心がささやいている

龍野ゆうき

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トクベツな場所

4-3

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「聞きたいこと…?」
「ああ。昨日の落ちてた鍵のこと」
「………」
「アレ、交番に届けるって言ってただろ?でも、途中で落とし主見つかって返せたんだよな?」

それは、決して何か裏の意味があるような嫌な聞き方ではなかったけれど、私の行動の全てを知っていて確認を取っているかのような、そんなニュアンスを含んでいるのが分かった。

「…見てたの?」
「んー…まぁ、そうだな。結果的には」
「そう。見てて全部知ってるのに、いったい何を聞きたいの?」

口調は努めて穏やかに。平静を保てていたとは思う。
でも、内心では大きく動揺していた。自然と表情がこわばってしまっているのが自分でも判った。
そして、それは彼にも伝わってしまっていたようだ。

「別に俺は何も、あんたを変に疑ってるとかじゃないんだぜ?ただ、どうしてあの子が鍵の落とし主だって分かったのかなって不思議だったんだよ」
「…それは…」


昨日、私は彼の言う通り、拾った自転車の鍵を駅前の交番まで届けるつもりでいた。でも、土手上の道を少し歩くうち、微かな『声』が聞こえてくることに気付いたのだ。

『どうしよう…見つからないよぅ』

それは、今にも泣き出しそうな、震えているような子どもの声だった。
足を止めて周囲を見渡しながら声のする方向を探ると、それは川の方から聞こえてくるようだった。見下ろしてみると、土手の途中の草むらにうずくまっている小さな背中を見つけた。小学生くらいの男の子だった。

『どこで落としちゃったんだろぅ。このままじゃ帰れないよぉ。でも、遊んだ広場にはなかったし…。もう、どこを探したらいいのか…』

途方に暮れているのか、膝を抱えて俯いている。

その声を聞いた時、もしかしたら鍵の落とし主は、あの子なんじゃないかなと思った。その時点で彼の探し物が何なのかは分からなかったけれど。

(声を…掛けてみようか)

少しだけ迷っていたところに、背中を押す一言が聞こえて来た。

『やっぱ一度家に帰って予備のカギもらってこなくちゃダメかぁ。お母さん、おこるだろうなぁ…』

頭を抱えているその後ろ姿に、とりあえず違ったら違ったで良いか…と、ダメもとで声を掛けたのだけれど。予想通り、あの自転車の鍵はその少年の物で。結果、無事本人へと届けることが出来たのである。

でも、それをどう説明したらいいというのだろう?
説明なんて出来るワケがない。
でも、上手い誤魔化ごまかし方も浮かばなかった。

(そもそも、別にどう思われたって関係ない。…ハズなのに…)

何をそんなに悩んでいるのだろう。


「声が…聞こえたから…」
「声?」

結局、ありのままを口にしている自分に心の中で苦笑しつつも。何故だか嘘を吐きたくはなくて、そのまま続ける。
それでも、普通の人なら『声』を普通の口から発声される『声』として認識するだけなのだろうけど。

「何かを探しているみたいだったから声を掛けてみた。そうしたら落とし主本人だった。ただ…それだけ」

自分の心に後ろめたさでもあるのか、思いのほかぶっきら棒な言い方になってしまったけれど、幸村くんはそれを普通に「へぇ」と軽く流すと、何故か面白そうに口端を上げた。

「そりゃまた、ラッキーだな」
「え…?ラッキー?…どういう、意味?」

心の声が聞こえないせいだろうか。彼の表情や言葉の奥に何か意図が含まれているのかどうかも何も解らなくて、妙に不安に駆られている自分がいた。

「だってラッキーだろ?落とし主からしてみれば、鍵の方から自分を訪ねてくれたワケだし、こっちはこっちで遠くの交番まで届けなくて済んだんだし。一石二鳥じゃん」
「一石二鳥…」

ナルホド。そういう意味。
深読みして不安になってた自分が馬鹿みたいに思える程に、幸村くんは穏やかに笑っていて、何だか不意に笑いがこみ上げて来た。

「……ぷっ…」

思わず吹き出して笑い出してしまった私に、「…なんだよ?俺そんなに可笑しなこと言ったか?」なんて首を傾げていたけれど。

「幸村くんって、面白いね」

ひと通り笑ってから笑いを収めながら、そう言うと。

「そりゃ、どうも。それは誉め言葉として受け取っとくよ」

そう言って返してきた時の穏やかな彼の瞳が、何故だか嬉しかった。




その後。

普段通り、辰臣の待つ『救済センター』へと足を踏み入れた颯太は、これまたいつも通りお茶の用意をする為、給湯室でやかんを火に掛けていた。
自分たちの普段使っているカップ二つと、昨日と同様にお客様用のカップ一つを戸棚から取り出して並べる。勿論、これは学校帰りに問答無用で連行してきた咲夜の分だ。
基本的に辰臣は、依頼で外に出たり急患を受け入れたりとスケジュールなどあってないようなものなのだが、颯太が学校を終えて此処へやって来る時間がだいたい辰臣の休憩時間になっていた。それは、敢えてそうするように颯太が辰臣に言って決めたことだった。
辰臣は、仕事に一生懸命になると自分のことを後回しにする癖がある。昼食抜きなどは日常茶飯事。クリニックの診療時間が過ぎていようが急患などの連絡が入れば、すぐに受け入れてしまう。
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