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第3章 銀河の中枢 [央星]
第10話 中佐の覚悟
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【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
▼敵勢力
[ヴァンガルド・キル]
違法の遺伝子強化技術を使用する殷生師団の一人。
最近まで投獄されていたが、脱獄に成功し、指名手配犯となっている。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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【お知らせ】
表紙描くの楽しいです
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~大元帥執務室~
執務席に座る大元帥のブラスト・オール。
その前には中佐のラルト・ローズが立っていた。
「ご苦労だったね、ラルト君」
違法集団である殷生師団のヴァンガルド、元政府軍No,3のデーモン、No,4のボルボンを逃したことで、央星には厳戒令が敷かれていた。
元帥のラバブル・ラバーズはヴァンガルド達の追跡指揮に追われ、少佐のマイヤードは報道への対応に追われるなど政府軍は慌ただしく動いていた。
そんな最中、中佐であるラルトは大元帥に呼び出されたのだった。
「ラルト君。今回の件で分かったと思うが、政府軍はだんだんと敵に侵食されていっている。敵対組織に政府軍の動きや配置が漏れているんだ」
漠然とした“敵”という言葉。それが具体的に一体何を指すのか。犯罪組織なのか。それとも反政府思想集団なのか。大元帥のその言葉だけでは判然としなかった。
「以前、殷獣討伐作戦があっただろう?」
凶暴性、身体能力が高く、乾いた血液のような色を基調とした生物である殷獣。
生物が突然変異を起こして殷獣となったのか。それとも“何か”が生物を乗っ取って殷獣となるのか。
殷獣という存在が発見されてから、政府軍主動で多くの研究がなされた。現在は“何か”が生物を乗っ取っているというのが主流の学説となっていた。
「あの時、大きな世間の注目を集めていたんだ」
数年前にはさらなる殷獣の討伐及び調査を行うため、政府軍主動で軍事作戦を起こした。
政府軍を含め、多くの猛者が参加することとなり、世間から多くな注目と期待を集めていた。
その作戦は軍付属学校でも授業でも学ぶため、ラルトも知っていた。
「当時、その作戦指揮を執ったのが大元帥だったんですよね?」
「その通りだ。当時まだ大将だった私は上級大将、少将、他将校と共に殷獣の調査・討伐に向かった」
「しかし失敗した。部隊は半壊。多くの死者が出た上、少将の消息も分からなくなった」
ラルトはその結果に顔を顰めた。それは彼が教わってきた内容と大きく乖離していたからだ。やはり政府軍は史実を捻じ曲げている。彼は自身の所属する組織の在り様に絶望した。
大元帥反乱事件も。この殷獣討伐調査作戦も。
殷獣討伐調査作戦について学校で教えられた内容はこうだった。
殷獣討伐は大部分で成功したが、殷獣の完全な駆逐には至らなかった。殷獣は身体能力、凶暴性には目を見張るものがあるが、知能は低い。統率もとれておらず政府軍将校を前に為す術もなく駆逐されていった。
史実と違う内容を耳にしたラルト。分かりやすく表情に出ていたラルトを見た大元帥は苦笑しながら、更なる情報を口にした。
「殷獣が巣くう深星には、我々と同じ知能を持つ知能型殷獣が数体いた。そしてその裏で、知能型殷獣を操る者もいたんだ」
政府軍が公表した“知能が低い”“統率がとれていない”ということも嘘だったのだ。
政府軍がそれを隠すということは、恐らく惨敗したのだろう。
「結局、当時の大元帥、元帥が現地に応援に来たおかげでなんとか事態は収拾したが、政府軍はそのまま逃げるよに撤退した」
オール大元帥からは静かな怒りともとれる雰囲気が発せられた。
「政府軍の誰かが情報を流していたんだ」
「思えば、あの作戦にもデーモンさんとボルボンさんは参加していた」
ラルトはその2人の登場に表情を変えた。
