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第20話 ゴマを擦ると香ばしい
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「ジュノス殿下……」
「どうかしたか……レベッカ」
今日は休校日。学校が休みだから自室にこもってこの世界のことを勉強していた。
幸い、王立アルカバス魔法学院の大図書館は生徒であれば本の貸し出しを行っている。
バッドエンドを回避するためには、一日も早く民草達の不満を取り除かなくてはならない。
そこで、こうして休日を利用して死なないためのお勉強をしているという訳なのだが、レベッカが少し困った面持ちで部屋へとやって来た。
「それが……」
「ここが王子の部屋か! でっかい部屋だな~!」
ん……誰だ?
レベッカの背後から現れたのは6歳ほどの幼児。
オレンジ色の髪は長ったらしく伸び、おまけに前歯が一本抜けている。何とも間抜けな見た目の子供だな。
服装はとても清潔とは言い難い。
焦げ茶色の布地にパンツスタイル、靴はボロボロで穴が空いている。
一目でスラムの子供だと察しがついた。
しかし……いや、確かに、スラムの子供を雇いたいとレベッカに喧伝して回るように言っておいたが、こんなに小さな子供が来るとは予想外だった。
できればレベッカの右腕になるような子供を求めていたのだが……。
「オイラこの姉ちゃんから王子が雇ってくれるって聞いたから来たんだ! もちろん、姉ちゃんに言われた通りスラムのみんなにも教えて回ったんだぞ」
へへへ。と、鼻の下を擦る幼児が屈託のない笑顔を向けてくる。
とても愛らしいが……働けるのかな?
「ど、どう致しましょう、ジュノス殿下」
レベッカが申し訳なさそうに耳元で囁いた。
だが、喧伝してくれと頼んだのは俺なのだから、謝ることなど何もない。
「レベッカ、すぐに温かいお茶と茶菓子を持ってきてくれるか? 客人に何も出さないのは失礼だからね」
「は、はい。只今!」
レベッカが客人をもてなす準備をするまでの間、俺は幼児をソファに座らせて話しをすることにした。
そこで、とんでもないことを知ることとなる。
少年の名前はアゼル・ルワン・マゼルガ。
この名を聞いた時、俺の体はビクッと震えて固まった。
なぜなら、マゼルガという名を聞いた瞬間、忘れかけていた記憶の蓋が開いたように思い出したからだ。
そう、マゼルガとは俺を処刑台に誘う革命軍のリーダーの名。
だけど、目の前の少年はどう見ても6歳児と幼い。
だが、リズベット・ドルチェ・ウルドマンが支援している相手となると、確かにポースターに在住の者となるのも頷ける。
寧ろ、そちらの方が自然で府に落ちると言うものだ。
た、確かめねば、
「アゼル君だったね?」
「うん、そうだけど」
「君……お兄さんとか居るかな?」
「ああ、兄ちゃんならいるぞ!」
ひぃぇええええええええっ!?
戦慄とはこのことだ!
選りに選って俺を地獄の底に叩き落とす革命軍、そのリーダーの弟を引き当ててしまうとは……これは因果か!
びっくりし過ぎてチビってしまうところだった。
漏れていないだろうか?
しばし硬直していると、レベッカがアールグレイとケーキをアゼルの前に出している。
見たこともない鮮やかなフルーツケーキにびっくら仰天と言ったご様子で、顔中に生クリームを付けながら貪りついていた。
レベッカがそれをいいな~って指を咥えながら見てるのが……なんとも言い難い。
あとで好きなだけ食べさせてあげるから我慢してね。
「そ、それで……アゼル君のお兄さんはここに働きに来たいとか言っていなかったのかな?」
それとなく、それとなく勘づかれないようにお兄さんについて尋ねてみる。
「ああ、兄ちゃんは何か忙しいってオイラの話しを聞かないんだ」
「へぇーそうなのか。お兄さん何か言ってなかった?」
なんでもいい、なんでもいいから情報頂戴よ、アゼル君!
くれたらおっさん一生君の面倒見てあげるから。何なら養子に貰ってもいいんだよ。
おっさんこのままじゃ君のお兄さんに殺されるんだよ!
祈る気持ちで少年を見つめていると、
「あっ、そう言えば……」
「なにっ!?」
――バンッ!
テーブルに手を突いて、前のめりになりながら全神経を両耳に集中させる。
「革命がなんとかって言ってたな」
「い……いやぁぁああああああああああああああああっ!?!?」
「じぇ、ジュノス殿下!?」
「どうしたんだ……この兄ちゃん?」
び、びっくりし過ぎて部屋の隅まで後退してしまった。
し、心臓が口から飛び出るところだった。つまり……ショック死するところだったと言うことだ!
まずい、これはいくらなんでもまず過ぎる! 展開が唐突過ぎるよ!
きっと、この間のサロンでリズベット先輩の誘いを断ってしまったから、怒ってことを早めたのかも知れない。
これは早急に手を打たねば……バッドエンドコース確定じゃないか!?
死にたくない、死にたくない!
あわあわあわあわあわっ!?
パニック、おっさん大パニックですよ!
「アゼル君! 君合格! すす、すぐにでもこの屋敷で働いてくれたまえ!」
「えっ!? いいの!」
「もも、もちろんだよ!」
こうなったら弟のアゼル君を利用してお兄さんを紹介してもらい、おっさん全力でゴマ擦っちゃうもんね!
なんなら靴をペロペロ舐めてもいいよ!
死ぬよりは一億万倍マシだからな。
と、言うことで、早速アゼルの執事服を見立てた。
シンプルな黒のタキシードスタイル。乳歯が抜けた歯のせいですごく間抜けな面だが……何となく、それっぽい気もする。
伸び散らかした髪もレベッカが整えて、後ろ手に一纏めにしてみました。
よくよく見るとイケメン幼児だな。
将来有望だ!
アゼルの背丈に合うタキシードなんて持ち合わせていなかったから、俺の超高級スーツを元にレベッカが手直ししてくれた。
そこまでするの? ってレベッカは若干引いていたけど、これは最重要案件にして、俺の命を握っているとんでも少年なんだよ!
できる限り俺の印象を良くしておかないと、人間ファーストコンタクトが最も大切だからね。
靴は猛ダッシュで買いに行ったノーブランドの物だが、そのうち高級品を与えれば文句もないだろう。
「うわぁ! すげぇーや! 本当にこれ貰ってもいいのか?」
「も、もちろんだよ! アゼル君とは……もう家族みたいなものだろ?」
それとなく家族アピールをしてみる。さすがに家族が君のお兄さんに殺されそうになったら助けてくれるよね? その時はお兄さんを全力で止めてくれるよね?
ジュノス王子はとってもいい人で、家族のような間柄だって……信じているからねッ!
「そうだ! アゼル君を正式に家臣にするのだから……その、あの、お、お兄さんに御挨拶しに行った方がいいよねっ? ほら、未成年だし保護者の同意が必要でしょ?」
かなり食い気味に言ってみる。
この世界の成人が何歳からとか知らんが! 6歳で成人なんてまかり間違ってもないだろう。
うん、我れながらナイスアイデアだ!
これなら不審がられることもなく、革命軍のリーダーに接触できる。
「ああ、そうだな! 兄ちゃんにこの服自慢してやりたいしな!」
「だよね、だよね! これすっごく高価な生地なんだよ!」
よっしゃぁぁあああああああっ!!
これで怪しまれることなく革命軍と接触できるぞ!
そうと決まれば、
「レベッカ、ジェネルを呼んで来て貰えるかい?」
「ジェネル王子ですか? 了解しました」
レベッカはなんでジェネル? って顔したけど、そんなのは決まってる。
スラム街は怖い! 危険! 何より恐ろしい! ってことで、腕っぷしのある親友をボディーガードにつける。
ジェネルは防御魔法だけではなく、攻撃魔法もそれなりに扱えるみたいだし、何かあったら守ってもらわなきゃ。
おっさんはこれより何もできない乙女と化す。
「どうかしたか……レベッカ」
今日は休校日。学校が休みだから自室にこもってこの世界のことを勉強していた。
幸い、王立アルカバス魔法学院の大図書館は生徒であれば本の貸し出しを行っている。
バッドエンドを回避するためには、一日も早く民草達の不満を取り除かなくてはならない。
そこで、こうして休日を利用して死なないためのお勉強をしているという訳なのだが、レベッカが少し困った面持ちで部屋へとやって来た。
「それが……」
「ここが王子の部屋か! でっかい部屋だな~!」
ん……誰だ?
レベッカの背後から現れたのは6歳ほどの幼児。
オレンジ色の髪は長ったらしく伸び、おまけに前歯が一本抜けている。何とも間抜けな見た目の子供だな。
服装はとても清潔とは言い難い。
焦げ茶色の布地にパンツスタイル、靴はボロボロで穴が空いている。
一目でスラムの子供だと察しがついた。
しかし……いや、確かに、スラムの子供を雇いたいとレベッカに喧伝して回るように言っておいたが、こんなに小さな子供が来るとは予想外だった。
できればレベッカの右腕になるような子供を求めていたのだが……。
「オイラこの姉ちゃんから王子が雇ってくれるって聞いたから来たんだ! もちろん、姉ちゃんに言われた通りスラムのみんなにも教えて回ったんだぞ」
へへへ。と、鼻の下を擦る幼児が屈託のない笑顔を向けてくる。
とても愛らしいが……働けるのかな?
「ど、どう致しましょう、ジュノス殿下」
レベッカが申し訳なさそうに耳元で囁いた。
だが、喧伝してくれと頼んだのは俺なのだから、謝ることなど何もない。
「レベッカ、すぐに温かいお茶と茶菓子を持ってきてくれるか? 客人に何も出さないのは失礼だからね」
「は、はい。只今!」
レベッカが客人をもてなす準備をするまでの間、俺は幼児をソファに座らせて話しをすることにした。
そこで、とんでもないことを知ることとなる。
少年の名前はアゼル・ルワン・マゼルガ。
この名を聞いた時、俺の体はビクッと震えて固まった。
なぜなら、マゼルガという名を聞いた瞬間、忘れかけていた記憶の蓋が開いたように思い出したからだ。
そう、マゼルガとは俺を処刑台に誘う革命軍のリーダーの名。
だけど、目の前の少年はどう見ても6歳児と幼い。
だが、リズベット・ドルチェ・ウルドマンが支援している相手となると、確かにポースターに在住の者となるのも頷ける。
寧ろ、そちらの方が自然で府に落ちると言うものだ。
た、確かめねば、
「アゼル君だったね?」
「うん、そうだけど」
「君……お兄さんとか居るかな?」
「ああ、兄ちゃんならいるぞ!」
ひぃぇええええええええっ!?
戦慄とはこのことだ!
選りに選って俺を地獄の底に叩き落とす革命軍、そのリーダーの弟を引き当ててしまうとは……これは因果か!
びっくりし過ぎてチビってしまうところだった。
漏れていないだろうか?
しばし硬直していると、レベッカがアールグレイとケーキをアゼルの前に出している。
見たこともない鮮やかなフルーツケーキにびっくら仰天と言ったご様子で、顔中に生クリームを付けながら貪りついていた。
レベッカがそれをいいな~って指を咥えながら見てるのが……なんとも言い難い。
あとで好きなだけ食べさせてあげるから我慢してね。
「そ、それで……アゼル君のお兄さんはここに働きに来たいとか言っていなかったのかな?」
それとなく、それとなく勘づかれないようにお兄さんについて尋ねてみる。
「ああ、兄ちゃんは何か忙しいってオイラの話しを聞かないんだ」
「へぇーそうなのか。お兄さん何か言ってなかった?」
なんでもいい、なんでもいいから情報頂戴よ、アゼル君!
くれたらおっさん一生君の面倒見てあげるから。何なら養子に貰ってもいいんだよ。
おっさんこのままじゃ君のお兄さんに殺されるんだよ!
祈る気持ちで少年を見つめていると、
「あっ、そう言えば……」
「なにっ!?」
――バンッ!
テーブルに手を突いて、前のめりになりながら全神経を両耳に集中させる。
「革命がなんとかって言ってたな」
「い……いやぁぁああああああああああああああああっ!?!?」
「じぇ、ジュノス殿下!?」
「どうしたんだ……この兄ちゃん?」
び、びっくりし過ぎて部屋の隅まで後退してしまった。
し、心臓が口から飛び出るところだった。つまり……ショック死するところだったと言うことだ!
まずい、これはいくらなんでもまず過ぎる! 展開が唐突過ぎるよ!
きっと、この間のサロンでリズベット先輩の誘いを断ってしまったから、怒ってことを早めたのかも知れない。
これは早急に手を打たねば……バッドエンドコース確定じゃないか!?
死にたくない、死にたくない!
あわあわあわあわあわっ!?
パニック、おっさん大パニックですよ!
「アゼル君! 君合格! すす、すぐにでもこの屋敷で働いてくれたまえ!」
「えっ!? いいの!」
「もも、もちろんだよ!」
こうなったら弟のアゼル君を利用してお兄さんを紹介してもらい、おっさん全力でゴマ擦っちゃうもんね!
なんなら靴をペロペロ舐めてもいいよ!
死ぬよりは一億万倍マシだからな。
と、言うことで、早速アゼルの執事服を見立てた。
シンプルな黒のタキシードスタイル。乳歯が抜けた歯のせいですごく間抜けな面だが……何となく、それっぽい気もする。
伸び散らかした髪もレベッカが整えて、後ろ手に一纏めにしてみました。
よくよく見るとイケメン幼児だな。
将来有望だ!
アゼルの背丈に合うタキシードなんて持ち合わせていなかったから、俺の超高級スーツを元にレベッカが手直ししてくれた。
そこまでするの? ってレベッカは若干引いていたけど、これは最重要案件にして、俺の命を握っているとんでも少年なんだよ!
できる限り俺の印象を良くしておかないと、人間ファーストコンタクトが最も大切だからね。
靴は猛ダッシュで買いに行ったノーブランドの物だが、そのうち高級品を与えれば文句もないだろう。
「うわぁ! すげぇーや! 本当にこれ貰ってもいいのか?」
「も、もちろんだよ! アゼル君とは……もう家族みたいなものだろ?」
それとなく家族アピールをしてみる。さすがに家族が君のお兄さんに殺されそうになったら助けてくれるよね? その時はお兄さんを全力で止めてくれるよね?
ジュノス王子はとってもいい人で、家族のような間柄だって……信じているからねッ!
「そうだ! アゼル君を正式に家臣にするのだから……その、あの、お、お兄さんに御挨拶しに行った方がいいよねっ? ほら、未成年だし保護者の同意が必要でしょ?」
かなり食い気味に言ってみる。
この世界の成人が何歳からとか知らんが! 6歳で成人なんてまかり間違ってもないだろう。
うん、我れながらナイスアイデアだ!
これなら不審がられることもなく、革命軍のリーダーに接触できる。
「ああ、そうだな! 兄ちゃんにこの服自慢してやりたいしな!」
「だよね、だよね! これすっごく高価な生地なんだよ!」
よっしゃぁぁあああああああっ!!
これで怪しまれることなく革命軍と接触できるぞ!
そうと決まれば、
「レベッカ、ジェネルを呼んで来て貰えるかい?」
「ジェネル王子ですか? 了解しました」
レベッカはなんでジェネル? って顔したけど、そんなのは決まってる。
スラム街は怖い! 危険! 何より恐ろしい! ってことで、腕っぷしのある親友をボディーガードにつける。
ジェネルは防御魔法だけではなく、攻撃魔法もそれなりに扱えるみたいだし、何かあったら守ってもらわなきゃ。
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