輪廻の紡ぐ先

徒花幸介

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とりま始まり

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死んだ


死んだ死んだ


死んだ死んだ死んだ


死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ






痛みが体を走る。心臓が悲鳴を上げる。体中の血管が異常をきたしている。息ができない。視界がかすむ。意識が飛ぶ。

その瞬間世界が灰色に染まる。
先ほど見た世界。俺がそう認識するよりも先にその世界に異常が起きる。

黄金に輝く糸が俺の後ろから大量に世界に流れ込む。
灰色の世界に糸が満ちたのち、俺の心臓から一本の黄金の糸が伸びる。
しかし、その糸はその先で途切れている。

『これより、〈管理者権限〉【輪廻の紡ぎ手】を起動します』
『使用者認識 個体識別名:タルロット(=----) 完了』
『発動条件 完了』
『特殊シークエンス -------- 完了』
『設定完了』

『個体名:タルロット 望む未来を選択しなさい』
世界にそぐわぬ機械による電子音によって奏でられるその声?は不快感を感じさせるものであり、それと同時に安らぎを与えるものであった。
そしてそれと同時に俺の前に与えられたのは5本の糸だった。
見た目に差異はなく、その先は光の束のようになっていてよくわからない。
どれを選べばいいかなんてわからないし、結局俺が生き延びれるのかなんてわからない。

けど、やるしかない。俺に残されたのはこの意味わからないスキルだけだから。
あぁやってやるよ...!くそったれ...!

身体が瀕死?知ったことか。手を動かせ、手を伸ばせ、未来を…紡げ!
震えて、うまく動かない腕を上げて真ん中の糸を掴み、手繰り寄せる。


『選択受領。これより、世界を再接続いたします』
『選択により世界を最適化します』
掴んだ糸は俺の手を離れ、俺の心臓から伸びる糸に結びついていく。心臓が繋ぎ止められ、体に活力が戻っていく。刺さった剣は光となり消えていく。俺の胸にあった剣の穴は丸で何もなかったように埋まっている。

『〈管理者権限〉使用によるペナルティを与えます』
『code:343 Bad』
『ペナルティが与えられる時間は86400秒です』
その言葉共に俺の脚に黒い痣が刻まれていく。
だからどうした。この程度で俺を止めれると思うなよ...

世界が流転していく。灰色の世界は次第に崩壊していく。糸に引きずられるように俺の体は前に進む。






『〈管理者権限〉起動に伴うプロテクト解除を行います』
『システム内能力【聖護の目プロテクト・リンク】【魂の繋ぎ手リィンカネーション】【豁サ繧定カ?∴繧】の解除を申請します』
『【輪廻の目】【魂の繋ぎ手】の了承を確認』
『上記システムのインストールを開始いたします』
『.........』
『.........』
『.........』
『.........』
『インストール完了』










_____________________________________

灰色の世界が終わり、次に目を開けたとき...俺は


「てめぇ、自分が何をしたかわかってんだろうな?」
怒鳴り散らすチンピラの前に立っていた。

(最悪だ。よりにもよってここかよ。路地裏に入る前なら関わらずに済んだ。話しかけたとしても、話しかけた後に口八丁手八丁でどうにかゴマせるかもしれなかった。
ってのに...ケンカを売った後かよ...
この後の流れは分かってる。俺は今、目の前にいる奴に殺される。腰にぶら下がっている剣を抜かれ、心臓を貫かれて死ぬ。
俺の手札はない。油もさっき使い切った。ただ、一番初めに殴られるのは分かってる。殴られて、吹っ飛ばされて、意識が飛びかけの状況まで持ってかれる。)


「黙ってねぇでよォ?さっさと話せよ!クソガキがぁ!!!!」
(思考を巡らせていると、チンピラは拳をふるってくる。あの時と同じ俺の脳を揺さぶったあの拳が...!
そいつは二度目だ。おとなしく喰らうわけねぇぞ。)

タルロットは全身を使って回避行動に移る。最悪に備え、頭を守るように腕をかぶせる。そして体を転ばせるように倒し、ギリギリで回避を行う。

「避けるのはうめぇんだな!でもよぉ?転んだらそこで終わりだろうがよォ!」
(チンピラは俺を見下す。次に何が来る?ここから先は知らねぇぞ?)
『保持者の危機を確認。【聖護の目】起動します』
危機におびえ、思考もパニックに染まる。そんな彼を落ち着かせる機械の声が彼の頭に響き渡る。

(【聖護の目】?なんだそれ?知らな...)
困惑、突然の状況に焦る彼を無視して能力の発動は続く。世界は再度灰色に染まり、彼の目の前に存在するチンピラはまるでパノラマのように蹴りのモーションを行い、彼の体からは蹴り飛ばした後の姿がパノラマのように飛び出している。

(これは未来か?蹴っ飛ばされる俺の?だったら、全力で回避をとるだけだろ!)
脚を曲げて地面を蹴って、蹴りの範囲から逃れようとする。その瞬間灰色の世界が終わる。
腹をとらえると思われていた蹴りは足に掠る程度でおわり、避けようとした体は掠った勢いで軽く転がる。

「なんだてめぇ?さっきから俺の攻撃をよけやがって!たまたまとはいえやりすぎなんだよ!」
チンピラは怒り狂い、地団駄を踏む。

「はぁ...はぁ...まだ死んでたまるかよ...」
汗をぬぐい、息を整え眼前の敵をにらむ。

「そうかよ。だったら、お前の期待通り殺してやるよ」
「てめぇら!こいつは俺が殺す!テメェらはとっとと逃げた餓鬼どもを追え!」

「「「「あいさ!!!!」」」」
リーダーの声に反応し、部下たちはさっきの子供たちが逃げていった方へ走り出す。

「おめぇを十分にいたぶった後に、あの餓鬼どもをおめぇの前で殺してやるよ!」
チンピラは邪悪な笑みを浮かべて、剣を抜く。そして一歩、また一歩とタルロットに迫る。

「かかってこいやぁ!」
彼は立ち上がって、あえて煽る。
(お前が一番あぶねぇんだよ...だから俺は今ここで全力で時間を稼ぐ!)

剣が振るわれ、斬られた未来を確認し、それを避ける。
こぶしが振るわれ。殴り飛ばされた未来を確認し、それを避ける。
蹴りが放たれ、それで壁にたたきつけられた未来を確認し、それを避ける。
攻撃が振るわれるたびに、命が削られた自分の姿を確認し、肝が冷える。
攻撃は完全に避けられず、掠ることも数えきれないほどあった。
体中に痣ができ、体中に切り傷を負う。

(これだけやっても、俺は逃げられない。両足にある痣のせいで足が重い。はじめは緊張からかと思ってたけど、これだけ思考がクリアになっていて重く感じるんだからこれは明らかに、【輪廻の紡ぎ手】によるペナルティだ)

「はぁはぁ、しつけぇなぁ!雑魚の分際でよぉ!俺の攻撃を!ちまちま避けてんじゃねぇぞ!!!」
怒りと疲れで次第に攻撃は単調になっていく。それでも、いくら鍛えていると言えども、12歳の子供が反撃できるほど、チンピラの攻撃は甘くない。

「だったら早くくたばってくれよ!」
息を切らしながら、体を震わせながら、命からがら攻撃を避けていく。疲れているのは彼も同様であと数センチ違えば致命傷になりうる攻撃もいくつもあった。

「うるっせぇ!ここで終わってやるほど人生諦めちゃいねぇよ!」
(何度だって避けてやる!死んだら蘇れる?ふざけんなよ。蘇るたって痛いものは痛いんだよ!心臓を刺された痛み!もう二度と忘れねぇからな!)
拙い足取りで命からがら攻撃をよける。雑な攻撃であっても当たり所が悪ければ致命傷足りうるがゆえに体力の限界を超えてなお攻撃をよけ続ける。



ただ、この終わりのないようにも思える対決は突然の終わりを迎えることになる。

「あ...」
(やばい...!足に...力が...!まずい...死ぬ!)

「これで終わりだぁ!クソガキィィィィィ!!!」
足の力が抜け、地面に倒れるタルロット。そしてそこに振り下ろされる一刀の剣。タルロットですら死んだと思うだろうその瞬間。二人の間に一筋の光が差し込まれる。

「な、なんなんだよぉぉぉぉ!!!!」
何者かの襲来によって吹き飛ばされるチンピラ。そして、倒れていたタルロットもまた吹き飛ばされる。


「やぁやぁやぁ!こんな路地裏で何をしているのかなっ☆君たちー殺し合いをするのはよくないことだってわかってるよね?わかってやってたのならー…お姉さん許さないぞ☆!」
その場に全く似つかない間抜けな声はさっきまで殺しあいをしていた二人の動きを完全に止める。
腰までの長い赤髪。170㎝あるだろうその身に神々しいまでの白い鎧を身にまとった騎士は二人の仲裁に入るように立ちふさがる。

「あんたは一体何なんだ...?」

「私?私はそうねぇ...頑張る人の味方だよ!」
怯えるタルロットの問いに彼女は笑えながらそう答えた。

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