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第21話 革命軍と革命軍
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「い、痛いな~」
肘を擦り剥いてしまった。
「ごめね、ジュノ~」
レベッカにジェネルを呼びに行ってもらったら、シェルバちゃんまでおまけで付いて来たのは予想外。
ついて来たのはいいのだが、マイスター兄妹と仲良くなってからというもの、シェルバちゃんの俺に対する接し方が……ちょっと。
呼び方も親しみを込めてジュノと呼んでくれてるのだが……ってそれはまぁいい。問題は別にある。
それはつい数分前。
屋敷の庭先でジェネルがやって来るのを待っていると、遥か前方から猪突猛進してくる人影を捉えた。
一国のお姫様とは思えない見事なストロークで走り込んでくるのは、シェルバちゃん。
ジェネル曰く、シェルバちゃんは仲の良い人を見ると犬のように突っ込んでくる癖があるらしいのだが、オルパナールは海の戦士。
その脚力も膂力も半端ない。
犬なんて可愛らしいものじゃない! あれは猪そのものだ!
もしくはアメフト選手の攻撃的タックルだろう。
ジェネルのように体格が良く、常日頃鍛えている訳じゃない俺には、そのタックルが恐怖で仕方ない。
一度目は後方数メートルまで突き飛ばされ、二度目は避けようとして肩に直撃、そのまま脱臼した。
三度目の今回は覚悟を決めて受け止めてやろうと、腰を落として足を踏ん張り、いざ勝負と両手を広げる。
「ジュノーーーッ!」
「や、やっぱ無理っ!?」
――ズドーーーーンッ!!
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおおっ!?」
まるで相撲部屋のぶつかり稽古だよ。俺はいつから関取を目指しはじめたのだろう。
そんな妹を止めることもなく、ジェネルはなぜか羨ましそうにこちらを見ている。
お前は突っ込んで来るんじゃないぞ!
さすがに死んでしまうわ!
そして、現在。
気を取り直して2人にアゼルを紹介し、ことの経緯を説明する。
「なるほど! スラムの子供を家臣として支えさせるとは、ジュノスらしい素晴らしい考えだな」
「他の貴族もジュノを見習ったらいいのにねぇ~」
「まったくですよ。ジュノス殿下は素晴らし過ぎます!」
「ははは……」
すべてはバッドエンドを、死にたくないための浅知恵だなんて……口が裂けても言えないな。
てか、こいつらはどれだけ俺を買い被っているのだろう。
化けの皮が剥がれた時が恐怖だな。
「そんなことよりさっさと行こうぜ! 兄ちゃんに早いとこ自慢したいしな」
「そ、そうだな」
いざ、敵陣スラムへ!
万が一の時は頼みますよ、ジェネル先生!
アゼルの案内で街の北側――スラム街へと足を運んだ俺達は、入ってすぐに顔をしかめた。
「す、凄い臭いだな」
「ああ、鼻がもげてしまいそうだ」
スラムに一歩足を踏み入れた瞬間から、毒ガスでも撒いてるんじゃないかと疑いたくなるような悪臭が俺達をどんよりと包み込む。
同時に、劣悪な環境に思わず目を覆いたくなるほどだ。
「そうですか? ジュノも兄上も大袈裟だよね、レベッカ」
「いえ……この臭いは強烈ですよ」
シェルバちゃんの嗅覚は一体全体どうなっているんだ!?
