7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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悪女殿下の7回目の婚約の行方

第88話

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 金色の髪と紫紺の瞳を持つ美しい少女は、目の前のドアを軽くノックした。
 はい、と返事が返ってくると少女はいそいそとドアを開けた。


「シキお兄さま、こんにちは」

「ティナ、いらっしゃい」


 部屋にいたのは黒髪の少年で、ベッドで体を起こして読書をしていた。
 ここは屋敷の二階にある部屋で日当たりが良く、今日も燦々と陽が入っていた。
 少女は駆け寄り、ベッドの側にあったスツールに腰かけた。


「シキお兄さま、お加減はいかが?」

「今日は気分がいいよ。このところ元気なんだ。いつも気にかけてくれてありがとう。あれ、レオンハルトは?」

「レオンお兄さまは公務があって来られないの。だから、お母さまと来たのよ」

「皇妃さまがわざわざ?」

「お母さまもご用事があると言ってこちらに来たの」


 アルトマイアー公爵家の帝都に近い保養地にある屋敷に行くことを、少女は楽しみにしていた。
 この屋敷へ来るのは魔力コントロールの訓練のために来ているのだが、シキに会えることを一番の楽しみにしていた。
 年上のシキは病弱だが優しく賢い。シキと話をすると、その膨大な知識量にワクワクするのだ。


「そうなんだ。レオンは残念だけど、今日はティナと一緒にいられるね」


 シキが優しく笑いかけてくれた。
 少女はとたんに胸がドキドキし始めて、シキと一緒にいられることをとても嬉しく思った。
 でも、今日だけしか滞在できないかと思うと、しょんぼりしてしまう。


「……ずっと、シキお兄様と一緒にいられたらいいのに」

「私は嬉しいけれど、そうなるとレオンが寂しがるよ?」

「そんなことはないわ。だってレオンお兄様ったら、わたくしにいっつも厳しいことを言うのよ。シキお兄様は優しいのに」

「ふふ、愛情の裏返しだね」


 慈愛に満ちた表情でシキが微笑んだ。
 言い返そうと思ったのに、その表情から目を離せなくなった少女はあっ、と声を出した。


「そうだわ、いいことを思いついたわ」

「どうしたの?」

「シキお兄様がわたくしの婚約者になればいいのよ」

「こ、婚約者!?」


 シキがとたんに顔を真っ赤にして動揺した。


「だってレオンお兄様には婚約者がいて、結婚すればいつも一緒にいられるって言ってたわ」

「そ、そうだね。ティナは色んなことを知っているんだね」

「もちろん。皇女として色んなことを知ることは大事だって、お母さまもレオンお兄様も言うもの」

「そうだね。でもティナ、私は病弱だよ。こんな私でも婚約者にしてくれるの?」


 すっと手を取られた少女はどこか不安げなシキに気が付き、一度にっこりと笑いかけるとぎゅっと手を握り返した。


「シキお兄様だからいいのよ。きっと一緒にいれば楽しいわ!」


 元気よく返事をすれば、シキが目を細めてとびきり優しく笑ってくれた。


「ありがとう。私は一生ティナを大事にすると誓うよ」

「わたくしもよ! 帰ったらお父さまを説得して見せるからね」

「ふふ、頼もしいね」


 シキが優しく少女の手を引っ張り、その手の甲にキスを落とした。
 その時、叫び声が聞こえた。





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