ランゲルハンス島奇譚(3)「シラノ・ド・ベルジュラックは眠らない(下)」

乙訓書蔵 Otokuni Kakuzoh

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六章

四節

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 何処に潜んでいるのか分からない山の主に気付かれないよう音を忍ばせて歩く。茂みに注意し、苔むした岩に足を取られないようにしっかり体重を乗せ、落ち葉が音を立てないように細心の注意を払う。直ぐ脇は崖があり、気が抜けない。

 地獄耳を澄まして先を歩くイポリトにアメリアは付いて行った。喉が渇く。眼も乾く。緊張している。頭の中に鼓動が響く。五月蝿い程だ。頼り気のない月明かりしか光源がなく、山の主の情報もまともに聞いていない。唇を引き結んでいると、イポリトが『心配ない。大丈夫だ』と振り向きもせずに呟いた。

 その優しい声音と言葉だけで彼女の緊張は解された。コンラッドから助けてくれた時もタルタロスから助けてくれた時もイポリトは優しい声音で言葉を掛けてくれた。捜索の同行を許してくれた事、そして南の街へ向かい彼の心意気を見届ける事にも許しを与えてくれた。隣に居る事を、同じ景色を見据える事をイポリトも望んでいる。アメリアの胸はじんわりと暖かくなった。

 ……肌身離さないシラノの剣のように、あたしが共に戦う事をイポリトは許してくれた。記憶を失ってもう二度と存在に気付いて貰えないって想ってたけど、再び眼を見てくれた。ずっと……ずっと一緒に居たい。恋人としての記憶を永遠に失ってしまっても……。

 眉を下げて思案するアメリアの顔を上げさせたのはイポリトの声だった。

「あっちだ!」

 二柱は駆け出した。

 全速で走っていると地面は土から岩に変わる。やがて岩肌から生えた大樹の前に出ると、か細い鳴き声が聴こえた。二柱は鳴き声の方向を見遣る。大樹の上方から聴こえる。目を凝らすとアパート三階程の高さの枝に雪豹の子供がぶら下がっていた。

「ヴィクラム!」一瞬にして血の気が失せたアメリアは叫ぶ。

「アメねーちゃん……前脚が痛いよぉ。もうダメだよぉ」前脚を枝に掛けたヴィクラムは伸び切った体をだらりと下げている。どうやら枝から脚を滑らせたらしい。

「モリーの息子だろ! 気張れ!」

 叱咤激励したイポリトはブーツを脱ぐと放り出し、木に登る。森の中では樹々の枝に阻まれるので翼を広げる事は難しい。木登りなんて何年振りだろうか。タルタロスの断崖絶壁登りよりかは楽だが、相手はガキだ。待ってちゃくれねぇ。

 ヴィクラムの泣き言に舌打ちしたイポリトはあらん限りの力をもって俊敏に手足を動かす。子彪がぶら下がる枝に到達した彼は腕を伸ばす。ヴィクラムの首の皮を掴むと自分の背にしがみつかせた。眼を固く瞑ったヴィクラムは樹を下りるイポリトの肩に爪を立てる。イポリトは『爪を立てるな。クソ痛ぇだろうが』と文句を垂れるが怯えたヴィクラムの耳には届かない。

