さちれいにサチアレ!

壊れ始めたラジオ

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湯けむり殺人事件編

スローガンその23「憂いと無礼と」

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「いい湯だったわね」
「そう?」

 浴場での乱闘……もとい乱湯らんとう騒ぎによってすっかりテンションも体温も下がったあたし、皇甫麗亞こうほれいあ早智さちにそう返した。

「ここ、カイセン料理が人気なのよ」
「そう」
「お待たせいたしました。『鯛のミッドウェー盛り』です」
「ミッドウェー?」
「そうよ」
「……海鮮料理よね?」
「海戦料理よ?」
「こちら、『すまし汁のやわらか銀行仕立て』です」
「……何よそれ」
「ソ○トバンク仕様でございます」
「……」
「さ、食べましょ」
「……早智さち
「何かしら」
「……海鮮料理よね?」
「回線料理よ?」

 どうにも話が通じていない気がする。


 ◇


「ふぅ~。松本○志松本○志」
「『食った食った』って言いたいわけ?」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わないわ」

 ヘンテコな名前だったが、味自体はいたって普通の海鮮料理だった。

「……ん~、歯の間に何か挟まったみたいね。ツマを取ってくれる?」
「……」

 あたしは無言で、空になった刺身の皿を手渡した。

「そうそうこれこれ。この細いのを使って……ってコレ大根じゃない!」
「『ツマ』なんて変な言い方するからでしょ」

 普通に爪楊枝と言えばいいものを。

「ウチの料理はいかがでしたか?」
「星五つね。キングからエースへ格上げってトコロかしら?」
「よくわかりませんが、ありがとうございます」

 あたし達の席にやってきたシェフらしき男性に早智さちが評価を付けた直後、近くのテーブルからガシャンという音が聞こえてきた。

「なかなか美味しいんじゃない?」
「……お客様、乱暴はおやめください」
「っていうかさ、君。まだなれないの? 料理長」
「お前っ……!」

 食器を倒した男性に因縁をつけられていた割烹着の男性が、胸倉を掴んでいた。

「そうやって評論家気取って楽しいか! エェッ!」
「君の未熟な手腕がどう変わったか、常連の僕が評価してあげているんだ。嬉しく思ってくれよ」

 どうやら、優雅な食事の時間は終わってしまったらしい。

「……部屋へ戻って飲みなおすわよ」

 あたしの気持ちを代弁するかのように、早智さちが席を立っていった。
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