20 / 133
第5章 デート編
第20話 初恋の人と初デート
しおりを挟む
『つねちゃん』との初デート……
俺は胸を弾ませ心を躍らせながら初デートに臨む……
といった感情にはなかなかなれずにいた。
何故かと言えば、俺と『つねちゃん』が一緒にいるところを誰か知り合いに目撃されるのはマズいと前々から思っていたからだ。
俺は別に目撃されても構わないが、幼稚園の先生という立場である『つねちゃん』に迷惑をかけてしまうのでは? という、俺の『大人の判断』があえてこの五年間、『つねちゃん』と一緒にどこかに出かけたいという衝動を抑えていたのだ。
それに俺と同じ思いだったのかどうかは分からないが、『つねちゃん』からも今まで出掛けようという誘いも一度も無かった。
しかし何故なのかよく分からないが、今日は『つねちゃん』から出掛けようと誘ってくれた。勿論、小学生としての俺は断る理由などない。
『我慢』も今日で終わりのようだな。
俺はそう思いながら笑顔で『つねちゃん』に返事をする。
「うん、そうだね。遊園地に行こう!!」
ガタンゴトン ガタンゴトン
俺と『つねちゃん』は今、電車に乗っている。
今日行く遊園地は『つねちゃん』の実家が有る終点の駅の一つ手前の駅を降り、そこからバスに乗って行く。
『つねちゃん』のカバンは少し大きめのカバン……
そのカバンの中には『お弁当』や『水筒』が入っているので俺は重たいだろうなと思い、『つねちゃん』に声をかけた。
「つねちゃん、カバン重くない? 俺が持とうか?」
「えっ? 大丈夫よ、隆君。気を遣ってくれてありがとね……」
朝から作っていたらしい弁当、どうも今日は最初から俺と遊園地に行くつもりだったみたいだ。
今日はゴールデンウイークという事で電車内は家族連れなどで一杯になっており、俺と『つねちゃん』は横並びでドアの前にもたれかかった状態で立っている。
「それより隆君こそ大丈夫? 人が多くて苦しくない?」
「うん、大丈夫だよ……」
「そう? でも電車が揺れた時、危ないから先生にピッタリとくっついててね?」
『つねちゃん』……
本当は俺、苦しいんだよ。
満員電車で苦しい訳じゃ無く、『つねちゃん』の身体に俺の身体がピッタリとくっついている、この状態がとても苦しいんだよ……
こんなに『つねちゃん』とくっついたのは一年生の時の運動会での保健室以来だ……
『つねちゃん』からほのかに香る優しい匂い……
わずかに聞こえる『つねちゃん』の呼吸の音……
そしてじっと俺の事を包み込む様に見つめている女神の様な瞳……
どれをとっても俺には良い意味で苦しさしかない。
『実年齢五十過ぎで経験豊富?』なはずの俺としては情けない話だが、俺はかなり緊張している。
やはり俺は『本気』でこの人の事が好きなんだ……
すぐ目の前に『つねちゃん』の顔があり、恥ずかしくて呼吸をするのも辛い状態の中、俺は改めて思うのであった。
こうして俺は『苦しみ』をなんとか耐え切り、無事に遊園地の入り口に付くのであった。
「うわぁぁあ、懐かしいなぁぁ!!」
思わず俺は口走ってしまた。
「隆君、小さい頃にもこの遊園地に来たことがあるのね?」
「いっ、いや……その、そうなんだ。二年生くらいだったかな……」
「へぇ、それじゃ『懐かしい』っていうよりも『久しぶり』って感じかな? 先生も凄く久しぶりだわ。前に来たのは大学生の頃だったかしら……たしかこの遊園地は隆君が生れた次の年くらいに造られた遊園地だったかも……」
知ってるよ、『つねちゃん』……
まず最初に俺は嘘をついてしまった。
俺は『この世界』に来てから一度もこの遊園地には来たことが無い。
うちの母さんは隣の県にある遊園地ばかり連れて行ってくれていた。
理由は簡単、何かの会員に入っていて、そこから『会員特典』として、そこの遊園地の『割引券』が手に入りやすかったからだ。
でも俺はここの遊園地をよく知っている。
何故なら俺は『過去の世界』の高校生時代、ここで三年間、アルバイトをしていたからだ。
ここの『時給』は安かったが、俺はお金よりも楽しく働けるこの場所が大好きだった。
一緒にやり出した友人達は『時給が安い』という理由で直ぐに辞めてしまったが、俺だけは高校三年間辞めずに続けたのである。
だから、俺にとってこの遊園地は『過去の世界』で一番楽しかった頃の思い出の地……俺の青春時代そのものの場所であった。
しかし『過去の世界』にはこの遊園地はもう無い……
十数年前に閉園し、取り壊されもう跡形もない。
なので、今の俺からすれば『久しぶり』では無く本当に『懐かしい』という表現になってしまう。
「隆君……隆君、大丈夫? なんだか急に黙り込んで、どうかしたの?」
『つねちゃん』がとても心配した表情で聞いて来たので、俺は一瞬思い出に慕っていた自分が恥ずかしくなり少し顔を赤くしながら『大丈夫だよ』とだけ返事をした。
俺は今、『過去の世界』にはもう存在していない場所で『過去の世界』で卒園してから一度も会えなかった『初恋の人』と『この世界』で新たな思い出をつくろうとしているのだ……
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に隆と『つねちゃん』の初デートが始まります。
二人のデートは一体どんな感じのデートになるのでしょうか?
