誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン

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2巻

2-2

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「信じてくれるのか?」 
「普通なら、そんな話でたらめすぎて信じられるわけないけど、あなたの力もこの世界にはない技術も、実際に見た後だもの。信じざるを得ないわ。それに……」
「ん?」
「わ、わわわわ、私はケンゴのか、かかかか、彼女だもの。かか、彼氏をし、信じるのは当然のことよ!」

 途中まですまし顔で話していたリンネだが、後半になるにつれて顔が真っ赤になっていた。
 言葉にするのが恥ずかしかったらしく、しどろもどろだ。

「ありがとな」

 俺はリンネの言葉が嬉しくて、自然と口元が緩んだ。

「ふ、ふんっ。礼なんていらないわよ!」

 リンネはまだ照れているのか、明後日の方向を向いたまま、腕を組んで言った。

「俺が言いたくなったんだよ」
「まったくもう……しょうがないわね! ケンゴがそう言うなら感謝されてあげるわ!」
「おう。それで……ここからがリンネに話したかったことなんだが……今説明した通り、今まで使っていたのは、俺の力じゃないんだよ。リンネを助けた時も、冒険者ギルドでリンネを狙っていたギルバートを倒した時も、巨大マンモスみたいなギガントツヴァイトホーンを倒した時もな。ただ、船で手に入れた武器やアイテムを使っていただけ。それは先に伝えておきたくてな。見損なったか?」

 本当のことを言えば、全部借り物の力だという事実を知られてリンネに拒絶されるのは怖い。
 でも、このまま隠し通すのは嫌だった。
 少し不安になりながら反応をうかがうと、リンネは鼻で笑う。

「はんっ。今さらそんなことで見損なうわけないじゃない! どういう経緯にせよ、ケンゴが手に入れた力は全てケンゴの物だし、その力も含めてケンゴ自身でしょ。大事なのはその力をどう使うのかってこと。ケンゴはその力を悪用することなく、私を助けてくれた。人をしいたげるようなこともなかった。それに、私の修業にしっかりついてきたんだから、ケンゴ自身の頑張りだって知っているつもり。それで十分じゃない?」

 リンネの言葉で、胸のつかえがとれた気がした。
 ああ、まったくもう……

「リンネは良い女だな……」

 心からそう思った。

「そんなの当然じゃない。私は最高ランクの冒険者リンネ・グラヴァールなのよ?」 
「ははははっ。そうだな」

 不敵に笑う彼女につられて、俺も笑う。
 それから、リンネが急に真顔になって問いかける。

「このことを知っている人は他にいるの?」 
「いや、リンネだけだな。今話したのが初めてだから。他の人には話していない」
「ならよかった。絶対に人に言わない方がいいわ。教えてもいいことないし、むしろ厄介事に巻き込まれるわ。特に若返られるなんて話が広まったら、狙われる可能性があるかも……」

 俺が持っている力は、明らかにこの世界とは逸脱した圧倒的な力。それこそ国の権力者にでも知られれば、手段を選ばずに奪いに来ることもあるだろう。
 もちろんオーパーツの力で対処はできるが、巻き込まれずに済むならそれがいい。

「たしかにな。だからこそ、今まではリンネにも黙っていたんだからな。なかなか話せなくて悪かったな」

 俺の謝罪を聞いたリンネが首を横に振る。

「気にしなくていいわよ。こんなに重大な内容、おいそれと話せないないもの」

 話は終わって、リンネが再びコップに口をつける。
 話は全部聞いてもらったし、あとは実際に船も見せてあげられたらなぁ。バレッタのことも紹介したいし……
 でも、俺が船を見つけた時には、転送室はまだ使用できず、それ以来中には入っていない。まだ準備中だろうか。
 そんなことを考えていると、船を管理している高性能アンドロイドのバレッタから通信が入った。

