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興味という名の品定め
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「自転車の鍵だな。子どもの落とし物か」
「そ、う…みたい」
努めて平静さを装いながら応えてみたものの、珍しく声に戸惑いを含んでしまった。足を止めたまま、さり気なく後方に視線を流すが、そこには特に誰もいない。先程まで一定距離を保ちながら後ろを歩いていた人物も、だ。
そう、後方には…。
(まさか、普通に声を掛けてくるとは思わなかったな)
ずっと視線を感じていた。そう。今まで後を尾行て来ていたのは、間違いなくこの人物だ。
「どうすんだ?交番に届けるのか?」
「そう、だね…。どうしようかな」
咲夜は周囲に目を走らせた。落とし主が探しに来た時にすぐに気付けるような、どこか目立って分かり易い置き場所がないかと考えたのだが、傍にベンチのようなものは何も無いし、大きな樹はあるものの枝は高い位置に伸びていて、もしそこに掛けておいたとしても小さな子どもでは手が届くか微妙なとこだった。それに何より視線が低い子どもでは気付けないかもしれない。だからと言って、このまま道路上に放置しておくのは危険な気がした。うっかり蹴飛ばされたりして横の茂みにでも入ってしまえば、余計に探すのは困難を極めるだろう。
咲夜は隣に立つ人物を見上げた。
「ここから一番近い交番って何処か知ってる?」
「ん?ああ。俺が知ってる限りでは駅前まで行かないと無いな」
「…そう」
遠いけど仕方がないか。そう思い、咲夜はとりあえず「ありがとう」と、礼だけ言って一歩を踏み出した。全然知らない人物との自然すぎる不自然な会話を終えて、何事もなかったように歩き出す。
「おい、待てよ。もしかして、これから行くのか?駅前の交番に?」
話は終わったとでも言うように歩き出した咲夜に、その人物は少しだけ慌てた様子で再び横に並ぶと、当然のようについて歩き出した。
「落とし物なんだもの。当然でしょう?」
「この辺に置いとけば?そのうち探しにくんじゃねーの?」
「…確かに一度はそれも考えたんだけど…。でも、この辺りで目につくような良い置き場所はないし、交番に届けた方が一番間違いないでしょう?」
いつまでついてくるんだろうと頭の端で思いながらも。普通に話し掛けられれば答えない訳にもいかなくて返事を返していたのだけれど。
「ふーん…。意外に真面目なんだな」
「………」
ちょっぴり揶揄うような、その言葉にカチンと来た。
「名前も知らない人に『意外に』とか言われたくない」
少しだけ不機嫌さを含みながら歩く速度を速めた。後方で相手が足を止めたのが分かったけれど、気にせずそのままずんずん歩く。相手が何を思ったかは分からない。『声』は相変わらず聞こえて来なかったから。でも、それでもいいと思っていた。
つかつか歩いて行ってしまった彼女の背中を見送りながら颯太は考えていた。
(ありゃ…怒らしちゃったか?)
何が彼女の気に障ったのかは解らなかったけれど。その辺のことも含めて彼女、『月岡咲夜』の印象は少しだけ自分の中で変わった。
周囲の反応からして、少しお高くとまっている感じなのかなと思っていたのだが、実際はそうでもなかった。
(なぁんだ…。超、フツーのコじゃん)
話し掛ければ普通に返してくるし、ちゃんと相手の目を見て話す。
その辺は好感が持てる位だった。そういうことが自然に出来ない奴は世の中わりといる。愛想が良いかと言われると決してそうともいえないレベルではあるが、それでもまぁ許容範囲だろう。
既に随分と向こうまで行ってしまった彼女の後姿を眺めながら。あのコと辰兄が一緒にいるところを想像して少し笑った。
(絶対、辰兄がひとりでテンション高めで勢いで押しまくって、今日の約束も取り付けたんだろうな…)
昨夜、嬉しそうに運命だの何だのと興奮気味に語っていた辰臣を思い出すと、十も年上の男だというのに微笑ましいとさえ感じてしまう自分がいる。
辰臣の邪気の欠片もない人懐っこい笑顔。それに絆される者は多い。幼い頃の自分も、その一人なのだけれど。
辰臣には、そういう意味での不思議な力があると思う。自然と人を惹き付け、簡単に打ち解けてしまえる力が。それは子どもの頃から変わらない。少し天然な部分も変わらずに、そのまま大人になってしまった感は否めないが、裏表のない純粋な心と優しさを持っているからこそ動物たちにも自然と好かれているのだろう。
自分は、そんな辰臣に悪い虫がつくことが許せないのかも知れない。
もう彼も立派な一人前の大人だ。逆に未成年である自分に、そんな心配なんかされたくもないだろうとは思う。それこそ、自分が知らないところで彼にだって出会いや経験が色々あるだろうし、そもそも幼馴染みの自分が口出すことでもない。余計なお世話でしかないのだが。
