王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍

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竜神に聖女に認定されちゃった……

第32話

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「確かにそうですね」


 そうか、温泉だけ作ればいいだけじゃないのね。
 温泉さえ作ればいいと思っていたから、そのほかのことは考えていなかった。
 さすが、殿下だわ。
 この人が王太子であり、次代のトップに立つ者であると再認識させられた。
 トップに立つ者が有能であれば、仕事が楽しくなることを私は知っている。


「殿下はすごいですね。私はそこまで考えていなかったです」

「そ、そうか。ありがとう、イシュカ。褒めてもらえるなんてうれしいよ」


 わわ……っ
 頬を染め少し照れた姿に、思わず釘付けになってしまう。
 そんな殿下にじっと見つめられて、なぜだかこちらまで照れてしまう。


「イチャつくんならよそでやってくださいよ」

「イ、イチャつくって……違いますっ」


 メルヴィン様が呆れて言って、私は真っ赤になりながら首を横に振った。
 殿下はコホンと咳払いをして、仕切り直すと話を進めた。


「それでだな、その種を探しつつ、建物は先に進めているんだ。グレッグ、企画書を」

「はい」


 執務室にある大きめのテーブルにグレッグが企画書を広げた。
 グレッグから手渡された書類を見ると、宿泊施設やレストランの設計図が描かれていた。


「素敵……あまり王都では見かけないデザインだわ」

「オレの家であるトレムス家お抱えの職人がデザインしたんだ。辺境の風土に合わせた設計になっている」


 石造りだが木材もアクセントのように使われている。それにテラスもあって気持ちよさそうだ。
 あれ、でも……他の書類を見ても私が見たいものがない。


「グレッグ、内装のデザインはないのかしら?」

「それがまだできていないんだ」

「どうして?」

「いくつか案を出してもらっているんだが、どうしてもしっくりこない。何か良いデザインがでてくればいいんだが……」

「失礼いたします。皆さん、休憩にされませんこと? お茶をお持ちしましたわ」


 声のした方に視線を向けると、ナンシー様がワゴンを押した侍女とともに執務室に来ていた。
 ワゴンに載せられているポットから良い香りが漂ってくる。


「ナンシー。いつもすまないな」

「ローク様、お気になさらずに。今日はイシュカもいたのね。あらあら……小さなお客様まで。もしかして花泥棒さんかしら?」

『花泥棒だと!?』


 髪を逆立てたスクルドを、ナンシー様はベール越しに見ているみたい。
 花泥棒のことをご存じなのね。誤解を解かないと……!


「あのナンシー様、この方は花泥棒では……」

「小さなお客様はお花の方がいいかしらね? 城には私が育てたお花がたくさんあるの。用意させるわね」

『花を、か……?』


 スクルドはぽかんと口を開けた。




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