『ケンゴ様、転送室の準備が整いました』

 なんというベストタイミング!
 それに、俺以外の誰かがいるところで通信してくるのは初めてだ。
 俺が紹介したいと言ったから、その心をんでくれたんだろうな。

「え? 誰? というか、この声どこから?」 

 リンネがどこからともなく聞こえる声に、辺りをキョロキョロと見回す。

「バレッタだ。彼女が船の管理を一手に引き受けていてな」

 その瞬間、リンネの眼光がするどくなった。

「彼女……ということは女? まさか、私がいるのに浮気してるんじゃないでしょうね?」 

 ぶんぶん、と俺は力強く首を横に振った。

「い、いや、何言ってるんだよ。そんなわけないだろ!?」

 こんな可愛くていじらしい彼女を差し置いて浮気をするなんて考えられない。
 そもそも俺にそんな度胸があるわけがない。
 だが、リンネは聞く耳を持ってくれず、室内を見渡しながら剣を抜き放った。

「その動揺どうよう、怪しいわね。出てきなさい、泥棒猫!!」

 まずい。リンネの勘違いがさらに加速している。

「ちょ、ちょっと落ち着けって。ちゃんと紹介するから、な?」 
「問答無用!! あんたもぶった斬ってあげるわ!!」

 俺が宥めようと彼女に近づくと、剣の切っ先が俺の鼻先に突きつけられる。
 これは一刻も争う事態だ。
 そう判断して、俺は通信機に向かって指示を飛ばす。

「バレッタ。俺とリンネとイナホを転送してくれ!」
『承知しました』

 次の瞬間、視界が切り替わった。


 まるで研究所のような、シンプルかつ機能的な造りの屋内が目の前に広がる。
 俺達は、台形の祭壇さいだんのような装置の上に立っていた。足下には魔法陣が描かれている。
 数カ月ぶりのアルゴノイアの内部だ。
 馴染なじみのない光景を目の前に、リンネの感情は怒りよりも戸惑とまどいがまさっているようだ。

「どこよ……ここは……」

 彼女は探るように室内を観察し始めた。

『なになに、どうしたの? あれ、ソファは?』

 突然別の場所にやってきたことに困惑こんわくしたのか、イナホも目を覚ましてキョロキョロする。
 そこに、装置の下の方から女性の声が響いた。

「おかえりなさいませ」

 全員で声の主に視線を向ける。
 視線の先では、バレッタが完璧なカーテシーで俺達を出迎えていた。
 初めて会った時同様に、一糸乱れない振る舞いを見せる。

「あっ、あんたが泥棒猫ね? 覚悟しなさい!」

 バレッタを認識した途端とたん、リンネがバレッタに飛びかかる。

「お待ちください」

 焦ることなく、リンネを止めようとするバレッタ。

戯言ざれごとなんて聞きたくないわ!」

 リンネはその言葉を聞くことなく剣を振り下ろすが……バレッタに当たることはなかった。
 彼女は最小限の動きでリンネの剣をかわしていた。
 強いとは思っていたけど、リンネの攻撃がかすりもしないなんて……やっぱり普段からバレッタさんと呼ぶべきか?
 リンネの剣をさばきながら、バレッタはそのまま言葉を続ける。

「リンネ様が考えているようなことはございません。私はケンゴ様の忠実なメイド。主人に対する敬愛はあれど、恋愛感情などあるはずもないです」
うそよ!」

 説明の間も、リンネの攻撃がバレッタを襲うが、彼女はその全てを無表情のまま軽やかに躱している。
 正直、あの中に入っていっても止められる気はしないが……仲裁するべきだろう。
 このまま続けば、リンネが疲れ果てるまで終わりそうにないし。
 俺が二人の方に向かおうとしたところで、バレッタが再度話し始める。

「本当です。ケンゴ様の《奥様》に相応しいのは、リンネ様をおいて他におりませんから」
「お、奥様!?」

 どうやらバレッタの〝奥様〟という言葉が、リンネにクリーンヒットしたらしい。
 リンネが急に狼狽うろたえだした。
 一瞬にして、彼女の怒りとそれまでの勢いが霧散むさんしていた。
 これなら、そのままバレッタに任せても大丈夫かもしれない。
 イナホが俺の肩に乗って尋ねてくる。

