魔女の白昼アプセット~誰か俺を助けてください~

火箸プレパラット

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与太話

???

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 それはとっても不思議な体験だった。

 お貴族さまには内緒の、魔術が使えない一般市民の間で流行る違法なおクスリ。そのレシピをパパっと手に入れて、従者様対策兼アルトスの快楽堕ち計画のかなめ、ゴリゴリと作った精力剤と媚薬の効果を試すため、被験体ヌヴァンの食事に混ぜ与え反応を確認した時のことだった。

『厶、ムムム!』

 どこからともなく音が聞こえてきたのだ。それは感覚的なもので、勝手に意訳したらこんな感じ。

『アナタ、魅了の魔術を使わなくても、ちゃんと魅了デキてるじゃない!』

「え、え!?」

 影の体内に居られるのは私だけのはずだ。だから驚いて周りを見回すと、白いモヤのようなものが私の身体からみ出てきていた。

『ムム? ワタシの声が聴こえてイるの? ムム! 魔力も持たないニンゲンなのに、コイツが中継となってトドいてしまってイる?』

「え、待って、怖い! 誰? どういうこと??」

 モヤを振り払おうと身体をさすりながら混乱していると、空間からフワリと浮かび上がった影が“大丈夫だ”とモヤとの間に滑り込んできた。

『やっとセカイに還れる! 二度とこんな形でニンゲンと契約しないでチョウダイ! もうワタシの穴は塞いだから! ムリヤリ穴を開けるなんてナニしてるの!』

 モヤは影にまとわりついて、その身体を締め上げているようだった。影はモヤにされるがまま、何故か慌てているようで、私は二人? のやり取りを目をパチパチさせて見ていた。

「えっと、あの、すみません。どちらさまですか……?」

 恐る恐る聞いてみると殊勝なことに、この白いモヤは影よりよっぽど親切に説明してくれた。影は無視するか後出しばっかりだったから、嬉しかった。

『ワタシはアナタ達のセカイでイう神秘! コイツと似たようなモノ!』

「神秘!」

 勉強していた知識が役に立った瞬間だった。神秘、魔法、魔術の違いを私は思い出す。

 神秘とはただの“現象”である。魔法とは現象の力を借りて起こす“事象”である。魔術とは事象を起こすための道順を書き起こした“事象解明式”のことである。

 そう、私なりに簡単に表現するのなら……現象はここにいる影。これは今の私たちでは解明できない、形としてしか認識できないもの。

 ただそこにあるだけの、不思議な現象だ。

 次に魔法は、影の力を借りて起こした事象。こんなの未知の力を借りないと起こせないよ! っていう奇跡。

 そして最後に魔術。事象をどうやったら起こせるかっていう――。

「あぁ、駄目だ! 自分で自分に解説してて、わからなくなってきた! ここにエールを呼びたいぃ!!」

 私は頭をかきむしった。やっぱり神秘とか魔法って訳わかんない! って叫びたかった。

『ムム! アナタ契約者なのにそんなコトもわからないの? まさかオマエ、何も説明してイないな?』

 白いモヤはまたも影に巻き付き締め上げているようだった。影が焦るように蠢く中、感覚的な音がつむがれる。

『特別にそっちに合わせてゲンゴカしてあげる。タトえば、そう、一番最初にニンゲンの使役から還ってイった火で説明するわ。火ってそこにただあればただの現象でショ?』

「はい! 確かに火は火です! もう火って感じ!」

 暗闇の中、私は白いモヤを前に正座して、突然始まった授業を受け始めた。

『その火で肉をヤいたら、現象で起こった事象なの』

「へー!」

 先生が優秀すぎる。例えが簡単すぎて逆にわからなくなった気がした。

『そして何で肉がヤけたのか説明したのがそっちでイう魔術、事象解明式なの』

「むむ?」

『ムム! 肉がヤけるのは火がアツいからでしょ! 火がアツいから肉がヤけるってイう式を、ニンゲンは道具や自身にカき込んで定着させてイるのよ!』

「むむ、むむむむ!」

 私は唸った。

『でもアナタ達はそれダケに飽き足らず、火のオこし方を化学的に解明してしまった。使役にコタえていた火という神秘は、そっちでイう化学破損ケミカルクラックをオこしたの』

 モヤは私の周りをくるくると回り始めた。

『火は大手をフって還ってイったわ! だからアナタ達はもう火に関する魔法を使えない! 残ってイるのは魔術のみ! それももうすぐ使えなくなるだろうケド』

「ど、どうしてですか?」

『それがさっきイった穴のことよ。火の化学発生をアナタ達は食事、料理によってヒロく使ってイる。そうすることでチラホラ残っている火の魔術保持者、その魔術の射出口を化学破損させて塞いでイるのよ』

「へー!」

『穴は塞がったら基本開くことはない。先祖返りしないカギり、それは子々孫々に受けツがれるわ。自立デキるのならもうワタシ達を解放してチョウダイ! 過去の契約はハたされたのだカラ!』

「過去の契約……?」

『ニンゲンが独り立ちデキるまで神秘が手を貸すってセカイとの契約! この国ダケよ! ここまで縋り付いてイるのは!』

 プンプンしながらモヤはどんどん上昇していく。見上げて首が痛くなってきた。

『ワタシはソイツの呼び掛けにオウじてアナタの塞がっていた射出口を開いてあげたダケ! 塞がらないように見てイてあげたダケ! でもソレが使えるならもうワタシはイらないでしょ!』

「え、え、え!?」

『ワタシは還るわ、ワタシのセカイに。そのクスリが広まれば、ワタシの痕跡、魔術もいつかそっちのセカイから消えるわね』

 そう、それはつまり。精力剤と媚薬を使ったことにより、私の魅了の魔術が化学破損、使用不可になったということだった。

「うそ、待って! この魔術とっても便利なの! おクスリで再現は出来たけど、魔術ほど完璧じゃないし!!」

『サヨウナラ、さようなら。ニンゲンは早くオヤ離れするベキよ。サヨウナラ』

 きゃっきゃっと幼子のような音を発しながら、モヤは宙に消えていった。

「え、えぇ……」

 いつの間にか伸ばしていた手を下ろす。影の体内に静寂が戻ってきた。

「うそ……。これが神秘の化学破損……? 徐々に国の神秘濃度が薄まる理由……?」

 胸に手を当てて、何だか凄く寂しくなった。親離れしろと魅了さんは言っていたけれど、私は一方的に置いてかれて笑っていられるほど出来た人間ではないのだ。

「魅了さんがこの身から離れていってしまったのね……」

 その穴は塞がったはずなのに、胸にはポッカリと穴があいていた。

「ねぇ、じゃあ私が魔術だと思って使っていたのは、もしかしてお前を通した魔法なの?」

 何となく思いついて、周りを漂っていた影に問い掛けた。影は否定した。

「“お前の中に黒泥を放ってスペルを刻み、さっきみたいに穴を開けて魔力を流し込んでいる。人体の魔術具化だから一応魔術だ”? へー、あれってただ私を犯しているだけじゃなかったんだぁ……」

 幾度と嬲られてきた行為に意味はあったと、今更ながら教えられる。やっぱり魅了さんに比べて影は後出しばかりで説明不足。

「もうちょっとお喋りになってよ……」

 私の呟きは聞こえているはずなのに、影はいつも通り無視をした。

 私がこの世界の仕組みについて、少しだけ詳しくなった体験だった。
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