57 / 100
三人目の元婚約者は、隣国の王弟殿下
第57話
しおりを挟む
(そう言えば、わたくしが戦っている姿を見るのは初めてじゃないかしら。ナガトはわたくしの力量を知らない。だったら、この男は何者なの?)
明らかにクリスティーナを狙っていることはわかる。誰の手の者だろうか。
(太刀筋があまりにも規則正しい。まるで王宮に仕える騎士のよう……)
相手はなかなかの手練れだが、クリスティーナは違和感を持った。
刺客ともなれば実戦ばかりを積んだ者たちだ。
王宮の騎士とはそこに大きな差があり、彼らの太刀筋は明らかに「生きている」とクリスティーナは感じる。
悲しいかなクリスティーナは皇女で命を狙われることも多かったし、なにより自身が軍人で戦場に身を置くことも多かったから、そういったことがよくわかった。
(それしても、動きにくいわね)
一旦間合いを取ったとき、カツンと自分のヒールの音が鳴った。
軍服であればいくらでも動ける。けれども、今のドレス姿やヒールでは動きが制限されてしまい、相手を仕留めるのは骨が折れる。
(短期決戦で仕留めるしかないわね)
「きゃああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
ナガトと令嬢たちの悲鳴に反射的に振りむけば、令嬢たちを飛び越えて刺客がもう一人現れた。
剣を構え、クリスティーナに真っ直ぐ向かってくる。
同時に今まで相対していた刺客も襲ってくる。
チッ、と軽く舌打ちしたクリスティーナは、構えた瞬間に何かに気づいた。
(っ! さらに一人いる!!)
「な、何で上からも狙ってるんだ!? 話が違う! おい、クリスティーナ、上だ。上にいるぞ!」
ナガトも気づき、騒ぎ出す。
すぐさま視線を上げると、屋根伝いに走りこんでくる刺客がいた。
キラリと光る刀身がクリスティーナを狙う。
「お、おい。何をやっているんだ、クリスティーナ!」
クリスティーナは迎え撃とうとしたが、ふと構えを解いて、やめてしまった。
迫りくる刺客たちの刃に恐怖が刺激され、息ができない。
心臓の激しい鼓動が、身体全体から聞こえてくる。
生と死のボーダーライン。
ギリギリの感覚。
記憶を失っているクリスティーナは、時折自分の存在が分からなくなる。
自分は生きているのか、生きながらに死んでいるのか。
生きている感覚があやふやだ。
けれどもこの瞬間は、
「……生きてるって、感じがする」
衝動的に確かめたくなるのだ。
本当に自分自身が生きていていいのかどうかを。
その時、存在が消えてなくなったとしても。
刺客の刃が間近に迫った時、クリスティーナの頭は真っ白になった。
思い出せ、目覚めよ。
……もう失うわけにはいかない。
どこかで聞いた言葉が頭に響いた。
刹那、ビュンッ、と鞭のようにしなった三本の刀身が、三人の男たちの足を貫いた。
「ぎゃあああ!」
不意を突かれた男たちは苦悶の表情でその場にうずくまり、屋根から襲撃した男はテラスに激突した。
クリスティーナは目を見開き、ハッと短い息を吐いた。
「ティナ、どうして構えを解いたんです?」
「シキ」
「危なかったでしょう。命を粗末に扱うつもりですか」
テラスに現れたシキがクリスティーナの隣に立った。
明らかにクリスティーナを狙っていることはわかる。誰の手の者だろうか。
(太刀筋があまりにも規則正しい。まるで王宮に仕える騎士のよう……)
相手はなかなかの手練れだが、クリスティーナは違和感を持った。
刺客ともなれば実戦ばかりを積んだ者たちだ。
王宮の騎士とはそこに大きな差があり、彼らの太刀筋は明らかに「生きている」とクリスティーナは感じる。
悲しいかなクリスティーナは皇女で命を狙われることも多かったし、なにより自身が軍人で戦場に身を置くことも多かったから、そういったことがよくわかった。
(それしても、動きにくいわね)
一旦間合いを取ったとき、カツンと自分のヒールの音が鳴った。
軍服であればいくらでも動ける。けれども、今のドレス姿やヒールでは動きが制限されてしまい、相手を仕留めるのは骨が折れる。
(短期決戦で仕留めるしかないわね)
「きゃああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
ナガトと令嬢たちの悲鳴に反射的に振りむけば、令嬢たちを飛び越えて刺客がもう一人現れた。
剣を構え、クリスティーナに真っ直ぐ向かってくる。
同時に今まで相対していた刺客も襲ってくる。
チッ、と軽く舌打ちしたクリスティーナは、構えた瞬間に何かに気づいた。
(っ! さらに一人いる!!)
「な、何で上からも狙ってるんだ!? 話が違う! おい、クリスティーナ、上だ。上にいるぞ!」
ナガトも気づき、騒ぎ出す。
すぐさま視線を上げると、屋根伝いに走りこんでくる刺客がいた。
キラリと光る刀身がクリスティーナを狙う。
「お、おい。何をやっているんだ、クリスティーナ!」
クリスティーナは迎え撃とうとしたが、ふと構えを解いて、やめてしまった。
迫りくる刺客たちの刃に恐怖が刺激され、息ができない。
心臓の激しい鼓動が、身体全体から聞こえてくる。
生と死のボーダーライン。
ギリギリの感覚。
記憶を失っているクリスティーナは、時折自分の存在が分からなくなる。
自分は生きているのか、生きながらに死んでいるのか。
生きている感覚があやふやだ。
けれどもこの瞬間は、
「……生きてるって、感じがする」
衝動的に確かめたくなるのだ。
本当に自分自身が生きていていいのかどうかを。
その時、存在が消えてなくなったとしても。
刺客の刃が間近に迫った時、クリスティーナの頭は真っ白になった。
思い出せ、目覚めよ。
……もう失うわけにはいかない。
どこかで聞いた言葉が頭に響いた。
刹那、ビュンッ、と鞭のようにしなった三本の刀身が、三人の男たちの足を貫いた。
「ぎゃあああ!」
不意を突かれた男たちは苦悶の表情でその場にうずくまり、屋根から襲撃した男はテラスに激突した。
クリスティーナは目を見開き、ハッと短い息を吐いた。
「ティナ、どうして構えを解いたんです?」
「シキ」
「危なかったでしょう。命を粗末に扱うつもりですか」
テラスに現れたシキがクリスティーナの隣に立った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる