19 / 33
トクベツな場所
4-1
しおりを挟む
私の日常は、いつだって同じで殆ど変化がない。
学校が終われば何処に寄り道することなく、ひとり家へと帰る。それは自分の中では既に何年もの間、当たり前のことになってしまっていた。
別に特別ひとりが好きな訳じゃない。
でも、人と一緒に居ることで受けてしまう傷だとか疲労なんかを恐れてしまったから。
笑顔を向けられる裏で呟かれる悪意を聞きたくなくて、自然と予防線を張るようになった。それだけのことだった。
それでも、相手に罪はないのだと分かっている。母をはじめ、その他の友人たちにも表立って文句やキツイ言葉を浴びせられたことは、今まで幸いにもなかったから。今となっては人と群れるのを嫌う自分の態度に、わざと聞こえるように嫌味を言ってくる子なんかもいるけれど。
でも、そうして堂々と口に出して不満を訴えて来る方が何倍もマシだと思うのだ。
どんなに敵意をむき出しで向かって来ようとも、表面だけ友達面して笑顔で近寄ってくる者より断然、好感が持てると思うから。
自分でも、大概ひねくれている、という自覚はある。
それに、自分だって例外ではないのだ。基本的に口数が少ないのだから、当然口に出さない本音は山ほどあり、自動的に心の呟きは秘めたものになる。
もしも、自分と同様に『心の声』を聞くことが出来る人物がいたとしたら、私も相当な曲者に見えるに違いない。
自分のことはさておき…。
そんなこともあり、今まで人との距離を保っていた筈なのに。
(なんでこんなことになってるんだろ…?)
いつもの帰り道。
何故か昨日知り合ったばかりの人物、幸村颯太が当然のように横を歩いていた。
授業終了後。
まるで当然のように「帰るぞー」とか言いながら教室まで迎えに現れた彼に、私は素で驚いていた。勿論、そんな約束はしていなかったし、昨日の今日でそういう行動に出るとは思ってもみなかったのだ。
そして、面食らっていたのは自分だけではなかったようだ。
ざわつく教室内。
向けられる好奇の目。
確かに、普段誰かと一緒に行動することが殆どない自分の元に、突然隣のクラスの男子が平然と、それも妙に友好的な態度で迎えに来たとあれば、当然何らかの疑問や興味を持たれてしまうのは仕方のないことなのかも知れない。
「あれって隣のクラスの幸村君、だよね?」
「何で幸村が月岡さんと?」
「あの二人って知り合いだったんだ?」
「意外な組み合わせだよな?」
「一緒に帰る仲って…。え?どういうこと?」
「もしかして付き合ってる、とか?」
「マジか…」
心の呟きなどではなく、普通にコソコソと会話が耳に届いてくる。敢えて聞こえるように言っている人も中にはいるようだった。
(別に何を言われようと私は関係ないけど…)
「どういうつもり?」と口には出さず、窓側の席の傍までやって来た幸村くんを無言で見上げると。
彼は特に気にする様子もなく、
「どうせ方向一緒なんだし、問題ないだろ?」
なんて肩をすくめながら言った。
まあ、良いけど。
あまり周囲の反応なんかを気にしないタイプなんだろう。確かに自分たちに負い目なんか何もないし、周りにとやかく言われるようなことでもないのだから関係ないのだけど。
その、どんな視線を向けられようとも動じない堂々とした態度には、少しだけ好感が持てた。
賑やかな校内を出て、道行く人の少ない土手上の道へと差し掛かると、今まで無言で少し前を歩いていた幸村くんが不意に口を開いた。
「何か言いたげだな。意見があるなら聞くけど?」
「意見って…。別に、そんなんじゃないけど…」
「けど?」
口ごもった私をチラリと振り返りながら先を促してくる。
「随分な騒ぎだったなぁって。なんか疲れちゃった…」
「ハハハ、確かにな」
教室を出てからも自分たちは何だかんだ注目を浴びていたようだった。
廊下に出ると、何故だか彼のクラスメイトたちが噂を聞きつけたのか数人集まっていて、ちょっとした騒ぎになってしまった程だ。幸村くん本人はどこ吹く風といった感じでかわしていたけれど。
別に深い意味などはなく、きっと何となくで自分を誘っただけに違いないのに、あんな風に揶揄われたり詮索されてしまっては、面倒に思ったり後悔したりしてるんじゃないかな…とか、少しだけ憂鬱な気持ちになってしまった。それを私が気にしても仕方のないことなのだけど。
それを遠回しに伝えると、「あんたには迷惑だったか?…だとしたら悪かったな」なんて逆に平然と返されてしまった。
「別に言いたい奴には何でも言わせておけばいいんだよ。こっちは何もやましいことなんてないんだし。どう弁解したところで結局は面白おかしく話題に出されるのは目に見えてるからな」
「そう、だね…」
他人の言葉を気にしない、振り回されない強さ。それは自分にはないもので、素直に凄いなぁと思う。
こういう人は、ある意味心が広いのかも知れない。私にも、それくらいの度量があれば、こんなにも歪まなかったのかも、とか思ってしまう。
