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第3章 銀河の中枢 [央星]
第9話 万能遺伝子
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【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
▼敵勢力
[ヴァンガルド・キル]
違法の遺伝子強化技術を使用する殷生師団の一人。
最近まで投獄されていたが、脱獄に成功し、指名手配犯となっている。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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【お知らせ】
・評価いただきありがとうございます。嬉しさで小躍りしてます
・各話とも随時、その章に登場するキャラで表紙を作成していってます。併せてご覧ください
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「またこの少年を攫さらいにくるかもしれない」
セリナのせいでヴァンガルド達を取り逃がしてしまったことを責める大元帥のオール。
ヴァンガルドがMy Geneを求めて再度プラズマを攫いに来る可能性も大いにある。オールの言うことはもっともだった。
しかしオールの言葉にセリナは真向から言い返した。
「攫いに来たって、そのときはまた守ればいい。何度だって私がプラズマを守る」
真っ直ぐな眼差しを向ける少女を前に、オールは諦めたように“はぁ”と大きくため息をついた。
オールから目を逸らそうとしないセリナの前にプラズマが割って入った。
「それよりもセリナ、お前どうしてここに?」
鋭い眼光から一変し、穏やかな眼差しをプラズマに向ける。
「レオンさんの研究の手伝いで、世界中の遺伝子能力のサンプルを集めて回ってるんだ」
セリナは嬉しそうな表情でプラズマを見つめている。
「久しぶりね……プラズマ」
そしてセリナはプラズマの傍らに立つ紫髪の男と女侍に目を向けた。
「ちょっと見ないうちに、お友達も増えたみたいで」
「おう!」
プラズマは“よくぞ聞いてくれました”と言わんばかりに手で指し示しながら順々に紹介を始めた。
「この紫のつんつん頭で極悪そうな奴が“バリス”」
「この青色の髪長くて極悪そうな奴が“ルルカ”」
プラズマはご満悦の様子で、仲間の二人を親指で指さした。
「おいルルカ。叩き斬っていいぞ」
「いや、一撃で終わらすのは惜しい」
バリスは拳で、涙流華は刀の柄でプラズマの頭を小突いた。
「それよりアンタ、本当にプラズマと同い年か?」
バリスは未だ信じられない程の天才、バカ電気の“幼馴染”に話しかけた。
「俺は軍付属の高等部にいたが、封唱なんて使える奴見たことない。いや、それどころか階級持ちの軍人でも見たことない」
バリスの言葉にラルトも頷いている。
「何者だ」
バリスの鋭い視線がセリナを貫く。
「何者って言われても……師匠がすごいだけで、ただの一般人なんですけど……」
暗に能力を褒められたセリナは気恥ずかしそうに肩を竦めた。
「そいえばセリナ。俺、My Geneに必要とかでヤバい集団に狙われているみたいなんだよな」
「うん、聞いてる。“アクスグフス”って人がリーダーの組織に狙われてるって」
セリナは不安そうに胸の前で両手を握り合わせた。
「学校卒業する前に襲ってきたウィンドって男もアクスグフスって言ってなかったっけ?」
「そうだっけ?」
プラズマはあまり記憶になかったが、プラズマを襲った風の能力を使うウィンドという緑髪の男が口にしていた人物。それこそが“アクスグフス”だった。
「なら、そのウィンドってやつ、さっきのヴァンガルド・キル、それとアクスグフスってのがプラズマを狙ってるってわけか」
バリスは敵の名前を上げながら指折り数えている。
オール大元帥がプラズマ達の前に立つと、深々と頭を下げた。
「すまない。君を守れたとは言え、政府軍のド真ん中でこんな無様な結果に……」
頭を下げる政府軍のトップに皆が困惑している中、涙流華だけは辛辣な言葉を浴びせた。
「全くだ。政府軍のNo.3とNo.4が裏切って脱獄囚の下についていた上に、奴らにみすみすと逃げられたんだからな」
「おい、ルルカ……」
流石のプラズマも涙流華を止めるため声をかけようとするが、オール大元帥はそのまま続けた。
「いや、その通りだ」
ルルカの言葉にオール大元帥は俯いた。
「実際に水王家のお嬢さんは上級大将と一人で対峙している。最悪の事態になっていてもおかしくなかった。水王家の侍の強さに助けられたよ。危険な目に遭わせ、本当に申し訳なかった」
「……」
左腰に携えられた黒い刀を見つめる涙流華。
憑依刀を抜いてからの記憶が曖昧だった。
自分の心の中で、どす黒い血によって何重にも囲まれたように、外から自分ではない自分の声が聞こえていただけだったからだ。
オール大元帥からは称賛の言葉を受けるが、涙流華自身、上級大将とやり合う力がないことは分かっていた。
そこまで自分の力を見誤ってはいない。
実際何が起こったのかは分かっていなかったが、憑依刀によって何かが起こったおかげで、デーモンに敗れることはなかった。
何が起こったのか。それを知るのは、その時敵として対峙していたデーモンだけだった。
――その刀は憑依刀
――使い方はその刀自身が教えてくれるだろう
父、木勝から憑依刀を授かった時の言葉が蘇る。
あの負の感情は……
父はこの刀のことを知っていて自分に授けたのだろうか。
「流石は元大元帥、水王行不地殿の系譜だ」
オール大元帥が口にした涙流華の祖父である水王行不地。水王家の九代目、二人目の子として生まれた男。
彼の姉、水王衛菜は女傑として銀河に広く知られ、水王家の正当後継者として水王家を引っ張っていく存在となるはずだった。
しかし彼女が命を落とし、弟の行不地が繰り上がりで正統後継者となったのだ。元々不出来な弟として水王家でも疎まれていた彼だが、偉大な姉の後を継ぐため、努力とともに徐々に頭角を現し、そしてついには政府軍大元帥へと登りつめるに至った。
行不地が当主であることを批判する家臣もいたが、圧倒的な実力と手腕、人望で水王家を、そして政府軍を大きくしていった。彼は水王家の中でも大きく後世に名を残すであろう当主となったのだ。
しかし、後に行不地は銀河中の信頼を裏切る事件を起こすこととなる。
それが水王大元帥反乱事件。
新暦278年。行不地が大元帥となって9年経ったときのこと。
当時元帥をしていたローズ家のバルルト・ローズ。ラルトの祖父でもある彼が大元帥執務室に、彼の孫、ラルト・ローズとその従妹であるレミ・ローズを連れてきていた。
いつものことだった。当時大元帥をしていた水王家の行不地とローズ家のバルルトは非常に親交が深く、よく彼らの孫を大元帥執務室に連れて来ては交流させていたのだ。
当時、行不地の孫である涙流華とその妹の千里華も遊びに来ており、ラルト達と遊んでいた。
しかし突然、水王行不地大元帥が軍無線で反政府を掲げて反旗を翻し、その場にいたバルルト・ローズと戦った。
そして、水王行不地とバルルト・ローズは激戦の末にお互い戦死。
行不地が“反政府”を掲げたことによって、元々紛争のあった地域の星々が政府、反政府の立場を取って武装蜂起を始めたのだ。最初は暴動だった。しかし、ある星の輸送船が他星に撃ち堕とされたことによって戦争に発展し、瞬く間に多くの星を巻き込んだ大戦へと誘った。
この星と同盟を結んでいるから。あの星とは昔から因縁があったから。地勢的な理由から。主義思想の相違から。多くの星が参戦することとなったのだ。
それはもはや、“敵”に憂さ晴らしをするのが目的かのように、様々な理由に端を発し次々と戦火が巻き起こった。
大きな悲しみを生んだ大戦の発端となったのが、水王大元帥反乱事件だった。
しかし、それは虚構の史実だったのだ。
涙流華の祖父にあたる水王行不地が起こした大元帥反乱事件。
そしてラルト・ローズやオール大元帥が言う大元帥反乱事件の真実。
涙流華の頭は混乱し、様々な情報が渦巻いて錯綜していた。
そんな彼女からこの言葉が出たのはごく自然なことだった。