「そ、う…みたい」
努めて平静さを装いながら応えてみたものの、珍しく声に戸惑いを含んでしまった。足を止めたまま、さり気なく後方に視線を流すが、そこには特に誰もいない。先程まで一定距離を保ちながら後ろを歩いていた人物も、だ。
そう、後方には…。
(まさか、普通に声を掛けてくるとは思わなかったな)
ずっと視線を感じていた。そう。今まで後を尾行て来ていたのは、間違いなくこの人物だ。
「どうすんだ?交番に届けるのか?」
「そう、だね…。どうしようかな」
咲夜は周囲に目を走らせた。落とし主が探しに来た時にすぐに気付けるような、どこか目立って分かり易い置き場所がないかと考えたのだが、傍にベンチのようなものは何も無いし、大きな樹はあるものの枝は高い位置に伸びていて、もしそこに掛けておいたとしても小さな子どもでは手が届くか微妙なとこだった。それに何より視線が低い子どもでは気付けないかもしれない。だからと言って、このまま道路上に放置しておくのは危険な気がした。うっかり蹴飛ばされたりして横の茂みにでも入ってしまえば、余計に探すのは困難を極めるだろう。
咲夜は隣に立つ人物を見上げた。
「ここから一番近い交番って何処か知ってる?」
「ん?ああ。俺が知ってる限りでは駅前まで行かないと無いな」
「…そう」
遠いけど仕方がないか。そう思い、咲夜はとりあえず「ありがとう」と、礼だけ言って一歩を踏み出した。全然知らない人物との自然すぎる不自然な会話を終えて、何事もなかったように歩き出す。
「おい、待てよ。もしかして、これから行くのか?駅前の交番に?」
話は終わったとでも言うように歩き出した咲夜に、その人物は少しだけ慌てた様子で再び横に並ぶと、当然のようについて歩き出した。
「落とし物なんだもの。当然でしょう?」
「この辺に置いとけば?そのうち探しにくんじゃねーの?」
「…確かに一度はそれも考えたんだけど…。でも、この辺りで目につくような良い置き場所はないし、交番に届けた方が一番間違いないでしょう?」
いつまでついてくるんだろうと頭の端で思いながらも。普通に話し掛けられれば答えない訳にもいかなくて返事を返していたのだけれど。
「ふーん…。意外に真面目なんだな」
「………」
ちょっぴり揶揄うような、その言葉にカチンと来た。
「名前も知らない人に『意外に』とか言われたくない」
少しだけ不機嫌さを含みながら歩く速度を速めた。後方で相手が足を止めたのが分かったけれど、気にせずそのままずんずん歩く。相手が何を思ったかは分からない。『声』は相変わらず聞こえて来なかったから。でも、それでもいいと思っていた。
つかつか歩いて行ってしまった彼女の背中を見送りながら颯太は考えていた。
(ありゃ…怒らしちゃったか?)
何が彼女の気に障ったのかは解らなかったけれど。その辺のことも含めて彼女、『月岡咲夜』の印象は少しだけ自分の中で変わった。
周囲の反応からして、少しお高くとまっている感じなのかなと思っていたのだが、実際はそうでもなかった。
(なぁんだ…。超、フツーのコじゃん)
話し掛ければ普通に返してくるし、ちゃんと相手の目を見て話す。
その辺は好感が持てる位だった。そういうことが自然に出来ない奴は世の中わりといる。愛想が良いかと言われると決してそうともいえないレベルではあるが、それでもまぁ許容範囲だろう。
既に随分と向こうまで行ってしまった彼女の後姿を眺めながら。あのコと辰兄が一緒にいるところを想像して少し笑った。
(絶対、辰兄がひとりでテンション高めで勢いで押しまくって、今日の約束も取り付けたんだろうな…)
昨夜、嬉しそうに運命だの何だのと興奮気味に語っていた辰臣を思い出すと、十も年上の男だというのに微笑ましいとさえ感じてしまう自分がいる。
辰臣の邪気の欠片もない人懐っこい笑顔。それに絆される者は多い。幼い頃の自分も、その一人なのだけれど。
辰臣には、そういう意味での不思議な力があると思う。自然と人を惹き付け、簡単に打ち解けてしまえる力が。それは子どもの頃から変わらない。少し天然な部分も変わらずに、そのまま大人になってしまった感は否めないが、裏表のない純粋な心と優しさを持っているからこそ動物たちにも自然と好かれているのだろう。
自分は、そんな辰臣に悪い虫がつくことが許せないのかも知れない。
もう彼も立派な一人前の大人だ。逆に未成年である自分に、そんな心配なんかされたくもないだろうとは思う。それこそ、自分が知らないところで彼にだって出会いや経験が色々あるだろうし、そもそも幼馴染みの自分が口出すことでもない。余計なお世話でしかないのだが。
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