彼が軍で兄のように、もしくは父のように慕っていた二人がまたも軍にあだなす行為をしていたのかと思うと、悲しみと怒りで心がぐちゃぐちゃになった。
ラルト自身が目標としてい2人。正義を見出すために政府軍に入った。しかし今の彼は……
「今、君の思っていることを当ててみようか?」
オールがラルトに問う。
「政府軍の正しさについて疑念を抱いている。そしてその政府軍に身を置いていいのか、ともね」
そしてオールはある提案をラルトに持ちかける。
「君は政府軍を出るべきだ。その方がいいと思う。中からではなく外から真実を見るんだ」
「それは……実際のところ考えてはいました。しかしどうやって動くか……」
ラルトの語気は弱まって行く。
「そういえば、私の勧めたレストランはどうだったかな?素敵な出会いがあっただろう?」
オールは含みのある笑顔でラルトに問いかけると、その言葉にラルトは表情を一変させた。
「まさか……やつらと行けと……?」
ラルトの頭には金髪の青年、目つきの悪い医者、暴力的な女侍が浮かぶ。
「君には合っていると思うがね。まぁ、決めるのは君だ」
「考える時間も必要だ。とにかく一旦休んでくれ」
「指名手配がかかっているのにそういうわけにはいきません」
オールの言葉にラルトは食い下がった。同僚が忙しなく動いているのに、当時その渦中にいた自分が休むわけにはいかないと思ったからだ。
しかしそんなラルトの心情を察してか、オールは強い口調で彼に言い聞かせた。
「これは命令だよ。戦闘を終えた後なんだ。体を休めなさい」
「分かりました……」
ラルトは力なく返事をすると、脱力したように一礼して大元帥執務室を後にした。
~レストラン『クレール・ドゥ・リュヌ』~
ボックス席で窓の外を眺めながら、ストローでコーヒーをクルクルと回している哀愁に満ちた男。
漏れる大きなタメ息。
そこに現れる女性の影があった。
「美女が同席してやる。奢れ」
その男、政府軍中佐のラルト・ローズは一頻り辺りを見回すと、その女性に尋ねた。
「どこにいんだ?」
「目の前にいるだろうが」
「俺にはお前しか見えないが幽霊でもいるのか?」
「お前、今すぐにでも幽霊と同じ次元に送ってやろうか」
その女性、涙流華は刀が入った刀袋を座席に置くと、自身もラルトの向かいに腰を下ろした。
「何しに来やがった」
ラルトは涙流華に目を向けることもなく尋ねた。
「お前のことで来たわけではないわ。うぬぼれるな。この“くうぽん”を使いに来ただけだ」
そういって涙流華は割引券をヒラヒラと見せつける。
「全く。大した悩みもないくせにタメ息などつきおって」
「そりゃお前みたいに脳みその95%以上が筋肉でできてりゃ、悩みなんてちょっと考えたときにおこる筋肉痛くらいだろうさ」
ラルトは涙流華を皮肉った。
「貴様、ろくでなしの一族のくせ……」
そこまで言いかけたところで、涙流華はふとヴァンガルド・キルのことを思い出した。
――ローズ家の者を10人以上殺した――
涙流華は下唇を噛みしめ、視線を落とした。
自分は間違った情報を信じていた。水王家が道を外すわけがない。そう信じていた涙流華が導き出した答え。それはローズ家が水王家を裏切った、というものだった。
いや、本当は彼女も引っかかるところはあった。
しかしその真実を知る努力をせず、ただローズ家に怒りと悲しみをぶつけていただけだったのだ。
そうすれば、心は少しは軽くなる。真実を知って、実際に水王家の…自身の祖父がローズ家を裏切ったということが分かれば、彼女は立ち直れなくなる。
だからこそ真実を知ろうとせずに、ただローズ家を非難していた。
強い侍を自称していながらも、精神的に弱かった。彼女は今回の件でそれを痛感していた。
「悪かった。私はずっとお前達ローズ家のことを勘違いしていた……」
涙流華の肩に力が入っているのが見て取れる。
性格きつめの脳筋侍がとったまさかの反応に、ラルトは慌てて軽口を叩く。
「おいおいなんだよ気持ち悪い!しおらしくすんなよ!」
それでも変わらない涙流華を見たラルトは、コーヒーを少し口に含んでゆっくりと飲み込み、一息ついた。
「お前の星はただでさえ情報が入りにくい上に、お前の爺さんが死んでからほぼ鎖国状態だったからな」
「まぁ、あんな状況下じゃ分かんねぇさ」
ラルトの言う通り、実際に涙流華が真実を知ろうと動いたところで、物資のみの輸出入しかしていないほぼ鎖国の戦星では情報は手に入らない。
