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いらだち
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「好きって…」
「そのままの意味だよ。本宮くん、今彼女とかいないよね。だから、私と付き合って貰えないかな?」
そろそろ予鈴が鳴る時刻。昇降口を目の前にしての突然の告白。
驚きに思わず足を止めてしまったけれど、周囲には既に生徒はまばらで。このままでは遅刻してしまいそうだ。
本来なら本鈴が鳴るまでは遅刻にはならないのだが、圭は普段から予鈴が鳴るまでには教室に着いていないと落ち着かない質なので、内心では少々焦り始めていた。
それでも、こんなに遅い時刻になってしまったのは、自分がボーっと自らの意識に囚われていたのが原因なのだが。
だが、目の前の彼女は時間のことなど気にする様子も見せず、期待を込めたような瞳でこちらの返事を待っている。
でも、その気持ちに応えることは出来ないから…。
「ごめんね、磯山さん…。気持ちは嬉しいんだけど、僕には好きな人がいるんだ。だからキミとは付き合えない」
ハッキリ、きっぱり、そう返した。
曖昧な言葉で変に期待を持たせても悪いし、自分は紅葉を好きな気持ちを諦めることなんて出来ないから。
すると、彼女は顔を歪めて複雑な表情を浮かべた。
もしかしたら、断られるとは思っていなかったのかも知れない。「何で…」と声にならない呟きを口にする。
その気まずい視線と空気に耐えられなくて「ごめん…」そう言って彼女に背を向け、昇降口へと歩み始めたその時だった。
「本宮くんが好きな子って、如月さんでしょう?」
思いのほか、強い口調で思わぬ言葉が返ってきて。
再び足を止めて振り返った先には、何処か勝ち誇ったような強気な顔をした彼女が笑みを浮かべてそこにいた。
「何で…」
それを知っているのなら尚更、何故そんな笑顔を浮かべているのか。
意味が解らず圭は困惑した。彼女は笑顔のまま続ける。
「見てれば分かるよ。私、本宮くんのこと好きで入学してからずっと見てたんだもん。でも、あの子のどこがいいの?あの子は本宮くんのこと、ただの幼馴染としか思ってないんだよ?」
「………」
そんなこと、誰に言われずとも分かっていた。自分が一番紅葉を近くで見てきたのだから。
「それに、最近は三年の桐生先輩って人と仲良くて、よく話してるのを見掛けるよ。もしかしたら如月さんは、あの人のこと好きなんじゃないのかな?」
それだって知っていることだ。今さっきも、目の前で仲良さそうに話しているのを見て、自分も薄々感じていたことだった。だが…。
「確かにそうかも知れない。でも、もしそうだとしても僕には関係ないんだ。僕が彼女を好きな気持ちは何も変わらないから」
「……っ…!!」
そう。そんなに簡単に諦められるような想いではないのだから。
すると、目の前の彼女の顔が再び歪んだ。
「なんでっ?そんなに…っ…」
うつ向き、悔しげに小さく呟く声が聞こえる。
(磯山さんには悪いけど、それだけは譲れないから…)
そうして、この話は終わりだと再び足を進めようとしたその時、彼女が口にした言葉に圭は凍り付いた。
「私、如月さんの秘密…知ってるんだよ」
「…秘密?」
嫌な予感がした。
「今、巷で騒がれてる掃除屋。あれが如月さんなんだってこと」
「な、にを…っ…」
「証拠の写真だってバッチリあるんだから」
そう言って制服のポケットから取り出したスマホには。
夜を彷徨う紅葉の姿が映し出されていた。
「そのままの意味だよ。本宮くん、今彼女とかいないよね。だから、私と付き合って貰えないかな?」
そろそろ予鈴が鳴る時刻。昇降口を目の前にしての突然の告白。
驚きに思わず足を止めてしまったけれど、周囲には既に生徒はまばらで。このままでは遅刻してしまいそうだ。
本来なら本鈴が鳴るまでは遅刻にはならないのだが、圭は普段から予鈴が鳴るまでには教室に着いていないと落ち着かない質なので、内心では少々焦り始めていた。
それでも、こんなに遅い時刻になってしまったのは、自分がボーっと自らの意識に囚われていたのが原因なのだが。
だが、目の前の彼女は時間のことなど気にする様子も見せず、期待を込めたような瞳でこちらの返事を待っている。
でも、その気持ちに応えることは出来ないから…。
「ごめんね、磯山さん…。気持ちは嬉しいんだけど、僕には好きな人がいるんだ。だからキミとは付き合えない」
ハッキリ、きっぱり、そう返した。
曖昧な言葉で変に期待を持たせても悪いし、自分は紅葉を好きな気持ちを諦めることなんて出来ないから。
すると、彼女は顔を歪めて複雑な表情を浮かべた。
もしかしたら、断られるとは思っていなかったのかも知れない。「何で…」と声にならない呟きを口にする。
その気まずい視線と空気に耐えられなくて「ごめん…」そう言って彼女に背を向け、昇降口へと歩み始めたその時だった。
「本宮くんが好きな子って、如月さんでしょう?」
思いのほか、強い口調で思わぬ言葉が返ってきて。
再び足を止めて振り返った先には、何処か勝ち誇ったような強気な顔をした彼女が笑みを浮かべてそこにいた。
「何で…」
それを知っているのなら尚更、何故そんな笑顔を浮かべているのか。
意味が解らず圭は困惑した。彼女は笑顔のまま続ける。
「見てれば分かるよ。私、本宮くんのこと好きで入学してからずっと見てたんだもん。でも、あの子のどこがいいの?あの子は本宮くんのこと、ただの幼馴染としか思ってないんだよ?」
「………」
そんなこと、誰に言われずとも分かっていた。自分が一番紅葉を近くで見てきたのだから。
「それに、最近は三年の桐生先輩って人と仲良くて、よく話してるのを見掛けるよ。もしかしたら如月さんは、あの人のこと好きなんじゃないのかな?」
それだって知っていることだ。今さっきも、目の前で仲良さそうに話しているのを見て、自分も薄々感じていたことだった。だが…。
「確かにそうかも知れない。でも、もしそうだとしても僕には関係ないんだ。僕が彼女を好きな気持ちは何も変わらないから」
「……っ…!!」
そう。そんなに簡単に諦められるような想いではないのだから。
すると、目の前の彼女の顔が再び歪んだ。
「なんでっ?そんなに…っ…」
うつ向き、悔しげに小さく呟く声が聞こえる。
(磯山さんには悪いけど、それだけは譲れないから…)
そうして、この話は終わりだと再び足を進めようとしたその時、彼女が口にした言葉に圭は凍り付いた。
「私、如月さんの秘密…知ってるんだよ」
「…秘密?」
嫌な予感がした。
「今、巷で騒がれてる掃除屋。あれが如月さんなんだってこと」
「な、にを…っ…」
「証拠の写真だってバッチリあるんだから」
そう言って制服のポケットから取り出したスマホには。
夜を彷徨う紅葉の姿が映し出されていた。
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