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聖女で無き者
しおりを挟む「レグルスよ。私の心情を察せるか?」
「はい、アルファルド様」
真夜中。
誰も彼もが眠りについた頃。
真綿のようにふわふわとしたパープルの髪。
くっきりとした目鼻。
真っ白いネグリジェの首元から、垣間見える鎖骨。
胸は、服越しからでもふっくらとしており、16という年には見合わない色気を感じさせる。
その娘ーーアルファルド・グランデは自室の窓際にある机に両肘を置き、部屋の入り口で膝をつく男に、氷のように張り詰めた声を投げかけた。
「ほう、分かるのか。レグルス」
「はい、アルファルド様」
アルファルドは、レグルスを試すような物言いをして、机の上に置いてあったブドウ酒の瓶から装飾物がふんだんに埋め込まれたグラスに、雑にドボドボと注いでいぎ、
「分かるならば話は早い。何故、私がこのような目に遭わなければならない。答えよ?」
「……」
「どうした? 早く答えよ?」
「……」
レグルスは返答しない。
ただ、大理石の冷たい感触を感じながら、俯くばかりである。
「答えよっ! レグルス・ブランディ!!」
「出来ません」
痺れを切らしたアルファルド。
まだ、中身のあるグラスを、レグルスに向けて投げつけて怒りを露わにする。
レグルスは、黒髪をワインで濡らし、ようやく己の考えを口にする。
「ーー私は憎くて憎くてたまらない」
「……」
「あの忌まわしき女、マーガレットがなっ!!」
まだ、半分は残っているであろう酒瓶を、口にして一気に飲み干し、終えると瓶をアルファルドの顔面に向けて投げつけた。
ーー瓶は、レグルスの額に直撃して、ガラスが皮膚に刺さり、流血する。
レグルスは、何も言わない。
反論することも、退室することも、回避することもしない。
ただ、一歩も今、彼がいる場から動かず、主君の暴力を受けている。
「なぜ、私ではなくマーガレットなのだっ!! 恩を仇で返しよってっ!!」
「………」
だんまりのレグルス。
アルファルドは、「ちっ、つまらぬな」と言って、席を立ち、臥しているレグルスの側まで、寄っていき、レグルスの顎に手をかけ、
「のぅ、レグルスよ。貴様も私を裏切るのか?」
そこで、初めてレグルスは初めて顔を上げ、
「滅相もございません。私は貴方様——アルファルド・グランデ様をお慕い申し上げております。どうか、そのようなことをおっしゃないでください」
抑揚なく、機械的にレグルスは猜疑心に満ちた目をしたアルファルドに答える。
「……その言葉、本当か? 神に誓って言えるか?」
「勿論で、ございます」
「ならば、私に従うか?」
「当然で、ございます。私、レグルスめはいかなる時も貴方様に命をも捧げる所存でございます」
レグルスは、アルファルドから目を離さず、自身にかけられたアルファルドのやや桃色の上品な手を握る。
アルファルドは、そのレグルスの対応に「ちっ」と舌打ちをし、わざと、嫌味たらしく
「そうだな、貴様ならそういうだろう。マーガレットも、私に同じようなことを言った」
「……」
「そう、気負うな。お前は違うと信じているぞ。レグルス、貴様はいい男だ。賛辞抜きにな。それを見込んで、言ったまでだ。そんな顔をするな。私はお前を信じているのだ」
「ありがたきお言葉です」
言葉とは裏腹にレグルスは見抜いていた。
主君が己を全く信用していないことを。
そして、だからこそ『理解』した。
主が、今から己に残酷な命令を下すことを。
「……これを持て。マーガレットに与えよ」
生暖かい感触がレグルスの肌に来た。
ーーコルク栓付のボトル瓶。中には、どす黒い液体が。
「……」
「どうした? 体が震えているぞ。レグルス」
主君に言われて、レグルスは自身がひどく動揺していることに気が付いた。
人前で、感情が己の意思抜きで露になったことなど、いつぶりか。
「…………マーガレット様に、これを」
そのがっちりとした体躯とは見合わない、か細く消え行きそうな声。
だが、レグルスがそう言った瞬間。
アルファルドは怒鳴った。
「『様』などつけるな! お前の主は私一人だぞ? いいか? レグルス。これはな、罰なのだ。神に媚を売ったあの女狐めに与える罰なのだ」
「………日を……数日与えてください」
レグルスの要求。
アルファルドは——顰めっ面を浮かべながらも
「いいだろう。可愛いレグルスの頼みだ。特別に七日やろう。七日以内にマーガレットにこれを確実に飲ませるのだ」
それ以上は待たぬ、とつけ加え、許諾した。
「……はっ」
「では、行け。私は忙しいのだ。また然るべき時に呼ぶ」
トン、とレグルスの肩に手を置いて、アルファルドはレグルスを退室させた。
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