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魔導研究所の堅物たち
第23話
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戦空艇のドックから繋がる細い通路を行くと、先立って歩いていたシキが立ち止まった。
クリスティーナがシキの背中越しに見ると、彼がわずかに錆びついた鉄製の扉のドアノブに手をかけ、ガチャリと開けていた。
「ティナ、どうぞ。ここが……」
「ちょっとシキさん、どこに行っていたんですか!? 探していたんですよ! 確認してもらいたいものが……って、え!?」
案内された研究室に入ったとたん、青い軍服を着た青年が、ぽかんと口を開けて固まった。
どうしたのかしら、とクリスティーナが小首を傾げるのと同時に、青年が叫んだ。
「ひ、ひぇっ! 何でここに噂の悪女殿下が!? ウソでしょ……」
ドタン、と大きな音を立てて青年が尻もちをつき、後ろへずりずりと下がる。クリスティーナの顔を凝視したまま、どんどん青ざめていく。
騒ぎを聞きつけたのか、研究室の奥から、やはり青い軍服を着た二人の青年が駆けつけてきた。
「どうした、ヨアン……って、うわぁ! なぜここに悪女殿下が!?」
「遠くからしか見たことなかったけど、すげー美人! 良い匂いがするねぇ」
彼らは鼻息荒く、興奮を隠さないまま、クリスティーナをまじまじと見る。
こんなところまで自分の評判が伝わっているのか、とクリスティーナは逆に感心した。
「ヨアン、叫ばない。ポール、ご本人に悪女と言わない。それとハンス。嗅ぐな、変態が」
シキがクリスティーナをさっと背に隠し、言葉の終わりはドスの利いた低音で、冷ややかに睨みつけた。
「やだなー、シキったら。冗談、冗談だよねぇ」
「おい、ハンス。やめろ。シキ、マジで怒ってんじゃん!」
シキに睨まれているのにへらへらと軽々しいハンスに、髪を逆立てて慌てふためくポールの振る舞いが、第三師団の団員に重なって、クリスティーナは思わずひょっこりと姿を見せた。
「面白いのね、あなたたち。研究者だからもっとお堅いのかと思っていたわ」
団員とどこか似ている所員たちと目が合うと、クリスティーナはふふふ、と目尻を下げて柔らかく笑った。
「皇女殿下が笑った!」
「かわいいねぇ!」
「うるさいですよ、あなたたち。皇女殿下の御前です。それに本日は師団長としてお出でになったのでで、閣下とお呼びするように」
ポールとハンスが目を丸くして、鼻の下をデレっと伸ばした。
シキはその様子に溜息を零すと、愁傷に詫びを口にする。
「すみません、うちの所員がお騒がせして」
「気にしてないわ。第三師団も似たようなものだもの。みなさん、初めまして。お仕事のお邪魔だったかしら?」
「滅相もない。閣下ならいつでも!」
「閣下、どうぞお席にお座りください。案内しますねぇ」
「いや、それは私がするんですが……」
簡単にあしらわれているシキの珍しい姿に、クリスティーナはわずかに目を見開いた。
彼らは研究所の所員たちで、ポール、ハンス、ヨアンと名乗ってくれた。
ポールとハンスはシキと同期で、ヨアンはその一つ下ということだった。
ヨアンだけはクリスティーナを未だ警戒してか、ポールとハンスの後ろに隠れてこちらを伺っていた。
「閣下、今日はどうしてこちらに? 研究所なんて滅多に客がこないところなんですが」
案内された、研究所内にある応接セットのソファにクリスティーナが腰かけると、待ってましたとばかりにポールから質問が飛んできた。
「製作会議で提案したいことがあって、シキに招待してもらったのよ」
「え、閣下が製作会議で提案を!? 閣下は悪女ではないのですか?」
「ヨアン、口が過ぎますよ。それに噂を鵜呑みにするものではありません」
シキに諫められながら隠れていたヨアンがひょこっと顔を出す。どうやらクリスティーナに興味を持ったらしい。
「あの、閣下がどうして提案なんて? 正直、うちの連中はそれなりのレベルですし、必要な魔導機械や武器はすでに作らせてもらっていると思うんですが」
「その中であえて提案されるんですねぇ」
ポールとハンスが不思議そうにクリスティーナを見て、首をひねった。
その様子にどこか違和感があり、クリスティーナはわずかに片眉を上げた。
(驕り、なのかしら……)
クリスティーナがシキの背中越しに見ると、彼がわずかに錆びついた鉄製の扉のドアノブに手をかけ、ガチャリと開けていた。
「ティナ、どうぞ。ここが……」
「ちょっとシキさん、どこに行っていたんですか!? 探していたんですよ! 確認してもらいたいものが……って、え!?」
案内された研究室に入ったとたん、青い軍服を着た青年が、ぽかんと口を開けて固まった。
どうしたのかしら、とクリスティーナが小首を傾げるのと同時に、青年が叫んだ。
「ひ、ひぇっ! 何でここに噂の悪女殿下が!? ウソでしょ……」
ドタン、と大きな音を立てて青年が尻もちをつき、後ろへずりずりと下がる。クリスティーナの顔を凝視したまま、どんどん青ざめていく。
騒ぎを聞きつけたのか、研究室の奥から、やはり青い軍服を着た二人の青年が駆けつけてきた。
「どうした、ヨアン……って、うわぁ! なぜここに悪女殿下が!?」
「遠くからしか見たことなかったけど、すげー美人! 良い匂いがするねぇ」
彼らは鼻息荒く、興奮を隠さないまま、クリスティーナをまじまじと見る。
こんなところまで自分の評判が伝わっているのか、とクリスティーナは逆に感心した。
「ヨアン、叫ばない。ポール、ご本人に悪女と言わない。それとハンス。嗅ぐな、変態が」
シキがクリスティーナをさっと背に隠し、言葉の終わりはドスの利いた低音で、冷ややかに睨みつけた。
「やだなー、シキったら。冗談、冗談だよねぇ」
「おい、ハンス。やめろ。シキ、マジで怒ってんじゃん!」
シキに睨まれているのにへらへらと軽々しいハンスに、髪を逆立てて慌てふためくポールの振る舞いが、第三師団の団員に重なって、クリスティーナは思わずひょっこりと姿を見せた。
「面白いのね、あなたたち。研究者だからもっとお堅いのかと思っていたわ」
団員とどこか似ている所員たちと目が合うと、クリスティーナはふふふ、と目尻を下げて柔らかく笑った。
「皇女殿下が笑った!」
「かわいいねぇ!」
「うるさいですよ、あなたたち。皇女殿下の御前です。それに本日は師団長としてお出でになったのでで、閣下とお呼びするように」
ポールとハンスが目を丸くして、鼻の下をデレっと伸ばした。
シキはその様子に溜息を零すと、愁傷に詫びを口にする。
「すみません、うちの所員がお騒がせして」
「気にしてないわ。第三師団も似たようなものだもの。みなさん、初めまして。お仕事のお邪魔だったかしら?」
「滅相もない。閣下ならいつでも!」
「閣下、どうぞお席にお座りください。案内しますねぇ」
「いや、それは私がするんですが……」
簡単にあしらわれているシキの珍しい姿に、クリスティーナはわずかに目を見開いた。
彼らは研究所の所員たちで、ポール、ハンス、ヨアンと名乗ってくれた。
ポールとハンスはシキと同期で、ヨアンはその一つ下ということだった。
ヨアンだけはクリスティーナを未だ警戒してか、ポールとハンスの後ろに隠れてこちらを伺っていた。
「閣下、今日はどうしてこちらに? 研究所なんて滅多に客がこないところなんですが」
案内された、研究所内にある応接セットのソファにクリスティーナが腰かけると、待ってましたとばかりにポールから質問が飛んできた。
「製作会議で提案したいことがあって、シキに招待してもらったのよ」
「え、閣下が製作会議で提案を!? 閣下は悪女ではないのですか?」
「ヨアン、口が過ぎますよ。それに噂を鵜呑みにするものではありません」
シキに諫められながら隠れていたヨアンがひょこっと顔を出す。どうやらクリスティーナに興味を持ったらしい。
「あの、閣下がどうして提案なんて? 正直、うちの連中はそれなりのレベルですし、必要な魔導機械や武器はすでに作らせてもらっていると思うんですが」
「その中であえて提案されるんですねぇ」
ポールとハンスが不思議そうにクリスティーナを見て、首をひねった。
その様子にどこか違和感があり、クリスティーナはわずかに片眉を上げた。
(驕り、なのかしら……)
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