婚約破棄を言い渡された悪役令嬢から復讐依頼が届きました。

葉月

文字の大きさ
2 / 6

第2話 迷探偵?

しおりを挟む
 依頼を引き受けた俺は屋敷を後にした。
 目指すは街の高台――死者が眠る墓地だ。

「随分と嬉しそうですね。にやけ面が気持ち悪いですよ、バン様」

 相変わらずの悪態をついてくるメアをよそ目に、俺は街を闊歩する。

「これが楽しくないわけないだろ。俺に依頼の手紙を差し出した当の本人は三ヶ月前に死んでいたのだぞ!」

「キャサリンが三ヶ月前に手紙をバン様に差し出したかも知れないじゃなですか。それに、届け日の指定をしていればその程度は可能だと思うのですけど……」

 何とロマンのないことを平然と口にする相棒だ。確かに届け日の指定をすればそれは可能だが、それはまずあり得ない。

「どうしてですか?」

「だ・か・ら・人の心を読まないで貰えるかい?」

「いちいち言葉にされるのを待つのは面倒なんですよ。バン様はすぐに興奮して頭の中で会話をする癖をお持ちなので」

 可愛くないな~。

「バン様に可愛がられたくもありませんが」

「あのね、いちいち突っかかってこないで貰えるかな? 俺は今空前絶後のロマンと向き合っているのだよ。メア君」

「呼び捨てなのかちゃん付けなのか、それとも君付けなのかはっきりして頂けますか? 気分で変えられるのは迷惑です! ふんっ」

 いやぁぁあああああああああああっ!?
 全っ然可愛くない! 根性ひん曲がってるんじゃないのか!

「お互い様ですよ」

 ともあれ、キャサリンが三ヶ月前に手紙を書いたという線は薄い。
 そもそも、キャサリンが死に至る原因となった事件が起こったのが丁度三ヶ月前。

 父親であるタトナー公爵の話では、三ヶ月前にキャサリンはこの国の第四王子に婚約破棄を言い渡された。
 それも、通われていた学園の舞踏会で。
 公の場で恥を掻かされた上に、皆に婚約破棄を知られ、挙げ句の果てに別の令嬢とその場で婚約を発表されれば……精神的に可笑しくなり、自害してしまっても不思議ではない。

 貴族の、それも公爵令嬢が婚約破棄されたとなれば、家族から縁を切られることも珍しくない。
 運が悪ければ修道院に放り込まれるだろう。
 精神が不安定となったキャサリンは自ら死を選んだ。そんな精神不安定な状況の中、わざわざ届け日指定をして俺に手紙を差し出すか?

 あり得ない。

 そんなに頭が働くのであれば、自害などしないだろう。何も考えられないほどに追い詰められ、絶望の淵に立たされた彼女は死という安易な考えにしかたどり着けなかった。
 そのような状況の者が、どこの馬の骨とも知れぬ俺に助けを求めること自体が摩訶不思議だと言えよう。

 しかし、確かに俺の元に手紙は届けられた。
 それも、父親であるタトナー公爵が娘の筆跡で間違いないと認めた、キャサリン自身の手で書かれた手紙がだ。
 これは一体どいういことなのだろうな。

 まさか、死者が無念を晴らすために黄泉の国より舞い戻って来たとでもいうのか?
 馬鹿馬鹿しい。そんなことがあるわけない。

 では、考えられることは一つだ。

 キャサリンは生きているということ。
 実は彼女が死んでなどいないということだ。
 彼女は婚約破棄をした王子に自らの愚かさを知らしめるために自演自作に打って出た。
 もしそうなれば、あの屋敷に居たものは全員グルだろう。

 さすがの公爵家でも、一国の王に反論など容易くできる訳がない。そんなことをしてしまえば、タトナー家の今後に大きく左右してしまう。
 要は泣き寝入りしかない。

 しかし、それでは気が収まらないタトナー家は、世間に第四王子の身勝手な振る舞いで娘が自害したと公にする。
 そうなれば、民衆は王家を批判することになる。
 第四王子は世間からも貴族からも酷いバッシングを一身に受けること間違いなし。

 だが、自らいい触らしてしまえば公爵家の名誉に関わる。
 そこで、化けて出たキャサリンが俺に手紙を差し出したとする。
 そうなれば、俺が面白がって勝手に喧伝して回ると考えたのだろう。

 真実を確かめるため、俺はこれから墓を掘り起こす。
 本当にキャサリン自身が墓地の下に眠っているのか見物だ。
 俺の予想では替え玉が眠っていると見ている。

 墓を掘り起こす許可はタトナー公爵から得ている。彼は俺がキャサリンを知らないから問題ないと考えたのだろう。
 だけど残念。俺には相棒のメアがいる。

 彼女はとても鼻が利く。
 キャサリンが生前身に付けていたというブローチを借りたので、彼女の匂いを嗅ぎ分けることくらい朝飯前だ。

 事件の全貌が見えてくれば実にくだらない。
 これでは俺の好奇心と探求心はこれっぽっちも満たされることはない。

 墓地にやって来た俺は、キャサリン・タトナーと書かれた墓石を掘り起こす。
 掘り起こすためのシャベルはここへやって来るまでの道筋で購入した。

 罪のない少女を替え玉にしたタトナー家を許すわけにはいかない。
 全力でお前達の悪事を暴いてやる。
 息巻いて墓を掘り返し、棺に眠る少女をメアに鑑定させると、

「間違いないです。これはキャサリン本人のようですね」

「そうだろう、そうだろう。俺の推理に狂いはない……えっ!? 今なんと?」

「だから、この少女は間違いなくブローチの持ち主、キャサリン・タトナー本人だと言ったのですよ」

「バカなっ!?」

 そんなわけあるかっ!
 では何か、死んだキャサリンが化けて俺には手紙を出したと!? そんなアホな話があって堪るかっ!

「ブローチだ! このブローチ自体がキャサリンの私物ではなく、殺されて替え玉にさせられた少女の物なのだ!」

 そうだ。そうに違いない。
 我れながら冴えている。

「それはないですよ。だって、この遺体の少女の匂いは確かに屋敷に残っていた匂いと同じ。いくらなんでも屋敷に長年匂いを染み付けるなんて不可能ですよ」

「そんなバカなっ!? では何か、キャサリンが本当に化けて手紙を書いたというのか!」

「う~ん。それは考えにくいですね。第一死者が勝手に黄泉の国から出ていけば、ハーデスが気づかないはずありませんもん」

「では……俺が受け取った手紙は何なのだ!」

「さぁ~、でも良かったじゃないですか。これはまさにバン様が望んでおられた摩訶不思議現象ですよ!」

「…………」

 た、確かにこれは……摩訶不思議現象なのだが、気味が悪いな。
 それに、事件が振り出しに戻ってしまったじゃないか。


「まさにこれは難事件だな」

 メアが面倒臭そうに俺を一瞥する。

「ハァー……バン様は摩訶不思議な現象がお好きなのではなく、そうやって自分自身に酔いしれているのが好きだということを自覚された方がいいのでは?」

「ん……何か言ったか?」

「いいえ、何でもありません」

 これは本格的に調査する必要があるな。
 まさに、バン・レガシー事件簿に相応しい難事件と言えよう。


 こうして、俺は本格的にこの事件の調査に乗り出した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。

有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。 特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。 けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。 彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下! 「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。 私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...