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興味という名の品定め
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「なぁ、月岡ってどいつ?」
「え?月岡?月岡なら、えーっと…ほら、あの窓側の一番後ろの席に座ってるコだよ」
友人が指差す方向に目をやれば、そこには独り静かに本を読んでいる女がいた。窓から流れ込む緩やかな風に長い髪をサラサラとなびかせ、手元の文字列へと視線を落とす横顔は、どこか騒がしい周囲とは切り離された別の空間にいるかのような雰囲気を醸し出している。
不覚にも思わず目を奪われかけて、咄嗟に何気ない風を装い周囲へと視線を流した。
「……ふぅん…」
「なに?何か用事?オレが呼んで来てやろっか?」
辰臣さんが言っていた例の女が隣のクラスにいることが分かって、少しの興味で通り際その教室を覗いただけだった。だが、何しろ顔も知らない人物だ。当然、分かる筈もなく…。そのまま通り過ぎようとしたその時、偶然にも教室から顔見知りの友人が出て来た為、挨拶がてら聞いてみたのだけど。
にこにこ…というよりはニヤニヤといった笑顔を浮かべて興味津々に聞いてくる友人に思わず引いた。変な誤解を受けたくはなかった。
「いや…。友人の知り合いらしくてな。ちょっと聞いてみただけだ」
あくまでも特別興味はないといった様子で返すと、友人は今度は分かり易い程に肩を落とした。
「なんだよ、どうした?」
「『なんだよ』はこっちのセリフだってーの。せっかく、彼女に声を掛けれるチャンスだと思ったのにーっ」
「はぁ?」
「オレ、まだ彼女と話したことないんだよ。せっかく同じクラスなんだし話してみたいんだけど、なかなかキッカケがなくてさー」
(えっ…?そっち?)
「何?案外とっつきにくい奴だったりするワケ?」
少しだけ声を落として聞いてみれば、「そんなワケないだろっ!」と妙に意気込んだ返事が返ってきて正直戸惑う。続けて諭すように友人は語り出した。
「彼女ってどこか独特な雰囲気持ってるだろ?何となく声掛けづらいっていうかさ…。不思議な雰囲気まとってるっていうの?そこへ、あんま変なこと話し掛けらんねぇじゃん」
「あー…」
『変なこと』がどういう類のことをいうのかは分からないが、そういう人物こそ『とっつきにくい奴』と言うのではないのだろうか?そんな疑問を浮かべながらも颯太は黙っておいた。そうしてその友人とはその場で別れ、自分の教室へと戻っていく。
とりあえず、顔は覚えた。
(そして、やっぱり変わり者っぽい…と)
颯太の中では、そう認識されたのだった。
(…何だろう。さっきから尾行られてる気がする…)
学校からの帰り道。咲夜は前を向いて歩きながら、先程から一定距離を保つように後方を付いてくる人物の気配を探っていた。
普通に人々が行き交う公道だ。誰が歩いていてもおかしくはない。当然、たまたま方向が同じだけということもあるだろう。だが、学校を出た辺りからずっと…というと、どうだろう。それも、ずっと同じ距離を保って…となると。
(それに、なんか…。視線を感じるような…)
心の囁きは聞こえて来ない。でも、何かしらの意思を感じる気がするのだ。
ただ、まだ学校からの道のりとしては然程複雑でもない。これが住宅街に入ってからも続くとなると、ちょっと。結構、怖いけれど。
実は、以前にも似たようなことはあった。その時は、後ろから尾行て来ていたのは同じ中学校の男子生徒で。暫く歩いた後呼び止められ、いわゆる告白というやつをされたのだ。だが、その時は後ろからついて来られた時点で、その人物の緊張やその他諸々の呟き(欲望やら妄想の類)がダイレクトに聞こえてきてしまい…。呼び止められた頃には、既にドン引きしてしまっていたのだけど。それだけが理由という訳でもないのだが、当然のことながら丁寧にお断りをして終わったのを覚えている。
だが、今回は流石にそういう雰囲気でもなさそうだった。
(変な『悪意』みたいなものも特に感じないけど…)
それが逆に気持ち悪い気もした。普通、何かしら『声』は外へ漏れ出るものだからだ。相手に気付かれないようにだとか、こっそり行動したりするような時は特に。でも、後方を歩く人物からは、それが聞こえて来ない。
(どうしようかな…)
さりげなく撒こうか。そんなことを考えていた時だった。不意に目前の道路上に光る何かが落ちていることに気付く。
咲夜は数歩進んで足を止めると、それを拾い上げた。それは小さなキーホルダーの付いた鍵だった。形状からして自転車の鍵であることが分かる。
それを手にしながら、咲夜は立ち止まったまま周囲を見渡した。そこは、いつもの川の土手上の道で。車こそ来ないものの、この時間帯は自転車や歩行者の往来はそれなりに多い。それに加え、自然や広場の多いこの辺りには小学生たちが所々で遊んでいるのも見掛ける。
(この辺りで遊んでる子が落としたのかな?)
「え?月岡?月岡なら、えーっと…ほら、あの窓側の一番後ろの席に座ってるコだよ」
友人が指差す方向に目をやれば、そこには独り静かに本を読んでいる女がいた。窓から流れ込む緩やかな風に長い髪をサラサラとなびかせ、手元の文字列へと視線を落とす横顔は、どこか騒がしい周囲とは切り離された別の空間にいるかのような雰囲気を醸し出している。
不覚にも思わず目を奪われかけて、咄嗟に何気ない風を装い周囲へと視線を流した。
「……ふぅん…」
「なに?何か用事?オレが呼んで来てやろっか?」
辰臣さんが言っていた例の女が隣のクラスにいることが分かって、少しの興味で通り際その教室を覗いただけだった。だが、何しろ顔も知らない人物だ。当然、分かる筈もなく…。そのまま通り過ぎようとしたその時、偶然にも教室から顔見知りの友人が出て来た為、挨拶がてら聞いてみたのだけど。
にこにこ…というよりはニヤニヤといった笑顔を浮かべて興味津々に聞いてくる友人に思わず引いた。変な誤解を受けたくはなかった。
「いや…。友人の知り合いらしくてな。ちょっと聞いてみただけだ」
あくまでも特別興味はないといった様子で返すと、友人は今度は分かり易い程に肩を落とした。
「なんだよ、どうした?」
「『なんだよ』はこっちのセリフだってーの。せっかく、彼女に声を掛けれるチャンスだと思ったのにーっ」
「はぁ?」
「オレ、まだ彼女と話したことないんだよ。せっかく同じクラスなんだし話してみたいんだけど、なかなかキッカケがなくてさー」
(えっ…?そっち?)
「何?案外とっつきにくい奴だったりするワケ?」
少しだけ声を落として聞いてみれば、「そんなワケないだろっ!」と妙に意気込んだ返事が返ってきて正直戸惑う。続けて諭すように友人は語り出した。
「彼女ってどこか独特な雰囲気持ってるだろ?何となく声掛けづらいっていうかさ…。不思議な雰囲気まとってるっていうの?そこへ、あんま変なこと話し掛けらんねぇじゃん」
「あー…」
『変なこと』がどういう類のことをいうのかは分からないが、そういう人物こそ『とっつきにくい奴』と言うのではないのだろうか?そんな疑問を浮かべながらも颯太は黙っておいた。そうしてその友人とはその場で別れ、自分の教室へと戻っていく。
とりあえず、顔は覚えた。
(そして、やっぱり変わり者っぽい…と)
颯太の中では、そう認識されたのだった。
(…何だろう。さっきから尾行られてる気がする…)
学校からの帰り道。咲夜は前を向いて歩きながら、先程から一定距離を保つように後方を付いてくる人物の気配を探っていた。
普通に人々が行き交う公道だ。誰が歩いていてもおかしくはない。当然、たまたま方向が同じだけということもあるだろう。だが、学校を出た辺りからずっと…というと、どうだろう。それも、ずっと同じ距離を保って…となると。
(それに、なんか…。視線を感じるような…)
心の囁きは聞こえて来ない。でも、何かしらの意思を感じる気がするのだ。
ただ、まだ学校からの道のりとしては然程複雑でもない。これが住宅街に入ってからも続くとなると、ちょっと。結構、怖いけれど。
実は、以前にも似たようなことはあった。その時は、後ろから尾行て来ていたのは同じ中学校の男子生徒で。暫く歩いた後呼び止められ、いわゆる告白というやつをされたのだ。だが、その時は後ろからついて来られた時点で、その人物の緊張やその他諸々の呟き(欲望やら妄想の類)がダイレクトに聞こえてきてしまい…。呼び止められた頃には、既にドン引きしてしまっていたのだけど。それだけが理由という訳でもないのだが、当然のことながら丁寧にお断りをして終わったのを覚えている。
だが、今回は流石にそういう雰囲気でもなさそうだった。
(変な『悪意』みたいなものも特に感じないけど…)
それが逆に気持ち悪い気もした。普通、何かしら『声』は外へ漏れ出るものだからだ。相手に気付かれないようにだとか、こっそり行動したりするような時は特に。でも、後方を歩く人物からは、それが聞こえて来ない。
(どうしようかな…)
さりげなく撒こうか。そんなことを考えていた時だった。不意に目前の道路上に光る何かが落ちていることに気付く。
咲夜は数歩進んで足を止めると、それを拾い上げた。それは小さなキーホルダーの付いた鍵だった。形状からして自転車の鍵であることが分かる。
それを手にしながら、咲夜は立ち止まったまま周囲を見渡した。そこは、いつもの川の土手上の道で。車こそ来ないものの、この時間帯は自転車や歩行者の往来はそれなりに多い。それに加え、自然や広場の多いこの辺りには小学生たちが所々で遊んでいるのも見掛ける。
(この辺りで遊んでる子が落としたのかな?)
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