この悪臭の中を平然としているなんて。
「あっ、私今朝から鼻が詰まってたんだった!」
だろうね……。
「スラムのみんなは貧乏だから湯浴びできないんだよ。それに、みんなゴミをその辺に捨てるから臭いんだ!」
「な、なるほど」
まずはスラムの改革から進めた方が良さそうだな。
こんな悪臭漂う中に住んでいたら、そりゃ心だって病んでしまうさ。それに、街を綺麗にする必要もある。
ゴミが蔓延する場所では、感染症とか疫病が発生するかも知れない。
そうなる前に手を打たなければ、大量の死人が出てからでは手遅れだ。
「あそこがオイラ達のアジトだよ!」
スラムの奥へとやって来ると、アゼルが半壊した住居を指差した。
とてもじゃないが、人が住んでいるとは思えない場所だ。
「兄ちゃん、客を連れてきたぞ!」
家(?)の中にお邪魔すると、そこには柄の悪そうな少年少女がズラリと勢揃いしていた。
その中でも一際邪悪なオーラを身にまとっている少年。
彼がアゼルのお兄さん……革命軍のリーダーであるのことは間違いないな。
「アゼルッ! よそ者を簡単にはここへ連れてくるなって言ってるだろ! それに……なんだお前のその恰好はっ?」
「よそ者じゃないやい! この兄ちゃんはこの国の王子で、オイラを家臣にしてくれたファミリーだ!」
「「「王子っ!?」」」
アゼルの紹介で場の空気が一気に変わった。俺達を見る眼が、より一層険しいものとなっている。
完全にアウェイだな。
それに何より、アゼルのお兄さんの表情が殺人鬼みたくおっかなく変化していた。
しかし、臆してもいられない。
こちとら今後の人生が懸かってるんだ!
それに、いざとなったらジェネル先生がついている。
「自己紹介が遅れました。私はリグテリア帝国第三王子、ジュノス・ハードナーと申します」
「何しに来たっ! 弟をたぶらかして何のつもりだっ!」
たぶらかす……そう来たか!
威圧的な態度で威嚇して、俺を懐に入れない作戦か?
だとしたら……その作戦は成功だ!
俺の脚はガクブルだよ!
今すぐに走ってこの場を去りたい。
なんなら一、二滴チビったかも知れない。
この場が悪臭に包まれていて助かった。
それに思い出すな、学生時代を……。
秋葉原に大好きな美少女フィギュアを買いに行って、その帰りにカツアゲされたっけ。
トラウマが蘇ってしまう。
「たぶらかす何てとんでもないですよ。アゼル君を私の屋敷で雇いたいと思っています。できることならこの場に居る皆さんのこともお雇いしたいくらいです!」
「黙れ! 一体なにが狙いだ! 帝国の王族がスラムのネズミを雇いたいなど、裏があるに決まっている!」
「ああ、バレちゃいました! 実はその通り……裏があります!」
敵意……いや、殺意と呼んだ方が正解かな?
震える体におもっクソ力を込めて、何とか平然を装う。
威嚇する獣に弱味を見せたら、たちまち噛みつかれるのは常識だ。
ここは何としても弱味を見せる訳にはいかない。
下手に出るのはすべてが終わった後だ。
「何を企んでやがる!」
善意で弟君や君達を雇いたい……なんて言ったら信じてもらえないだろう。信じてもらえるどころか、見下しやがってと更なる怒りを買う恐れがある。
なら、こちらにもそれなりの思惑があると、初めに伝えた方が説得力は増す。
さらに、俺の思惑を知るまでは手を出すことはしないだろう。
先ずは交渉のテーブルに着かなければ意味をなさない。
「実は……私を筆頭に革命軍を作ろうかと思いまして」
「「「「っ!?」」」」
はい、ビンゴ!
やはり革命軍の話しをここでしていたのだろ?
それに……既にリズベット先輩とも接触しているようだね。
ダメだな~、貰った指輪をそんな風にすぐに身に付けるのは。
それだと、自分が権力者に気に入られていると言っているようなものだよ?
ここで、君達に接触する貴族なんて限られてくる。
リズベット先輩か、アメストリア国のレイラくらいだろう?
だけど、あのプライドの塊のようなレイラが、スラムへと足を運ぶことは考えに難い。
だとすると、やはりリズベット先輩しかいないよね?
「か、革命軍だと!?」
「ええ、革命軍ですよ! この国に住むすべての人が幸せに暮らせる国へと、革命して行くんです! もちろん、対話と知力の限りを尽くしてね!」
おお! 混乱してる、混乱してる。まっ、当然だな。
これから自分達で革命軍を築こうとする最中、俺が先に革命軍を作ると言い出したんだもんね。そりゃ焦るよね。
だけど、これには俺なりの考えがある。
俺が作る革命軍は彼らの革命軍とは違い、今言ったように知恵を絞って人々が住み良い環境へ革命するということ。
では、なぜ革命軍などと言う言葉を使ったのか。
それも簡単。彼らの動きを封じるためだ。
俺は革命軍という言葉を使うことで、3つ、彼らにトラップを仕掛けた。
きっと今、彼らは焦っているだろう。ひょっとしたら自分達がこれからしようとしていることが帝国側にバレているのではないかと。
そう考えた時、国家反逆罪に問われる行為は、自分達に取って自殺行為でしかないと考えるはず。
その1、犯罪防止の抑止力。
さらにさらに、彼らはリズベット先輩のことすら信じられなくなる。
どうしてって? 答えは単純。
自分達の情報がどこから筒抜けになっているのかと考えた時、真っ先に考えるのはリズベット先輩のことだろう。
彼は今、こう考えているはずだ。
ハメられた!? とね。
自分達に美味しい話しを持ってきて、尚且つ宝石までくれたリズベット先輩が、裏切るはずがないと普通は考えるのが、ここは普通ではない。
スラムなんだ!
スラムの住人達の貴族に対する不信感は簡単に払拭できるものではない。
そう考えた時、人は必ず疑心暗鬼に陥る。
自分達を国家反逆罪に陥れ、駆除しようとするクソ貴族だとね。
これが2つ目の罠!
そして、最後の3つ目。
俺が人々の暮らしを改善しようと立ち上げた慈善団体、その名も革命軍。
これは瞬く間に帝国全土に轟くだろう。
なぜって、俺自ら言い振らすからだ。
そうすることで、今後革命軍が勢力を拡大しようとした時、必ず俺の革命と彼らの革命軍で混乱する。
慈善団体に入ったつもりが、国家転覆を目論む悪の組織だったと知れば、善意ある者なら密告者となるはず。
そうなれば、嫌でも父上や大臣、果てはハウス達兄弟が動くだろう。
これは俺が考えた革命軍防止術。 どうだ、参ったか!
「そこで、アゼル君に協力をお願いしたんですよ!」
「きょ、協力だと?」
「はい。まずは手始めに、このスラム街をより良い場に変えていこうじゃないかと」
「ど、どうやって!?」
うん、食いついてきたな。
「まずは、大掃除ですね!」
「は? 掃除だ!? 誰がんっなことすんだよ!」
「誰って……スラムの住人……つまり、皆さんですよ!」
「やるかボケッ! バカにしてんのかっ!!」
「いいえ、バカにするなどとんでもない! きっとここに暮らす多くの皆さんは、自ら喜んでゴミを拾ってくれるはずです! その次は、このスラムに大浴場を建設します」
「そんなの作れる訳ねぇだろうがっ!」
「いえ、作れますよ! なぜなら私は王子です! 私が作ると言えば作れます(たぶん)」
その後はスラムに暮らす者達全員に職を与えよう。
その仕事もちゃんと考えたもんね!
「そのためにも皆さんには是非、私の革命軍に入ってもらいたいのです!」
「……すぐには決めれねぇな。てめぇの今言ったことがハッタりじゃないって証拠がないからな!」
「そうですね! では、一ヶ月……一ヶ月後にはスラムからゴミをなくしてみせましょう!」
「一ヶ月だとっ!? できる訳ねぇ!!」
「では、私と賭けをしませんか?」
「賭け……だと?」
「はい。私が一ヶ月以内にこのスラムからゴミを無くしたら私の勝ち。その時は是非、お兄さんにも私の革命軍に入って頂きます。私が負ければ、何でも一つ言うことを聞くというのはどうでしょう?」
「いいだろう。一ヶ月でゴミだらけのスラムを綺麗にする何て不可能だからな」
こうして、俺のスラム大掃除大作戦が決行された。
肘を擦り剥いてしまった。
「ごめね、ジュノ~」
レベッカにジェネルを呼びに行ってもらったら、シェルバちゃんまでおまけで付いて来たのは予想外。
ついて来たのはいいのだが、マイスター兄妹と仲良くなってからというもの、シェルバちゃんの俺に対する接し方が……ちょっと。
呼び方も親しみを込めてジュノと呼んでくれてるのだが……ってそれはまぁいい。問題は別にある。
それはつい数分前。
屋敷の庭先でジェネルがやって来るのを待っていると、遥か前方から猪突猛進してくる人影を捉えた。
一国のお姫様とは思えない見事なストロークで走り込んでくるのは、シェルバちゃん。
ジェネル曰く、シェルバちゃんは仲の良い人を見ると犬のように突っ込んでくる癖があるらしいのだが、オルパナールは海の戦士。
その脚力も膂力も半端ない。
犬なんて可愛らしいものじゃない! あれは猪そのものだ!
もしくはアメフト選手の攻撃的タックルだろう。
ジェネルのように体格が良く、常日頃鍛えている訳じゃない俺には、そのタックルが恐怖で仕方ない。
一度目は後方数メートルまで突き飛ばされ、二度目は避けようとして肩に直撃、そのまま脱臼した。
三度目の今回は覚悟を決めて受け止めてやろうと、腰を落として足を踏ん張り、いざ勝負と両手を広げる。
「ジュノーーーッ!」
「や、やっぱ無理っ!?」
――ズドーーーーンッ!!
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおおっ!?」
まるで相撲部屋のぶつかり稽古だよ。俺はいつから関取を目指しはじめたのだろう。
そんな妹を止めることもなく、ジェネルはなぜか羨ましそうにこちらを見ている。
お前は突っ込んで来るんじゃないぞ!
さすがに死んでしまうわ!
そして、現在。
気を取り直して2人にアゼルを紹介し、ことの経緯を説明する。
「なるほど! スラムの子供を家臣として支えさせるとは、ジュノスらしい素晴らしい考えだな」
「他の貴族もジュノを見習ったらいいのにねぇ~」
「まったくですよ。ジュノス殿下は素晴らし過ぎます!」
「ははは……」
すべてはバッドエンドを、死にたくないための浅知恵だなんて……口が裂けても言えないな。
てか、こいつらはどれだけ俺を買い被っているのだろう。
化けの皮が剥がれた時が恐怖だな。
「そんなことよりさっさと行こうぜ! 兄ちゃんに早いとこ自慢したいしな」
「そ、そうだな」
いざ、敵陣スラムへ!
万が一の時は頼みますよ、ジェネル先生!
アゼルの案内で街の北側――スラム街へと足を運んだ俺達は、入ってすぐに顔をしかめた。
「す、凄い臭いだな」
「ああ、鼻がもげてしまいそうだ」
スラムに一歩足を踏み入れた瞬間から、毒ガスでも撒いてるんじゃないかと疑いたくなるような悪臭が俺達をどんよりと包み込む。
同時に、劣悪な環境に思わず目を覆いたくなるほどだ。
「そうですか? ジュノも兄上も大袈裟だよね、レベッカ」
「いえ……この臭いは強烈ですよ」
シェルバちゃんの嗅覚は一体全体どうなっているんだ!?
この悪臭の中を平然としているなんて。
「あっ、私今朝から鼻が詰まってたんだった!」
だろうね……。
「スラムのみんなは貧乏だから湯浴びできないんだよ。それに、みんなゴミをその辺に捨てるから臭いんだ!」
「な、なるほど」
まずはスラムの改革から進めた方が良さそうだな。
こんな悪臭漂う中に住んでいたら、そりゃ心だって病んでしまうさ。それに、街を綺麗にする必要もある。
ゴミが蔓延する場所では、感染症とか疫病が発生するかも知れない。
そうなる前に手を打たなければ、大量の死人が出てからでは手遅れだ。
「あそこがオイラ達のアジトだよ!」
スラムの奥へとやって来ると、アゼルが半壊した住居を指差した。
とてもじゃないが、人が住んでいるとは思えない場所だ。
「兄ちゃん、客を連れてきたぞ!」
家(?)の中にお邪魔すると、そこには柄の悪そうな少年少女がズラリと勢揃いしていた。
その中でも一際邪悪なオーラを身にまとっている少年。
彼がアゼルのお兄さん……革命軍のリーダーであるのことは間違いないな。
「アゼルッ! よそ者を簡単にはここへ連れてくるなって言ってるだろ! それに……なんだお前のその恰好はっ?」
「よそ者じゃないやい! この兄ちゃんはこの国の王子で、オイラを家臣にしてくれたファミリーだ!」
「「「王子っ!?」」」
アゼルの紹介で場の空気が一気に変わった。俺達を見る眼が、より一層険しいものとなっている。
完全にアウェイだな。
それに何より、アゼルのお兄さんの表情が殺人鬼みたくおっかなく変化していた。
しかし、臆してもいられない。
こちとら今後の人生が懸かってるんだ!
それに、いざとなったらジェネル先生がついている。
「自己紹介が遅れました。私はリグテリア帝国第三王子、ジュノス・ハードナーと申します」
「何しに来たっ! 弟をたぶらかして何のつもりだっ!」
たぶらかす……そう来たか!
威圧的な態度で威嚇して、俺を懐に入れない作戦か?
だとしたら……その作戦は成功だ!
俺の脚はガクブルだよ!
今すぐに走ってこの場を去りたい。
なんなら一、二滴チビったかも知れない。
この場が悪臭に包まれていて助かった。
それに思い出すな、学生時代を……。
秋葉原に大好きな美少女フィギュアを買いに行って、その帰りにカツアゲされたっけ。
トラウマが蘇ってしまう。
「たぶらかす何てとんでもないですよ。アゼル君を私の屋敷で雇いたいと思っています。できることならこの場に居る皆さんのこともお雇いしたいくらいです!」
「黙れ! 一体なにが狙いだ! 帝国の王族がスラムのネズミを雇いたいなど、裏があるに決まっている!」
「ああ、バレちゃいました! 実はその通り……裏があります!」
敵意……いや、殺意と呼んだ方が正解かな?
震える体におもっクソ力を込めて、何とか平然を装う。
威嚇する獣に弱味を見せたら、たちまち噛みつかれるのは常識だ。
ここは何としても弱味を見せる訳にはいかない。
下手に出るのはすべてが終わった後だ。
「何を企んでやがる!」
善意で弟君や君達を雇いたい……なんて言ったら信じてもらえないだろう。信じてもらえるどころか、見下しやがってと更なる怒りを買う恐れがある。
なら、こちらにもそれなりの思惑があると、初めに伝えた方が説得力は増す。
さらに、俺の思惑を知るまでは手を出すことはしないだろう。
先ずは交渉のテーブルに着かなければ意味をなさない。
「実は……私を筆頭に革命軍を作ろうかと思いまして」
「「「「っ!?」」」」
はい、ビンゴ!
やはり革命軍の話しをここでしていたのだろ?
それに……既にリズベット先輩とも接触しているようだね。
ダメだな~、貰った指輪をそんな風にすぐに身に付けるのは。
それだと、自分が権力者に気に入られていると言っているようなものだよ?
ここで、君達に接触する貴族なんて限られてくる。
リズベット先輩か、アメストリア国のレイラくらいだろう?
だけど、あのプライドの塊のようなレイラが、スラムへと足を運ぶことは考えに難い。
だとすると、やはりリズベット先輩しかいないよね?
