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第三師団の魔獣討伐
第31話
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重く垂れこめる分厚い雲から、バラバラバラ……と、勢いよく回転するプロペラ音が響く。
プロペラの推進力を得て、雲間から姿を現したのは第三師団の戦空艇だ。コバルトブルーが似合う戦空艇だが、残念ながら曇天を飛行している。
戦空艇が進む先の地上の景色は、地表を覆う瑞々しい緑が徐々に薄くなり、草木が生えない灰色がかったような岩山が広がっていた。
「まもなくナウシエト上空だ」
戦空艇内の司令室で、クリスティーナは側に控えるエドワードから報告を受ける。
彼女は前面に張られた大きなガラスの向こうの景色を、腕を組んで見据えていた。
いよいよ帝国の領土の中でも端に位置する、帝国領ナウシエトが近づいて来た。
本日、第三師団に課された任務は、ナウシエト遺跡のワイバーンの巣の討伐及びロストテクノロジーの調査だった。晴天の方が良かったが、天気を操ることはできないのだから仕方がない。
「遺跡との距離百まではそのまま進んで。距離五十になったら作戦開始よ」
「了解、クリス閣下。しっかし……ザートツェントル殿は紅の軍服が似合ねーな」
「そうですか?」
エドワードの険のある物言いに、同じくクリスティーナの側に控えていたシキが首を傾げた。
今日のシキは魔導研究所の青の制服ではなく、戦空艇団の紅の軍服姿だ。
彼が紅の軍服に袖を通したのは、クリスティーナを上官と認めてからこの日が初めて。
その姿に沸き立つような気持ちになったのは、シキには内緒だ。
「私はティナと恋人のようにお揃いだなと思っていたので、喜んでいたのですが」
「こ、恋人!? 恥ずかしいこと言わないでくださる!?」
「婚約者なのですから、照れなくてもいいんですよ。ティナ」
「クリス閣下は嫌がってんだよ!」
「いいえ! 私たちはお揃いです。ペアルックです! なんて素敵な発想なのでしょう、シキさん!」
エドワードの言葉に被せるように、興奮気味に声を上げたのは、瞳を輝かせているモニカだ。
「なぜ私は今まで気づかなかったんでしょう。軍服はまさに閣下とペアルック! 推しと同じものを身につけているなんて、幸せ過ぎませんか!?」
「おーい、モニカ。暴走してっぞ。今からワイバーンの巣を叩きに行くのに、ここで力を使ってどうする」
頭をぼりぼりとかきながらマルスが言えば、モニカは一瞬きょとんした後、たはは、と笑い眉を下げた。
周りの団員達もつられてくすくすと笑い、戦空艇内の空気が少し和らいだ。
(それにしても、エドワードはどうしたのかしら……。人に突っかかっていくことなんてなかったのに)
人と分け隔てなく仲良くなれるタイプのエドワードにしては、珍しい態度だった。
副官同士で相性が悪かったのか。だからといって、シキを副官に据えたのは戦空艇団総師団長である兄だ。命令に背くわけにはいかないことはわかっているのだろうか。
……わかっているから、その態度なのかもしれないが。
「閣下、遺跡まで距離百を切ったぞ。現在、距離九十」
エドワードが作戦までのカウントダウンを知らせる。
眉を顰めてどこか不機嫌そうなエドワードに向き直り、しっかりと彼の目を見つめた。
「エドワード。今日の任務はあなたがわたくしに代わって、指揮を執るのよ」
「クリス閣下」
クリスティーナはこの後、戦空艇をしばらく離れる。シキとともにナウシエト遺跡の調査に行くのだ。シキは調査員として、クリスティーナは護衛として。
その間の第三師団の指揮については事前に話をしており、副官として信頼の厚い、エドワードに任せることにしたのだ。
「作戦の要はエドワードよ。あなたを信じているわ」
クリスティーナが言葉に信頼を乗せると、エドワードはごくりと生唾を飲み込み、気合を入れ直すように拳を握った。
「任せてくれ、クリス閣下。必ず帰ってこいよ!」
「当り前よ。心配性ね。わたくしは第三師団に必ず帰ってくるわ」
