双極の聖女は伝説に抗う

ゴンゴンカルパス

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第一章

「目覚めた場所は、灼熱の闇」

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> …ザザァ……ゴゴゴ……

焦げたような匂い。肌を刺す熱。
意識が戻った瞬間、全身を突き刺すような感覚に襲われた。



「いったたたた……ここ、どこ……?」

カフェでノートを広げていたはずのあずさは、硬くざらついた黒い地面の上に倒れていた。
周囲はほとんど闇。しかし、ほんのかすかに赤い光が揺らいでいる。

「さっきまで、カフェで……期末レポートの……」

ふらつきながら立ち上がる。制服の袖には灰がつき、焦げたような穴が開いていた。

> グルルルル……



聞き馴染みのない、獣のような声。
背筋を冷たいものが駆け抜けた。
ゆっくりと顔を上げる。赤い光の中から現れたのは――

巨大なドラゴン。
鋭い牙、燃えるような瞳、そして……自分を見下ろす視線。

「う、嘘でしょ……っ!」

逃げる。それしかできなかった。
洞窟を駆け抜けるあずさ。
背後から追いかけてくる咆哮と地響き。
足元が崩れ、岩が崩れ落ちる――

> ドンッ!ドンッ!



洞窟が揺れる。岩の天井から粉塵が舞い、火花がはじけた。
背後から迫るのは、翼を折りたたんだ下位竜。黒い鱗に覆われ、異様に長い爪と牙を持つその化け物は、ただの“生き物”とは違っていた。

「は、はやっ……!」

あずさの足がもつれる。制服のスカートが岩に引っかかって裂けた。
転びながらも起き上がり、また走る。

> ザクッ!



腕に焼けた岩のかけらが当たり、皮膚が裂けた。

「痛っ……でも、止まったら、死ぬ……!」

崖を飛び越える。足元が崩れ、かろうじて反対側に転がり着地。
後ろでは下位竜が崖を飛び越えられず、甲高く咆哮した。

> ギシャアアア!!



だが、声が響いた次の瞬間――

> ドゥウン……



何かが“目覚める”ような音が、地の底から響いた。

「……え?」

空気が変わった。熱気が薄れ、代わりに重たい“静寂”が辺りを包む。
恐る恐る顔を上げると、崖下には不気味なほど静かな黒い階段が続いていた。

そして――

> ヴァアアァ……



呼ばれるように、その奥から“紫の光”が微かに揺れていた。

「……なんで……行かなきゃって、思ったんだろ……」

気づけば、足がそちらに向かっていた。
崖を滑り降りるようにして飛び込んだ石階段の奥。
黒く滑らかな石に囲まれた空間は、不自然なほど整っていた。

> ……ドクン。ドクン。



心臓の鼓動がやけに大きく響く。音が吸い込まれていくような沈黙。

振り返っても、下位竜の姿はない。どうやら、あの崖の下までは追ってこなかったらしい。

「……はぁ……っ、死ぬかと思った……」

足元に崩れ落ちるように座り込む。呼吸が乱れて喉が焼けるよう。

でも、命は――まだある。

壁に手をついて立ち上がり、慎重に奥へと歩き始める。

「ここ……遺跡、みたい……」

天井は高く、柱のひとつひとつに彫刻が刻まれていた。
竜。契約の輪。光に抱かれる人影。
そしてその奥、石の祭壇に似た壇上には、うっすらと紫色の紋様が光っている。

> スッ……



何かが、袖を引いた気がした。

「……っ誰……?」

誰もいない。けれど――誰かに“見られている”感覚が、消えない。


先ほどまでの灼熱の空気とは打って変わって、
この空間には冷たい霧のようなものが漂っていた。

足を進めるたび、床に刻まれた古代文字のような文様がぼんやりと紫に光る。
それは、まるであずさの存在に反応しているかのように。

「……これって、魔法……?」

知識としてしか知らなかった言葉が、脳裏に浮かぶ。
“契約陣”――。
でも、教科書に載っていたような柔らかいものじゃない。
これはもっと、根源的で、原初の“力”だ。

> ボッ……ボッ……ボウ……



空気の中に、鼓動のような低音が混じり始めた。

近づくにつれ、紫の文様はより強く脈打ち始める。
まるで彼女の鼓動と共鳴するように。

そして、ひらけた大広間の奥――

そこに、それはあった。


---

巨大な荘厳な扉。
黒曜石のように艶のある漆黒の扉は、左右に神獣と思しき竜の彫刻を従えている。
中心には紫水晶が嵌め込まれ、微かに淡く光を放っていた。

「……なんでこんなものが、こんなところに……」

思わずつぶやくあずさ。
だが、その瞬間――

> ……ゴォ……ォ……



扉の向こうから、**誰かの“息遣い”**が聞こえた。

荒々しくはない。
静かで、深く、澄んだ空気のうねり。

それはまるで、巨大な何かが眠っているかのようで――

> ……だれだ
……



今、確かに誰かの声が、頭の中に響いた。







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