特に水王家は大元帥反乱事件によって没落したため、その事件のことを調べること自体がタブーとされていた。そんな状況では調べることもできないのはラルトも分かっていた。
「逆に俺は政府軍で色んなデータベースを片っ端から調べたから真実にたどり着けた」
涙流華は尚も俯いている。そんな彼女をラルトは冗談ぽくなじった。
「まぁ仮にお前が情報を手に入れてたとしても、それを整理できる頭があったかは謎だがな」
「そう……だな」
ラルトからすると、いつもの傲慢な態度とは程遠い涙流華はどこか心地悪かった。
「んだよ、調子狂うな」
ピンポーン
ラルトはテーブル上のボタンを押下した。
「ほら、奢りゃいんだろ。何か頼めよ」
それでも涙流華は俯いたまま動かない。
「言っとくがなぁ!俺はお前が思ってるほど俺は気にしちゃいねぇよ!」
その言葉に涙流華は少しだけ顔を上げる。
そして2人の間に静寂が流れた。
その静寂を打ち破るかのように、何も知らない店員が満面の笑みで注文を聞きにやって来る。
「お待たせしました。ご注文は如何なさいますか?」
少しして涙流華は完全に顔を上げると、穏やかな表情でラルトに告げた。
「…………ラルト、ありがとう」
ラルトは彼女の穏やかな顔から目をそらすように、外の景色に目を向ける。
「うるせぇ、早く頼め」
「じゃぁ、この“デラックスステーキ&ハンバーグ・スペシャルセット”を5つと“すいーつ”全部1つずつで」
「あ、すみません、おれだけ先に会計お願いします」
~政府軍・大元帥執務室~
『退官届』
「“どうだい?”とは言ったが決めるのがこんなにも早いとはね。本気で彼らと行くのかい?ローズ君」
決意を帯びた表情でラルトはオール大元帥の前に立っていた。
「政府軍にいちゃ、自由に動けませんからね」
「俺は俺のやり方で“あの事件”や政府軍のことを探ります」
「何か分かったらまた連絡します」
そう言い残してラルトは大元帥執務室を後にした。
~政府軍・大元帥執務棟前~
「お!終わったか?」
花壇の縁に座るプラズマがラルトに駆け寄る。
「あぁ」
「クビだな!」
「クビじゃなくて依願退職だ!!」
「やらかしてやめたみたいだな」
バリスも満面の笑みで冷やかしている。
「でも突然“俺も何でも屋に入れてくれ”って頭下げられたときはびっくりしたぜ。長い髪の毛バサーってなってたしな!」
プラズマはその当時のことをハイテンションで解説している。
ラルトはネクタイを締め直しすと、横一列に並ぶプラズマ、バリス、涙流華に正対した。
「これから世話になる」
そしてあの不遜気味の態度からは考えられない程の角度で頭を下げている。
「先輩の言うことは絶対だぞ、新入り」
ラルトが顔を上げると、含みのある笑顔を浮かべた女侍が腕を組んで仁王立ちしていた。
「涙流華、てめぇ……!」
するとバリスは悪い顔で涙流華の肩に手を置いた。
「じゃぁ飲み物買ってきてくれよ!後輩」
「バリス、貴様……!」
「ほら!ラルトも合流したことだし、早く森星行こうぜ!!」
我先にと宇宙港に駆けだしたプラズマ。新たな仲間が加わった一行は次の星へと向かうのであった。
To be continued.....
【EXTRA STORY】
~森星行き旅客船・K15号客室~
「まだ俺が6歳で、涙流華が5歳のころの話だな。」
「へぇー、昔はルルカとラルトは仲良かったんだな。」
「こいつの爺さんがそれはもう国際的な人でな、名家の交流ってことでよく央星に来てたんだ。」
「その時の涙流華は“ラルトくん、ラルトくん”ってヒヨコみたいに後ろをくっついてきて、いっつもニコニコしててそりゃぁ可愛かったんだ。」
「なるほど、なら性格が突然変異したんだな。」
「よしプラズマ、今からお前の顔面を突然変異させてやる。」
「で、10歳過ぎたころから、会うたびにすげぇ反抗的になってきてな。仕舞いにゃ口すら聞いてくれなくなったんだよ。」
「(分かりやすい思春期ザムライだな。)」
「あの時はあんな可愛かったのに……どうしてこんな見るも無残ザムライに……」
「誰が見るも無残ザムライだ!貴様でたらめ言うな!」
「なんだよ、やっぱラルトの話ウソなのかよ、盛ってるとは思ってたけどさ。」
「いやまぁ……う、うそ……ではないが……」
「ルルカさん、今の話ウソじゃないんすか……?」
To be continued to Next EXTRA STORY.....?
