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「ばあちゃんちみたいで落ち着くな」
貴司くんは、うちの6畳の部屋の畳の上であぐらをかいてくつろいでいる。
なんだかんだ流れで家にあげてしまった。
うちは今時和室の木造ボロアパートだ。
貴司くんのお祖母ちゃんは商店街の隅っこの木造住宅の一階で駄菓子屋をやっていた。
――雰囲気似てるっちゃ似てるけど……。
お祖母ちゃんちみたいって言われても嬉しくない……。
「貴司くん――お茶かなんか飲みますか?」
一応聞いてみると、貴司くんは不服そうな顔でこちらを見た。
「だからさぁ、ですます止めてってば」
「――お茶、飲む」
しょうがないので言い直すと、彼はにっと笑った。
「飲む! ありがとな」
麦茶をカップに注いで持っていくと、貴司君はまるで自分の家のように、クッションに横になってテレビをつけてくつろいでいた。
「そろそろ始まる」
時間を見たらちょうど20時になろうとしていた。
ちゃらっちゃら~と音楽が流れて、『あの人何してる?』という番組のテロップが流れる。
『今日のゲストは……、今週発売のニューシングルが音楽ダウンロードベスト5に入った、リズムスの皆さんでーす』
アナウンサーの人の声に合わせて、スタジオにメンバーの4人が入って来た。全員お揃いのグレーのスーツ姿だ。きゃあーと観客席から黄色い声が上がる。
私は視線をずらす。確かにそのうちの一人が、今横で麦茶を飲んでいる。
『それでは皆さんの思い出の人の行方を、番組で探してみました』
「あ、最初が俺、俺」
貴司くんは見て見て、とテレビを指差す。
『TAKAの探して欲しい人……ひとりめは、小学校の同級生――ダンスの道に進むきっかけになった『あの人』――』
ナレーションが始まって、VTRが流れ出した。地元の北関東の田舎町でもない中途半端な街並みが映る。
「懐かしいなぁ」
思わず呟いた。当時には楽しい思い出しかない。
画面に『ふとし』くんな貴司くんの写真が写った。
画面がスタジオに戻ると、他のメンバーが爆笑している。
『うっそ、これ、マジでタカ?』
笑いをかみ殺しているのは、ADの富岡さんが彼との飲み会のために私の個人情報を漏らした強面のケンさんだ。
『初公開だそうです』
『当時から可愛いだろ』
テレビの中で貴司くんがむすっと言い返す。
『お祖母ちゃんも可愛い可愛い言ってくれてたし』
またVTRが流れる。
『途中で転校――知らない街で祖母に預けられ、人見知りだったタカは一人で絵を描いて過ごすことが好きな少年だった』
「転校生だったっけ?」
「嘘、覚えてねぇの? 1年の終わりだよ、俺、南小に入ったの」
「……そうだっけ」
昔のことすぎて思い出せない。
『そんなタカに声をかけてくれたのが、今回会いたい『あの人』――H・Wさんでした。それは、『好きなものを描きましょう』という授業の時、タカがいつものように1人で絵を描いていると――』
小さい子役の女の子が、太目な子役の男の子に駆け寄る映像が流れる。
『タカくん! 何描いてるの?』
『絵』
『すごい上手いね! 私好きだな』
『それから彼女はタカが絵を描き終わるまで横で見ていてくれ、終わるころには日が暮れて先生に怒られてしまいます』
――ちょっと待って、これあの貴司くんが『まだ終わってないし』って帰らなかったあの写生会のやつ?
