上 下
41 / 83
第7章 文化祭編

第41話 役者魂

しおりを挟む
 ついに開演!!

 ゆっくり幕が上がると暗闇の舞台があらわれ、数秒後にパッと舞台上が明るくなり、舞台中央には獣の王役の立花部長が腕を組んで立っている。そしてその周りを他の動物達が取り囲んでいた。

 山口先生のナレーションが入る。

「昔々、とある島では獣の国と鳥の国の二つの国がありました。昔は二つの国は仲良しでしたが、ある時、獣と鳥どちらの方が強いか偉大かを言い合いしている内に争いになり、いつしか戦争にまで発展してしまいました」


「王様!! 王様!! 大変です!! 鳥の王達が近くの山まで来ております!!」

 見張り係のウサギが左袖から現れ、慌てて獣の王のもとに駆け寄る。

「 「 「 「おっ!! あのウサギ役って隆じゃないか!?」 」 」 」

 舞台袖にいた私は数人の同級生がそう言っている声が聞こえてくる。

 そっか……

 そういえば演劇部以外の人は彼がするってことは知らなかったわね。だから少しざわついているんだわ……
 

「ウサギよ、ご苦労であった。下がってよいぞ」

「ははっ!!」

 獣の王役の立花部長が貫録のある演技をした後に彼は大きな声で返事をすると急いで右袖の方に走って行く。そして彼は今から急いで鳥の王の衣装に着替えることになっていた。


「王様、今度こそあの鳥達をとっちめてやりましょう!! わしの牙でけちょんけちょんにしてやりますぞっ!!」

 サイ役の五年生女子ぽっちゃり系の後藤さんがそう言えば

「パオーン!! わしの長い鼻で鳥達を叩き落してやりますよ!!」

 象役の六年天野さんが大きな声と怖い顔で意気込んだ。
 あっ、この人は顔が怖いだけで性格はとても優しい人だから……

「私の長い首を大いに活用して、ひっぱたいてやります!!」

 キリン役の六年長身の時田さんも続けて言う。

「王様!! 僕の爪で鳥達をひっかいてやります。どうか私にお任せください!! ウキキッ!!」

 猿役の六年小柄の望月さんも自信満々に言いだした。

 そして最後にヒツジ役の木場君とヤギ役の夏野さんが手をつなぎながら一緒に言った。

「メェメェ、王様ぁぁ? 私達は争いは好きじゃないから後ろの方にいてもいいですかメェ?」

「愚か者!! お前達もみんなと一緒に戦うんだ!!」

「メェーッ、嫌だメェーッ!! 怖いメェーッ!! メェーッメェーッ!!」

「お前達、メェーッメェーッうるさいぞ!!」

 獣の王がヒツジやヤギを怒ると会場内はたくさんの笑い声がおきる。

 笑いが取れて嬉しかったのか立花部長は一瞬、口元が緩んでしまったけど、なんとか我慢しながら右手で小さくガッツポーズをしている。そして迫力のある大きな声で、

「皆の者、今日こそあのバサバサ飛ぶことしか能がない鳥達をけちらしてやるぞ!!」

「 「 「 「お――――――っ!!」 」 」 」

 そして舞台の明かりが消え、次の場面に変わる。



 舞台の中央にコウモリ役の福田さんが腕を組んで悩んでいた。

 ここで山口先生のナレーションが入る。

「ここは獣の国と鳥の国の国境付近にあるコウモリ一族の村である。コウモリ一族のおさは今、ピンチに立たされとても悩んでいます」

「う――――――ん……どうすればいいかのぉ……? 今まではなんとかごまかしきれたけど今回はもう無理だろう。どっちの味方になればこのコウモリの村を守れるかのぉ……早く決めないともうすぐ鳥の国の兵隊達がやってくるしのぉ……う――――――ん、これは困ったぞぉぉ……ん? あっ、そうだ!!」