【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
▼敵勢力
[ヴァンガルド・キル]
違法の遺伝子強化技術を使用する殷生師団の一人。
最近まで投獄されていたが、脱獄に成功し、指名手配犯となっている。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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【お知らせ】
表紙描くの楽しいです
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~大元帥執務室~
執務席に座る大元帥のブラスト・オール。
その前には中佐のラルト・ローズが立っていた。
「ご苦労だったね、ラルト君」
違法集団である殷生師団のヴァンガルド、元政府軍No,3のデーモン、No,4のボルボンを逃したことで、央星には厳戒令が敷かれていた。
元帥のラバブル・ラバーズはヴァンガルド達の追跡指揮に追われ、少佐のマイヤードは報道への対応に追われるなど政府軍は慌ただしく動いていた。
そんな最中、中佐であるラルトは大元帥に呼び出されたのだった。
「ラルト君。今回の件で分かったと思うが、政府軍はだんだんと敵に侵食されていっている。敵対組織に政府軍の動きや配置が漏れているんだ」
漠然とした“敵”という言葉。それが具体的に一体何を指すのか。犯罪組織なのか。それとも反政府思想集団なのか。大元帥のその言葉だけでは判然としなかった。
「以前、殷獣討伐作戦があっただろう?」
凶暴性、身体能力が高く、乾いた血液のような色を基調とした生物である殷獣。
生物が突然変異を起こして殷獣となったのか。それとも“何か”が生物を乗っ取って殷獣となるのか。
殷獣という存在が発見されてから、政府軍主動で多くの研究がなされた。現在は“何か”が生物を乗っ取っているというのが主流の学説となっていた。
「あの時、大きな世間の注目を集めていたんだ」
数年前にはさらなる殷獣の討伐及び調査を行うため、政府軍主動で軍事作戦を起こした。
政府軍を含め、多くの猛者が参加することとなり、世間から多くな注目と期待を集めていた。
その作戦は軍付属学校でも授業でも学ぶため、ラルトも知っていた。
「当時、その作戦指揮を執ったのが大元帥だったんですよね?」
「その通りだ。当時まだ大将だった私は上級大将、少将、他将校と共に殷獣の調査・討伐に向かった」
「しかし失敗した。部隊は半壊。多くの死者が出た上、少将の消息も分からなくなった」
ラルトはその結果に顔を顰めた。それは彼が教わってきた内容と大きく乖離していたからだ。やはり政府軍は史実を捻じ曲げている。彼は自身の所属する組織の在り様に絶望した。
大元帥反乱事件も。この殷獣討伐調査作戦も。
殷獣討伐調査作戦について学校で教えられた内容はこうだった。
殷獣討伐は大部分で成功したが、殷獣の完全な駆逐には至らなかった。殷獣は身体能力、凶暴性には目を見張るものがあるが、知能は低い。統率もとれておらず政府軍将校を前に為す術もなく駆逐されていった。
史実と違う内容を耳にしたラルト。分かりやすく表情に出ていたラルトを見た大元帥は苦笑しながら、更なる情報を口にした。
「殷獣が巣くう深星には、我々と同じ知能を持つ知能型殷獣が数体いた。そしてその裏で、知能型殷獣を操る者もいたんだ」
政府軍が公表した“知能が低い”“統率がとれていない”ということも嘘だったのだ。
政府軍がそれを隠すということは、恐らく惨敗したのだろう。
「結局、当時の大元帥、元帥が現地に応援に来たおかげでなんとか事態は収拾したが、政府軍はそのまま逃げるよに撤退した」
オール大元帥からは静かな怒りともとれる雰囲気が発せられた。
「政府軍の誰かが情報を流していたんだ」
「思えば、あの作戦にもデーモンさんとボルボンさんは参加していた」
ラルトはその2人の登場に表情を変えた。
彼が軍で兄のように、もしくは父のように慕っていた二人がまたも軍にあだなす行為をしていたのかと思うと、悲しみと怒りで心がぐちゃぐちゃになった。
ラルト自身が目標としてい2人。正義を見出すために政府軍に入った。しかし今の彼は……
「今、君の思っていることを当ててみようか?」
オールがラルトに問う。
「政府軍の正しさについて疑念を抱いている。そしてその政府軍に身を置いていいのか、ともね」
そしてオールはある提案をラルトに持ちかける。
「君は政府軍を出るべきだ。その方がいいと思う。中からではなく外から真実を見るんだ」
「それは……実際のところ考えてはいました。しかしどうやって動くか……」
ラルトの語気は弱まって行く。
「そういえば、私の勧めたレストランはどうだったかな?素敵な出会いがあっただろう?」
オールは含みのある笑顔でラルトに問いかけると、その言葉にラルトは表情を一変させた。
「まさか……やつらと行けと……?」
ラルトの頭には金髪の青年、目つきの悪い医者、暴力的な女侍が浮かぶ。
「君には合っていると思うがね。まぁ、決めるのは君だ」
「考える時間も必要だ。とにかく一旦休んでくれ」
「指名手配がかかっているのにそういうわけにはいきません」
オールの言葉にラルトは食い下がった。同僚が忙しなく動いているのに、当時その渦中にいた自分が休むわけにはいかないと思ったからだ。
しかしそんなラルトの心情を察してか、オールは強い口調で彼に言い聞かせた。
「これは命令だよ。戦闘を終えた後なんだ。体を休めなさい」
「分かりました……」
ラルトは力なく返事をすると、脱力したように一礼して大元帥執務室を後にした。
~レストラン『クレール・ドゥ・リュヌ』~
ボックス席で窓の外を眺めながら、ストローでコーヒーをクルクルと回している哀愁に満ちた男。
漏れる大きなタメ息。
そこに現れる女性の影があった。
「美女が同席してやる。奢れ」
その男、政府軍中佐のラルト・ローズは一頻り辺りを見回すと、その女性に尋ねた。
「どこにいんだ?」
「目の前にいるだろうが」
「俺にはお前しか見えないが幽霊でもいるのか?」
「お前、今すぐにでも幽霊と同じ次元に送ってやろうか」
その女性、涙流華は刀が入った刀袋を座席に置くと、自身もラルトの向かいに腰を下ろした。
「何しに来やがった」
ラルトは涙流華に目を向けることもなく尋ねた。
「お前のことで来たわけではないわ。うぬぼれるな。この“くうぽん”を使いに来ただけだ」
そういって涙流華は割引券をヒラヒラと見せつける。
「全く。大した悩みもないくせにタメ息などつきおって」
「そりゃお前みたいに脳みその95%以上が筋肉でできてりゃ、悩みなんてちょっと考えたときにおこる筋肉痛くらいだろうさ」
ラルトは涙流華を皮肉った。
「貴様、ろくでなしの一族のくせ……」
そこまで言いかけたところで、涙流華はふとヴァンガルド・キルのことを思い出した。
――ローズ家の者を10人以上殺した――
涙流華は下唇を噛みしめ、視線を落とした。
自分は間違った情報を信じていた。水王家が道を外すわけがない。そう信じていた涙流華が導き出した答え。それはローズ家が水王家を裏切った、というものだった。
いや、本当は彼女も引っかかるところはあった。
しかしその真実を知る努力をせず、ただローズ家に怒りと悲しみをぶつけていただけだったのだ。
そうすれば、心は少しは軽くなる。真実を知って、実際に水王家の…自身の祖父がローズ家を裏切ったということが分かれば、彼女は立ち直れなくなる。
だからこそ真実を知ろうとせずに、ただローズ家を非難していた。
強い侍を自称していながらも、精神的に弱かった。彼女は今回の件でそれを痛感していた。
「悪かった。私はずっとお前達ローズ家のことを勘違いしていた……」
涙流華の肩に力が入っているのが見て取れる。
性格きつめの脳筋侍がとったまさかの反応に、ラルトは慌てて軽口を叩く。
「おいおいなんだよ気持ち悪い!しおらしくすんなよ!」
それでも変わらない涙流華を見たラルトは、コーヒーを少し口に含んでゆっくりと飲み込み、一息ついた。
「お前の星はただでさえ情報が入りにくい上に、お前の爺さんが死んでからほぼ鎖国状態だったからな」
「まぁ、あんな状況下じゃ分かんねぇさ」
ラルトの言う通り、実際に涙流華が真実を知ろうと動いたところで、物資のみの輸出入しかしていないほぼ鎖国の戦星では情報は手に入らない。
特に水王家は大元帥反乱事件によって没落したため、その事件のことを調べること自体がタブーとされていた。そんな状況では調べることもできないのはラルトも分かっていた。
「逆に俺は政府軍で色んなデータベースを片っ端から調べたから真実にたどり着けた」
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「まぁ仮にお前が情報を手に入れてたとしても、それを整理できる頭があったかは謎だがな」
