じぶんが悪役だと気がついた現地人貴族のおれ

tanuki

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悪逆への道

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「捨てておけ。あとは育ちの悪い連中が勝手に処理するだろう」

目の前にはマリアが血を流し、倒れている。
俺の言葉に反応して、遠巻きに見ていた家臣の何人かが慌てて動き出した。

マリアの体が持ち上げられ、門の外へと連れて行かれる。外では小さい悲鳴が聞こえた。

頼むぞ、本当に。そのためにお前をマリアの侍女にしたんだからな。頭の中で目つきの悪い侍女の一人を思い出す。マリアが家を出されると知り、暇を出してきたやつだ。

血の匂いがした。ときかく湯浴みをしたかった。

この日、俺ははじめて神ってやつに一太刀浴びせることに成功した。










あの日、自らの手で惨劇を演出した俺は自分が犯した現実に震えていた。倫理というものがあるのなら、それをビリビリに引き裂き、何度も何度も踏みにじったのだ。


鍛えるしかなかった。身体も心も。悪逆を飲み干す度量も、自ら命を断つ勇気も持たなかった俺はとにかく自らを鍛えはじめた。

剣技や魔法、そしてある種の演技。

ただのボンボンのクソガキだった俺の変わりように周囲は驚いた風だったが、従者の噂が広まると同時に化け物を見るような目で俺を見た。

いつの間にか門の外での小さな喧騒は治っていた。

マリアは命を繋いでいる、はずだ。

俺の剣はいくつかの重要な部位を通ったが、治療師に見せればなんとかなる範囲だ。現れた選択肢が予想の範囲内だったことも功を奏したといえる。この展開のために息子に怯えるあの哀れな男を追い詰めたのだ。

マリアの境遇はあまりに不憫だった。事情は連れてきた連中に聞いた。連れてくるために何をしたのかも。すでにそいつらは地面の栄養となっている。あの忌まわしい選択肢を戸惑いなく選んだのもあの時だけだ。あの瞬間、俺は確かに悪役だっただろう。

来年から俺は王立の学院へと通わなければならない。その前にマリアの始末をつけなければならなかった。この家に飼い続けられてどこかの幼児性愛者に売り渡される前に。

マリアがこの家に連れてこられることになった原因がそれだ。

妹の病死。

それにより親交の深い王侯貴族への貢ぎ者が不足になったのだ。田舎者の領主の立場が伺える。まぁ、俺には関係無いことだが。悪役を強いられる俺は他人の悪へずいぶんと敏感になっている。

側に控える侍女に剣を渡す。

目の前で人が斬られたというのにそいつの顔は平静を保っている。白い頭が俺に跪いた。この侍女の名はルイ。あの路地裏で起きた惨劇の生き残りだ。あの惨劇以来、こいつは言葉を発することが出来なくなった。サラリと垂れた髪は老人のように色が落ちてしまっていた。

「いくぞ」

始末はつけた。

あの路地裏の惨劇。従者が発狂したあの時。俺はこの世界と戦う決心をした。

あの日から見える選択肢は相変わらず俺を悪逆へと急かしてくる。世界は俺に悪役を求めている。それも反吐が出るような悪役を。

ああ、いいさ。今のところは従ってやろうじゃないか。

だけど、いいか? 人間を舐めるんじゃない。灰色の髪の毛が脳裏に過ぎる。花を愛でる少女を思い出す。

世界の汚濁を飲み干せというなら飲み干してやろう。ただし、俺のやり方で。

俺は振り返らずに屋敷へと戻った。
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