7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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三人目の元婚約者は、隣国の王弟殿下

第57話

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(そう言えば、わたくしが戦っている姿を見るのは初めてじゃないかしら。ナガトはわたくしの力量を知らない。だったら、この男は何者なの?)


 明らかにクリスティーナを狙っていることはわかる。誰の手の者だろうか。


(太刀筋があまりにも規則正しい。まるで王宮に仕える騎士のよう……)


 相手はなかなかの手練れだが、クリスティーナは違和感を持った。
 刺客ともなれば実戦ばかりを積んだ者たちだ。
 王宮の騎士とはそこに大きな差があり、彼らの太刀筋は明らかに「生きている」とクリスティーナは感じる。
 悲しいかなクリスティーナは皇女で命を狙われることも多かったし、なにより自身が軍人で戦場に身を置くことも多かったから、そういったことがよくわかった。


(それしても、動きにくいわね)


 一旦間合いを取ったとき、カツンと自分のヒールの音が鳴った。
 軍服であればいくらでも動ける。けれども、今のドレス姿やヒールでは動きが制限されてしまい、相手を仕留めるのは骨が折れる。


(短期決戦で仕留めるしかないわね)


「きゃああああああ!」

「ぎゃああああああ!」


 ナガトと令嬢たちの悲鳴に反射的に振りむけば、令嬢たちを飛び越えて刺客がもう一人現れた。
 剣を構え、クリスティーナに真っ直ぐ向かってくる。
 同時に今まで相対していた刺客も襲ってくる。
 チッ、と軽く舌打ちしたクリスティーナは、構えた瞬間に何かに気づいた。


(っ! さらに一人いる!!)

「な、何で上からも狙ってるんだ!? 話が違う! おい、クリスティーナ、上だ。上にいるぞ!」


 ナガトも気づき、騒ぎ出す。
 すぐさま視線を上げると、屋根伝いに走りこんでくる刺客がいた。
 キラリと光る刀身がクリスティーナを狙う。


「お、おい。何をやっているんだ、クリスティーナ!」




 クリスティーナは迎え撃とうとしたが、ふと構えを解いて、やめてしまった。



 迫りくる刺客たちの刃に恐怖が刺激され、息ができない。
 心臓の激しい鼓動が、身体全体から聞こえてくる。


 生と死のボーダーライン。
 ギリギリの感覚。


 記憶を失っているクリスティーナは、時折自分の存在が分からなくなる。



 自分は生きているのか、生きながらに死んでいるのか。



 生きている感覚があやふやだ。
 けれどもこの瞬間は、






「……生きてるって、感じがする」






 衝動的に確かめたくなるのだ。
 本当に自分自身が生きていていいのかどうかを。
 その時、存在が消えてなくなったとしても。
 刺客の刃が間近に迫った時、クリスティーナの頭は真っ白になった。






 思い出せ、目覚めよ。


 ……もう失うわけにはいかない。






 どこかで聞いた言葉が頭に響いた。
 刹那、ビュンッ、と鞭のようにしなった三本の刀身が、三人の男たちの足を貫いた。


「ぎゃあああ!」


 不意を突かれた男たちは苦悶の表情でその場にうずくまり、屋根から襲撃した男はテラスに激突した。
 クリスティーナは目を見開き、ハッと短い息を吐いた。


「ティナ、どうして構えを解いたんです?」

「シキ」

「危なかったでしょう。命を粗末に扱うつもりですか」


 テラスに現れたシキがクリスティーナの隣に立った。





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