「一体何が起きているのか説明してくれ。爺様の反乱事件の真実を」
まっすぐな涙流華の眼差しに応えるように、少しの沈黙の後、オール大元帥がラルトと目を見合わせると“私も全てを把握できているわけではないが”と前置きをしてゆっくりと口を開いた。
「君のお爺さんとラルト中佐のお爺さんは戦っていない。これが事実だ」
オールの言葉に涙流華は張りつめていたものが緩んだように大きく息を吐いた。
自分の祖父がそんなことをするはずがない。そう思いながらも心のどこかで不安だったのだろう。
「水王大元帥とローズ元帥は共に戦った。君達を守るためにね」
当時、涙流華やラルトは、突然バルルト・ローズによって大元帥執務室にある大金庫に閉じ込められた。
行不地の反乱による被害を受けないように、バルルトが頑丈な金庫に放り込んだのだと史実では報じられた。
金庫に閉じ込められていたため、涙流華やラルト達は外で何が起こっていたか知る由もない。
「あの御二人は、ヴァンガルド・キルと、ラグナロク・ニーズヘッグという男達と戦っていたのだと睨んでいる」
ヴァンガルド・キルは先ほど対峙した殷生師団の一人で知っていたが、もう一人のラグナロク・ニーズヘッグという人物は初耳だった。
「ヴァンガルド・キルという男はかつてローズ家の者を10人以上殺した男だ」
“ローズ家の者を10人以上殺した”。
涙流華はその言葉に驚きながらラルトに目を向けた。
「もう一人のラグナロク・ニーズヘッグという男は、元々キル家でヴァンガルドの実兄だ」
「何かローズ家と因縁があって、バルルト・ローズ元帥を襲い、その時一緒にいた水王大元帥とも交戦した。そしてその後ローズ家の者を殺したんだ」
「ローズ君にも話したが、おそらく当時の五大名家、ギガ家、ジア家、キル家が絡んでいる。当時映栄華を誇った水王家とローズ家を没落させようと、その二家の当主を殺そうと画策したんだろう」
「ジア……?」
“ジア”という家名に反応したのはプラズマだった。
「ジアって、まさかアリス達の家じゃねぇよな……?」
「そんなの噂程度の話でしょ。信じなくていいよプラズマ」
セリナがプラズマの目の前に立ち、オール大元帥の推測を否定した。
そしてオール大元帥の方へ冷たい視線を放つ。
「そんな噂程度の憶測を大元帥がするべきではないのでは?」
「と、とにかく、水王家とローズ家の対立などなかった。ローズ君はそのことに気付いていたようだが。」
少女に凄まれてばつが悪くなったのか、オール大元帥は咳払いをすると、話を続けた。
「そして政府軍の上級大将と大将がそのヴァンガルド・キルの手下だった」
オール大元帥は申し訳なさそうに、再度視線を下げ、拳を握りしめた。
「奴らの目的は…なんだ」
涙流華は静かに問うた。
「My Geneだ」
万能遺伝子という答えに、普段冷静なバリスが思わず声を上げた。
「My Geneだと!?そんなのプラズマくらいしか信じてない御伽噺だろ?」
「お前だって存在信じてついて来たんだろ」
プラズマはバリスに向けて不満そうな表情を浮かべる。
「存在の“有無”は重要じゃない。」
「重要なのは、その存在を“信じて武力で追う輩がいる”ということだ」
オール大元帥の言葉に沈黙が流れる。
「My Geneは存在するよ」
セリナの言葉にオール大元帥は目を細め、鋭い眼光を向けた。
学生時代は御伽噺といつもプラズマを茶化していたセリナ。そんな彼女の発言にプラズマも驚いている。
「セリナ……?」
「遺伝子の調査をしていて分かったことがあるの。煉術に遺伝子共鳴探査ってあるでしょ?」
プラズマは、はてなマークを浮かべている。
「あるのか?」
「……あるのよ」
呆れるセリナは気を取り直して話を続けた。
「その共鳴探査で宇宙のある一点に数多くの遺伝子能力反応があることが分かった」
「数多くの反応?」
「どういうことかは分からないけど…でもその反応は、近づこうとすると忽然と姿を消す。そして、また別のところで反応が現れる」
初めて聞く話に皆がセリナの説明に聞き入っていた。
それもそうだった。
My Geneなどどいう“もの”は、子供のころに読み聞かせてもらった絵本の中に登場するだけの存在だったからだ。
