7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

文字の大きさ
74 / 100
7番目の婚約者の元婚約者

第74話

しおりを挟む
「物理的な距離があって、彼の仕事が忙しいからと……」


 サラは弱々しく首を横に振った。


「いいえ、違うのです。私はシキさまに甘えてしまいました」

「甘え?」

「はい。表向きは多忙だからと婚約者を蔑ろにしてきたゆえ、私から婚約破棄をしたということになっております。父もそう思っておりますし社交界もそういう認識で、こと婚姻に関してはシキさまのキズのような扱いになっていると聞いています」


 ふと魔導研究所の所員たちとの会話を思い出した。
「シキさんは機械が永遠の恋人ですよ」とか「顔がいいことに去る者追わずを、地でするヤツですよ」とか「こいつはやめた方がいいです。傷つきますよ」とか。
 なるほど、これは社交界での共通認識だったのかと理解する。


「それは表向きなのね?」

「はい。私が婚約破棄を申し出たのは、帝国軍で活躍しているシキさまをお傍で支えきれないと思ったからです。体の弱い私がシキさまの足を引っ張りかねないと。でも、シキさまはご自身も幼少の頃は病弱だったようで、私のことをよくわかるとおっしゃってくださいました」

「……彼も子どもの頃は体が弱かったの?」

「はい。そうおっしゃってました」


 ……昼間に見た記憶にいる少年も体が弱かった。
 サラのように倒れて、そして少年も黒髪だった。
 まさか。
 クリスティーナは眉根を寄せた。


「だから、シキさまは俺のことは気にするなと言ってくださったのですが、それでは……私が耐えられなかったのです。そういう理由だったのですが、社交界では面白おかしくシキさまの噂が立てられました」

「二度目の婚約だったものね」

「私はその噂を耳にしたとき、すぐに止めようと動きたかったのですが、シキさまに止められてしまったのです。私に噂の矛先が向けば、次の婚約に支障がでるからとかばってくださって。ですので、心無い噂話は無実ですので……」

「そう。シキのことが心配だったのね」

「はい。私は誰よりもシキさまの幸せを願っています。皇女殿下と幸せになり、シキさまの噂が無くなるといいのですが……」


 そう言いながらも、サラの揺れ動く瞳は内面を雄弁に語っていた。


(まだシキのことが好きなのね)


 彼自身を想い、身を引き、彼の幸せだけを願う。
 昨今の令嬢とは比べ物にならないくらい、純真で気立てのいい令嬢だ。
 彼の隣にいるのは、本来なら彼女のような人物がいいのだろう。
 でも、現実は戦場に出て戦う軍人であり、皇女という地位にある自分だ。


「大丈夫よ。わたくしの方が十分なうわさがあるわ」


 もう一つ噂が増えても誰も驚かないでしょう、とクリスティーナは自嘲した。
 自分が思っている以上に、シキに執着しているようで怖かった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

処理中です...