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第3章 夏休み編

第10話 笑顔の数だけ

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 【八月七日、日曜日】

 遊園地へ行く日がやって来た。

 順子、久子、そして高山君は私の家に集合する事になっており、集合時間の十五分前にはみんな揃っていた。

 そんな中、久子だけが元気が無いように見えるは私だけなのかな?

 私は女子二人に聞こえない声で高山君に話かけた。

「高山君、今日はゴメンね。なんか無理矢理、一緒に遊園地に行く事になったみたいで……」

「えっ? 僕は別に構わないよ。『エキサイトランド』には前から行きたかったし、五十鈴のお願いは断れないしさぁ……それよりも僕なんかが代わりに行ってもいいのかな?」

「ハハハ、それは気にしないで。全然、大丈夫だから……」

 そういえば、高山君はいつも彼と一緒にいて、お互いに良き相談相手になっていたもんね。ほんと、親友って感じだったなぁ……懐かしいなぁ……それに男同士の親友って何だか羨ましい……

「おーい、浩美? それにみんな、そろそろ出発するから車に乗ってくれないかい?」

「 「 「 「はーい!!」 」 」 」


 ブォォォオオオオオオン……


 お父さんが運転する車には私が助手席に座り他の三名が後部座席に座っているが、何故か高山君が真ん中に座り、順子と久子に挟まれた形になっている。

 順子と久子が高山君を挟みながら会話をしているけど、話しづらくないのかしら?
 でもあの二人はそんな事は気にし無いタイプかもしれないわね?

 逆に高山君は女子二人に挟まれて、きっと恥ずかしいんだろうな。凄く辛そうな顔をしているわねぇ……そんなに苦しければ端に座れば良かったのにさ。

 あっ、そっか!! 私が後部座席で高山君が助手席だったら何の問題も無かったんだわ。私としたことが、配慮が足りなかったなぁ……

 でも私が助手席に座っているからお父さんは凄くご機嫌な顔になっているし、まぁいっか……

 出発してから数分経った頃に車は駅の近くを通り過ぎたが私は駅の入り口付近で見覚えのある人を見かける。

 あれ? 駅前にいるのはもしかして五十鈴君じゃ……?

 でも似ている子かもしれないので自信はない。
 それに一人でいたし、小一の子が一人で電車に乗って出かけれるとも思えないしなぁ……

 そんな事を考えながらふと私はバックミラーを見ると久子も同じ方向を見ている様な感じがした瞬間に久子の顔が少し微笑んだ。

 えっ、やっぱり今のは五十鈴君だったの?

 でも、どうなんだろう? 

 久子も彼に似ている子を見つけたけどよく見ると人違いだったから苦笑いをしたのだろうか?

 私はそんな事を思いながら首を傾げた瞬間にバックミラー越しに久子と目が合ってしまった。

 私は慌ててニコッとしたけど、久子は逆に笑顔から無表情になり再び窓の外を眺めてしまった。

 何だろう、やはり人違いだったのかな? 
 それに久子は五十鈴君と一緒に遊園地に行けないことで少し機嫌が悪い様な気もするし……しばらくは久子とあまり会話をしない方がいいのかしら……?

 車中ではお父さんが私によく話しかけてくる。
 本当に嬉しそうだ。こんなにニコニコしているお父さんは久しぶりに見るなぁ……

 私は凄く愛されているんだなぁと思う。
 それなのに……私は中一で白血病になってしまい、お父さん達の笑顔を減らしてしまった。

 そして十五歳で何のお別れの言葉も今まで育ててくれたお礼も言えずにあっけなく事故で……それにお母さんまでも……

 きっと愛する妻と娘を失いお父さんから完全に笑顔を奪ってしまっただろう……
 そう考えると私は涙が出てきそうになる。

 だっ、ダメ!! 今日は泣いている場合じゃ無い。
 今日は楽しい一日に……楽しい思い出にしなくちゃいけないのよ。

 もし、『この世界』でも病気が発症してしまえば、こうやって皆と、お父さんと遊びに行く事が出来なくなるのだから……

「浩美ちゃん、エキサイトランドに着いたら最初にどの乗り物に乗ろうかぁ?」

 後部座席から順子が私に聞いてくる。

「えっ? 私は何でもいいよ。順子ちゃんは何に乗りたいの?」

「えっとねぇ……私はねぇ、『光の』……アレ? 名前忘れちゃったわ。お母さんがその乗り物は小さい子でも乗れるって言ってたの。それに色んな色の光が出てね、凄く綺麗んだって……」

 順子はとても楽しそうに話している。

「へぇ、そうなんだぁ……」

 すると順子の隣に座っている高山君が、

「僕、その乗り物の名前知っているよ。乗り物の名前は『光のマジック』っていうんだよ。幼稚園の頃に一度、乗ったことがあるんだぁ。本当に凄く綺麗な光だったよ」

「そうなのぉぉ!? うわぁ、とっても楽しみだわぁああ!!」

 順子は目を輝かせながら言っている。

「それじゃ、遊園地に着いたらまずは順子ちゃんのリクエストにお応えして、その『光のなんちゃら』から行くことにしよう!!」

「おじさん!! 『光のマジック』だよぉぉ!!」

「えっ!? ああ、そうだったね。おじさん、名前を覚えるのがとても苦手なんだよ。ゴメンね、高木君!! アッハッハッハ!!」

「もう、お父さん!! その子は『高山君』よ!! 昨日も名前教えたでしょ?」

「あれ? そうだった? ゴメンゴメン」

「プッ……」

 さっきから無表情だった久子が思わず吹き出してしまう。
 それにつられて私達も大笑いしてしまった。

「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」


 こうして遊園地に着くまでの車中は笑い声でいっぱいになる。

 私は顔や喉が痛くなるくらいに笑った。
 数ヶ月前に死の淵にいたのが嘘の様に笑った。

 そして私は笑顔の数だけ幸せを感じる。

 ああ……この幸せを……

 少しでも長く感じていたい……

 少しでも長く笑顔でいたい……




――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

浩美は車中から五十鈴君らしき子供をみかけるが……
そして五十鈴君と一緒に行けなくて元気のなかった久子であったが、浩美達の会話で思わず吹き出し笑顔が戻る。

皆との楽しい会話、笑顔がとても幸せに感じる浩美。
そして彼女はその幸せが少しでも長く続く事を願うのであった。

そして次回は遊園地にてのお話です。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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