次回をお楽しみに!
俺は胸を弾ませ心を躍らせながら初デートに臨む……
といった感情にはなかなかなれずにいた。
何故かと言えば、俺と『つねちゃん』が一緒にいるところを誰か知り合いに目撃されるのはマズいと前々から思っていたからだ。
俺は別に目撃されても構わないが、幼稚園の先生という立場である『つねちゃん』に迷惑をかけてしまうのでは? という、俺の『大人の判断』があえてこの五年間、『つねちゃん』と一緒にどこかに出かけたいという衝動を抑えていたのだ。
それに俺と同じ思いだったのかどうかは分からないが、『つねちゃん』からも今まで出掛けようという誘いも一度も無かった。
しかし何故なのかよく分からないが、今日は『つねちゃん』から出掛けようと誘ってくれた。勿論、小学生としての俺は断る理由などない。
『我慢』も今日で終わりのようだな。
俺はそう思いながら笑顔で『つねちゃん』に返事をする。
「うん、そうだね。遊園地に行こう!!」
ガタンゴトン ガタンゴトン
俺と『つねちゃん』は今、電車に乗っている。
今日行く遊園地は『つねちゃん』の実家が有る終点の駅の一つ手前の駅を降り、そこからバスに乗って行く。
『つねちゃん』のカバンは少し大きめのカバン……
そのカバンの中には『お弁当』や『水筒』が入っているので俺は重たいだろうなと思い、『つねちゃん』に声をかけた。
「つねちゃん、カバン重くない? 俺が持とうか?」
「えっ? 大丈夫よ、隆君。気を遣ってくれてありがとね……」
朝から作っていたらしい弁当、どうも今日は最初から俺と遊園地に行くつもりだったみたいだ。
今日はゴールデンウイークという事で電車内は家族連れなどで一杯になっており、俺と『つねちゃん』は横並びでドアの前にもたれかかった状態で立っている。
「それより隆君こそ大丈夫? 人が多くて苦しくない?」
「うん、大丈夫だよ……」
「そう? でも電車が揺れた時、危ないから先生にピッタリとくっついててね?」
『つねちゃん』……
本当は俺、苦しいんだよ。
満員電車で苦しい訳じゃ無く、『つねちゃん』の身体に俺の身体がピッタリとくっついている、この状態がとても苦しいんだよ……
こんなに『つねちゃん』とくっついたのは一年生の時の運動会での保健室以来だ……
『つねちゃん』からほのかに香る優しい匂い……
わずかに聞こえる『つねちゃん』の呼吸の音……
そしてじっと俺の事を包み込む様に見つめている女神の様な瞳……
どれをとっても俺には良い意味で苦しさしかない。
『実年齢五十過ぎで経験豊富?』なはずの俺としては情けない話だが、俺はかなり緊張している。
やはり俺は『本気』でこの人の事が好きなんだ……
すぐ目の前に『つねちゃん』の顔があり、恥ずかしくて呼吸をするのも辛い状態の中、俺は改めて思うのであった。
こうして俺は『苦しみ』をなんとか耐え切り、無事に遊園地の入り口に付くのであった。
「うわぁぁあ、懐かしいなぁぁ!!」
思わず俺は口走ってしまた。
「隆君、小さい頃にもこの遊園地に来たことがあるのね?」
「いっ、いや……その、そうなんだ。二年生くらいだったかな……」
「へぇ、それじゃ『懐かしい』っていうよりも『久しぶり』って感じかな? 先生も凄く久しぶりだわ。前に来たのは大学生の頃だったかしら……たしかこの遊園地は隆君が生れた次の年くらいに造られた遊園地だったかも……」
知ってるよ、『つねちゃん』……
まず最初に俺は嘘をついてしまった。
俺は『この世界』に来てから一度もこの遊園地には来たことが無い。
うちの母さんは隣の県にある遊園地ばかり連れて行ってくれていた。
理由は簡単、何かの会員に入っていて、そこから『会員特典』として、そこの遊園地の『割引券』が手に入りやすかったからだ。
でも俺はここの遊園地をよく知っている。
何故なら俺は『過去の世界』の高校生時代、ここで三年間、アルバイトをしていたからだ。
ここの『時給』は安かったが、俺はお金よりも楽しく働けるこの場所が大好きだった。
一緒にやり出した友人達は『時給が安い』という理由で直ぐに辞めてしまったが、俺だけは高校三年間辞めずに続けたのである。
だから、俺にとってこの遊園地は『過去の世界』で一番楽しかった頃の思い出の地……俺の青春時代そのものの場所であった。
しかし『過去の世界』にはこの遊園地はもう無い……
十数年前に閉園し、取り壊されもう跡形もない。
なので、今の俺からすれば『久しぶり』では無く本当に『懐かしい』という表現になってしまう。
「隆君……隆君、大丈夫? なんだか急に黙り込んで、どうかしたの?」
『つねちゃん』がとても心配した表情で聞いて来たので、俺は一瞬思い出に慕っていた自分が恥ずかしくなり少し顔を赤くしながら『大丈夫だよ』とだけ返事をした。
俺は今、『過去の世界』にはもう存在していない場所で『過去の世界』で卒園してから一度も会えなかった『初恋の人』と『この世界』で新たな思い出をつくろうとしているのだ……
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に隆と『つねちゃん』の初デートが始まります。
二人のデートは一体どんな感じのデートになるのでしょうか?
次回をお楽しみに!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる