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三章

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 同じ目に合わせてやるという怒りが、感覚共有という方法を閃かせた。“可能だが――”と影にデメリットをこんこんと説かれたけど、私のこの感度を利用しない手は無かった。

 無意識を操って呪わせたせいで、アルトスからの感覚共有は常に継続、こちらからの共有はいつでもオンオフに切り替えられるらしかった。本当に私だけが危険で負担だらけ。でも良いの、信頼出来る従者様が居るし、これが笑えるくらい効果的だったから。

 アルトスは元々感じにくい上、快感が七割くらい蓄積すると急激にブレーキがかかるみたいだった。生誕祭と枕での自慰でわかった。

 つまり強制的に快感を与えるこの方法は、腹が立つほど分厚い鉄壁へど真ん中、防御貫通だった。一度も見ることが叶わなかった蕩けた表情。面白いように喘いで念願の射精をしてくれた。あぁ、最高!

 ほら、どう? まずは君の足首を掴んだ。

 そしてこちらの思惑を悟らせないよう、目標を与えた。きっとわからない、絶対にわからない、でもあの頃の少女が僅かな期待を込めて……魔女に言わせたの。

 “わたしはだーれだ”

 君は見事、興味を持った。周りにすぐ頼ることなく、そのこだわりが、プライドが君を泥沼に嵌めたんだ。

 ねぇ、どう? 君の太ももを掴んだ。

 おや、従者様は流石に優秀ねぇ? エールの懸念通り、すぐに呪いの仕組みを理解した。でも大丈夫、エールありがとう、本当にありがとう。この呪いは簡単に解けない。大切なものを護るって大変よねぇ、従者様。

 外野が口を挟まないで、勝負の邪魔をしないで。貴方の対策はもう万全なの。さあさ、私を見つけてアルトス。リベンジだ!

 君の好きそうな甘味を、目の前に置いていってあげる。それを一つ一つ口に含んで、飲み込んだらまたおいで。今度はこの手で食べさせてあげるから。ハンカチはサービス。良い香り? その調子で自ら望んで到れるようになろうね。シエルの部屋でやらかしたのは……百歩譲って許してあげるから。

 でも、次に君の腰を掴んだつもりが、抵抗された。

 そそり立ってるじゃん、それ。涎だらだらじゃん。もう限界でしょ? 辛いでしょ? 扱いちゃえって。あーもう……、君さぁ……。自慰をしたら死ぬとでも思ってるわけ?? 何よその精神力、理由が無いと駄目だって? ほら、早く早く、手を伸ばせ! …このバカ!

 私は君の腰を掴み直した。

 食わず嫌いは仕方ない、この手でねじ込んであげる。お口を開けて、アーン。たっぷり甘い蜂蜜をかけて、ほら、美味しいおいしい、気持ちいいね。従者様に隠し通したご褒美、いっぱいイかせてあげる。嫌がりながらも腰を振っちゃって、愉快愉快。でも喘ぎ叫ぶ君を嬲りながら、何故か泣きそうになった。やっぱり想いって、蓋をしても溢れてくるものね。

 でも私にはもうこの方法しかないの。この限られた時間、日数の中で君を快楽漬けにして、私じゃないとイけなくして、勢いのまま私のことが  だって

 ごめんね魔女、ごめんね私。思い描いていたキラキラな恋なんて、もう無理なんだ。

 復讐も兼ねてアルトスの身体に、快感の拾い方を何度も何度も繰り返し覚えさせた。

 そして飛び出たあの“命令コマンド”。やりすぎたみたいですんでのところで阻止することが出来たけど――。君の心が、まだ私を拒絶している証拠だった。身体はこんなにもとろとろなのに。

 アルトスお願い、受け入れて。私は君を傷つけないよ。

 熱い背中に頬をつけて、感じた心臓の鼓動は力強かった。この人は特殊な力を持っていて、確かに普通じゃないけど……ただの人間なの。孤独を耐えて、誰かの役に立とうと懸命に生きている。それが贖罪だと言わんばかりに。

 馬鹿だなぁほんと。この人は馬鹿がつくほど臆病で優しい。きっと傷つくことの痛み、辛さを知っているからね。

 でもだからってさ、それは無いでしょ。結婚活動警備の日、豚が顔を見せた時点で犯されると君はすぐに悟ったはずだ。なのに力も使わず、ただ嬲られることを選んだ。

 本当に最悪。自分を大切にしなさいよ。

 君からの感覚共有で後頭部からの鈍痛、頬に熱、首が絞まり、腕に太もも、全部が全部痛くて不愉快で不快感。あの豚が何をしているのか光景がありありと目に浮かんで、マッチポンプを選択したことをすぐに後悔した。

 ギリギリまで耐えて、耐えて耐えて、君の精神が限界だというところで助ける。従者様に化けたのは、正体をバラしたときのギャップで心を揺さぶりたかったから。

 これは想定以上に上手く行った。全身を優しく撫でてあげて、窮地から脱した安心感を与えた。女の柔肌、香りを思う存分堪能させて、弱った心を包んであげた。素直に目を閉じ甘えてきたのがとてもかわいかった。すぐに泣かせちゃったけど。

 心の檻を上下左右に揺さぶって、開いた扉の向こう側へ。手を突っ込んで君を引っ張り出してやった。ほらほら、出ておいで!

 ようやく自らの意志で、自発的に君は私を使った。

 理性を飛ばして、己の欲を満たして。甘味で口をいっぱいにして、愉しんで良いんだよ。快楽を貪り果てなさい。ほら、イけイけ、君の良いところは全部わかるんだ。離さないから、欲を一滴残らず飲み干してあげる、受け止めてあげる。

 達成感と共に、口の中に苦味とほんの微かな甘みが広がった。

 やった、やったやったぁ!!

 そう、遂に、遂にここまで来たの! 本当に長かった、指が掛かったの! 君は知ってしまったね、人肌の心地良さ気持ち良さ、快楽の果てを!!

 ほら、アルトス! 首に腕を回したよ、身体を密着させた! これでもう私から目を逸らせないでしょう? さぁ、私を見なさいよ!!

 その綺麗な瞳を、情欲に染めてあげる!

 これからだ、ようやくスタート地点だ始まりだぁ! 時間がない日数がない! 礼拝堂の下、障壁の破り方も考えなければならない、アレをぶち壊してもう誰も贄になれないようにしなければならない!!

 って意気込んだのに……。

 そう、……この傷が治るまで検討も感覚共有も一時いちじ取り止め……。早く治すの。そして治ったら暫くぶりに……あの人に抱き締めてもらおうかなぁ……。君も、誰も知らないけど、でも私こんなに頑張ったんだ。ご褒美が欲しい……。あの人に優しく抱き締めてもらって、よしよししてもらうんだ……。

 あぁ、でも待って。今のこんな関係でそんなことしてもらえるのかな……。

 アルトス、アルトス……。

 まだ今の君に、一度も笑ってもらえてない、よね……。
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