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「貴司くん、できたよ。ホットサンド」
私は良い感じの焦げ目のついたパンを食卓へ運んだ。
「美味そう!」と貴司くんがはしゃいだ声を上げる。
これは、新しく働き始めた喫茶店の新メニューだ。前バイトしてた店でホットサンドをよく作ってたから、提案したら早速店長がメニューに入れてくれた。
――貴司くんが急に家に来た日から3カ月、私は個人経営の喫茶店に就職した。
もともと、今まで経験のない事務とかの会社を中心に受けていたのが良くなかったのかもしれない。
――何でカフェでバイトしてたの?
あの、貴司くんの問いかけで、私は、忙しい人がちょっと一息つけるようなそんなカフェっていう空間が好きだったことに気がついた。
それで、ふとした拍子に見つけた地域の情報誌に載ってた個人経営の喫茶店の求人に応募してみたら、とんとん拍子に採用された。給与はそんなに高くないけど、ようやく正社員だし、職場も思いの外楽しかった。
「コーヒーも淹れるね」
キッチンでお湯を沸かす。
そして、ここは貴司くんの住むマンションだ。
あれから私たちは頻繁に連絡して、会うようになった。
会うって言っても、貴司くんはそれなりに目立つし忙しいのであんまり外に遊びに行くっていうわけでもなく、たまに休日に貴司くんの家でランチを食べることがほとんどだ。
「――今日、スッキリめにしとく? 濃いめにしとく?」
今の喫茶店はハンドドリップでコーヒーを淹れるので、勉強になって自信がついた。
「――お任せで。若葉のコーヒーなら何でも美味いもん」
急に後ろから声がして、振り返ると、後ろに立っていた貴司くんがそのまま私を抱きしめて頭を近づけた。唇が重なる。
私の頭に手を置いて、貴司くんはゆっくりと私の口の中を舌でなぞった。隙間から息が漏れる。
「っ、ぁ」
彼の肩に腕を回してそれに応える。
シュゥゥゥとお湯の沸く音がして、視線をずらした。
リビングの壁に貼られた鏡に私と貴司くんが映っていた。
彼の家は、リビングがかなり広いんだけど、ダンス練習に使うためか壁に自分で貼りつけたらしいアルミミラーが貼ってある。
そこに、地味なついこの前まで無職だった女と、テレビに出てる芸能人が映ってる。
私は彼の胸をとん、と押した。
「あ、お湯沸いちゃった?」
貴司くんはにっと笑って離れた。
……ここまで、いつもここでおしまいだ。
彼がきっとその先に行かないのは、私がきちんと「好き」と言っていないからだと思う。
未だに貴司くんが私のことを好きだと言うのが信じられないし、こうやって彼と過ごしていることが信じられない私は、その言葉を言えないでいた。
私は良い感じの焦げ目のついたパンを食卓へ運んだ。
「美味そう!」と貴司くんがはしゃいだ声を上げる。
これは、新しく働き始めた喫茶店の新メニューだ。前バイトしてた店でホットサンドをよく作ってたから、提案したら早速店長がメニューに入れてくれた。
――貴司くんが急に家に来た日から3カ月、私は個人経営の喫茶店に就職した。
もともと、今まで経験のない事務とかの会社を中心に受けていたのが良くなかったのかもしれない。
――何でカフェでバイトしてたの?
あの、貴司くんの問いかけで、私は、忙しい人がちょっと一息つけるようなそんなカフェっていう空間が好きだったことに気がついた。
それで、ふとした拍子に見つけた地域の情報誌に載ってた個人経営の喫茶店の求人に応募してみたら、とんとん拍子に採用された。給与はそんなに高くないけど、ようやく正社員だし、職場も思いの外楽しかった。
「コーヒーも淹れるね」
キッチンでお湯を沸かす。
そして、ここは貴司くんの住むマンションだ。
あれから私たちは頻繁に連絡して、会うようになった。
会うって言っても、貴司くんはそれなりに目立つし忙しいのであんまり外に遊びに行くっていうわけでもなく、たまに休日に貴司くんの家でランチを食べることがほとんどだ。
「――今日、スッキリめにしとく? 濃いめにしとく?」
今の喫茶店はハンドドリップでコーヒーを淹れるので、勉強になって自信がついた。
「――お任せで。若葉のコーヒーなら何でも美味いもん」
急に後ろから声がして、振り返ると、後ろに立っていた貴司くんがそのまま私を抱きしめて頭を近づけた。唇が重なる。
私の頭に手を置いて、貴司くんはゆっくりと私の口の中を舌でなぞった。隙間から息が漏れる。
「っ、ぁ」
彼の肩に腕を回してそれに応える。
シュゥゥゥとお湯の沸く音がして、視線をずらした。
リビングの壁に貼られた鏡に私と貴司くんが映っていた。
彼の家は、リビングがかなり広いんだけど、ダンス練習に使うためか壁に自分で貼りつけたらしいアルミミラーが貼ってある。
そこに、地味なついこの前まで無職だった女と、テレビに出てる芸能人が映ってる。
私は彼の胸をとん、と押した。
「あ、お湯沸いちゃった?」
貴司くんはにっと笑って離れた。
……ここまで、いつもここでおしまいだ。
彼がきっとその先に行かないのは、私がきちんと「好き」と言っていないからだと思う。
未だに貴司くんが私のことを好きだと言うのが信じられないし、こうやって彼と過ごしていることが信じられない私は、その言葉を言えないでいた。
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