1 / 3
第一章
「目覚めた場所は、灼熱の闇」
しおりを挟む> …ザザァ……ゴゴゴ……
焦げたような匂い。肌を刺す熱。
意識が戻った瞬間、全身を突き刺すような感覚に襲われた。
「いったたたた……ここ、どこ……?」
カフェでノートを広げていたはずのあずさは、硬くざらついた黒い地面の上に倒れていた。
周囲はほとんど闇。しかし、ほんのかすかに赤い光が揺らいでいる。
「さっきまで、カフェで……期末レポートの……」
ふらつきながら立ち上がる。制服の袖には灰がつき、焦げたような穴が開いていた。
> グルルルル……
聞き馴染みのない、獣のような声。
背筋を冷たいものが駆け抜けた。
ゆっくりと顔を上げる。赤い光の中から現れたのは――
巨大なドラゴン。
鋭い牙、燃えるような瞳、そして……自分を見下ろす視線。
「う、嘘でしょ……っ!」
逃げる。それしかできなかった。
洞窟を駆け抜けるあずさ。
背後から追いかけてくる咆哮と地響き。
足元が崩れ、岩が崩れ落ちる――
> ドンッ!ドンッ!
洞窟が揺れる。岩の天井から粉塵が舞い、火花がはじけた。
背後から迫るのは、翼を折りたたんだ下位竜。黒い鱗に覆われ、異様に長い爪と牙を持つその化け物は、ただの“生き物”とは違っていた。
「は、はやっ……!」
あずさの足がもつれる。制服のスカートが岩に引っかかって裂けた。
転びながらも起き上がり、また走る。
> ザクッ!
腕に焼けた岩のかけらが当たり、皮膚が裂けた。
「痛っ……でも、止まったら、死ぬ……!」
崖を飛び越える。足元が崩れ、かろうじて反対側に転がり着地。
後ろでは下位竜が崖を飛び越えられず、甲高く咆哮した。
> ギシャアアア!!
だが、声が響いた次の瞬間――
> ドゥウン……
何かが“目覚める”ような音が、地の底から響いた。
「……え?」
空気が変わった。熱気が薄れ、代わりに重たい“静寂”が辺りを包む。
恐る恐る顔を上げると、崖下には不気味なほど静かな黒い階段が続いていた。
そして――
> ヴァアアァ……
呼ばれるように、その奥から“紫の光”が微かに揺れていた。
「……なんで……行かなきゃって、思ったんだろ……」
気づけば、足がそちらに向かっていた。
崖を滑り降りるようにして飛び込んだ石階段の奥。
黒く滑らかな石に囲まれた空間は、不自然なほど整っていた。
> ……ドクン。ドクン。
心臓の鼓動がやけに大きく響く。音が吸い込まれていくような沈黙。
振り返っても、下位竜の姿はない。どうやら、あの崖の下までは追ってこなかったらしい。
「……はぁ……っ、死ぬかと思った……」
足元に崩れ落ちるように座り込む。呼吸が乱れて喉が焼けるよう。
でも、命は――まだある。
壁に手をついて立ち上がり、慎重に奥へと歩き始める。
「ここ……遺跡、みたい……」
天井は高く、柱のひとつひとつに彫刻が刻まれていた。
竜。契約の輪。光に抱かれる人影。
そしてその奥、石の祭壇に似た壇上には、うっすらと紫色の紋様が光っている。
> スッ……
何かが、袖を引いた気がした。
「……っ誰……?」
誰もいない。けれど――誰かに“見られている”感覚が、消えない。
先ほどまでの灼熱の空気とは打って変わって、
この空間には冷たい霧のようなものが漂っていた。
足を進めるたび、床に刻まれた古代文字のような文様がぼんやりと紫に光る。
それは、まるであずさの存在に反応しているかのように。
「……これって、魔法……?」
知識としてしか知らなかった言葉が、脳裏に浮かぶ。
“契約陣”――。
でも、教科書に載っていたような柔らかいものじゃない。
これはもっと、根源的で、原初の“力”だ。
> ボッ……ボッ……ボウ……
空気の中に、鼓動のような低音が混じり始めた。
近づくにつれ、紫の文様はより強く脈打ち始める。
まるで彼女の鼓動と共鳴するように。
そして、ひらけた大広間の奥――
そこに、それはあった。
---
巨大な荘厳な扉。
黒曜石のように艶のある漆黒の扉は、左右に神獣と思しき竜の彫刻を従えている。
中心には紫水晶が嵌め込まれ、微かに淡く光を放っていた。
「……なんでこんなものが、こんなところに……」
思わずつぶやくあずさ。
だが、その瞬間――
> ……ゴォ……ォ……
扉の向こうから、**誰かの“息遣い”**が聞こえた。
荒々しくはない。
静かで、深く、澄んだ空気のうねり。
それはまるで、巨大な何かが眠っているかのようで――
> ……だれだ
……
今、確かに誰かの声が、頭の中に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
白椿の咲く日~遠い日の約束
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。
稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と庭の白椿の木に、何か関係があることに気がつき……
大人の恋物語です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる