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魔導研究所の堅物たち
第22話
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クリスティーナの眼前に現れたのは、一機の巨大な戦空艇を飲み込む大きな空間だった。
ここは戦空艇のドックなのだろう。船舶のドックと同様、周りを階段状の壁にぐるっと取り囲まれている構造になっている。何基もある魔力を利用した照明が下を向き、戦空艇を煌々と照らしている。
クリスティーナがいる場所は、ちょうど階段状の壁の一番上の部分だから、戦空艇がよく見える。
彼女は立ち尽くすように動かず、この光景から目が離せなかった。
「ここは魔導研究所の中心部にあたりますが、この場所は所員が戦空艇の研究を行っている場所です」
「地下にこんな広大な施設があったなんて、知らなかったわ」
「軍事機密ですからね。一部の人間しか知りません。皇太子殿下からこの話を聞いたことは?」
「あのお兄様が教えてくれるはずがないわ。ただ一言、古びた塔はカモフラージュだと」
「殿下が言いそうなことです。この研究施設は、数年前に皇太子殿下の肝いりで造られたものです。これまでの戦空艇の開発もここで行いました」
ここで愛してやまない戦空艇が生まれたのか、とクリスティーナは目を細めた。
戦空艇は世界初の空飛ぶ戦艦だ。
これをシキや研究所所員たちが開発したのだ。相当優秀であることは間違いない。
シキは「誇り高き魔導研究所」と言ったが、自称でも何でもない事実なのだ。
そして、目の前にある戦空艇は見たことがない型だ。プロペラの数や船体の装甲が違う。
「この戦空艇は?」
「やはり気になりますか。これは新型ですよ」
「新型?」
「現在開発中のものですよ。例えば装甲はこれまで木造でしたが、ミスリルを使用して強化しました。速度の向上のためにプロペラの数を増加。さらに、その動力源を魔導石じゃないものを搭載しようと進めていて……」
「待って。そんな機密情報を、わたくしに話しても大丈夫なの?」
研究者特有の堰を切ったように話すシキに対して、思わず口を挟んでしまった。
専門家の意見を聞くことは胸が躍るが、そわそわしてしまう。
けれども、シキはきょとんとした後、何かに気がついたかのようにふっと笑った。
「大丈夫ですよ。新型がお披露目される時は、総力を挙げて大々的にやるでしょう。その時、この新型に誰が乗っていれば派手な演出ができるのか? レオンの考えていることぐらい、残念ながらわかるのでは?」
「……そうね、残念ながら。その時がきたら、真っ先にお兄様と顔を合わせることになるわね」
「だからティナには、このぐらいの情報は問題ありませんよ」
シキの兄への理解力の高さに、クリスティーナは思わず笑ってしまった。
兄が友人と言ったのを半信半疑で聞いていたが、本当に友人だったのか、と感心してしまう。
皇族という立場上、そういった対等な関係性を得るのは難しいものだ。少し兄が羨ましい。
「お兄様のことをレオンと呼ぶのね。シキはお兄様の友人だと聞いたわ」
「そうですね。付き合いの長い友人です」
「そう。もしかして、わたくしもあなたと会ったことがあるのかしら?」
ぽろりとこぼれ落ちた言葉に、あ、とクリスティーナは目を瞠った。
無防備な質問だった。
記憶にない己の過去を、普段顧みることはないのに。
「……どうして?」
「いえ、今のは忘れてちょうだい」
こちらを訝しむ声に、ふるふると首を振って否定を示す。
早く話を切り上げたくて、どうしようもなかった。
「この空間をいつまでも眺めていたいけれど、そろそろ先へ進みたいわ」
「そうですね。この奥が私たちの研究室です。こちらです」
背中を向けて新たな通路を進むシキに、クリスティーナは少し遅れてついていった。
不自然な切り上げ方に、シキがどんな表情をしているのかはわからない。
とりあえず、最大の秘密に手を伸ばされなったことに、そっと安堵の息を零した。
ここは戦空艇のドックなのだろう。船舶のドックと同様、周りを階段状の壁にぐるっと取り囲まれている構造になっている。何基もある魔力を利用した照明が下を向き、戦空艇を煌々と照らしている。
クリスティーナがいる場所は、ちょうど階段状の壁の一番上の部分だから、戦空艇がよく見える。
彼女は立ち尽くすように動かず、この光景から目が離せなかった。
「ここは魔導研究所の中心部にあたりますが、この場所は所員が戦空艇の研究を行っている場所です」
「地下にこんな広大な施設があったなんて、知らなかったわ」
「軍事機密ですからね。一部の人間しか知りません。皇太子殿下からこの話を聞いたことは?」
「あのお兄様が教えてくれるはずがないわ。ただ一言、古びた塔はカモフラージュだと」
「殿下が言いそうなことです。この研究施設は、数年前に皇太子殿下の肝いりで造られたものです。これまでの戦空艇の開発もここで行いました」
ここで愛してやまない戦空艇が生まれたのか、とクリスティーナは目を細めた。
戦空艇は世界初の空飛ぶ戦艦だ。
これをシキや研究所所員たちが開発したのだ。相当優秀であることは間違いない。
シキは「誇り高き魔導研究所」と言ったが、自称でも何でもない事実なのだ。
そして、目の前にある戦空艇は見たことがない型だ。プロペラの数や船体の装甲が違う。
「この戦空艇は?」
「やはり気になりますか。これは新型ですよ」
「新型?」
「現在開発中のものですよ。例えば装甲はこれまで木造でしたが、ミスリルを使用して強化しました。速度の向上のためにプロペラの数を増加。さらに、その動力源を魔導石じゃないものを搭載しようと進めていて……」
「待って。そんな機密情報を、わたくしに話しても大丈夫なの?」
研究者特有の堰を切ったように話すシキに対して、思わず口を挟んでしまった。
専門家の意見を聞くことは胸が躍るが、そわそわしてしまう。
けれども、シキはきょとんとした後、何かに気がついたかのようにふっと笑った。
「大丈夫ですよ。新型がお披露目される時は、総力を挙げて大々的にやるでしょう。その時、この新型に誰が乗っていれば派手な演出ができるのか? レオンの考えていることぐらい、残念ながらわかるのでは?」
「……そうね、残念ながら。その時がきたら、真っ先にお兄様と顔を合わせることになるわね」
「だからティナには、このぐらいの情報は問題ありませんよ」
シキの兄への理解力の高さに、クリスティーナは思わず笑ってしまった。
兄が友人と言ったのを半信半疑で聞いていたが、本当に友人だったのか、と感心してしまう。
皇族という立場上、そういった対等な関係性を得るのは難しいものだ。少し兄が羨ましい。
「お兄様のことをレオンと呼ぶのね。シキはお兄様の友人だと聞いたわ」
「そうですね。付き合いの長い友人です」
「そう。もしかして、わたくしもあなたと会ったことがあるのかしら?」
ぽろりとこぼれ落ちた言葉に、あ、とクリスティーナは目を瞠った。
無防備な質問だった。
記憶にない己の過去を、普段顧みることはないのに。
「……どうして?」
「いえ、今のは忘れてちょうだい」
こちらを訝しむ声に、ふるふると首を振って否定を示す。
早く話を切り上げたくて、どうしようもなかった。
「この空間をいつまでも眺めていたいけれど、そろそろ先へ進みたいわ」
「そうですね。この奥が私たちの研究室です。こちらです」
背中を向けて新たな通路を進むシキに、クリスティーナは少し遅れてついていった。
不自然な切り上げ方に、シキがどんな表情をしているのかはわからない。
とりあえず、最大の秘密に手を伸ばされなったことに、そっと安堵の息を零した。
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