学校が終われば何処に寄り道することなく、ひとり家へと帰る。それは自分の中では既に何年もの間、当たり前のことになってしまっていた。
別に特別ひとりが好きな訳じゃない。
でも、人と一緒に居ることで受けてしまう傷だとか疲労なんかを恐れてしまったから。
笑顔を向けられる裏で呟かれる悪意を聞きたくなくて、自然と予防線を張るようになった。それだけのことだった。
それでも、相手に罪はないのだと分かっている。母をはじめ、その他の友人たちにも表立って文句やキツイ言葉を浴びせられたことは、今まで幸いにもなかったから。今となっては人と群れるのを嫌う自分の態度に、わざと聞こえるように嫌味を言ってくる子なんかもいるけれど。
でも、そうして堂々と口に出して不満を訴えて来る方が何倍もマシだと思うのだ。
どんなに敵意をむき出しで向かって来ようとも、表面だけ友達面して笑顔で近寄ってくる者より断然、好感が持てると思うから。
自分でも、大概ひねくれている、という自覚はある。
それに、自分だって例外ではないのだ。基本的に口数が少ないのだから、当然口に出さない本音は山ほどあり、自動的に心の呟きは秘めたものになる。
もしも、自分と同様に『心の声』を聞くことが出来る人物がいたとしたら、私も相当な曲者に見えるに違いない。
自分のことはさておき…。
そんなこともあり、今まで人との距離を保っていた筈なのに。
(なんでこんなことになってるんだろ…?)
いつもの帰り道。
何故か昨日知り合ったばかりの人物、幸村颯太が当然のように横を歩いていた。
授業終了後。
まるで当然のように「帰るぞー」とか言いながら教室まで迎えに現れた彼に、私は素で驚いていた。勿論、そんな約束はしていなかったし、昨日の今日でそういう行動に出るとは思ってもみなかったのだ。
そして、面食らっていたのは自分だけではなかったようだ。
ざわつく教室内。
向けられる好奇の目。
確かに、普段誰かと一緒に行動することが殆どない自分の元に、突然隣のクラスの男子が平然と、それも妙に友好的な態度で迎えに来たとあれば、当然何らかの疑問や興味を持たれてしまうのは仕方のないことなのかも知れない。
「あれって隣のクラスの幸村君、だよね?」
「何で幸村が月岡さんと?」
「あの二人って知り合いだったんだ?」
「意外な組み合わせだよな?」
「一緒に帰る仲って…。え?どういうこと?」
「もしかして付き合ってる、とか?」
「マジか…」
心の呟きなどではなく、普通にコソコソと会話が耳に届いてくる。敢えて聞こえるように言っている人も中にはいるようだった。
(別に何を言われようと私は関係ないけど…)
「どういうつもり?」と口には出さず、窓側の席の傍までやって来た幸村くんを無言で見上げると。
彼は特に気にする様子もなく、
「どうせ方向一緒なんだし、問題ないだろ?」
なんて肩をすくめながら言った。
まあ、良いけど。
あまり周囲の反応なんかを気にしないタイプなんだろう。確かに自分たちに負い目なんか何もないし、周りにとやかく言われるようなことでもないのだから関係ないのだけど。
その、どんな視線を向けられようとも動じない堂々とした態度には、少しだけ好感が持てた。
賑やかな校内を出て、道行く人の少ない土手上の道へと差し掛かると、今まで無言で少し前を歩いていた幸村くんが不意に口を開いた。
「何か言いたげだな。意見があるなら聞くけど?」
「意見って…。別に、そんなんじゃないけど…」
「けど?」
口ごもった私をチラリと振り返りながら先を促してくる。
「随分な騒ぎだったなぁって。なんか疲れちゃった…」
「ハハハ、確かにな」
教室を出てからも自分たちは何だかんだ注目を浴びていたようだった。
廊下に出ると、何故だか彼のクラスメイトたちが噂を聞きつけたのか数人集まっていて、ちょっとした騒ぎになってしまった程だ。幸村くん本人はどこ吹く風といった感じでかわしていたけれど。
別に深い意味などはなく、きっと何となくで自分を誘っただけに違いないのに、あんな風に揶揄われたり詮索されてしまっては、面倒に思ったり後悔したりしてるんじゃないかな…とか、少しだけ憂鬱な気持ちになってしまった。それを私が気にしても仕方のないことなのだけど。
それを遠回しに伝えると、「あんたには迷惑だったか?…だとしたら悪かったな」なんて逆に平然と返されてしまった。
「別に言いたい奴には何でも言わせておけばいいんだよ。こっちは何もやましいことなんてないんだし。どう弁解したところで結局は面白おかしく話題に出されるのは目に見えてるからな」
「そう、だね…」
他人の言葉を気にしない、振り回されない強さ。それは自分にはないもので、素直に凄いなぁと思う。
こういう人は、ある意味心が広いのかも知れない。私にも、それくらいの度量があれば、こんなにも歪まなかったのかも、とか思ってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる