偽聖女——呪われた公爵令嬢は聖女になりたい——

夜道に桜

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ずっと傍に居てね

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部屋を出たレグルスは、部屋の外で待機していたアルファルドの執事に一礼した後、屋敷を出た。

特に理由はない。

外の空気を吸って気分転換したかっただけなのだ。

広大な敷地面積を持つ屋敷――その外れにある馬小屋。

「……?」

レグルスは、消灯されているはずの厩舎に照明がついていることに疑問を覚え、駆け足で寄っていき、中に入った。

——どの馬も大人しくしている中で、一頭だけ様子がおかしい。

一番奥にいる白馬。

鼻をふかして、興奮している。

レグルスは、すぐにその馬の様子を確かめるために傍まで行き、

「……マ、マーガレット様?」

そこには、白馬に寄り添うようにして、座り込み、メイド服に身を包む一人の少女がいた。

マーガレット・ウィル・バレンタイン。

黄金の瞳。
ブロンドのようにきらめき、肩先までかかる髪。
均等の取れた手足。
あどけなさが微かに残る顔立ち。

まさに、『太陽』が似合う美少女である。

「なぜ、このような所にいらっしゃるのですか?」

レグルスは、本来ここにいないはずのマーガレットに対して、少し叱りつけるように言った。

「あ、レグ。うん。寝ていたのだけど、この子が苦しんでいる声が気になって……。そしたら、ぺル。脚を怪我しているみたいだから、ちょっと様子を見ていたの」

マーガレットの言う通り、ペルと呼ばれる白馬は、前脚が赤く化膿していた。

レグルスは、納得し、

「そうでしたか……。ですが、もうこんな夜更けですし、お体に障ります。もう屋敷に戻りましょう」

マーガレットに向かって手を差し伸ばす。

「分かったわ。……ちょっと、待って! レグ、あなたも怪我しているじゃない! どうしたの!?」

口に手を当てて、驚くマーガレット。

「しー。静かにしてください。馬が起きてしまいますよ」

「あっ、ごめん。でも……レグ。手当しないと……」

慌てふためき、咄嗟にマーガレットは右手をレグルスの額にかざし、微かな光が発せられた瞬間。

「お止めください。私ごときのためにその『力』を使うことはございません。……この程度の傷、自分で処理いたします」

レグルスは首を振って、マーガレットを制止する。

しかし。

「めっ!!」

「マ、マーガレット様?」

静かに、と言われたのを忘れて、マーガレットが人差し指をレグルスに突き立てる。

「レグってば、そんな事ばっかり言って、結局放置するでしょ? 悪化してからじゃ遅いのよ?」

「……」

「ねぇ、レグ。どこでこんな傷負ったの? もしかして、誰かにされたの?」

マーガレットが、レグルスに質問を投げかける。

レグルスの体には至るどころに、傷跡がある。

しかし、そのほとんどが、額ではなく腕、足、胸や背中である。

額には、ほぼ無い。

左目元にある3本傷を除いて。

「……滅多なことを仰らないでください。この傷は、私の不注意によるものです」

レグルスは、マーガレットにキッパリと言った。

マーガレットに心配をかけさせないために。

「……そっか」

「そうです」

マーガレットは、それ以上詮索しなかった。


※※※

詮索はしないと言っても、マーガレットは手当てを怠らなかった。

急いで、厩舎の隣合わせに設置された倉庫から、救急箱を取り出して、包帯と止血剤を、レグルスに使用した。


「こんな感じでいいかな?」

マーガレットは、レグルスの出血部分に、ガーゼをつけて、不安そうに言った。

レグルスは、ガーゼに軽く触って、手に血が付いていない事が分かると、


「十分でございます。さぁ、戻りましょう」

マーガレットに一礼をして、屋敷に帰ることを促した。





「——レグルスは優しいね」

「……っ!」

屋敷へと戻る途中、マーガレットは、自身よりも一回りも二回りも大きな体を持つレグルスに対して、精一杯顔を見上げで、不意に、嬉しそうに言った。

途端、レグルスは体がよろめきかける。

「どうかした? レグ?」

「い、いえ。何もございません」

マーガレットが面白おかしそうに笑った。

「レグがこけかけるなんて、初めて見たわ。フフッ、今日はいい夢を見られそうだわ」

「それは……良きことです」

屋敷到着。

二人は、物音一つ立てないように、忍足で屋敷内を慎重に歩き、屋敷の隅の隅にある小さな小部屋まで行った。

レグルスがドアを開け、先にマーガレットが部屋に入る。

中からは、カビやら埃やらの匂いが充満しており、換気をしようにも窓一つさえない。ベッドもない。

しかし、マーガレットは嫌な顔をしない。

むしろ、幸福そうな表情だ。

マーガレットは、そっとその小さな体を冷たい床の上で、横にした。

レグルスもマーガレットから少しだけ離れた所で、正座した状態で、目を瞑って、眠る体勢に入る。

「お休み、レグ。ずっと傍にいてね」

「…………はい、お休みなさい。マーガレット様」
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