『どうしたの?』
「気にするな。終わるまで少し待ってような」
『分かった~』

 俺はイナホを撫でながら、二人のやり取りを見守る。
 勢いがおとろえたリンネに、バレッタがここぞとばかりに追撃を仕掛ける。

「ケンゴ様とちぎりを交わしたリンネ様であれば、奥様と呼ぶに相応しいかと」
「そ、そうかしら?」 

 リンネは、満更でもなさそうな表情で髪の毛を指でいじり始めた。

「とてもお似合いですよ。お二人の船内でのお世話の許可を、ぜひ私めにさせていただければと」
「そ、そこまで言うなら仕方ないわね。許すわ」

 バレッタの言葉にのせられて、リンネはあっさり陥落かんらくしてしまった。
 ちょろすぎて心配になったが……そのおかげで命拾いしたようなものなので、余計なことは言うまい。

「ありがとうございます」
「えぇ、よろしくね」

 さっきまで不機嫌だったのが嘘のように、リンネはにこやかにバレッタの言葉に応じた。
 バレッタの手に掛かれば、SSSランク冒険者も手のひらの上ということか。
 和解が終わったところで、バレッタが美しい所作しょさで改めて挨拶あいさつする。

「それでは改めまして、パーフェクトメイドのバレッタと申します。この船の全てを管理し、その所有者のお世話をしております。以後《末永く》よろしくお願いいたします」

 バレッタの言葉を聞いて、背筋にゾクッと寒気が走る。
 淡々とした挨拶の中で、後半がやけに強調されていたように感じた。
 気のせいだと思っておこう。
 バレッタの自己紹介を聞いたイナホが、俺の肩の上で片足を上げた。

『僕はイナホ。よろしく』
「イナホちゃんもよろしくお願いします」

 可愛らしいイナホの動きを見て、バレッタがにっこりと笑いかける。
 言葉は通じずとも、なんとなくイナホの意図を察したのだろう。
 イナホはペットと思われているからか、様付けじゃないようだ。
 バレッタが俺達を船の奥へ案内しようとする。

「それでは食堂に参りましょう。準備が整っております」

 俺は、その言葉に首をひねった。

「準備?」 

 はて、何か頼んだっけ?

「はい。リンネ様とイナホちゃんの歓迎会の準備をして、お待ちしておりました」

 俺にだけ聞こえるくらいの音量で、バレッタがそう教えてくれた。

「なるほどな。そういうことか。それはぜひやらないとな」

 口ではそう返すが、俺の頭の中ではさらなる疑問が浮かんでいた。
 ついさっき紹介しようと思ったところなのに、いつの間に用意したんだろう。バレッタは未来まで見通せるのか?
 まぁ、変に詮索せんさくしてもいい答えは得られそうにないし、気にしない方がよさそうだな。
 深く考えるのをやめてバレッタに続こうとした俺の横で、リンネは立ち止まっていた。
 というより、心ここにあらずの状態で、恍惚こうこつの表情を浮かべて体をくねらせている。

「うふふ~、ケンゴの奥さん~」

 頬に手を当ててそう呟くリンネの手を引いて、俺は食堂へ歩き出した。
 そこは、まるで高級旅館の宴会場のような内装へと様変わりしていた。奥の壁には『リンネ様 イナホちゃん ようこそアルゴノイアへ』と大きく書かれた横断幕のような物が飾られている。

「ここまで室内を変えられるなんて凄いな」
「恐縮です。ですがメイドなら、このくらいの用意はできて当たり前かと」
「いやぁ、それはどうかなぁ……あははは……」

 バレッタの物言いに俺は困惑した。
 メイド全員がバレッタのレベルだったら、メイドだけで簡単に世界征服ができそうだ。

「世界征服……しますか?」

 またしても俺の考えがバレッタに読まれていた。 
 そのくらい余裕でできますよ、と言わんばかりの態度でバレッタが首を傾げて俺を見ている。

「いやいや! そんなことはしなくていいから」
「承知しました」

 バレッタが礼をしてあっさりと引き下がる。
 やれと言ったらあっという間に征服しそうで怖いな。今後そういうことを思い浮かべるのは自重しよう。

「それでは、こちらで靴を脱いで、あちらの席にご着席ください。イナホちゃんはテーブルの上に乗って待っていてくださいね」

 バレッタは、それから俺達に席の場所を示した後、食堂の奥に消えた。

「分かった」
『はーい』

 俺とイナホは、彼女の言葉に返事して席へ向かった。
 未だに夢見心地のリンネを椅子に座らせてから、俺も席に着く。
 イナホは俺の肩から飛び降りて、テーブルの上に座った。

