未来に帰りたい石山さんと家に帰りたい昇坂くん。

tanuki

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第2話 いつも通りの無表情のまま、石上さんはそんなことをいった。

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「おい昇坂。なんか女子が呼んでるぞ」

 昼休みに教室で友達とお昼を食べていると、同じクラスの新井くんに声をかけられた。新井くんの肩まで捲ったシャツからは太い腕が伸びていて、その肌は気持ちの良いほど小麦色に焼けている。さすがラガーマンだなぁ、なんて思っていると新井くんが「ほら」といって教室の入り口を指差して促す。

 指の先では、ドアに寄りかかった女の子がこちらを見ていた。おそらく別のクラスの子だろう。入り口近くにいた新井くんが体よくメッセンジャーに選ばれたのだ。

 僕は新井くんにお礼をいい、一緒にお昼を食べていた友達に断って席を立った。後ろから冷やかすような声が聞こえたが、身の程を知る僕は動揺しない。先に期待値を下げて保険を打つ程度には僕の青春は灰色だ。

入り口のほうに近づくと、その子はドアから身を離してくりくりした目で僕を迎えた。

「石ノ神が呼んでるよ」

 猫のような声だな、と思った。後ろで括った髪も。

ちなみに石ノ神とは石上さんのあだ名で、なんでも最初の自己紹介で「石上ですが、正しくは石神です。私のことは神様か何かと思ってください」といういかれた自己紹介をしたことがきっかけらしい。多様化の時代といえども、神様と同じクラスにはなりたくない。

とにかく、どうやら僕は青春イベントに縁が無かったようだ。全然がっかりしてないけどね。保険打ってたし。宝くじみたいなもんだし。

「石上さんが直接来ればいいのに」

 拗ねるような口調になってしまったのは気のせいだ。

「他所のクラスに行くと穢れが溜まるんだって」

 どんな理屈それ。

 彼女は「大変だよね」といって高い声で笑う。機嫌の良い猫だ。奇特なことに石上さんの面倒に巻き込まれるのが楽しいのかもしれない。やっぱりこの学校って変な人が多いな。石上さんを筆頭に。

「そんじゃ、あたしは伝えたからね」

 踵を返す彼女を僕は慌てて呼び止める。

「僕はどこに行けば?」

 そう、肝心のことを聞いていない。石上さんのクラスか?

「場所は任せるって」

「は?」

 突然未知の言語を話された気分だった。
 人を呼んでおいて、向かう場所はなんて……え?

「石ノ神って変わってるからね」

 変わってるで済むか。

気持ちがそのまま表情に出たのか、彼女は僕の顔を見てもう一度笑った。そして「頑張れ」とだけ言ってそのままいってしまうのだった。去り際は人間に飽きた猫だ。

 さて、困ったのは残された僕。これからしらみ潰しに校舎を練り歩かないといけない。昼休みが比較的長いといっても、学校内で人一人見つけるのは至難の業だろう。窓の外に校庭で遊ぶ他の生徒たちの姿が見えた。彼らと僕ではこの照りつける日差しの受け取り方が天と地ほど違うだろう。

「ルッキズムの奴隷じゃなかったら出向いていないところだよ」

 困ったものだ。

 容赦のない日差しを恨みながら、なるべく涼しそうな場所から探すことにした。









 昼休みが終わる間際。ようやく僕は石上さんを見つけることに成功した。

 成功したというか、心当たりを行き尽くして諦めて自分の教室に戻ったところ、僕の席に座る石上さんを発見したのだ。やはり入り口近くにいた新井くんに聞けば僕とほとんど入れ違いに現れたらしい。このアマ。

「灯台下暗しとはこのことね、昇坂くん」

 手に持った扇子で自分を仰ぐ石上さん。シャツのボタンがいつもより開いていてそこから白すぎる肌と鎖骨がよく見える。感謝してほしい、僕が鎖骨フェチじゃなかったらとっくに手が出ていたのだから。

「他所の教室だと穢れが溜まるんじゃなかった?」

 石上さんは一瞬何のことがわからなかったようで、少し考えた後、ああと呟いた。

「この時代の人は冗談が通じなくて困るわ」

 未来のギャグ線もだいぶお察しなようだ。それなら伝言の伝言というわけのわからない手法を使わないでほしい。

「それで、結局何の用だったの?」

 昼休みの終わりも差し迫っている。汗かいた末、本題に入らずにタイムアップすることは避けたい。

「朗報よ、昇坂くん」

 ピシャリと扇子が閉じられ、僕に突きつけられる。

「SOS団の次の目的が決まったわ」

 いつも通りの無表情のまま、石上さんはそんなことを言った。
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