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最終章 二人の未来編

第130話 初恋の人に会えるのか!?

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 俺は両親に『つねちゃん』に対しての思い、そして十一月の俺の誕生日に『プロポーズ』をする事を伝えた。

 父さんは終始、驚いた表情をしていたが、『うんうん』と頷くだけで何も言わない。

 母さんは笑顔で俺の話を聞き、そして最後の方では涙を流していた。

 俺は全てを伝え終わると自分の部屋に戻り、ベットの上に転がり天井を見つめる。

 まさか、母さんが『あの時』の事を覚えていたなんて……

 そして『幼稚園児』の戯言と思わずに、ずっと信じて俺の事を見守ってくれていただなんて……俺の目からも涙が溢れ出し、止まらずにいた。



「お父さん、どうだった? 驚いたでしょう?」

「あ……ああ、非常に驚いたよ。まさか隆が小さい頃から常谷先生の事を本気で思っていたとはな……本当に驚いた……」

「でも反対はしなかったわね?」

「そうだな。まぁ、お前が反対するどころか昔から陰で隆を応援していたんだと分かったからな。俺には何も言う事は無い。それに隆は本当に小さい頃から色々な事に頑張っていたのはさすがの俺でも知っている。そして、その頑張りが全て常谷先生と結婚する為だったと分かった以上、俺は親として隆が夢を叶える為に応援する義務があると思う」

「フフフ……さすがお父さんね。物分かりが良い人で助かるわ。私ね、この土地に引っ越して来てからしばらくの間、とても後悔していたのよ。この土地に越してから隆の性格が暗くなってしまったから……私達の夢を叶える為に隆を犠牲にしてしまったと、ずっと後悔してた。それがあの時……幼稚園を卒園したあの時……あの子は突然、生まれ変わったかのように常谷先生にプロポーズをしたの。先生はどう思ったかは分からないけど、私は母親の勘で思ったわ。『あの子は本気』だって……」

「ハハハ……さすが母親だな。幼稚園児の言っている事を本気で信じたんだからな。でもそうだな。隆は俺達の我がままに付き合わされたんだ。今度は隆の我がまま……いや、隆の夢を叶える為に俺達が付き合おうじゃないか。でも大丈夫なのか? その常谷先生にプロポーズをしてOKをもらえるのか? 二人の歳の差は十七だったか? それだけが心配なんだが……」

「さぁ、どうでしょうね? でも私達も七歳の差があるじゃない。きっと大丈夫よ……」

「いや、七歳と十七歳では全然違うと思うんだが……それに女性の方が十七歳も年上っていうのは先の事を考えると少し不安ではあるが……でもまぁ、アレだな。どんな結果になっても俺達は親として死ぬまで隆を応援する。それは変わらん事だがな……」



 俺は両親がそんな会話をしているとは知らないまま、いつの間にか眠っていた。

 コンコン……

 俺は部屋のドアのノックの音で目を覚ます。
 そして半分寝ぼけた声で『はい、どうぞ』と返事をした。

 ガチャッ……

 俺は目を擦りながら部屋に入って来たのが誰なのかを確認する。
 するとそこには妹の奏が立っていた。

「か、奏か? 珍しいな? お兄ちゃんの部屋に来るなんて……」

 俺がそう言うと奏の表情は最近の『つんけん』した表情ではなく、昔の……俺にとてもなついていた頃の優しい表情になっていた。こんな奏を見るのは久しぶりだったので俺は思わず泣きそうになったが、それをこらえて俺の部屋に来た理由を尋ねた。

「どうした、奏? お兄ちゃんに何か用事なのかい?」

「う、うん……あのね、お兄ちゃん……お兄ちゃんは高校卒業したら遊園地のアルバイトは辞めるの? それとも大学生になってもアルバイトを続けるの?」

「えっ? いや、俺は卒業したら父さんの会社で働く予定だからバイトは辞めるよ」

「そっ、そうなの? 大学に進学しないんだぁ……それは少し驚いちゃったわ。でもお兄ちゃん、私なんかよりも勉強できるのに大学に行かないのは勿体なく無い?」

「ハハハ……別に俺の事はいいじゃないか。それよりも俺がバイトを続けるのか辞めるのかを何で奏が気にするんだい?」

 俺がそう質問すると奏は少し顔をうつむける。

「ん? どうした、奏?」

「あ、あのね……もしお兄ちゃんが『エキサイトランド』のバイトを辞めるんだったら、来年二年生になったら、私がお兄ちゃんの代わりにバイトしようかと思ってさ……」

 奏は少し照れくさそうな顔をしながらそう言ってきた。

 俺はそんな奏の表情を見て直ぐに察してしまった。
 なるほどなぁ……そういうことかぁ……

 前に高山が言っていた。『俺はここのバイト気に入っているから大学に行ってもバイトは続ける』と……

 だから奏は俺が辞めた時点で高山と同じバイトをして少しでも長く一緒の時間を過ごしたいのだと……

 はぁ……あいつが俺の義理の弟になる可能性がますます高くなっちまうな……
 ん? でもたしか『前の世界』で高山は一浪したんじゃなかったっけ?
 バイトなんかしていて大丈夫なのか?

「えっ、お兄ちゃん、なんか言った?」

「えっ!? いや、別に何でもないよ。そ、そんな事よりも兄ちゃんがバイトを辞めた後の事を考えたら少し不安だったけど、奏が代わりにバイトをしてくれるなら兄ちゃん、とっても安心だよ。凄く助かるよ……ありがとう」

 俺がそう言うと奏は満面の笑みで突然、俺に抱きついてきた。
 そして……

「こちらこそ、有難う!! そう言ってもらえて私も嬉しいわ!! 二年生になったら私、アルバイト頑張るから!!」

「ハハハ……バイトもだけど勉強も頑張れよ? お前は無理してうちの高校に来てるんだからな……」

「分かってるって。大丈夫よ、心配しないで!!」

 久しぶりに奏に抱きつかれている俺は天にも昇りそうな嬉しさと、いつか高山に可愛い奏を持って行かれるんだという寂しい気持ちが同時に沸いていた。

 ちなみに俺は『シスコン』では無いという事だけは付け加えておく。自信は無いが……


 こうして俺は素敵な家族に恵まれながら充実した日々をおくる。



 そして今はもう十月半ば……

 体育祭や中間テストも無事に終わり、今は十一月の文化祭に向けてクラス全体で盛り上がっているところだが、俺の心はさすがにそれどころでは無かった。

 あと一ヶ月もしないうちに『運命の日』が訪れる。
 
 どういう言葉で『つねちゃん』にプロポーズをしようか……
 『つねちゃん』は俺のプロポーズを受け止めてくれるのだろうか?

 俺の頭の中はそれで一杯であった。

 ただ一つだけ気がかりな事が有る。

 それは最近、『つねちゃん』の体調があまりよくないということだ。
 二学期に入ってからは幼稚園を休む回数が増えている。

 なので、俺との勉強会も十月に入ってからは行っていない。
 『あの頭痛』が三日に一度くらいのペースで起こるらしい……

 『前の世界』で俺に頻繁に起こった頭痛と同じ様な感じだ。
 それを思うと心配を通り越して、恐怖すら感じてしまう。


 十一月十二日……
 
 もしかすると、その日まで俺は『つねちゃん』に会えないかもしれない……
 いや、その日に『つねちゃん』に会えるかどうかも微妙になっている。

 その日……俺が十八歳になる日……

 俺は『つねちゃん』の元気な姿が見ることができるのだろうか……



――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

どんな結果になろうとも、隆を応援することを決めた両親……
そして隆が高校卒業と同時にバイトを引き継ぐと言ってきた奏……

優しい家族に恵まれた隆に刻一刻と近づく運命の日。
しかし隆は最近の『つねちゃん』の体調が気がかりで……

次回、遂に運命の日が訪れる!!

どうぞ次回もお楽しみに。
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