「か、革命軍だと!?」
「ええ、革命軍ですよ! この国に住むすべての人が幸せに暮らせる国へと、革命して行くんです! もちろん、対話と知力の限りを尽くしてね!」
おお! 混乱してる、混乱してる。まっ、当然だな。
これから自分達で革命軍を築こうとする最中、俺が先に革命軍を作ると言い出したんだもんね。そりゃ焦るよね。
だけど、これには俺なりの考えがある。
俺が作る革命軍は彼らの革命軍とは違い、今言ったように知恵を絞って人々が住み良い環境へ革命するということ。
では、なぜ革命軍などと言う言葉を使ったのか。
それも簡単。彼らの動きを封じるためだ。
俺は革命軍という言葉を使うことで、3つ、彼らにトラップを仕掛けた。
きっと今、彼らは焦っているだろう。ひょっとしたら自分達がこれからしようとしていることが帝国側にバレているのではないかと。
そう考えた時、国家反逆罪に問われる行為は、自分達に取って自殺行為でしかないと考えるはず。
その1、犯罪防止の抑止力。
さらにさらに、彼らはリズベット先輩のことすら信じられなくなる。
どうしてって? 答えは単純。
自分達の情報がどこから筒抜けになっているのかと考えた時、真っ先に考えるのはリズベット先輩のことだろう。
彼は今、こう考えているはずだ。
ハメられた!? とね。
自分達に美味しい話しを持ってきて、尚且つ宝石までくれたリズベット先輩が、裏切るはずがないと普通は考えるのが、ここは普通ではない。
スラムなんだ!
スラムの住人達の貴族に対する不信感は簡単に払拭できるものではない。
そう考えた時、人は必ず疑心暗鬼に陥る。
自分達を国家反逆罪に陥れ、駆除しようとするクソ貴族だとね。
これが2つ目の罠!
そして、最後の3つ目。
俺が人々の暮らしを改善しようと立ち上げた慈善団体、その名も革命軍。
これは瞬く間に帝国全土に轟くだろう。
なぜって、俺自ら言い振らすからだ。
そうすることで、今後革命軍が勢力を拡大しようとした時、必ず俺の革命と彼らの革命軍で混乱する。
慈善団体に入ったつもりが、国家転覆を目論む悪の組織だったと知れば、善意ある者なら密告者となるはず。
そうなれば、嫌でも父上や大臣、果てはハウス達兄弟が動くだろう。
これは俺が考えた革命軍防止術。 どうだ、参ったか!
「そこで、アゼル君に協力をお願いしたんですよ!」
「きょ、協力だと?」
「はい。まずは手始めに、このスラム街をより良い場に変えていこうじゃないかと」
「ど、どうやって!?」
うん、食いついてきたな。
「まずは、大掃除ですね!」
「は? 掃除だ!? 誰がんっなことすんだよ!」
「誰って……スラムの住人……つまり、皆さんですよ!」
「やるかボケッ! バカにしてんのかっ!!」
「いいえ、バカにするなどとんでもない! きっとここに暮らす多くの皆さんは、自ら喜んでゴミを拾ってくれるはずです! その次は、このスラムに大浴場を建設します」
「そんなの作れる訳ねぇだろうがっ!」
「いえ、作れますよ! なぜなら私は王子です! 私が作ると言えば作れます(たぶん)」
その後はスラムに暮らす者達全員に職を与えよう。
その仕事もちゃんと考えたもんね!
「そのためにも皆さんには是非、私の革命軍に入ってもらいたいのです!」
「……すぐには決めれねぇな。てめぇの今言ったことがハッタりじゃないって証拠がないからな!」
「そうですね! では、一ヶ月……一ヶ月後にはスラムからゴミをなくしてみせましょう!」
「一ヶ月だとっ!? できる訳ねぇ!!」
「では、私と賭けをしませんか?」
「賭け……だと?」
「はい。私が一ヶ月以内にこのスラムからゴミを無くしたら私の勝ち。その時は是非、お兄さんにも私の革命軍に入って頂きます。私が負ければ、何でも一つ言うことを聞くというのはどうでしょう?」
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