「お待たせしました」

 バレッタは、ホテルのルームサービスで使いそうなカートに料理を載せて戻ってきた。
 皿にはクローシュが載せられていて、中身は見えない。
 一体どんな料理が用意されているのだろうか。
 そのままバレッタがテーブルの上に料理を並べていく。
 明らかにカートに載せていた以上の品数だった気もするが、それも特殊な収納技術が施されているのだろうと、自分を納得させた。
 この船で起きることにツッコんでいたら、キリがない。
 俺とリンネのグラスにワインを注ぎ、バレッタが皆の前に立って抑揚よくようのない声で音頭おんどを取る。

「それでは、リンネ様とイナホちゃんの歓迎会を開催いたします。皆様、グラスをお持ちください。かんぱーい」

 俺はバレッタの言葉に合わせてグラスを持ち上げた。イナホも前足を上げてこの流れに乗る。

「『かんぱーい』」

 そしてこのタイミングで、リンネが我に返った。
 彼女は自分が置かれている状況が理解できず、頭の上に疑問符を浮かべている。

「え? は? なにこれ」
「まぁ、気にするなって。とにかく乾杯しよう」
「え、あ、はい。乾杯」

 ――チンッ
 そんなリンネに向かって俺がグラスを近づけると、戸惑いながらも彼女は自分のグラスを軽く当てた。
 二人でワインに口を付ける。
 美味おいしい。アルクィメスの高級宿と比べても、このワインの方が芳醇ほうじゅんな香りがするし、味わい深い。この世界で売ったら、とんでもなく高額になりそうだ。

「それでは、私が腕によりをかけた料理をご堪能くださいませ」

 乾杯を終えると、バレッタがお辞儀じぎをして食堂の奥にフェードアウトしていった。
 同時に、料理に被せられていた銀色のふたがまるでポルターガイストのように勝手にキッチンの奥に飛んでいき、料理が姿を現す。

「これは!?」

 料理の数々を見て、俺は声を上げた。
 並べられていたのは、唐揚げに餃子ギョーザ、ハンバーグ、卵焼き、刺身、焼き魚など、日本で馴染みのあった料理。しかも、どれもこれも食べたいと思っていた物ばかりだ。
 バレッタの料理の腕は、初めてこの船に乗った時に食べた焼き鮭定食で一流だと知っている。
 思い出すだけで、勝手に口の中によだれが溢れてきた。

「ラーメン、チャーハン、炊き込みご飯などもご用意しておりますので、食べたい時はおっしゃってください」

 ここに並んでいない料理名が出た瞬間、俺は思わず手を挙げてさけんだ。

「うぉおおおおおおっ! チャーハンをくれ!」
「承知しました」

 地球の料理はどれも好きだが、その中でもチャーハンは大好物。
 どのくらい好きかと言われれば、毎日三食チャーハンでも良いと答えるだろう。
 俺の反応にリンネとイナホが目を丸くする。

「『……』」
「あぁ~、いや、一人で盛り上がってすまんな。ここに出されているのは俺の世界の料理なんだ。ぜひ、リンネ達にも食べてほしい。リンネとイナホはどんな料理が好きなんだ?」 
「そうねぇ……私は魚料理が好きかしら……」
『料理のことは分からないけど、僕はお肉!』

 頭を掻きながら俺が話題を振ると、二人がそう答えた。

「それなら、このさば味噌煮みそにはお勧めだぞ?」 
「そう? ケンゴが言うなら食べてみようかしら」

 俺は、目の前のテーブルからリンネに鯖の味噌煮を取り分けた。
 これも、焼き鮭定食の鮭の時と同じく、魚自体は違うものなのかもしれないが、見た目や香りは完全に再現されていた。おそらく味も。
 リンネは、俺が差し出した皿を受け取って自分の前に置いた後、用意されていたフォークとナイフで器用に切って口に運んだ。

「!?」

 口に入れた途端、彼女の目が見開かれる。
 こちらを向くリンネに、俺は自慢げに問いかけた。

美味うまいだろう?」 
「ええ。なにこれ、こんなにおいしい魚は初めて食べたわ」

 リンネは顔を上げて、呆然としながら応える。
 味噌や醤油しょうゆは海外だと人によって好みが分かれると聞いたことはあるが、異世界人の彼女の口には合ったらしい。
 日本食に感激してくれるリンネを見て、俺は嬉しい気持ちになった。

「ならよかった。でも、それで驚いていたら他の料理を食べたら、もっと衝撃を受けるぞ?」 
「ホントに?」 
「ああ。この刺身なんかも絶品だ」

 俺が刺身を指さして言うと、リンネがはしを止めた。

「え……この魚って生じゃないの?」 
「そうだよ」
「えぇ……」

 彼女が露骨ろこつに嫌そうな顔になる。
 あぁ、そういえばこういう世界って生で魚や卵を食べる習慣がないって、どこかで見たことあったな。この世界も同じなのかな?
 とはいえ、それが理由で食べないのはもったいないというのが、俺の考え。こういう時はもうひと押ししよう。

「そんな顔するなって。こっちでは生食の文化はないのかもしれないけど、俺のいた国では普通に食べられていたんだ。それとも何か? SSSランクの冒険者ともあろうお方が、刺身を怖がっているのか?」
「な、何よ!? 生の魚なんて怖くないわ。寄越しなさい!」

 思惑おもわく通り、リンネが俺の挑発に乗った。
 売り言葉に買い言葉で、彼女は皿に盛られた刺身を受け取る。

「あっ。その緑色の薬味をほんの少しのせて、黒いタレをつけて食べると凄く美味しいぞ。黒いタレはくせがあるから、もしかしたらリンネの口には合わないかもしれないけどな」
「わ、分かったわ……」

 俺の説明を聞きながら、リンネはマグロの赤身にワサビを少し乗せて、小皿の醤油に付けた。
 そして自分の前に持ってくると、意を決した様子で目をつぶって口に入れた。
 次の瞬間、彼女は再び目を見開いて、俺の方に視線を向けた。

「この緑色の薬味が辛くて鼻にツーンと来るけど、魚の生臭さを消しているのね。それにこの黒いタレの塩味が魚によく合っていて、いくらでも食べられそうよ」

 首をブンブンと縦に振ってから、リンネは頬を緩ませて刺身を絶賛する。

「気に入ってくれたみたいでよかった! 他の料理も美味しいから食べてみてくれ」
「分かったわ!」

 俺は続いて、うずうずした様子のイナホの方に向き直った。
 これまでリンネへの説明につきっきりで、ほったらかしになってしまったからな。

「待たせてごめんな。肉が好きなイナホにはこれがおすすめだ」

 俺は豚の角煮を皿に取り分けて、イナホの前に置いた。

「これは、ボアみたいな種類の肉をじっくり煮込んだ料理だ。美味しいぞ」

 以前屋台で肉を買った時に、店主がビックボアを豚肉と言っていたことがあったし、間違っていないだろう。

『わーい。食べていいの?』
「もちろんだ」
『いただきまーす!』

 説明を聞いたイナホは、俺に確認してから豚の角煮に顔を突っ込んだ。

『こ、これは……!』

 一瞬、フレーメン反応を起こしたように、イナホは顔を上げて動きを止めた。
 だが、再び頭を突っ込むと、角煮は凄い勢いで減っていった。

『おかわり~』

 あっという間にたいらげてしまい、俺に頭で皿を押し出しながら、追加分をねだってきた。

「しょうがないな~」

 俺はその可愛らしさに負けて、最初よりもかなり大盛りになった角煮の皿を目の前に出す。

『やったー!』

 イナホはわき目もふらず、その山に食らいついた。
 横で大量の角煮を食べ進めるイナホをながめていたら――

「ケンゴ様、お待たせしました」

 バレッタが戻ってきて、俺の前にチャーハンを置いた。

「おおぉおおおおおおおおっ!」

 しかもそのチャーハンは、俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、山盛りだった。
 日本の店で自分が食べていた量の三倍はありそうだ。
 半球のフォルムに整っていて、チャーシューと醤油ダレ、そしてネギが焦げた香ばしい香りが俺の鼻孔びこうをくすぐる。


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