 地に降り立つと、ヴィクラムはアメリアに抱きつく。

「恐かったよう。落ちるかと想ったよう」

 アメリアは『もう大丈夫だよ』とヴィクラムの頭を撫でた。

 溜め息を吐いたイポリトはブーツを履く。

「想いっきり爪立てやがって。エリニュスの折から生傷が絶えねぇわ」

 ブツブツと文句を垂れつつ靴紐を結ぶイポリトにヴィクラムは声を掛ける。

「……あ、の」

「あ?」イポリトは顔を上げた。

 強面のイポリトに見据えられ、ヴィクラムは縮こまる。

「ちょっと。子供相手なんだから、もっと優しく接しなさいよ」アメリアは眉を顰めた。

 イポリトは鼻を鳴らした。

 二柱と一匹は来た道を戻る。アメリアに抱かれたヴィクラムはイポリトの顔をちらちらと覗く。

「喰っちゃうぞ!」イポリトはヴィクラムに肉薄し揶揄った。

 長い鼻が体に触れて驚いたヴィクラムはアメリアの胸に顔を押し付けて震える。

「やめなさい! 直ぐ側は崖なんだから!」アメリアはイポリトの向こう脛を蹴る。

 向こう脛を擦ったイポリトは問うた。

「……ところでよぉ、どうしてねぐらを飛び出したんだよ?」

 恐る恐る顔を上げたヴィクラムは『怒らない?』と問い返した。

「まあ、話してみろって」イポリトはヴィクラムを撫でた。

 ヴィクラムは口をもぞもぞ動かしていたが言葉を紡いだ。

「……あのね、さっき、アメねーちゃんのばあちゃんのお話を聞いたんだ。夜の女神のニュクス様だって。アメねーちゃんは会った事ないんだって。お空の高い所に居るから会えないんだって。僕もばあちゃんに会った事ないし、アメねーちゃんと一緒。だから会わせてあげたかった。でも高過ぎて無理だった。ニュクス様の夜空の服に付いてる綺麗な星なら取れるかなって。こっそり取ってアメねーちゃんを驚かせたかったんだ」