確かに、貴司くんが何かすごい書き込んだ桜の絵かなんかを描いてたような覚えはあるんだけど、どっちかっていうと私、『いつまで描いてるんだろう』って思ってたんだけど……。
『これをきっかけに、彼女は気になる存在に……。しかし、突如転校してしまったのです。
アイドルが好きだった彼女がいつか見てくれるかもしれないと思い、中学校からダンスを始めたタカは、高校進学するとアイドルグループのバックダンサーを務めるようになりました』
スタジオに映像が戻る。
『さて――、W・Hさんは、スタジオに来てくれているのでしょうか――?』
もちろん行っていないから、スタジオ奥の階段の上の幕がばっとあがっても誰もいない。
『残念ながら、スタジオにはいらっしゃいませんでしたが、お手紙を預かってきています』とアナウンサーさんが言って、手紙を読み上げた。
『貴司くんへ。あの貴司くんがリズムスのタカだと聞いて、びっくりしました。全然知らなかったです。でも小学生の時から貴司くんは、独特の雰囲気のある男の子だと思っていました。今は大変身して、活躍しているみたいで嬉しいです。私も、今は夢の自分のカフェを持つことを目標に頑張っています。同じように夢に向かって頑張っている貴司くんの姿に元気をもらいます。お互いがんばりましょう!』
貴司くんは振り返るとジト目で私を見た。
「何、この他人行儀な文。ようやくお前探したのに」
貴司くんは、うちの6畳の部屋の畳の上であぐらをかいてくつろいでいる。
なんだかんだ流れで家にあげてしまった。
うちは今時和室の木造ボロアパートだ。
貴司くんのお祖母ちゃんは商店街の隅っこの木造住宅の一階で駄菓子屋をやっていた。
――雰囲気似てるっちゃ似てるけど……。
お祖母ちゃんちみたいって言われても嬉しくない……。
「貴司くん――お茶かなんか飲みますか?」
一応聞いてみると、貴司くんは不服そうな顔でこちらを見た。
「だからさぁ、ですます止めてってば」
「――お茶、飲む」
しょうがないので言い直すと、彼はにっと笑った。
「飲む! ありがとな」
麦茶をカップに注いで持っていくと、貴司君はまるで自分の家のように、クッションに横になってテレビをつけてくつろいでいた。
「そろそろ始まる」
時間を見たらちょうど20時になろうとしていた。
ちゃらっちゃら~と音楽が流れて、『あの人何してる?』という番組のテロップが流れる。
『今日のゲストは……、今週発売のニューシングルが音楽ダウンロードベスト5に入った、リズムスの皆さんでーす』
アナウンサーの人の声に合わせて、スタジオにメンバーの4人が入って来た。全員お揃いのグレーのスーツ姿だ。きゃあーと観客席から黄色い声が上がる。
私は視線をずらす。確かにそのうちの一人が、今横で麦茶を飲んでいる。
『それでは皆さんの思い出の人の行方を、番組で探してみました』
「あ、最初が俺、俺」
貴司くんは見て見て、とテレビを指差す。
『TAKAの探して欲しい人……ひとりめは、小学校の同級生――ダンスの道に進むきっかけになった『あの人』――』
ナレーションが始まって、VTRが流れ出した。地元の北関東の田舎町でもない中途半端な街並みが映る。
「懐かしいなぁ」
思わず呟いた。当時には楽しい思い出しかない。
画面に『ふとし』くんな貴司くんの写真が写った。
画面がスタジオに戻ると、他のメンバーが爆笑している。
『うっそ、これ、マジでタカ?』
笑いをかみ殺しているのは、ADの富岡さんが彼との飲み会のために私の個人情報を漏らした強面のケンさんだ。
『初公開だそうです』
『当時から可愛いだろ』
テレビの中で貴司くんがむすっと言い返す。
『お祖母ちゃんも可愛い可愛い言ってくれてたし』
またVTRが流れる。
『途中で転校――知らない街で祖母に預けられ、人見知りだったタカは一人で絵を描いて過ごすことが好きな少年だった』
「転校生だったっけ?」
「嘘、覚えてねぇの? 1年の終わりだよ、俺、南小に入ったの」
「……そうだっけ」
昔のことすぎて思い出せない。
『そんなタカに声をかけてくれたのが、今回会いたい『あの人』――H・Wさんでした。それは、『好きなものを描きましょう』という授業の時、タカがいつものように1人で絵を描いていると――』
小さい子役の女の子が、太目な子役の男の子に駆け寄る映像が流れる。
『タカくん! 何描いてるの?』
『絵』
『すごい上手いね! 私好きだな』
『それから彼女はタカが絵を描き終わるまで横で見ていてくれ、終わるころには日が暮れて先生に怒られてしまいます』
――ちょっと待って、これあの貴司くんが『まだ終わってないし』って帰らなかったあの写生会のやつ?
確かに、貴司くんが何かすごい書き込んだ桜の絵かなんかを描いてたような覚えはあるんだけど、どっちかっていうと私、『いつまで描いてるんだろう』って思ってたんだけど……。
『これをきっかけに、彼女は気になる存在に……。しかし、突如転校してしまったのです。
アイドルが好きだった彼女がいつか見てくれるかもしれないと思い、中学校からダンスを始めたタカは、高校進学するとアイドルグループのバックダンサーを務めるようになりました』
スタジオに映像が戻る。
『さて――、W・Hさんは、スタジオに来てくれているのでしょうか――?』
もちろん行っていないから、スタジオ奥の階段の上の幕がばっとあがっても誰もいない。
『残念ながら、スタジオにはいらっしゃいませんでしたが、お手紙を預かってきています』とアナウンサーさんが言って、手紙を読み上げた。
『貴司くんへ。あの貴司くんがリズムスのタカだと聞いて、びっくりしました。全然知らなかったです。でも小学生の時から貴司くんは、独特の雰囲気のある男の子だと思っていました。今は大変身して、活躍しているみたいで嬉しいです。私も、今は夢の自分のカフェを持つことを目標に頑張っています。同じように夢に向かって頑張っている貴司くんの姿に元気をもらいます。お互いがんばりましょう!』
貴司くんは振り返るとジト目で私を見た。
「何、この他人行儀な文。ようやくお前探したのに」
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