 すると突然、コウモリ役の福田さんが何かひらめいた顔をしてポンと手を叩いた。

「よし、決めた!! どちらの味方にもなって、どちらの味方にもならないようにしてやろうじゃないか」

 ここで再びナレーションが入る。

「コウモリが何か作戦を考えたあとすぐに鳥の国の先遣部隊がコウモリ一族の村にやって来ました」

「おい、そこのお前!! お前は何者だ!?」

 顔を黒く塗った大浜さん演じるカラスがコウモリに尋ねる。

 しかしさすがは女優志望の大浜さんだわ。『前の世界』の時も感心したけど、いくら役作りの為だとはいえ、あの可愛らしい顔を絵の具で真っ黒に塗るなんて……

「は、はい。わ、私はコウモリ村のおさでございます。」

「コウモリだと!? コウモリ、お前は鳥なのか獣なのかどっちなんだ!?」

 ハヤブサ役の五年堤さんが鋭い目つきでコウモリに質問する。

「はい、御覧の通り私は大きな翼を持っている鳥でございますよぉぉ。なので勿論、皆様の仲間でございます」

「うーん、言われてみればそうだな。お前にも翼があるものな」

 カラス役の大浜さんが納得した表情で答える。

「しかし俺達を騙すために偽物の翼をつけているかもしれんぞっ!!」

 ハヤブサ役の堤さんが強い口調で言うとコウモリ役の福田さんは慌てて自分の翼を引っ張り「ほれ、見て下さい! どうです? 翼を引っ張っても取れないでしょ? これは正真正銘の『翼』でございます」

「うむ、そのようだな。よし分かった。お前を信用するとしよう」

「信用していただき有難うございます。それではお礼といたしましてとっておきの情報をお教えいたしましょう」

 コウモリ役の福田さんは安堵した表情で鳥達に情報を説明する。

「皆さんが向かう方向にある森には現在、『猿部隊』が隠れております。ですので、遠回りにはなりますが、あちらの森の方から行かれた方が良いと思います。そうすれば必ず獣達の背後から攻めることができますぞ!!」

「おぉ、なるほど!! それは助かる。良い情報をくれて感謝する!!」

 カラスとハヤブサは喜びコウモリが薦めた森の方に向かって行った。

 それを追いかけるように、左袖からトンビ役の六年高田さんとハゲタカ役の五年佐藤さん、そしてフラミンゴ役の私が登場し、コウモリ役の福田さんの前を通りすぎていく。

 ちなみに私はフラミンゴに成りきる為に片足で飛び跳ねている。

 その時、客席が爆笑の渦になってしまう。もしかして私が笑われているの? と思ってしまったけど、実はそうではなく、客席の人達はある方向を指差して大笑いしていた。

 そしてみんなの指先の方向にはハゲタカの佐藤さんがいた。
 
 なんと、あれだけ嫌がっていた佐藤さんがハゲヅラをしていたのだ。
 これは『前の世界』では無かったことなので私も驚いた。

 ずっと悩んでいたみたいだけど『この世界』の佐藤さんはハゲタカに成りきるためにはハゲヅラが必要だと登場する寸前に決断したのだ。

 さすがは次期部長だなと私はとても感心してしまった。

 ただ佐藤さんは指を差して大笑いされることは嫌だったみたいで、客席の方を向き睨みつけている。

 でも逆に客席はその動きが面白くて更に大爆笑となってしまった。

 佐藤さんは舞台袖に入った途端、うずくまると、「失敗だ。失敗だ。失敗だ……ハゲヅラなんか、かぶるんじゃなかったわ……」と呟き後悔している。

 しかし立花部長がそっと佐藤さんの肩に手をのせて小声でこう言った。

「佐藤さん、あなた最高よ。これで安心してあなたに部長を任せることができるわ。だから自信を持ってちょうだい。みんながやりたがらないことをやれるなんて役者の鏡よ。それが『役者魂』というものよ」

 立花部長の言葉が響いたのか佐藤さんの目の色が変わると同時に直ぐに立ち上がり、そして立花部長にお辞儀をしたあと直ぐに早歩きで舞台裏から反対側の袖に向かって行った。

 その光景を間近で見ていた私は心が熱くなる。

 中身が十五歳の私は年下の彼女達を心から尊敬するのだった。




――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

遂に『コウモリ』開演です!!
順調にお芝居が進んでいく中、佐藤さんの役者魂に驚き、立花部長の佐藤さんに対する言葉に感動を覚えるのだった。

果たして最後まで無事に演劇を終える事ができるのか?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
しおりを挟む

処理中です...