「んで大樹に登って脚を滑らせた、と」イポリトは腕を組む。

「うん。……ごめんなさい」

 しょげたヴィクラムを見下ろしたアメリアは瞳に涙を浮かべた。

「ん。父ちゃん母ちゃんに謝って理由話すんだぞ? お前はお前が正しいと想った事を成したんだ。正義を貫いたんだ。胸を張れ」イポリトはヴィクラムを撫でた。

「……うん!」雷を落とされると思いきや、イポリトに褒められたヴィクラムは破顔した。

「次からはちゃんと『何処何処に行ってくら』って言うんだぞ? あと母ちゃんがダメって言ったら図体デカくなるまで控えろ」

「うん!」

「よし!」イポリトはヴィクラムの頭を撫で回す。

 アメリアは微笑んだ。

「俺も悪かったな。勝手に臆病者だと想っててよ」イポリトは頬を人差し指で掻いた。

 ヴィクラムは照れ臭そうに笑った。

 一行が歩みを進めると、岩肌が剥き出しの道が落ち葉に覆われた道に変わる。注意を払っていたが蓄積した疲労と怪我の所為か、崖側を歩いていたイポリトは足を滑らせた。

 アメリアは悲鳴を上げる。ヴィクラムは目を瞑る。

「……おい。引き上げてくれよ」

 辛うじてイポリトは岩肌に片手を掛けている。彼は歯を食いしばって言葉を紡ぐ。

「右手に怪我負ってんだ。上手く力が入らねぇんだよ」

 アメリアは周囲を見渡す。ここら辺には幹の細い木しかない。彼女は術で剣とロープを出すと、柄にロープを巻く。そして剣を深々と地に突き刺した。

 するとアメリアの肌に悪寒が走った。

 眼を見開き、両腕を抱きしめているとイポリトが急かす。アメリアはロープの端をイポリトに投げると、ヴィクラムと共に彼を引き上げた。

「焦ったわ」手と包帯に付いた泥を払い、イポリトは溜め息を吐く。

 一息つくイポリトとそれを見上げるヴィクラムを余所に、両腕を抱いたアメリアは辺りを見回す。

「ンだよ?」イポリトは問うた。

「……ねぇ」眉を下げたアメリアがイポリトを見上げる。

「だから何だって?」

「揺れない?」

 イポリトは佇むが揺れを感じない。

「地震なんて冗談止めてくれよ。あんなおっかねぇ想いするのは極東列島だけで充分だぜ」

「違う。地震とかじゃなくて……ズズズン、ズズズンって」

 眉を顰めたイポリトは地獄耳を澄ませた。

「……胎動みてぇだな」

「変な事言わないでよ」

「かあちゃんのお腹に居た時の音もする」ヴィクラムは小さな耳を動かす。

「だよな。……今度はミシミシ鳴ってるぜ?」イポリトはヴィクラムを横目で見る。

「とうちゃんがかあちゃんにのされる時の音だ」

「何それ」アメリアは怪訝な顔をする。

 突如、アメリアの背後で土が割れた。凄まじい勢いで土が噴出する。驚いたアメリアは咄嗟に頭を庇い、屈む。背から落ち葉と土塊を被り、小さな石が彼女の手の甲に落ちる。直様ヴィクラムを抱き上げたイポリトは彼の頭を庇い、アメリアに駆け寄ると彼女を庇った。

 空から降る土が止むと、二柱と一匹は顔を上げた。そして愕然とした。樹々を覆わんばかりの土色の大蛇がこちらを血色の瞳で見据え、細い舌を細やかに動かしていた。瞳孔は獲物を狙う猫の瞳のように細い。体を覆う鱗は苔生し、所々に小さな植物が生えている。

 二柱は顔を引き攣らせる。

「……これが山の主ってのか?」イポリトはアメリアを横目で見遣る。

「……考えたくないけど、そうじゃない?」アメリアはイポリトを見遣る。

 イポリトに抱かれていたヴィクラムは気を失い失禁した。

 大蛇は体を伸ばす。二柱は後退る。舌先がイポリトの長い鼻に当たりそうだ。

「……直ぐに噛み付かないのは毒蛇だって、ひょんひょんが言ってたぜ」

「最悪」

 二柱は踵を返すと全速力で駆け出した。

 しかし大蛇は蛇行せずに直進で二柱を追いかける。樹々を薙ぎ倒し、不快な音を鳴らし、牙を剥く。

 落ち葉の道に足を捕われそうになりながらも二柱は必死にひた走る。眼前に生えていた樹が後方に流れて行ったかと想えば折れる音が聴こえる。息を切らし、肩を上下に大きく揺らし、二柱はひた走った。

 このままじゃ埒が明かない。イポリトは青白く光る瞳を細めた。このままひた走っていればモリー達のねぐらに着いちまう。巻き込むのはごめんだ。しかし逃げねぇと毒牙にかけられちまう。

 隣をひた走るアメリアの息遣いや顔色は限界に近い。走りつつも振り返ったイポリトは大蛇を見遣る。血色の瞳がイポリトを捕える。イポリトは極東で友人になった妖怪ぬらりひょんの話を想い出した。

 ──おいおい。おねーちゃんをたらふく喰った血色の瞳の大蛇なんざ化け物じゃねぇか、ひょんひょん。

 ──その上、頭が八つに割れておる。体も馬鹿デカくて山の如しじゃ。

 ──そんな化けモンとスサノヲのあんちゃんはどうやって戦ったんだよ?

 ──まず、絞りに絞った酒を用意して大蛇に飲ませた。そして酒に潰れて地に横たわった大蛇を十拳剣で断ったんじゃ。

 ──なかなか賢いあんちゃんだな。

 ──じゃろ? その上ロリコンじゃ。命に代えて守った少女を嫁御にしおったわい。

 ──神さんってのは国を越えてロリコンが多いのなぁ。

 その手があったか。

 イポリトは隣を走るアメリアに声を掛ける。

「おい。術で剣を出せ」

 額から滝のように汗を流すアメリアは答える。

「……剣じゃあんな化け物どうしようもないでしょ!」

「考えがあんだ。任せろ!」

 アメリアは横目でイポリトを見遣る。イポリトは真っ直ぐに瞳の奥を見据えていた。アメリアは暫く黙していたが詠唱をする。

「俺が立ち止まってもアメリアは走れ! 合図したら戻って剣を振るえ!」

 イポリトは走りつつもフィールドジャケットの内ポケットに手を差し込む。キルケーのキッチンでくすねた九十六度のウォッカの小瓶を取り出した。歯で開栓し、キャップを捨てる。しかし困ったものだ。気絶したヴィクラムを抱えているので片手が塞がって次の行程が出来ない。顔を顰めたイポリトはヴィクラムの首の皮を噛むと宙吊りにする。そしてポケットから予備の包帯を出すとそれに酒を染み込ませた。

