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いらだち
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一方、その頃…。
圭は学校からわりと近い場所にあるファストフード店で、飲み物を手に香帆と小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。周囲には同じように近隣の学校に通う高校生たちが多くの席を埋め尽くしており、放課後特有の賑わいを見せていた。
ちなみに、この店は圭の自宅とは少し違う方向に位置しているのだが、彼女の強い要望により遠回りをしながら寄り道をしている状態だったりする。
香帆は学校を出る前から、ずっと上機嫌だった。いや、正確に言うと今朝の『あの時から』だが。
「私、放課後こうやってデートするの夢だったんだー」
そう言って、今も満足げに透明カップに入ったアイスティーの中身をくるくると混ぜている。
「本宮くんは、こういうお店ってよく来たりするの?」
笑顔でそんなことを聞かれ、圭はどう反応していいか迷いつつも律義に答えた。
「う…ん、来ないことはないけど、放課後にこうやって寄り道することは殆どない、かな」
「そうなんだー?」
香帆は、朝のやり取りなど何もなかったかのように穏やかに笑っている。他から見れば、普通のカップルに見えてしまうのかも知れない。
だが、圭の心中は穏やかではなかった。表立って不機嫌さを露にはしていないものの、彼女に言いたいことは山程ある。
それでも元来攻撃的ではない圭は、穏やかに本題へと切り込んだ。
「磯山さん、今朝の話なんだけど…。本当にこんなことが条件なの?」
すると、香帆はクスッ…と小さく笑った。
「そうよ。ちゃんと言うことを聞いてくれたら、あの写真のことは誰にも言わないでいてあげる」
「取引…ってこと、だよね?」
「そうね。そういうことになるかな」
彼女は平然と言ってのけた。
『紅葉の秘密をバラされたくなかったら自分の言うことを聞け』
それが彼女の言い分であり、条件だ。
にっこりと微笑んでいるその姿は、普通ならば可愛らしい女の子のそれなのだろうけど、今の圭にとっては邪悪な食わせ者の笑みにしか見えなかった。
「でも、如月さんの素顔があんな風だったなんてちょっと意外。学校では真面目そうなふりしてるくせにね。人は見かけによらないんだぁ」
「………」
確かに彼女が撮っていた写真の中の紅葉は、紅葉本来の姿であって素顔そのものだ。学校での紅葉しか知らない者にとっては似ても似つかない姿なのだろう。
(だからと言って、別に真面目ぶってる訳じゃない)
彼女の言い回しに密かな棘を感じて圭は胸がもやもやした。
別に紅葉は、学校で優等生を演じる為にあんな格好をしている訳ではないのだ。あの姿は昔、夢遊病で夜出歩く紅葉の正体をどうにか誤魔化す為に二人で考えた対策の一つだった。
『どう?圭ちゃん。似合うかな?』
伊達眼鏡を初めて掛けた時、自分に見せてくれた紅葉の少し照れた笑顔を今でも覚えている。
(僕は…。紅葉が笑っていてくれるなら何だっていい)
そんな紅葉への想いに圭がふけっている間も、香帆は一人喋り続けている。
「そう言えば、噂では例の掃除屋さんの件で今度は地元のヤクザが動き出してるんだってね。如月さん、どうなっちゃうんだろ?ちょっと興味津々ー」
意味深に笑う彼女の言葉に、圭は驚きを隠せなかった。
圭は学校からわりと近い場所にあるファストフード店で、飲み物を手に香帆と小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。周囲には同じように近隣の学校に通う高校生たちが多くの席を埋め尽くしており、放課後特有の賑わいを見せていた。
ちなみに、この店は圭の自宅とは少し違う方向に位置しているのだが、彼女の強い要望により遠回りをしながら寄り道をしている状態だったりする。
香帆は学校を出る前から、ずっと上機嫌だった。いや、正確に言うと今朝の『あの時から』だが。
「私、放課後こうやってデートするの夢だったんだー」
そう言って、今も満足げに透明カップに入ったアイスティーの中身をくるくると混ぜている。
「本宮くんは、こういうお店ってよく来たりするの?」
笑顔でそんなことを聞かれ、圭はどう反応していいか迷いつつも律義に答えた。
「う…ん、来ないことはないけど、放課後にこうやって寄り道することは殆どない、かな」
「そうなんだー?」
香帆は、朝のやり取りなど何もなかったかのように穏やかに笑っている。他から見れば、普通のカップルに見えてしまうのかも知れない。
だが、圭の心中は穏やかではなかった。表立って不機嫌さを露にはしていないものの、彼女に言いたいことは山程ある。
それでも元来攻撃的ではない圭は、穏やかに本題へと切り込んだ。
「磯山さん、今朝の話なんだけど…。本当にこんなことが条件なの?」
すると、香帆はクスッ…と小さく笑った。
「そうよ。ちゃんと言うことを聞いてくれたら、あの写真のことは誰にも言わないでいてあげる」
「取引…ってこと、だよね?」
「そうね。そういうことになるかな」
彼女は平然と言ってのけた。
『紅葉の秘密をバラされたくなかったら自分の言うことを聞け』
それが彼女の言い分であり、条件だ。
にっこりと微笑んでいるその姿は、普通ならば可愛らしい女の子のそれなのだろうけど、今の圭にとっては邪悪な食わせ者の笑みにしか見えなかった。
「でも、如月さんの素顔があんな風だったなんてちょっと意外。学校では真面目そうなふりしてるくせにね。人は見かけによらないんだぁ」
「………」
確かに彼女が撮っていた写真の中の紅葉は、紅葉本来の姿であって素顔そのものだ。学校での紅葉しか知らない者にとっては似ても似つかない姿なのだろう。
(だからと言って、別に真面目ぶってる訳じゃない)
彼女の言い回しに密かな棘を感じて圭は胸がもやもやした。
別に紅葉は、学校で優等生を演じる為にあんな格好をしている訳ではないのだ。あの姿は昔、夢遊病で夜出歩く紅葉の正体をどうにか誤魔化す為に二人で考えた対策の一つだった。
『どう?圭ちゃん。似合うかな?』
伊達眼鏡を初めて掛けた時、自分に見せてくれた紅葉の少し照れた笑顔を今でも覚えている。
(僕は…。紅葉が笑っていてくれるなら何だっていい)
そんな紅葉への想いに圭がふけっている間も、香帆は一人喋り続けている。
「そう言えば、噂では例の掃除屋さんの件で今度は地元のヤクザが動き出してるんだってね。如月さん、どうなっちゃうんだろ?ちょっと興味津々ー」
意味深に笑う彼女の言葉に、圭は驚きを隠せなかった。
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