嫣然と微笑んで見せれば、エドワードが目元を少し赤く染め、眩しいものでも見るように目を細めた。
プロペラの推進力を得て、雲間から姿を現したのは第三師団の戦空艇だ。コバルトブルーが似合う戦空艇だが、残念ながら曇天を飛行している。
戦空艇が進む先の地上の景色は、地表を覆う瑞々しい緑が徐々に薄くなり、草木が生えない灰色がかったような岩山が広がっていた。
「まもなくナウシエト上空だ」
戦空艇内の司令室で、クリスティーナは側に控えるエドワードから報告を受ける。
彼女は前面に張られた大きなガラスの向こうの景色を、腕を組んで見据えていた。
いよいよ帝国の領土の中でも端に位置する、帝国領ナウシエトが近づいて来た。
本日、第三師団に課された任務は、ナウシエト遺跡のワイバーンの巣の討伐及びロストテクノロジーの調査だった。晴天の方が良かったが、天気を操ることはできないのだから仕方がない。
「遺跡との距離百まではそのまま進んで。距離五十になったら作戦開始よ」
「了解、クリス閣下。しっかし……ザートツェントル殿は紅の軍服が似合ねーな」
「そうですか?」
エドワードの険のある物言いに、同じくクリスティーナの側に控えていたシキが首を傾げた。
今日のシキは魔導研究所の青の制服ではなく、戦空艇団の紅の軍服姿だ。
彼が紅の軍服に袖を通したのは、クリスティーナを上官と認めてからこの日が初めて。
その姿に沸き立つような気持ちになったのは、シキには内緒だ。
「私はティナと恋人のようにお揃いだなと思っていたので、喜んでいたのですが」
「こ、恋人!? 恥ずかしいこと言わないでくださる!?」
「婚約者なのですから、照れなくてもいいんですよ。ティナ」
「クリス閣下は嫌がってんだよ!」
「いいえ! 私たちはお揃いです。ペアルックです! なんて素敵な発想なのでしょう、シキさん!」
エドワードの言葉に被せるように、興奮気味に声を上げたのは、瞳を輝かせているモニカだ。
「なぜ私は今まで気づかなかったんでしょう。軍服はまさに閣下とペアルック! 推しと同じものを身につけているなんて、幸せ過ぎませんか!?」
「おーい、モニカ。暴走してっぞ。今からワイバーンの巣を叩きに行くのに、ここで力を使ってどうする」
頭をぼりぼりとかきながらマルスが言えば、モニカは一瞬きょとんした後、たはは、と笑い眉を下げた。
周りの団員達もつられてくすくすと笑い、戦空艇内の空気が少し和らいだ。
(それにしても、エドワードはどうしたのかしら……。人に突っかかっていくことなんてなかったのに)
人と分け隔てなく仲良くなれるタイプのエドワードにしては、珍しい態度だった。
副官同士で相性が悪かったのか。だからといって、シキを副官に据えたのは戦空艇団総師団長である兄だ。命令に背くわけにはいかないことはわかっているのだろうか。
……わかっているから、その態度なのかもしれないが。
「閣下、遺跡まで距離百を切ったぞ。現在、距離九十」
エドワードが作戦までのカウントダウンを知らせる。
眉を顰めてどこか不機嫌そうなエドワードに向き直り、しっかりと彼の目を見つめた。
「エドワード。今日の任務はあなたがわたくしに代わって、指揮を執るのよ」
「クリス閣下」
クリスティーナはこの後、戦空艇をしばらく離れる。シキとともにナウシエト遺跡の調査に行くのだ。シキは調査員として、クリスティーナは護衛として。
その間の第三師団の指揮については事前に話をしており、副官として信頼の厚い、エドワードに任せることにしたのだ。
「作戦の要はエドワードよ。あなたを信じているわ」
クリスティーナが言葉に信頼を乗せると、エドワードはごくりと生唾を飲み込み、気合を入れ直すように拳を握った。
「任せてくれ、クリス閣下。必ず帰ってこいよ!」
「当り前よ。心配性ね。わたくしは第三師団に必ず帰ってくるわ」
嫣然と微笑んで見せれば、エドワードが目元を少し赤く染め、眩しいものでも見るように目を細めた。
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