 イポリトはアメリアを見遣ると小さく頷いて立ち止まる。アメリアはイポリトを信じてそのままひた走った。

 疾駆していたので急に止まると凄まじい力が足に加わる。表情を歪めたイポリトは襲いかかる大蛇の大口に向かって酒浸しの包帯を投げつけた。

 包帯を飲み込んだ大蛇の動きが止まる。しかし直ぐに体をくねらせ七転八倒する。

 ヴィクラムを片手で抱き直したイポリトはのたうち回る大蛇を仰ぐ。流石七十回以上も蒸留を繰り返した酒だ。医療用のアルコールにも使うくらいだもんな。大蛇様でも強烈ってか。

 肩を上下に大きく揺らし呼吸していたイポリトはアメリアの名を叫んだ。

 アメリアが駆けつけ戻った頃には酔いが回った大蛇は地に伏せ大人しくなっていた。

「……何したの?」息を切らしたアメリアが問う。

「酔わせたんだ。……首を断とうと想ったが、このまま寝てくれるなら放ってても良さそうだな」

「そうだね。その方が良いよ」

 イポリトは溜め息を吐いた。

 すると茂みが揺れ、音が鳴る。二柱は身構えた。

 茂みからディーとモリーが出て来た。

 現場を眼の当たりにしたモリーは隻眼を見開いた。

「凄まじい音と叫び声が聞こえて来てみたら……一体何したんだ!?」

 呼吸を整えたイポリトは一部始終をモリーとディーに説明した。

「主を起こしちまったんだな、お前らは」モリーは大蛇を仰ぎ、小さな溜め息を吐いた。

「起こした?」アメリアが問う。

「ああ。この山の主は大蛇なんだ。そしてこの山の一部なんだ。山を剣で深々と刺されて起きちまったんだ」イポリトが下ろしたヴィクラムの頭をモリーは撫でる。

「神さんみたいなモンか……俺達の所為で起きちまったんだな。悪い事したな」イポリトは眉を下げた。

 すると大蛇に跨がり、ブツブツと独り言を呟きながら触診していたディーが口を開く。

「……とどめを刺しておけ」

 二柱とモリーはディーを見遣る。

「何でだよ?」イポリトは問うた。

「神のようなものではない。それどころか元はこの島の魂だ」ディーは立ち上がった。

「どう言う事だ?」モリーは問うた。

「怨念が蓄積されてる。元々人の膝丈程の蛇だったようだが、怨念によりここまで成長した。東方の学問では山はとぐろを巻いた大蛇の姿と聞く。怨念が積もる度に山は育ち、山脈に囲まれた南の街は一層と孤立したのだろう」

 モリーは溜め息を吐いた。

 イポリトは唇を噛んだ。

 アメリアは瞳を潤ませる。

「……でも大蛇が可哀想。元々この島の魂だったのに、あたし達の勝手で殺されるなんて……」

「これは怨念の化身。小さな魂に沢山の苦しみや憎しみが詰まっているだけ。……憐憫を感じるのならとどめを刺すべき」ディーはアメリアを見据えた。

 涙を頬に伝わらせたアメリアはディーを見据えた。

「……『楽にしてやってくれ』とダムが頼んでる」

 瞳を閉じ、背を向けたディーは長い赤毛を搔き上げ、一同に姉を見せた。

 月の光を受け青白く浮かぶディーの美しい背には、彼女に瓜二つの顔が貼り付いていた。顔の周りには浮き出た血管が張り巡らされ、脈打っている。彼女が以前ステュクスで紹介した双子の姉のダムだった。悲しげな瞳は真っ直ぐにアメリアを捕える。

 モリーは初めてダムを見たようで眼を見開いていた。

 ダムは小さな声で何事か呟く。ディーは頷くと口を開く。

「『可及的速やかにしろ。大蛇が起きるかもしれない』と言っている」

「……大蛇を殺したら山はどうなるんだ?」モリーは問うた。

 ディーは背を見遣る。ダムが何事かを話している。

「『消える』そうだ……」

「そうか」

 一同は俯いて黙す。

 しかしその沈黙を破ったのはモリーだった。

「殺してやってくれ。俺達一家なら心配ない」

「心配ないって……これからどうするんだよ?」イポリトは問う。

「なに。山の動物達と共に人里に下りて暮らすさ。幸いな事に少々の財産もある」モリーは肩をすくめる。

「財産って嫁さんの首輪の宝石の事か? あれはお前がプレゼントしたものだろう?」

「そこまでの甲斐性は俺にはねぇよ」モリーは苦笑する。

「どう言う事だよ?」

「『秘密にしておけ』って言われたけど……お前には話すわ。イポリトなら悪いようにはしねぇだろうし。……この山を白い遣い魔と共に彷徨っていた体格のいい男に貰ったんだ。怪我をしてびっこを引いていたから治療してやった。『近い内に山が無くなる。覚悟して欲しい。人里に下りても暮らせるように宝石を与える』って渡されたんだよ」

「山が無くなるって……どうしてそいつは予測したんだ?」

「分からん。だが変わった男でな、男が手を強く握ると大粒のアメジストが掌に乗っていたんだ。瞳の色と一緒の宝石だ」

 アメジスト色の瞳。イポリトはある男を想い出す。

「モリー。その男ってブロンドの長髪だったか?」

「ああ。髪も顔の造形も綺麗な男だったな。ユリの蕾のようにとんがった耳を髪から覗かせていた。南の街へ行くと言っていたがここ二日、とんと見てねぇな」

 間違いないヴルツェルだ。イポリトは息を飲んだ。ヴルツェルは一体何を考えているのだろうか。山が無くなる事を予測していた……いや、山を失くそうとしていたのだろうか? 山が無くなれば南の街を隔てるものはなくなる。それだけの為に彼は摘出されて間もない不自由な体でここまで来たと? 誰も越えられない山を越え、南の街へ潜伏したと?

 眉間に皺を寄せて虚空を見つめるイポリトを、眉を下げたアメリアは仰ぐ。

「……イポリト?」

 我に返ったイポリトはアメリアを見遣った。

「……やっぱり何か深い考えがありそうだな」

「え?」

「ヴルツェルだよ」

 イポリトはモリーを見遣る。

「……モリーやティッカにその覚悟があるなら始末するまでだ。途中までディーに送って貰え。人里に着いたら馬牧場へ向かえ。俺のお袋がそこに住んでいる。きっと受け入れてくれるさ。牧場が嫌なら遠いが北の黒い森やメドゥーサが住む泉へ行けば良い。ツンケンしてるがあいつも良い奴だ。ティッカ達や山の動物達を連れて来てくれ。このまま山が消失したらはぐれる」

「ありがとよ、イポリト」

 悪戯っぽい微笑をイポリトはモリーに向けた。尻を向け走り去るモリーとディーを見送り小さな溜め息を吐くと、涙を浮かべて大蛇を見つめるアメリアに歩み寄る。

「……怨念の塊にもアメリアは涙を流すんだな」

「だって……だって、疎まれて死ぬなんて……」アメリアは手の甲で涙を拭う。

「……苦しみや憎しみを背負った存在だろうな。でも疎まれて死ぬんじゃないんだ」

 アメリアは泣き顔を上げた。

 イポリトは彼女の肩を抱いた。アメリアは一瞬、身を固くしたがイポリトの懐かしい感触に身を任せた。

「最期にアメリアが大蛇の為に涙を流したんだ。疎んでいる奴に涙なんて流すか? 少しの間だけでも大蛇を思いやる奴が居たんだよ。……それでいいじゃねぇか」

 青白く光る瞳に涙を浮かべてアメリアはイポリトを見つめる。

「……うん」

「泣いてやれ。愛してやれ。それがお前の正義なんだ」

 頷いたアメリアは肩を震わせた。
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