それを今、目の前の少女がもっともらしくその存在を説明しているのだから、聞き入らずにはいられなかった。
「数多くの遺伝子能力。万能ってことは多くの能力を備えた遺伝子能力ってことでも矛盾はしないと私達は考えた。だからこの反応こそがMy Geneなんじゃないかって」
セリナの仮説を聞き終えたオール大元帥が口を開いた。
「そのような話……仮に本当だとしても公になっていない機密情報のはずだ……」
「それを幼馴染に伝えていいのか?」
「もちろんです。プラズマには知ってもらっておかないと。何せMy Geneを求めてプラズマを狙う人たちがいるんでしょう?」
政府軍大元帥という立場の猛者に、セリナは躊躇うことなく言い切った。
「まぁ、それは君達の扱う範疇のことだ。そちらに任せよう」
「とにかく。俺や涙流華の爺さん達が殺し合いなんてするわけないからな。そんなのアホでもわかる」
ラルトは話をまとめながらも涙流華を揶揄した。
「貴様……!」
当然涙流華の顔が険しくなる。
「まだいがみ合う必要があるか?アホ以下の涙流華。」
「あるわ!!この気取り男が!!誰が阿呆以下だ!!!」
「お前だ!このアホ以下脳筋ザムライが!!」
涙流華はラルトの腹に蹴りを入れたところで、プラズマとバリスに引きはがされた。
「政府軍には……確実に闇の部分がある」
オール大元帥はそう呟くと、腹を押さえるラルトがそれに答えるように言葉を発した。
「俺が必ず政府軍の闇を晴らしてやる……!」
To be continued.....
【EXTRA STORY】
「ほら、仲直りの握手でもしたらどうだ」
「ほらよ」
「おい、ルルカ! こいつは素直に折れてんだから応えてやれよ!」
「ふん……」
「なんだ、やけに素直じゃ……っ!?」
「てめぇ力入れて…! くそっ……この脳筋ザムライ!」
「貴様こそ……女相手に何を力を入れているのだ………」
「あの固い握手。よかった。ローズ君と水王家が和解したようで」
「いや、違うと思うが」
To be continued to next EXTRA STORY.....
【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
▼敵勢力
[ヴァンガルド・キル]
違法の遺伝子強化技術を使用する殷生師団の一人。
最近まで投獄されていたが、脱獄に成功し、指名手配犯となっている。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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【お知らせ】
・評価いただきありがとうございます。嬉しさで小躍りしてます
・各話とも随時、その章に登場するキャラで表紙を作成していってます。併せてご覧ください
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「またこの少年を攫さらいにくるかもしれない」
セリナのせいでヴァンガルド達を取り逃がしてしまったことを責める大元帥のオール。
ヴァンガルドがMy Geneを求めて再度プラズマを攫いに来る可能性も大いにある。オールの言うことはもっともだった。
しかしオールの言葉にセリナは真向から言い返した。
「攫いに来たって、そのときはまた守ればいい。何度だって私がプラズマを守る」
真っ直ぐな眼差しを向ける少女を前に、オールは諦めたように“はぁ”と大きくため息をついた。
オールから目を逸らそうとしないセリナの前にプラズマが割って入った。
「それよりもセリナ、お前どうしてここに?」
鋭い眼光から一変し、穏やかな眼差しをプラズマに向ける。
「レオンさんの研究の手伝いで、世界中の遺伝子能力のサンプルを集めて回ってるんだ」
セリナは嬉しそうな表情でプラズマを見つめている。
「久しぶりね……プラズマ」
そしてセリナはプラズマの傍らに立つ紫髪の男と女侍に目を向けた。
「ちょっと見ないうちに、お友達も増えたみたいで」
「おう!」
