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一章 〜異世界と旅立ち〜

15話 『夢の中の少女』

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「んん、ん、ここは……草原?」

 僕は気がつくと広い草原のど真ん中で立っていた。優しい風が心地よい。
 いつからこうしていたのだろう? 
 また、あの夢と同じ感覚。何故か意識ははっきりとしていて、とても夢とは思えない。
 こうなったらやることはひとつだ、、つねろう。

 と、つねってみたのはいいけど、大して痛くもない。全く痛くないと言うわけでもないのだけど、痛いと言うほどでも、と言う感じだ。
 ここまでは昨日と同じようだな。違うのはこの景色だけ。薄暗い神殿の中から、明るくて清々しい草原のど真ん中になっただけだ。どちらかと言えば、目が覚めた時に見た景色に近いかな。
 昨日と同じだからこそ、感じる不安がある。このまま行けば、また同じことが起こりそうだということだ。
 なんとしても、それだけは避けないと。でもこんな何もないところで出来ることなんて、歩くことぐらいだ。
 歩けばきっと何かが起きるはず。そう信じてゆっくりと草原を歩き出した。

 どのくらい歩いたかな? 
 さっきの場所から少し行ったところで、僕の目に何かが見えてきた。まだ遠くて、それがなんなのかはわからない。
 もう少し近づいてみよう。
 またゆっくりとそれに近づいて行った。そして、とうとうそれがなんなのか知ることができた。

 少女だ。

 そう、今僕の目の前には少女が立っている。黒髪で、僕と同じぐらいの歳に見える、僕より少しだけ背の低い少女だった。
 ん? 少女なのか? 僕は170後半だからなぁ。女の子でこの身長って、けっこう高いんじゃないかな。まぁでも少女ってことにしておこう。

 ある程度近づいたところで、彼女も僕に気がついたようだ。だいぶ早い足取りでこっちに近寄ってくる。
 うーん、なんて声をかければいいんだ?
「君は誰ですか?」とか「なんで僕の夢の中にいるの?」とか、急に聞けないしなぁ。
 こういうことになるならもっと人と接しておけばよかった……。突然こんな事が起こるかもしれないから、コミュニケーション能力を身につけましょう、とか言ってたんだな、学校では。
 
 僕も彼女も足を止めて、互いに見つめ合っている。
 なんだろうか、この状況。何か言って欲しいんだけど……。でもここは僕から話しかけるべきかな。
 しょうがない、やるしかないか。

「あの「君がこの夢の主かい?」……」

 くっ……途中で止めて来たか……。なかなか恥ずかしいぞ。とまぁ冗談もそれぐらいにして、「夢の主」だっけ? 何それ? 僕が見ている夢だから「夢の主」ってことなのかな? だとしたらこの人は……僕のことを何か知っているのか? いやでもそんなはずはないか。
 さっきの言い方だと、僕のことは知らないっぽいし。その意味は彼女に聞くのが手っ取り早いかな。

「夢って、僕の今見ているこの夢のこと?」
「ああうんそうだよ、この夢。おっと、自己紹介が遅れたね。ボクはルナミア・ヘリアス。『夢渡りジャンプ』でたまたまここに来たんだ」
「僕は三波心葉、よろしく。えっと、『夢渡り』?」
「そう、『夢渡り』。ボクの固有魔法でね、人の夢の中にランダムで飛ぶ事ができる。そして一度行った夢の主の夢ならまた行く事ができるんだ!」

 固有魔法。また新しい単語だ。固有、と言うからには個人の魔法なんだろう。アニメで言うなら急に使えるようになるとかそんなんだろうな。
 どこまでもアニメの世界に近い設定だ。なんなら僕もその固有魔法に目覚めてもいいんじゃないかと思うんだけど。いや一応僕だって異世界転移してる訳だし。
 はぁ、いつか手に入れたい。自分だけの魔法。
 出来ればこう、凄いやつ! 天変地異みたいな!
 でもやっぱり氷かな……いや、雷系もいいぞ。悩ましい……。実現しない事には意味ないけどね。
 僕が考えている間も、彼女は気にせず続ける。

「今日もそれで遊んでたんだけど、なんだかいつもと変わった夢に入ったっぽくてさ。この夢、いったいどうなってるんだい?」
「変わった夢ってのは僕にも分かるんだけど、何がどうなってるのかは僕も知りたいぐらいで……それで、歩いていたら君を見つけたから、なにか分かるかもと思って」
「そっか。悪いけどボクには分からないよ。でも、とても面白い空間だね。夢の中なのに魔力で満ち溢れている。ここなら心置きなく魔法の実験が出来そうだよ!」

 魔力……ついにでてきたか!なんて固有魔法の後で言うのも可笑しな話だけどさ。
 魔法が存在するなら絶対に欠かせないもの、それこそが魔力。その意はアニメごとに違うけどおおよそは同じ。魔法を発動させる元となる力だ。
 残念ながら僕には感じとれないが……彼女の言う通りなら、今僕の周りには多くの魔力があるらしい。

「君さえ良ければまた来てみたいのだけど、いいかな?」
「そのさ、また来たいっていうのは僕自身が寝ていればいつでも来れるってことなの?」

 そこがとても気になる。他の夢を見てたらどうなるんだろ。強制的に切り替えかな? どうだろう?
 それについてはすぐにルナミアが答えてくれた。

「そのとおり、君が寝ていればいつでも来れる。他の夢を見てても、この夢に切り替わるよ。ボクの固有魔法はすごいんだ! レア中のレアだよ!」

 やっぱりそうか。すごい能力だな。使えるかどうかは別として。でも強制的にってのがなぁ……怖い。それに行き先も指定しないとランダムらしいしな。
 何に使ってるんだろ? いや何に使えんだろ? 
 そんなことを考えていると、ルナミアがまた口を開いた。

「えっと、それでさ、また来てもいいのかな? ここまでのんびりと出来るところは現実のほうにもそうはないからさ。それにこの空間ならいろんなことが試せそうだし。ダメかな?」
「それは別に構わないよ」
「ほんとかい? やったぁ!」
「その代わりと言っちゃなんだけど、僕に魔法を教えてくれないかな? 僕、魔法が使えないんだよ……」
「魔法を? そんなのお安い御用だよ。私もこんなにいい場所を提供して貰えるし!」

 よっしゃー! 先生ゲットだ。
 魔法を使えるようになるには絶対に必要だからな。これからここで、みっちりと教えてもらおう。
 これで僕も大魔術師とかに……なれなくても普通の魔法使いぐらいにはなれるだろ。
 こんな夢の中でできるなんてほんとについてるな。
 やっぱり異世界はサイコーだ!
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