偽聖女——呪われた公爵令嬢は聖女になりたい——

夜道に桜

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甲冑の男

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王都サファリアの城下町。
露店が立ち並び、人が行き交い、ごったかえしているマーケット。

そこに、ギュッと手でフードを持って顔を隠しながら、キョロキョロと人と人の間を縫うようにしてマーガレットは歩いていた。

街に繰り出すのはこれが初めてではない。

数回、オリビアや城の者達の目を盗んでは、こうしてバレない程度に街で遊んでいた。

——遊んでいた、と言っても、ただ街の中をフラフラとして、店の様子を眺める程度のものだが。



だが、今日は違った。

人間、慣れてくれれば一歩先の事をやりたくなるものだ。

ピタリと、マーガレットは歩みを止めて、果物露店の前に立った。

赤、黄、緑、オレンジ……。
豊富な種類の果物。
中には、城では見たことのない果物まである。

マーガレットは、ごくりと喉を鳴らして、一番興味をそそられたピンク色のフワフワした、香ばしい匂いを放つやや丸みを帯びた果物を、指差し、店の店主に対して、緊張気味に、

「お、おじさんっ! この果物一つちょうだい!」

腕を組んで、椅子に座っている店の店主が、やや不機嫌そうに口を開き、

「なんだ? 嬢ちゃん? お金は持ってるかい? メアタワは一つ、銅貨三枚だ。払えるのかい?」

「おか……ね?」

ーーマーガレットは耳慣れない単語に、首を傾げた。

店主は、口をポカーンと開け、呆れたように

「おぃおぃ? お金の意味も知らないのか……。ダメダメ! こっちもね。生活がかかっているからな。商売の邪魔だから、しっし」

そう言って、店主は商品を眺めている他の客の方に声をかけようとしたのだが。

「けち。良いじゃん! こんなにたくさんあるんだから、一つぐらい!」

不服そうに、口をすぼめて、さっと、メタアワに手を伸ばして、掴んだ。

その瞬間、主人は顔色を変え、マーガレットの細い手首をガシッと握った。

「こらっ! 嬢ちゃん! あんまり聞き分けが悪くて、これ以上悪さするなら、警備兵に突き出すぞっ!」

「痛っ! 離して、離してよっ! おじさんっ!」

ジタバタと、必死に店主の手を振り払おうとするが、如何せん大人の男と、年端のいかない少女。

力の差は明らかで、振り払えない。

ーー店主は、抵抗するマーガレットを、いよいよ街を巡回している警備兵に突き出そうかと考えた、その時。

「主人。その子を離してやってくれないか?」

野太い声が、店主の耳に入った。

「……何だい? あんちゃん? この子の親か?」

大男。
背中に大剣を背負ったその男は、銀製の甲冑を全身に纏い、頭部には鉄仮面を被っている。

そして、服越しからでも分かるほど、はちきれんばかりの筋肉が盛り上がっており、すぐに店主はこの男が、屈強な戦士であることを理解した。

店主は、それを踏まえた上で、未だに手元で暴れているマーガレットと、その男を交互に二三度見比べっていきーー、何か言おうとしたが、その前に

「……まあ、そんな所だ。代金は俺が払う」

懐から、重量感のある革袋を取り出し、中から一枚を主人に押し付けるようにして渡した。

「き、ききき金貨一枚!? あんちゃん、いくら何でもこりゃ高すぎるよ!」

相場から凡そ数百倍もかけ離れている。
店主は腰を抜かして驚き、男に突き返そうとしたが、

「……いいんだ。どうせ俺は使わないから」

「は?」

「……何でもない。金は払った。その子を離してやってくれ」

それだけ言うと、甲冑の男は店を後にして、人ごみに紛れて消えていった。

呆然とする店主。

それは、マーガレットもだった。

突然の事に、しばらく思考が停止して、ボォーとしていたが、いよいよ甲冑の男の姿が消えかけた時、ハッとして、店主の手を振りほどき、後を必死に追いかけて行った。




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