プラズマは“よくぞ聞いてくれました”と言わんばかりに手で指し示しながら順々に紹介を始めた。
「この紫のつんつん頭で極悪そうな奴が“バリス”」
「この青色の髪長くて極悪そうな奴が“ルルカ”」
プラズマはご満悦の様子で、仲間の二人を親指で指さした。
「おいルルカ。叩き斬っていいぞ」
「いや、一撃で終わらすのは惜しい」
バリスは拳で、涙流華は刀の柄でプラズマの頭を小突いた。
「それよりアンタ、本当にプラズマと同い年か?」
バリスは未だ信じられない程の天才、バカ電気の“幼馴染”に話しかけた。
「俺は軍付属の高等部にいたが、封唱なんて使える奴見たことない。いや、それどころか階級持ちの軍人でも見たことない」
バリスの言葉にラルトも頷いている。
「何者だ」
バリスの鋭い視線がセリナを貫く。
「何者って言われても……師匠がすごいだけで、ただの一般人なんですけど……」
暗に能力を褒められたセリナは気恥ずかしそうに肩を竦めた。
「そいえばセリナ。俺、My Geneに必要とかでヤバい集団に狙われているみたいなんだよな」
「うん、聞いてる。“アクスグフス”って人がリーダーの組織に狙われてるって」
セリナは不安そうに胸の前で両手を握り合わせた。
「学校卒業する前に襲ってきたウィンドって男もアクスグフスって言ってなかったっけ?」
「そうだっけ?」
プラズマはあまり記憶になかったが、プラズマを襲った風の能力を使うウィンドという緑髪の男が口にしていた人物。それこそが“アクスグフス”だった。
「なら、そのウィンドってやつ、さっきのヴァンガルド・キル、それとアクスグフスってのがプラズマを狙ってるってわけか」
バリスは敵の名前を上げながら指折り数えている。
オール大元帥がプラズマ達の前に立つと、深々と頭を下げた。
「すまない。君を守れたとは言え、政府軍のド真ん中でこんな無様な結果に……」
頭を下げる政府軍のトップに皆が困惑している中、涙流華だけは辛辣な言葉を浴びせた。
「全くだ。政府軍のNo.3とNo.4が裏切って脱獄囚の下についていた上に、奴らにみすみすと逃げられたんだからな」
「おい、ルルカ……」
流石のプラズマも涙流華を止めるため声をかけようとするが、オール大元帥はそのまま続けた。
「いや、その通りだ」
ルルカの言葉にオール大元帥は俯いた。
「実際に水王家のお嬢さんは上級大将と一人で対峙している。最悪の事態になっていてもおかしくなかった。水王家の侍の強さに助けられたよ。危険な目に遭わせ、本当に申し訳なかった」
「……」
左腰に携えられた黒い刀を見つめる涙流華。
憑依刀を抜いてからの記憶が曖昧だった。
自分の心の中で、どす黒い血によって何重にも囲まれたように、外から自分ではない自分の声が聞こえていただけだったからだ。
オール大元帥からは称賛の言葉を受けるが、涙流華自身、上級大将とやり合う力がないことは分かっていた。
そこまで自分の力を見誤ってはいない。
実際何が起こったのかは分かっていなかったが、憑依刀によって何かが起こったおかげで、デーモンに敗れることはなかった。
何が起こったのか。それを知るのは、その時敵として対峙していたデーモンだけだった。
――その刀は憑依刀
――使い方はその刀自身が教えてくれるだろう
父、木勝から憑依刀を授かった時の言葉が蘇る。
あの負の感情は……
父はこの刀のことを知っていて自分に授けたのだろうか。
「流石は元大元帥、水王行不地殿の系譜だ」
オール大元帥が口にした涙流華の祖父である水王行不地。水王家の九代目、二人目の子として生まれた男。
彼の姉、水王衛菜は女傑として銀河に広く知られ、水王家の正当後継者として水王家を引っ張っていく存在となるはずだった。
しかし彼女が命を落とし、弟の行不地が繰り上がりで正統後継者となったのだ。元々不出来な弟として水王家でも疎まれていた彼だが、偉大な姉の後を継ぐため、努力とともに徐々に頭角を現し、そしてついには政府軍大元帥へと登りつめるに至った。
行不地が当主であることを批判する家臣もいたが、圧倒的な実力と手腕、人望で水王家を、そして政府軍を大きくしていった。彼は水王家の中でも大きく後世に名を残すであろう当主となったのだ。
しかし、後に行不地は銀河中の信頼を裏切る事件を起こすこととなる。
それが水王大元帥反乱事件。
新暦278年。行不地が大元帥となって9年経ったときのこと。
当時元帥をしていたローズ家のバルルト・ローズ。ラルトの祖父でもある彼が大元帥執務室に、彼の孫、ラルト・ローズとその従妹であるレミ・ローズを連れてきていた。
いつものことだった。当時大元帥をしていた水王家の行不地とローズ家のバルルトは非常に親交が深く、よく彼らの孫を大元帥執務室に連れて来ては交流させていたのだ。
当時、行不地の孫である涙流華とその妹の千里華も遊びに来ており、ラルト達と遊んでいた。
しかし突然、水王行不地大元帥が軍無線で反政府を掲げて反旗を翻し、その場にいたバルルト・ローズと戦った。
そして、水王行不地とバルルト・ローズは激戦の末にお互い戦死。
行不地が“反政府”を掲げたことによって、元々紛争のあった地域の星々が政府、反政府の立場を取って武装蜂起を始めたのだ。最初は暴動だった。しかし、ある星の輸送船が他星に撃ち堕とされたことによって戦争に発展し、瞬く間に多くの星を巻き込んだ大戦へと誘った。
この星と同盟を結んでいるから。あの星とは昔から因縁があったから。地勢的な理由から。主義思想の相違から。多くの星が参戦することとなったのだ。
それはもはや、“敵”に憂さ晴らしをするのが目的かのように、様々な理由に端を発し次々と戦火が巻き起こった。
大きな悲しみを生んだ大戦の発端となったのが、水王大元帥反乱事件だった。
しかし、それは虚構の史実だったのだ。
涙流華の祖父にあたる水王行不地が起こした大元帥反乱事件。
そしてラルト・ローズやオール大元帥が言う大元帥反乱事件の真実。
涙流華の頭は混乱し、様々な情報が渦巻いて錯綜していた。
そんな彼女からこの言葉が出たのはごく自然なことだった。
「一体何が起きているのか説明してくれ。爺様の反乱事件の真実を」
まっすぐな涙流華の眼差しに応えるように、少しの沈黙の後、オール大元帥がラルトと目を見合わせると“私も全てを把握できているわけではないが”と前置きをしてゆっくりと口を開いた。
「君のお爺さんとラルト中佐のお爺さんは戦っていない。これが事実だ」
オールの言葉に涙流華は張りつめていたものが緩んだように大きく息を吐いた。
自分の祖父がそんなことをするはずがない。そう思いながらも心のどこかで不安だったのだろう。
「水王大元帥とローズ元帥は共に戦った。君達を守るためにね」
当時、涙流華やラルトは、突然バルルト・ローズによって大元帥執務室にある大金庫に閉じ込められた。
行不地の反乱による被害を受けないように、バルルトが頑丈な金庫に放り込んだのだと史実では報じられた。
金庫に閉じ込められていたため、涙流華やラルト達は外で何が起こっていたか知る由もない。
「あの御二人は、ヴァンガルド・キルと、ラグナロク・ニーズヘッグという男達と戦っていたのだと睨んでいる」
ヴァンガルド・キルは先ほど対峙した殷生師団の一人で知っていたが、もう一人のラグナロク・ニーズヘッグという人物は初耳だった。
「ヴァンガルド・キルという男はかつてローズ家の者を10人以上殺した男だ」
“ローズ家の者を10人以上殺した”。
涙流華はその言葉に驚きながらラルトに目を向けた。
「もう一人のラグナロク・ニーズヘッグという男は、元々キル家でヴァンガルドの実兄だ」
「何かローズ家と因縁があって、バルルト・ローズ元帥を襲い、その時一緒にいた水王大元帥とも交戦した。そしてその後ローズ家の者を殺したんだ」
「ローズ君にも話したが、おそらく当時の五大名家、ギガ家、ジア家、キル家が絡んでいる。当時映栄華を誇った水王家とローズ家を没落させようと、その二家の当主を殺そうと画策したんだろう」
「ジア……?」
“ジア”という家名に反応したのはプラズマだった。
「ジアって、まさかアリス達の家じゃねぇよな……?」
「そんなの噂程度の話でしょ。信じなくていいよプラズマ」
セリナがプラズマの目の前に立ち、オール大元帥の推測を否定した。
そしてオール大元帥の方へ冷たい視線を放つ。
