7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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悪女殿下の7回目の婚約の行方

第89話

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「う……っ」


 意識がゆらりと浮上し、クリスティーナはうっすらと目を開けた。
 見覚えのない部屋が映り、そう言えば自分は側妃の離宮に連れてこられたな、と気づいた。
 どうやら自分はソファに寝そべっていたらしい。体を起こそうとするが体の自由がきかない。それに自分の呼吸が荒く整わない。


(拘束魔法をかけられたのだわ。それにわたくし、意識が……)


 増していく痛みに耐えられず、クリスティーナはそのまま気絶したことを思い出した。
 そこから考えれば、今は少し落ち着いているように思う。


(あら……他にも思い出したことがあるわ)


 それは記憶の断片のようなもの。
 頭にショックを与えられたことで、失われていた記憶が蘇ってきているのかもしれない。
 何か糸口が掴めるかも、と意識を集中した。

 確かクリスティーナが少女と呼ばれる頃だった。
 どこかの屋敷で誰かと会っていたような気がする。
 黒髪で少年から青年になるくらいの年頃の、ベッドに腰かけて優しく微笑んでくれた人。
 誰かに似ている……そう気づいた時、はっと息を飲んだ。


(シキに似ている)


 元婚約者であるサラが言っていた、体が弱かったというエピソード。それにも当てはまる。
 そう言えば何か会話をしていたような……とクリスティーナは反芻する。



 ――シキお兄様がわたくしの婚約者になればいいのよ

 ――ありがとう。私は一生ティナを大事にすると誓うよ



(わ、わたくし……なんていうことを約束しているの!? それに、シキお兄様って呼んでいるじゃない!)


 とんでもないことを思い出している。
 きっと鏡を見れば顔を真っ赤にしているに違いない、とクリスティーナは内心焦る。
 記憶の断片が指し示すのは幼い頃にシキと出会っていて、ましてや婚約の約束までしていることだ。
 しかも自分から言い出して。


(なんてこと……。あの頃のわたくし、シキのことが、す、す、好き、だったのね)


 記憶から流れ込む感情に気恥ずかしさを感じてしまうが、同時にほわりと胸が温かくなる。
 初恋というものかもしれない。
 まさかシキに対してそんな感情を持っていたなんて。
 そして、不思議なことに幼い頃の約束は現実のものとなっている。
 クリスティーナはそれが嫌だと全く思わなかった。


「目が覚めたのか、閣下」


 声をかけられて意識が現実に戻る。
 目線を上げるとエドワードが近づいてくるのが見えた。軍服ではなく、品の良い貴族の衣装を身に着けている。見慣れない姿だった。


「エドワード」


 自分を裏切った男だ。
 自由の利かない体を無理やり起こし、距離を取ろうとした。


「距離なんか取らなくても大丈夫だ。オレが不用意に閣下に近づけないように、ジェレミー殿下が結界魔法をかけてるから」


 鼻を鳴らしながら不満げにエドワードが言った。





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