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第3章 夏休み編

第11話 怖い顔の人

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 『エキサイトランド』……
 
 私が生れた年に開催された『万国博覧会』跡地に造られた遊園地で『絶叫マシン』が数多くあり、とても人気のある遊園地だ。そして遊園地と隣接する形で大きな公園もあり休日は多くの人で溢れている。

 ここの遊園地は私達が住んでいる市の北側にあり、最寄りの沿線で言えば、終点の一つ前の駅が最寄り駅になる。そしてそこからバスに乗り換えて行かないといけないのだけど、私達はお父さんの車で来たので疲れる事無く到着することができた。

 ただ今日は日曜日ということでお客さんも多く、車を駐車場に止めるだけで三十分以上かかってしまった。

「ふぅ……さすがに今日は日曜日だからお客さん多いなぁ……」

 道中とても元気だったお父さんも到着した時には少しお疲れ気味だったので申し訳無く思ったけど、遊園地に入場した途端にテンションが上がったみたいで、いつもの元気なお父さんに戻って私は安心した。

 私達は遊園地に着くと早速、順子の希望通りに『光のマジック』から行く事にした。

 この『光のマジック』は乗り物というよりも室内全体が暗闇の中ゆっくりと回転し、壁や天井に様々な色の光が照らしだされるといった『光のショー』みたいなものだった。

 だからここは家族連れやカップルが多いのね?
 
「とっても綺麗……」

 暗闇の中、時折照らされる順子はうっとりとした表情をしている。
 そして久子も、

「ほんと、綺麗だわぁ……一緒に……」

 久子は途中で言いかけた事を止めてしまったけど、私には理解できた。

 本当は五十鈴君とこの綺麗な光のショーが見たかったのだろう。
 でも私も同じ気持ちだから久子の気持ちはよく分かる。

 ふとお父さんの顔を見ると何となく目が潤んでいる様に見えた。

 えっ、もしかしてこの光を感動しちゃってお父さんは泣いているの? と思ったけど、私の手を握っているお父さんの手が少しギュっと強くなり口元は嬉しそうに見えたので、お父さんは娘の私と一緒にこんな綺麗な光のショーが見れて嬉しいんだろうなぁと思えた。

 そうだよなぁ……本当ににお父さんとこうして遊びに来るのは久しぶりだったから、とても嬉しいんだろうなぁ……

 私もこれからはもう少し『お父さん孝行』しないといけないよね……
 いつ私が病気を発症するかも分からないし、こうやって遊びに来れるかどうかも分からない……

 せっかく『この世界』で生かせてもらっているのだから、『前の世界』で出来なかった事をもっとたくさんやらないと……彼に告白をするだけではいけないような気がする。

 そう思う私だった。


 『光のマジック』から出て来た私達は次に隣にある『お化け屋敷』へと向かう。
 何故か大人のお父さんだけが乗り気じゃなかったのがおかしかったけど、私がワザと『お父さんも一緒じゃないとヤダ』と言った言葉に効き目があったみたいでお父さんは自分の頬を両手てパンと叩いて気合いを入れ、先頭で乗り物に乗りこむのであった。

 そう、ここの『お化け屋敷』は自動で動いて行く乗り物に乗りながらお化け屋敷内を回るので、他の遊園地にある、歩いて回るお化け屋敷に比べるとさほど怖くはない。

 『世界一怖くない遊園地』……

 そう呼ばれているということを私が知ったのはもう夏休み後のことで、それを教えてくれたのは五十鈴君だった。


 私達はまだ小学一年なので『絶叫系』の乗り物には乗れなかったけど、とても満喫していた。そしてお昼になり私達はベンチでお弁当を食べることになったのだけど、その前に私、順子、久子の三人はお手洗いに行く事にした。

「人が多いから気を付けるんだぞ」

 心配してお父さんはそう言ってくれたけど私達は軽い気持ちで返事をしただけであまり気にしてはいなかった。

 お昼時ということもありお手洗い内もその周りもたくさんの人がいた。
 私はお手洗いが終わり外に出たけど辺りを見渡しても二人はいない。
 
 あれ? 私が一番早かったのかな?

 そう思いながらも私は少しだけ歩いてみた。すると、とても不安そうな顔をしている順子が周りをキョロキョロしていた。

「順子ちゃん!!」

 私が大きな声でそう呼ぶと順子はハッとした顔をした後、直ぐにホッとした顔に変わる。

「浩美ちゃん!! あぁ、良かった!! お手洗いから出て来たら二人はいないし、お客さんいっぱいだし……みんなとはぐれてしまったんじゃないかと思ってとても怖くなって……」

「それで、久子ちゃんは?」

「わかんない……まだお手洗いにいるのかな?」

「よし、もう一度、お手洗いに行ってみよう!!」


 私達は久子の名前を何度も呼んでみたが、全然見つからない。

 もしかして『誘拐』!? そ、それは無いと思うけど、私はとても不安になった。

 隣にいる順子は久子を心配して泣き出した。

 焦った私は久子を探すのを諦めてお父さんのところに戻り、事情を説明する。

 お父さんは凄く驚き、私達にここにいるように言うと一人で『案内所』に行こうとしていたので『私も行く』と言い、高山君には泣いている順子のことをお願いし、二人で『案内所』に行くことになった。

『迷子のお知らせをさせていただきます。小学一年生の寿久子ちゃんを案内所にてお預かりしております。保護者の方は至急、案内所までお越しください』

 道中、園内に久子の無事を知らせる案内が流れ私もお父さんも安堵しながら『案内所』へと入って行った。

 そしてそこには半泣き状態の久子が椅子に座っていて私達のことに気付くと一目散に私に泣きながら抱き着いて来た。

「うわーん!! 浩美ちゃん、怖かったよーっ!!」

「久子ちゃん、怖い思いをさせてごめんね……」

「はぁ……良かった……本当に良かったぁ……オジサンが付いていながらこんな思いをさせてしまって……本当にゴメンよぉ……」

 お父さんは今回、唯一の大人としての責任があり、本当にホッとしていた。

 すると『案内所』の受付のお姉さんがこう言った。

「本当に良かったですね。どうもこの子はお手洗いから出た時にお友達がいなかったのでみんな先にベンチに戻ったと思ったようで、自分もベンチに戻ろうとしたら逆方向に歩いてしまっていたみたいですねぇ……そして途中で自分が迷子になってしまったことに気付き泣いているところを休憩中のスタッフさんが通りかかりまして……あっ、この方です。この方がこの子を『案内所』まで連れて来てくださったんですよ」

「そうなんですか。有難うご……!!」

 スタッフさんにお礼を言おうとしていたお父さんが途中でやめてしまったので私はそれが気になり久子を抱きしめながらスタッフの人の顔を見た。

 げっ!!

 私達の目の前にいる久子の恩人はサングラスをかけていて鼻の下に髭をはやし、そして髪型がパンチパーマという、どこからどう見ても『子供の楽園』のスタッフとは思えない風貌の男性が立っていた。

「グスンッ……浩美ちゃん、怖かったよぉぉ……」

 ひ、久子? あなたは『迷子』になったのが怖かったの? それとも本当は……




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お読みいただきありがとうございました。

最後に登場した久子を助けた遊園地スタッフさんですが、分かる人には分かりますよね(笑)
そうです。あの人です。

いずれにしても久子が無事でホッとした浩美達
これで安心して昼食をいただけますね。

ということで次回もお楽しみに。
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