したかと思うとさらに大剣を使って地面を割った。
テレシアはただ呆然と立ち尽くしていた。
「帰らなかったお前が悪いんだ。」
だが…土煙が舞う中で一丁のナイフが飛んで来た。
「⁉︎」
白髪の男はそのナイフを大剣で弾く。
「…まだ生きていたのか。」
土煙の中からエルが出て来る。
「どうやら運が良かったみたいだな。」
「へへ…どうやら僕は強運の持ち主の様でしてね。」
エルは笑っていた。
「まぁ次で微塵にしてやるけどね。」
「次?」
エルが沈んだ声で呟く。
「もうお前に次なんてないんだよ。」
「は?」
白髪の男が唖然としているとエルは自分の右脇腹を指差した。
そして男が右の脇腹を見ると、そこにナイフが刺さっていた。
「…っ!いつの間に⁉︎」
「それは、ただのナイフ。でも君には合わない。」
「何だっ…」
男が何かを言おうとする前に男の身体に魔法陣が展開される。
「’贄を捧げよ’」
エルが詠唱すると男の身体が爆発した。
「な、何が起きた…」
赤髪の女が目の前で起きた事に戸惑いを隠せずにいる。
「何って君の相方が爆発四散しただけだよ。」
エルはまだ笑っていた。
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
女が腰に提げていた片手剣を引き抜き、エルに突き刺す。
しかしエルは籠手でそれをガードする。
「アイツは、ヨウキは、善良な奴だったんだ!街の皆も慕っていた!そんな奴をお前はぁ!」
「へぇ、普通の一般人に攻撃してくる奴が善良ねぇ。」
エルは籠手で剣を弾き飛ばしてそのまま懐へ殴り込む。
ガンっ!!
不可解な音が腹から聞こえた。
「無駄だ!私は盾の勇者!どんな強い打撃も究極魔法も効かぬ!」
「へぇ、じゃこれはどうだ?」
ガンっ、ガンっ、ガンっ
エルは弾かれても尚殴っていく。
「無駄だぁ!」
女はそう言ってエルの背中に剣を突き刺した。
「かはっ!」
「エルっ!」
背中に血の生温さが伝わってくる。
しかし、それでも…彼は笑っていた。
「あぁそうだ。無駄な事だ。でも…殺す為に無駄な事をしていると思うかい?」
エルは後ろに退がって間合いを取り、
「’贄を引き摺れ’」
と、詠唱した。
すると籠手から白髪の男が持っていた自分の身長ほどの大剣が出てきた。
「君が盾の勇者だとすると、君の相方はおそらく剣の勇者。最強の盾が君ならこの大剣はどんなモノも断ち切る。」
女はエルの元へ飛び跳ねた。
「うぉぉぉぉ!!!!」
「試してみようか。最強の盾と最強の剣どちらが強いか。」
そう言ってエルは赤髪の女を迎え撃つ。
ーーある国で、最強の剣と最強の盾をぶつけたらどうなるのかという話があった。
全てを耐える硬さと全てを斬り伏せる硬さ。この二つをぶつけることで何が起きるか。答えは簡単である。"両方とも砕ける"
しかし盾か剣どちらかに異常があるとしたら、ーー
それは無論どちらかが砕ける。
女はエルの大剣の一振りを直に腕で受けていた。
「ヌゥオオオ!!」
ギリギリと互いがぶつかる音が響く。
勝負は互角
……のはずだった。
ピシッ
赤髪の女は自身の異変に気づく。
「え?」
女が身体を見ると腹部にヒビが入っていた。
「貴様、まさか…」
そう、エルのあの殴打である。
「そう。この勝負は最初から見えてた。
僕が勝つってね。」
だんだんと女が大剣の圧に押さえられていく。身体のヒビも広がり細かくなる。
「あ、ぐっ…」
「君も終わりだ。」
エルは大剣を一気に地面に押し込んだ。女の身体が砕けるとともに押し潰される。
大剣は地面に食い込み刺さってしまった。
「…勝ったの?」
ずっと端で見ていたテレシアが寄ってくる。
「あぁ、でも本当の戦いはこれからだ。」
そう言ってエルは城へ向かった。
(これが…季節外れの狩人の力。屍肉を糧とする外法の冒険者。)
少し遅れてテレシアが小走りでエルの後ろへついて行った。
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