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第2章 再会編

第4話 頼れるお姉さま

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 入学式も無事に終わり今日から私は普通に小学校に通う事になった。

 私は直ぐに一年二組の教室に入り、ランドセルを下ろして自分の席に座りながら昨日の事を思い出していた。
 

 入学式で彼と話ができるとは思っていなかったのに、ぶつかってきたとはいえ、まさか彼の方から話しかけてくるなんて……

 その事を考えるだけで私は顔が熱くなると共に凄く動揺していた。

 それに……

 私の目から見て、どこからどう見ても『小一の幼い子』なのに……
 それなのに、あんな幼い彼にこんなにも心がときめくなんて……

 私、変なのかな……?
 いえ、そんな事は無いはずだわ。

 だって他の子達は全員、幼く見えているし当時、カッコ良くて人気のあった男子達でさえ、全然何とも思わないし……

 やはり、『大好き』という思いがあるから、彼だけ特別な目で見てしまうのかな?
 でも、まぁ良かったわ。

 彼にときめかなかったらどうしようかと思ってたし……
 それともときめかない方が良かったのかな?

 今からこんなに彼の事が好きになっちゃったら、ある意味疲れそうだし……
 それに最終的に私は彼とは結ばれないんだし……

 あっ!!

 でもこれは『夢』だったよね?
 だからこの先、何が起こるか分からない!!

 私が『この夢の中』でも病気になるとは限らないし、それに今の私は飛行機事故で死ぬ事は絶対に無い。だって『あの日』の飛行機に乗らなければいいことなんだから……

 だからアレね。今、あれこれと悩んだり、考えたりする必要は無いのよね?

 今、この時を……『この夢の中』を精一杯、悔いの無い様に生きればいいだけのことなんだよね?

 うんうん……そうなんだ。何も考える必要は無いのよ。

 ただ、私はしっかりと『小学生』を演じる事だけを考えていればいいのよ。


 でも……

 でも何でだろう?

 何も考える必要は無いと思った矢先に一つだけ思わず考えてしまう……

 なぜ、『現実世界』とは少しだけ違う動きになっているのだろう?

 『現実世界』では私が彼とまともに会話をするようになったのは三年生から同じクラスになった頃で、本当に口喧嘩も入れてよく話をするようになったのは小四からで特に親しくなったのは『演劇部』で一緒に頑張っている時からだったはずなのに……


「浩美ちゃん? 浩美ちゃん?」

「えっ?」

「どうしたの、浩美ちゃん? さっきからボーっとした顔をしてるけど……」

「あっ、な……なーんだ、『キシモ』かぁ……」

「えっ!? 『キシモ』って何の事??」

「へっ? あっ!? ゴメンゴメン!! 順子ちゃんだった!!」

 ヤバイヤバイ……『キシモ』って呼ぶようになるのはもっと先だったわ。

 この子の名前は『岸本順子』といって、幼稚園に通う前から親同士も仲良しで、いつも一緒に遊んでいた、三つ編みが良く似合う可愛い女の子。

私の一番の友人だ。

 まぁ、あと数年すれば彼女は気の強い女の子に変貌するのだけれど……

 そのキシモ……いえ、順子とは一年生は同じクラスで、ボーっとしている私を心配して声をかけてくれたみたい。

「さっきから何をボーっとしていたの?」

「えっ!? 私、そんなにボーっとしてたかな?」

「うんうん、してたよぉぉ……凄くしてた……」

 凄くって……一体、私はどんな顔をしてたのだろう?

「べ、別に何もしてないよ。ボーっとした顔は生まれつきだし……」

 私が順子にそう言うと彼女は首を傾げながらこう言ってきた。

「うーん……なんだか、浩美ちゃん変わったね? ついこないだまではそんなボーっとした顏なんてしたことなかったし……毎日、男の子みたいに元気だったのに……」

 えっ、そうなの!?
 私って幼稚園の頃はそんなに男の子みたいだったの!?

 結構、昔の事で思い出せないわ……
 まぁ、『この夢の中』では、ついこないだの話なんだけど……

「全然、私は変わってないよぉぉ!! ほら見て!? ねっ? この通り!!」

 私は立ち上がり順子の前で体操の様なよく分からない動きをした。すると順子は『プッ』と吹き出し、そして大笑いをしてくれた。

「ホ、ホントだぁ。いつもの浩美ちゃんだわ。ああ、良かった……」

 私は今の動きで『いつもの私』と確認でき安心した表情をしている順子に対して少し複雑な気持ちになったけど、とりあえずうまく誤魔化せたので私もホッとした。

「なんだ、今の変な動きは?」
「そうだよね? 変な奴!!」

 私の耳にカチンとくるセリフが聞こえてきた。

「はぁああ!?」

 私の事を『変人』扱いしてきたのは男子二名!!

 一人は『森重裕也もりしげゆうや』といって、これまた私と幼稚園の時も同じクラスだった子で見た目は色黒でいつも皮肉めいたことをいう嫌な奴。

 そしてもう一人は『田中誠たなかまこと』といって四年生の時に同じ『演劇部』だった子で、少し……いえ、かなりわがままな男の子。

 背は私や順子よりも低くおかっぱ頭で大きなメガネをかけている。

 だからこの田中とは今日初めて会話?をする事になるのだが……

「何よ、二人共!? アンタ達に『変人』扱いされる覚えは無いわよ!!」

 私がギロッと睨みつけながら怒鳴ったので、二人共かなり驚いた顔をしている。

 特に田中は体が震え目から涙がこぼれそうになっている。

 えーっ!? それくらいの事で泣くの!?

「ううっ……グスンッ……」

 田中は涙が流れそうな目を腕で隠しながら廊下の方へ走り去ってしまった。

 実はこの田中が先で順子を気の強い女の子に変貌させるキッカケをつくるのだけど、それはもう少し後の話……

「えーっ!? あのバカ、何も言わずに出て行っちゃったよ……」

 一人取り残された森重が少し焦りながら先に逃げてしまった田中の文句を言っている。

「で、森重はどうするの? あの子みたいに泣いて逃げるの? それとも謝るの? それとも……」

 腕組みをしながら睨みつけている私の目を逸らしながら森重が小声でこう言っている。

「な、なんだよ……俺は変な動きって言っただけなのにさぁ……ブツブツ……なんで謝らなくちゃいけないのさ……ブツブツ……」

「どうするの!?」

「ごっ、ごめんなさい!!」

「はい、謝ればよろしい!!」

 シーン……

 教室中静まりかえっている。
 別に教室に私達だけしかいないわけではない。

 クラスの子達が皆、息を呑みながら音をたてずに私達を注目していているだけだった。


 私は初日でクラスの女子達から『頼れるお姉さま』的存在になり、男子達からは陰で『鬼姫』と呼ばれる様になるのであった。



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お読みいただきありがとうございました。

次回は再び隆とのやり取りがあるかもです。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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