89 / 100
悪女殿下の7回目の婚約の行方
第89話
しおりを挟む
「う……っ」
意識がゆらりと浮上し、クリスティーナはうっすらと目を開けた。
見覚えのない部屋が映り、そう言えば自分は側妃の離宮に連れてこられたな、と気づいた。
どうやら自分はソファに寝そべっていたらしい。体を起こそうとするが体の自由がきかない。それに自分の呼吸が荒く整わない。
(拘束魔法をかけられたのだわ。それにわたくし、意識が……)
増していく痛みに耐えられず、クリスティーナはそのまま気絶したことを思い出した。
そこから考えれば、今は少し落ち着いているように思う。
(あら……他にも思い出したことがあるわ)
それは記憶の断片のようなもの。
頭にショックを与えられたことで、失われていた記憶が蘇ってきているのかもしれない。
何か糸口が掴めるかも、と意識を集中した。
確かクリスティーナが少女と呼ばれる頃だった。
どこかの屋敷で誰かと会っていたような気がする。
黒髪で少年から青年になるくらいの年頃の、ベッドに腰かけて優しく微笑んでくれた人。
誰かに似ている……そう気づいた時、はっと息を飲んだ。
(シキに似ている)
元婚約者であるサラが言っていた、体が弱かったというエピソード。それにも当てはまる。
そう言えば何か会話をしていたような……とクリスティーナは反芻する。
――シキお兄様がわたくしの婚約者になればいいのよ
――ありがとう。私は一生ティナを大事にすると誓うよ
(わ、わたくし……なんていうことを約束しているの!? それに、シキお兄様って呼んでいるじゃない!)
とんでもないことを思い出している。
きっと鏡を見れば顔を真っ赤にしているに違いない、とクリスティーナは内心焦る。
記憶の断片が指し示すのは幼い頃にシキと出会っていて、ましてや婚約の約束までしていることだ。
しかも自分から言い出して。
(なんてこと……。あの頃のわたくし、シキのことが、す、す、好き、だったのね)
記憶から流れ込む感情に気恥ずかしさを感じてしまうが、同時にほわりと胸が温かくなる。
初恋というものかもしれない。
まさかシキに対してそんな感情を持っていたなんて。
そして、不思議なことに幼い頃の約束は現実のものとなっている。
クリスティーナはそれが嫌だと全く思わなかった。
「目が覚めたのか、閣下」
声をかけられて意識が現実に戻る。
目線を上げるとエドワードが近づいてくるのが見えた。軍服ではなく、品の良い貴族の衣装を身に着けている。見慣れない姿だった。
「エドワード」
自分を裏切った男だ。
自由の利かない体を無理やり起こし、距離を取ろうとした。
「距離なんか取らなくても大丈夫だ。オレが不用意に閣下に近づけないように、ジェレミー殿下が結界魔法をかけてるから」
鼻を鳴らしながら不満げにエドワードが言った。
意識がゆらりと浮上し、クリスティーナはうっすらと目を開けた。
見覚えのない部屋が映り、そう言えば自分は側妃の離宮に連れてこられたな、と気づいた。
どうやら自分はソファに寝そべっていたらしい。体を起こそうとするが体の自由がきかない。それに自分の呼吸が荒く整わない。
(拘束魔法をかけられたのだわ。それにわたくし、意識が……)
増していく痛みに耐えられず、クリスティーナはそのまま気絶したことを思い出した。
そこから考えれば、今は少し落ち着いているように思う。
(あら……他にも思い出したことがあるわ)
それは記憶の断片のようなもの。
頭にショックを与えられたことで、失われていた記憶が蘇ってきているのかもしれない。
何か糸口が掴めるかも、と意識を集中した。
確かクリスティーナが少女と呼ばれる頃だった。
どこかの屋敷で誰かと会っていたような気がする。
黒髪で少年から青年になるくらいの年頃の、ベッドに腰かけて優しく微笑んでくれた人。
誰かに似ている……そう気づいた時、はっと息を飲んだ。
(シキに似ている)
元婚約者であるサラが言っていた、体が弱かったというエピソード。それにも当てはまる。
そう言えば何か会話をしていたような……とクリスティーナは反芻する。
――シキお兄様がわたくしの婚約者になればいいのよ
――ありがとう。私は一生ティナを大事にすると誓うよ
(わ、わたくし……なんていうことを約束しているの!? それに、シキお兄様って呼んでいるじゃない!)
とんでもないことを思い出している。
きっと鏡を見れば顔を真っ赤にしているに違いない、とクリスティーナは内心焦る。
記憶の断片が指し示すのは幼い頃にシキと出会っていて、ましてや婚約の約束までしていることだ。
しかも自分から言い出して。
(なんてこと……。あの頃のわたくし、シキのことが、す、す、好き、だったのね)
記憶から流れ込む感情に気恥ずかしさを感じてしまうが、同時にほわりと胸が温かくなる。
初恋というものかもしれない。
まさかシキに対してそんな感情を持っていたなんて。
そして、不思議なことに幼い頃の約束は現実のものとなっている。
クリスティーナはそれが嫌だと全く思わなかった。
「目が覚めたのか、閣下」
声をかけられて意識が現実に戻る。
目線を上げるとエドワードが近づいてくるのが見えた。軍服ではなく、品の良い貴族の衣装を身に着けている。見慣れない姿だった。
「エドワード」
自分を裏切った男だ。
自由の利かない体を無理やり起こし、距離を取ろうとした。
「距離なんか取らなくても大丈夫だ。オレが不用意に閣下に近づけないように、ジェレミー殿下が結界魔法をかけてるから」
鼻を鳴らしながら不満げにエドワードが言った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる