輪廻の紡ぐ先

徒花幸介

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とりま始まり

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「なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんですか!?」


強い日差しがさすある夏の日
俺はいつも通りの日々を過ごしていた
いつも通り俺に対する社員の痛い叫び。目の前の彼は俺に対して今まで対応してきた者たちと同じように俺を非難してくる。

「そうだな。君の発言はもっともだ。ただしそれは何もしていない普通の、健全な社員が言っているのならば認められる発言なのだよ。」
俺からしてみれば彼の発言の方が理解できない。それに彼が私のこの発言を聞いて下唇を噛んで睨んできているのもわからない。なぜなら
「君はわが社の情報を垂れ流していたのだよ?しかもわが社が競合している他社にだ。私が社長ならば君を懲戒解雇にして、この情報を多くの会社に知らしめたいほどさ。」

「しかし!自分はこれまでこの会社に尽くし続けてきたんです!であれば多少の恩赦をいただいても「それが自主退職勧告だというのがなぜわからない?」ッ!」
全く、これだから追い詰められた馬鹿者は嫌いなんだ。すぐに尽くしてきたなんて言う感情論を振りかざしてくる。そんなことを言ったところで君の立場が悪くなるだけというのがなぜわからない?

「これから先、私たちは君の就職を邪魔するなど汚い真似はしない。この会社における君の未来はつぶさせてもらうが、それ以外をつぶす理由を私たちは持ち得ていないのでね。」
まぁ君のことを社長が気に入っていたからなどとは死んでも言わんがね。
「これは社長含め我々HW社から送る君への最大の恩赦だ。これ以上私に対して反論することはあるかね?」

「ありません...今までありがとう...ございました...」
おとなしく帰ってくれたのは助かるな。ここで激昂されて襲われでもしたらどうしようかと思っていたところだったが...
さて、いやな仕事も終えたところでいつもの業務に戻るとしよう。本当に人事部というのは嫌なところだ。人の人生を簡単に殺せる可能性があるんだからな。






ーーそこから時間が経ち数時間後
ふう、とりあえずこれで終わりか。時間も定時1時間オーバーか。昼のあれがあったうえでこれなのだからだいぶうまくやった方だろう。自分への褒美にいい酒でも買って家でつまみでも作りながらゆっくり飲むか。
「それでは皆様、お先に失礼いたします。」
「「「おつかれさまでーす」」」
あいかわらずうちの部署は残業してるやつが多いな。よくあるブラック企業と違って帰るのを止められないのにも関わらず仕事をしてるってなると相当遅いか仕事が好きかの2択になってくると思うんだが...
確か駅前に外国のマニアックな酒を売ってる店があるはずだ。今日はそこに行ってみるとするか

行ってみると駅はかなり混んでいるようで、俺が行こうとしていた酒の店もかなりにぎわっていた。
そんな中俺はこっそりと買い物を終わらせ、人が込み合う駅構内に入っていく。
電車が少しづつ近づいてきて、いざ自分の前に電車が来る。その瞬間だった。



俺は背中を押され、線路の上を舞っていた。
自分の周りの時間。そのすべてがゆっくり、鮮明に見える。駅構内の人たちの俺を轢くであろう電車の運転手の驚いた顔。そして俺が今日昼に退職を言い渡した彼の幸福と達成感と恐怖にまみれた顔が
意外にも俺は自分が死ぬ瞬間に後悔の念はわかなかった。自分自身の走馬灯を見る。そんなことすら俺は感じなかった。
工藤大海32歳。俺の人生は意外にもあっさりと終わった。








side:????????
「さて地球の民よ。君の魂はこれより輪廻を渡る。君が渡る理由はただ一つ。偶然じゃ。儂がそれをやろうと思ったとき、たまたまそこにあった魂。それが君だった。ただそれだけじゃ」
世界すらわたる〇の奇跡。その力の行使は美しい光を伴いそれを奇跡から当たり前の事象として紡がれていく。
狂気をはらんだその神々しい奇跡ひかりが少しづつ別の世界に組み込まれていった。

「ふむ。なに安心しろい。お前さんは実験体第一号じゃからな。今世の記憶はもちろん消すし、儂からも何かしらの祝福を渡そう。何もなければただの人間じゃからな...ん?なんじゃこの糸の紡ぎ方は!?これでは儂の祝福が逆になってしまう!だれじゃこんなくだらん行いをしたのは!?」
怒り狂う〇の前に一つの薄紫の光が落ちる。それは次第に人のような形となり〇の前に立つ

「やぁやぁ老人殿。久しぶりだね?私のこと覚えているかな?」

「貴様か!××××××!下らん真似をしおって、ただで済むとは思ってはおらぬだろう!」

「当り前じゃないか。しかしだね。私としても多少賭けではあったが、最高のタイミングで仕掛けられたことをとても幸運に思うよ。君がもう関与できないタイミングで干渉できたことはね!」
彼は高らかに笑う。自分の行いをほめて褒めてといわんばかりの態度で。

「この馬鹿者が!儂の実験の邪魔をするでない!貴様の下らん遊びに付き合っている暇はないのじゃ!」
〇は手を怒りで震わせながら光に襲い掛かろうとする。

「僕は遊ぶことが至上の命題だと思っているからねぇ。さてここでお暇させてもらうよ。すこしダメージが大きい」
しかし薄紫の光はそれを嘲笑うように嫌な笑みを浮かべ去っていく。

彼らの思惑が交錯する中、一人の男の命運は不運にも別の輪廻へと組み込まれていく。
彼の果ては〇も××××××も本人にすらわからない。


この日彼は地球の輪廻を外れることとなった。これは二度と地球の生物に生まれ変わることができないことを意味することを被害者である彼が知る機会が訪れるかどうかすら誰にわからない。

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