悪役王子~破滅を回避するため誠実に生きようと思います。

葉月

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第9話 チョココルネ

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「ふっふーん♪」

「ご機嫌ですね、ジュノス様!」

「まぁねー!」

 なんたって煩わしい悩みが解消されたのだ。

 屋敷に帰って来た俺は、ダンスパーティーに着て行く衣装をずらっとベッドに並べてみる。
 この中から今夜着て行く衣装を選ばなくては。

 ルンルン気分で姿見の前で衣装を合わす。
 手にしたジャケットを女性に見立ててターンなんて決めちゃってみる。
 踊ったことなんて一度もないけど、映画でそれっぽいのを観たことあるし、まぁ何とかなるだろ。

 楽観的なのはニート時代の名残だろうか。
 あまり思い詰めても仕方ない。
 せっかくだから楽しんだ者勝ちだろう。

「で、レベッカはどれがいいと思う?」

「ぶー、私ちょっぴりジェラシー感じちゃいますよ!」

 またレベッカが訳のわからないことを言っている。
 ジェラシーの意味を知らないんじゃないのか?
 膨れた頬がおまんじゅうみたいで美味しそうだな。
 まんじゅうか……この世界にあるといいな。

 そんなことより衣装選びのポイントって何だろう?
 やはり、相手方のドレスの色に合わせるのが一般的なのかな?

 だとしたら困ったぞ。
 マーカスが紹介してくれる女性がどんな色合いのドレスを着てくるかまったく想像がつかない。
 マーカスの話しだと、夜になったら彼の家に迎えに行けばいいと言っていたが、それまでは情報がまるでない。

 最悪派手な衣装はやめて、落ち着いたシンプルな衣装にすれば何とかなるか?
 となると……黒か白のどちらかかな?
 しかし、黒っていくらなんでも地味過ぎないか?

 髪が白銀で瞳が蒼と派手なので丁度いいのかな? でも全身黒ってのもな……悪魔召喚の儀式をするんじゃないんだから……ナンセンスだよね!

 そうなるとやはり白か。
 アクセントに黒色のハンカチーフを胸に挿せばそれっぽいかな?
 肩に施された黄金の飾りが偉く派手だけど……どうなんだろう?


 と、悩み抜いた末に、結局清潔感重視の白いジャケットとパンツに決めた。
 相手のドレスが赤でも黒でも白でも、これなら問題なくマッチするだろう。
 舞踏会とは飽くまで女性がメインなのだ。

 女性に恥を掻かせることなどあってはならない。
 そう考えた時に、自分の見た目を重視するのは間違っていると思う訳だ。


「マーカスく~ん! やって来たよ~♪」

 玄関前に馬車を停めさせてもらい、使用人に案内されるがまま屋敷に入ると、俺は嬉しさから小学生以来の遊びましょうコールを響かせた。

 すると、二階に続く大階段からマーカスとその婚約者、ラナが颯爽と下りて来た。
 黒のシンプルなタキシードスタイルのマーカスと、純白のドレス姿のラナ。

 まるで今から挙式でも挙げるのかと思ってしまう2人の装いに、思わず吹き出してしまいそうになる。
 ぷっ……! いくらなんでもそれはないだろうと、言いかけてやめた。
 人の趣味にケチをつけるものではないからね。

「それで、その……俺のお相手の女性は?」

 これからお見合いするような気持ちになり、もじもじキョロキョロする俺はちと気持ち悪かったかも知れない。
 マーカスとラナの2人が軽く引いてる。

 だけど、はやる気持ちを抑えきれないのは男なら仕方のないことだ。

 お見合いはもちろん、友人に女性を紹介された経験なんて皆無だけど、それとこれは一緒のようなものだろうって……俺……前世で友達いたっけ?
 あれ? 目から汗が……。
 
「はい、今呼びますね」

 うんうん。早くしてちょーらいよ!
 悲しい思い出よりも目前の華だ!

「ヘレナ! ジュノス殿下がお迎えに来てくれたぞ!」

「どうちてわたくちがちぇい国のわるものとパーチーにいかなければならないのよっ!」

「へ……っ!?」

 思わず目が点になってしまった。
 だって……現れたのは幼女、6歳児ほどのお子ちゃまなのだ。
 それも、チョココルネヘアーの幼女だ。
 ミニチュアレイラじゃないかッ!?

「あ、あの……マーカス君、これは……」

「あっ、はい。妹のヘレナです!」

「………………」

 いや、そういうことを聞いているのではない。
 マーカスが紹介してくれる俺の相手というのは……まさか、この幼女ではないだろうな。

「招待状には身内の参加も可と書かれておりましたので、問題ないかと思いまして」

「いや、その……うん。問題はないかも知れないがね……」

 そういうことを言ってるんじゃねぇーよ!
 どこの世界に王子様が舞踏会に6歳児をエスコートして登場すんのじゃ!
 そんなの聞いたことねぇーわっ!
 これなら潔く一人で行った方がまだマシじゃっ!!

「じゃあ、僕達は先に参りますので、妹を宜しくお願い致します、ジュノス殿下」

 行ってしまわれた……。
 文句の一つを言う間もなく、ハネムーンに旅立つかの如く颯爽と……。

「ちょっと、しゃしょっておいてえちゅこーともできないの? ちんじられないわ、ふんっ」

 す、すごい……レイラ顔負けのチョココルネを手で払い退け、腰に手を当てる姿はまさに悪役令嬢!!
 マーカスの妹ではなく、本当はレイラの妹なんじゃないかと疑いたくなるよ。
 もしくは幼少期のレイラがタイムマシーンに乗ってやって来たんじゃないかと……。



「うふふ♡ 私なんか安心しちゃいました。お似合いですよ、ジュノス様」

 馬車に乗り込んだ俺に、喜色満面を向けてくるレベッカ。
 これのどこが安心なのだ! このまま舞踏会に乗り込めばめちゃくちゃ目立つじゃないか!

 舞踏会だから確かに目立った者勝ちなのだが、これは悪目立ちと言うものだ。
 下手したらロリコン王子という汚名を着せられかねない。
 とんでもない伝説を作ってしまいそうで……恐ろしい。

 本当はこのまま家に帰りたいが、招待状を受け取った手前そういう訳にもいかない。

「ちょっと、れでぃーをたいくちゅさせるき? かいじょーにちゅくまでひまだわ!」

「あはっ……あはは……」

 困った。幼児を楽しませるスキルなど持ち合わせていない。
 俺は保育士でもなければ歌のお兄さんでもない!
 なんという無茶ぶりを振ってくる幼少だ!

「お、お尻かじりたい虫って知ってるかな?」

「…………」

 うわぁぁああああああああああっ!?
 幼児とは思えない死んだ魚のような目だ!
 これは将来有望過ぎる悪役令嬢!!

「しょんなくじゃらないはなちでわたくちのたいくちゅはまぎれまちぇんわ!」

「へ、ヘレナちゃんはどんな話しが聞きたいのかな?」

 おっさんパニックだよ!
 まさかマーカスとの出会いで悪役令嬢フラグが立っていたなんて、一体誰が予想できるんだ!

「おとめはこいのおはなちにきょうみちんちんなのよ!」

 ちんちん……って、幼児だからセーフだが、年齢が年齢だったらセクハラだよ!
 6歳何だからもう少しちゃんと喋れるだろ。

「こ、恋の話しか……」

「ましゃか、あなたもてないのね!」

 ギクッ!?
 確かに前世では彼女いない歴イコール年齢でしたが何か?

「パーチーにいくおあいてもいないんでちゅから、おちゃっちですわ! おーほっほっほ!」

 なんて嫌味なガキだッ! わかってて聞いただろ!
 完全に嫌味を得意とする悪役令嬢そのものじゃないか。
 将来有望どころか現役バリバリだったとは……末恐ろしい。

 真っ赤なドレスにチョココルネ。無駄に髪を払う度にブンッと音を鳴らすところまでレイラに瓜二つだ。

 あぁ、帰りたい。
 心の底から帰りたいよ。
 わざわざ恥を掻きに舞踏会に向かう俺は、とんだピエロだ。


 しかし、馬車は無情にも会場へと俺の体を運んで行く。
 ほら、学校とは思えない大聖堂のような御立派な建築物が見えてきた。
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