「そんな噂程度の憶測を大元帥がするべきではないのでは?」
「と、とにかく、水王家とローズ家の対立などなかった。ローズ君はそのことに気付いていたようだが。」
少女に凄まれてばつが悪くなったのか、オール大元帥は咳払いをすると、話を続けた。
「そして政府軍の上級大将と大将がそのヴァンガルド・キルの手下だった」
オール大元帥は申し訳なさそうに、再度視線を下げ、拳を握りしめた。
「奴らの目的は…なんだ」
涙流華は静かに問うた。
「My Geneだ」
万能遺伝子という答えに、普段冷静なバリスが思わず声を上げた。
「My Geneだと!?そんなのプラズマくらいしか信じてない御伽噺だろ?」
「お前だって存在信じてついて来たんだろ」
プラズマはバリスに向けて不満そうな表情を浮かべる。
「存在の“有無”は重要じゃない。」
「重要なのは、その存在を“信じて武力で追う輩がいる”ということだ」
オール大元帥の言葉に沈黙が流れる。
「My Geneは存在するよ」
セリナの言葉にオール大元帥は目を細め、鋭い眼光を向けた。
学生時代は御伽噺といつもプラズマを茶化していたセリナ。そんな彼女の発言にプラズマも驚いている。
「セリナ……?」
「遺伝子の調査をしていて分かったことがあるの。煉術に遺伝子共鳴探査ってあるでしょ?」
プラズマは、はてなマークを浮かべている。
「あるのか?」
「……あるのよ」
呆れるセリナは気を取り直して話を続けた。
「その共鳴探査で宇宙のある一点に数多くの遺伝子能力反応があることが分かった」
「数多くの反応?」
「どういうことかは分からないけど…でもその反応は、近づこうとすると忽然と姿を消す。そして、また別のところで反応が現れる」
初めて聞く話に皆がセリナの説明に聞き入っていた。
それもそうだった。
My Geneなどどいう“もの”は、子供のころに読み聞かせてもらった絵本の中に登場するだけの存在だったからだ。
それを今、目の前の少女がもっともらしくその存在を説明しているのだから、聞き入らずにはいられなかった。
「数多くの遺伝子能力。万能ってことは多くの能力を備えた遺伝子能力ってことでも矛盾はしないと私達は考えた。だからこの反応こそがMy Geneなんじゃないかって」
セリナの仮説を聞き終えたオール大元帥が口を開いた。
「そのような話……仮に本当だとしても公になっていない機密情報のはずだ……」
「それを幼馴染に伝えていいのか?」
「もちろんです。プラズマには知ってもらっておかないと。何せMy Geneを求めてプラズマを狙う人たちがいるんでしょう?」
政府軍大元帥という立場の猛者に、セリナは躊躇うことなく言い切った。
「まぁ、それは君達の扱う範疇のことだ。そちらに任せよう」
「とにかく。俺や涙流華の爺さん達が殺し合いなんてするわけないからな。そんなのアホでもわかる」
ラルトは話をまとめながらも涙流華を揶揄した。
「貴様……!」
当然涙流華の顔が険しくなる。
「まだいがみ合う必要があるか?アホ以下の涙流華。」
「あるわ!!この気取り男が!!誰が阿呆以下だ!!!」
「お前だ!このアホ以下脳筋ザムライが!!」
涙流華はラルトの腹に蹴りを入れたところで、プラズマとバリスに引きはがされた。
「政府軍には……確実に闇の部分がある」
オール大元帥はそう呟くと、腹を押さえるラルトがそれに答えるように言葉を発した。
「俺が必ず政府軍の闇を晴らしてやる……!」
To be continued.....
【EXTRA STORY】
「ほら、仲直りの握手でもしたらどうだ」
「ほらよ」
「おい、ルルカ! こいつは素直に折れてんだから応えてやれよ!」
「ふん……」
「なんだ、やけに素直じゃ……っ!?」
「てめぇ力入れて…! くそっ……この脳筋ザムライ!」
「貴様こそ……女相手に何を力を入れているのだ………」
「あの固い握手。よかった。ローズ君と水王家が和解したようで」
「いや、違うと思うが」
To be continued to next EXTRA STORY.....
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