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次兄・第二皇子の画策
第80話
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「これは皇女殿下」
「ごきげんよう」
ふと顔を上げれば、顔馴染みの兄の護衛騎士がいた。
いつの間にか皇太子の執務室の前に来ていたようだ。
「長期の任務、お疲れ様でした」
「ありがとう。お兄様にお会いできるかしら?」
「今、ザートツェントル副所長と面会中です」
「シキと?」
帰還してすぐに別れたシキが、何ゆえ兄の執務室にいるのか?
兄への報告だとは思うがあの二人は友人同士だと言うし、何を話しているのだろうか。
「まあ、わたくしの婚約者がいるのね。ちょうど良かったわ」
「お会いになられますか?」
「もちろん」
にっこり微笑めば、護衛騎士は少し頬を赤くして執務室へ招き入れた。
執務室は二室続きの構造になっていて、手前の部屋では皇太子直属の文官が忙しく働いていた。
クリスティーナに気がついた顔馴染みの文官たちは、静かに会釈をしてくれる。
クリスティーナが微笑を返しながら、兄のいる奥の扉へ近づいた。
「……私はティナと婚約するべきじゃなかった」
ノックをしようとした手がぴたりと止まる。
部屋から偶然聞こえてきたシキの言葉。
「殿下? どうされましたか?」
クリスティーナがすぐに部屋に入らない姿を見て、文官の一人が首を傾げた。
無意識に後ずさり、その時、呼吸を止めてしまっていたことに気づいた。
「……いえ。わたくし、用事を思い出したわ。お兄様に報告しなくていいわよ。また来るから」
不思議そうな顔をしている文官を横目に、クリスティーナは踵を返した。
(……そんなことを考えていたのね)
執務室を離れ、靴音が響く廊下を進む。
無意識にペンダントをぎゅっと握った。
(婚約を快く思っていなかったのね……見抜けなかったわ)
いつからそんなことを考えていたのだろう。
もしかしたら、サラと再会したことで心が動いたのかもしれない。
純粋で素直なサラは今もシキのことを想っている。それにシキの態度も彼女を大切に扱っていた。
(だったら婚約破棄、できるわね)
もともと婚約破棄を狙っていたのだ。これまでで一番スムーズに進められる展開だろう。
シキが直接皇太子である兄に、婚約について自分の意見を伝えている。
そこをもう少し調べて、シキが元婚約者とよりを戻したいという事実を突きつければ、婚約破棄をすることは可能だ。
レオンハルトも今度こそ文句は言わないだろう。
(これでやっと婚約から解放される)
でも、どうしてだろう。気分が晴れないのは。
クリスティーナは自分が自嘲気味に笑ったことに気がつかなかった。
「ごきげんよう」
ふと顔を上げれば、顔馴染みの兄の護衛騎士がいた。
いつの間にか皇太子の執務室の前に来ていたようだ。
「長期の任務、お疲れ様でした」
「ありがとう。お兄様にお会いできるかしら?」
「今、ザートツェントル副所長と面会中です」
「シキと?」
帰還してすぐに別れたシキが、何ゆえ兄の執務室にいるのか?
兄への報告だとは思うがあの二人は友人同士だと言うし、何を話しているのだろうか。
「まあ、わたくしの婚約者がいるのね。ちょうど良かったわ」
「お会いになられますか?」
「もちろん」
にっこり微笑めば、護衛騎士は少し頬を赤くして執務室へ招き入れた。
執務室は二室続きの構造になっていて、手前の部屋では皇太子直属の文官が忙しく働いていた。
クリスティーナに気がついた顔馴染みの文官たちは、静かに会釈をしてくれる。
クリスティーナが微笑を返しながら、兄のいる奥の扉へ近づいた。
「……私はティナと婚約するべきじゃなかった」
ノックをしようとした手がぴたりと止まる。
部屋から偶然聞こえてきたシキの言葉。
「殿下? どうされましたか?」
クリスティーナがすぐに部屋に入らない姿を見て、文官の一人が首を傾げた。
無意識に後ずさり、その時、呼吸を止めてしまっていたことに気づいた。
「……いえ。わたくし、用事を思い出したわ。お兄様に報告しなくていいわよ。また来るから」
不思議そうな顔をしている文官を横目に、クリスティーナは踵を返した。
(……そんなことを考えていたのね)
執務室を離れ、靴音が響く廊下を進む。
無意識にペンダントをぎゅっと握った。
(婚約を快く思っていなかったのね……見抜けなかったわ)
いつからそんなことを考えていたのだろう。
もしかしたら、サラと再会したことで心が動いたのかもしれない。
純粋で素直なサラは今もシキのことを想っている。それにシキの態度も彼女を大切に扱っていた。
(だったら婚約破棄、できるわね)
もともと婚約破棄を狙っていたのだ。これまでで一番スムーズに進められる展開だろう。
シキが直接皇太子である兄に、婚約について自分の意見を伝えている。
そこをもう少し調べて、シキが元婚約者とよりを戻したいという事実を突きつければ、婚約破棄をすることは可能だ。
レオンハルトも今度こそ文句は言わないだろう。
(これでやっと婚約から解放される)
でも、どうしてだろう。気分が晴れないのは。
クリスティーナは自分が自嘲気味に笑ったことに気がつかなかった。
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