「そう……だな」
ラルトからすると、いつもの傲慢な態度とは程遠い涙流華はどこか心地悪かった。
「んだよ、調子狂うな」
ピンポーン
ラルトはテーブル上のボタンを押下した。
「ほら、奢りゃいんだろ。何か頼めよ」
それでも涙流華は俯いたまま動かない。
「言っとくがなぁ!俺はお前が思ってるほど俺は気にしちゃいねぇよ!」
その言葉に涙流華は少しだけ顔を上げる。
そして2人の間に静寂が流れた。
その静寂を打ち破るかのように、何も知らない店員が満面の笑みで注文を聞きにやって来る。
「お待たせしました。ご注文は如何なさいますか?」
少しして涙流華は完全に顔を上げると、穏やかな表情でラルトに告げた。
「…………ラルト、ありがとう」
ラルトは彼女の穏やかな顔から目をそらすように、外の景色に目を向ける。
「うるせぇ、早く頼め」
「じゃぁ、この“デラックスステーキ&ハンバーグ・スペシャルセット”を5つと“すいーつ”全部1つずつで」
「あ、すみません、おれだけ先に会計お願いします」
~政府軍・大元帥執務室~
『退官届』
「“どうだい?”とは言ったが決めるのがこんなにも早いとはね。本気で彼らと行くのかい?ローズ君」
決意を帯びた表情でラルトはオール大元帥の前に立っていた。
「政府軍にいちゃ、自由に動けませんからね」
「俺は俺のやり方で“あの事件”や政府軍のことを探ります」
「何か分かったらまた連絡します」
そう言い残してラルトは大元帥執務室を後にした。
~政府軍・大元帥執務棟前~
「お!終わったか?」
花壇の縁に座るプラズマがラルトに駆け寄る。
「あぁ」
「クビだな!」
「クビじゃなくて依願退職だ!!」
「やらかしてやめたみたいだな」
バリスも満面の笑みで冷やかしている。
「でも突然“俺も何でも屋に入れてくれ”って頭下げられたときはびっくりしたぜ。長い髪の毛バサーってなってたしな!」
プラズマはその当時のことをハイテンションで解説している。
ラルトはネクタイを締め直しすと、横一列に並ぶプラズマ、バリス、涙流華に正対した。
「これから世話になる」
そしてあの不遜気味の態度からは考えられない程の角度で頭を下げている。
「先輩の言うことは絶対だぞ、新入り」
ラルトが顔を上げると、含みのある笑顔を浮かべた女侍が腕を組んで仁王立ちしていた。
「涙流華、てめぇ……!」
するとバリスは悪い顔で涙流華の肩に手を置いた。
「じゃぁ飲み物買ってきてくれよ!後輩」
「バリス、貴様……!」
「ほら!ラルトも合流したことだし、早く森星行こうぜ!!」
我先にと宇宙港に駆けだしたプラズマ。新たな仲間が加わった一行は次の星へと向かうのであった。
To be continued.....
【EXTRA STORY】
~森星行き旅客船・K15号客室~
「まだ俺が6歳で、涙流華が5歳のころの話だな。」
「へぇー、昔はルルカとラルトは仲良かったんだな。」
「こいつの爺さんがそれはもう国際的な人でな、名家の交流ってことでよく央星に来てたんだ。」
「その時の涙流華は“ラルトくん、ラルトくん”ってヒヨコみたいに後ろをくっついてきて、いっつもニコニコしててそりゃぁ可愛かったんだ。」
「なるほど、なら性格が突然変異したんだな。」
「よしプラズマ、今からお前の顔面を突然変異させてやる。」
「で、10歳過ぎたころから、会うたびにすげぇ反抗的になってきてな。仕舞いにゃ口すら聞いてくれなくなったんだよ。」
「(分かりやすい思春期ザムライだな。)」
「あの時はあんな可愛かったのに……どうしてこんな見るも無残ザムライに……」
「誰が見るも無残ザムライだ!貴様でたらめ言うな!」
「なんだよ、やっぱラルトの話ウソなのかよ、盛ってるとは思ってたけどさ。」
「いやまぁ……う、うそ……ではないが……」
「ルルカさん、今の話ウソじゃないんすか……?」
To be continued to Next EXTRA STORY.....?
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本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
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