丸っこいへんちくりんなソレは私の婚約者だが?

まめ

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事業計画

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 今回の新しい店舗は飲食店らしい。安価で平民が何かのお祝いに利用出来るような店がコンセプトとのこと。祝事は家でするものというのは貴族も平民も変わらない。平民は大衆食堂を利用するが、そこで祝事をするのは酒を煽りたい仕事をする男達だ。家で料理などを作る母親も、気にせずたまにはゆっくり参加出来るようにしてあげたいと彼女は考えたようだ。既に別な場所で二店舗開業しているが、口コミとやらで噂が広まり予約でいっぱいだと聞いている。

 宿の客間で契約の関係者達と伯爵を通して打ち合わせをする彼女は、年齢にそぐわぬ商談力を見せた。だが、見た目は五年前に会った時から緩やかな成長なのか、相変わらずちっこくて丸い…。側から見れば商談に、幼女が参加している奇妙な構図。それを不思議に感じさせないのは婚約者として彼女をずっと見てきた私だからだろう。

 そんなやり取りの場を見ながら、ふと近くにあった文机に積まれていた書類に目がいった。

 ……………。
 
 事業計画と題されたその書類には彼女の人生設計が十年、二十年先のことまで構想されている。その計画書を目にした私は彼女への怒りと焦りを感じたが、何食わぬ顔でその場をやり過ごした。

 この休みは彼女と共に過ごすつもりでいたのだが、早急にやるべきことができてしまったため、その日の内に戻ることにした。

 商談が纏まり、嬉しそうにしている彼女にモノクルに手をやり冷静を装いながら告げた。

「先程、留学が決まったので一年間は会えない」
「…?先程?留学?…ちょ、ちょっと待って。急にここに来たこともだけど、セフィーロは?セフィーロのことはどうなってるの?」

「はぁ…。何度も言うが何故彼女の名が出てくるのか解らないな。君は彼女と知り合いなのか?」
「えっ、あ、いや、知り合いとかではなくて、こっちが一方的に知ってるというか…」
「とにかく、一年間は戻らないので」

 揉めていると思ったのか、商談の時とは異なり、おろおろとする伯爵に向かって言った。
「そういうことですので、その間彼女のことよろしくお願いしますね」
 私の気迫とその言葉の意味することに伯爵は黙って首肯した。

 目にした計画により、彼女への意趣返しと一年分の私の存在を植え付けるため、あることを思い付いた。未だ疑問だらけだというその顔に手を伸ばし、彼女の唇に私の唇を押し当てた。

「!!!!!っ」

 目を見開いたまま、突然発火したかのように赤くなった彼女ににやりと笑みが溢れ、この意趣返しと植え付けが成功したと理解した。

「手紙を送る」

 一言だけ告げ、宿を後にした。
 帰りの馬車の中、自分の唇が拾った彼女の唇の感触が忘れられず、ずっとその唇に手を当てていた。その間、耳がじんじんとしていたが気のせいだろう。



 帰宅後の私は、両親から隣国カルマンギアへ留学することへの許可を取り、学園長と話し合いの場を設けてもらった。話し合いと言ってもこちらの要望を丸呑みしてもらうだけのもの。カルマンギアへの推薦書を書かせもぎ取るようにそれを受け取った。


 そして一週間後にはカルマンギアの土を踏んでいた。

 留学と名していても、こちらでも学園では剣術と体術の授業だけを受け、残りの空いた時間にはこの国の法律を調べる時間に当てた。殊更に権利関係の法律を調べ上げ、ある権利に関して申請が必要なことが分かった。そしてその権利こそニ年半後の私にはとても重要だということも。

「はい、こちらの書類を受理しました。申請が通ったかの知らせは改めて郵送されますのでそちらでご確認下さい」

 受付の女性に書類を提出し、一つの案件が片付いたことでほっとした。こんな申請を出す者など居ない。間違いなく通るだろう。今回の申請は私の所有を認めるもの。使用したりするのには私の許可を必要とする。類似性の物を使用することすら出来ない。
 後は、今後起こり得ることに万全の対策を期すためここでの地位が必要だ。私はある人物の元を訪ねた。


「カミユ、久しぶりだな。会わない内に逞しくなって。お前の名前を語る別人かと思ったぞ」
「ご無沙汰しております。以前お会いしたのは六年前ですからそう思われるのも無理のないことでしょう。今回はお願いが有って参りました」
「お前の母親からこちらに留学しに来るとは聞いていたが、また突然だったな。で、何が入り用だ?」

 目の前の衰えを感じさせない体躯を持ち合わせるこの男性は、私の祖父。カルマンギア前国王弟にして今も尚国営騎士団の団長を務めている。父が学生の頃同じようにこの国に留学した際母と出会い、あちらの国に連れていったことを、間もなく二十年経つというのに未だに根に持っている。六年前に父と喧嘩した母が久しぶりに帰国した際には、あちらに戻らせないよう監禁を企てようとまでした。それを阻止したのは当時母と共にこちらに来ていた私だ。母同様に私に対して甘い祖父に漬け込んだ。

「私にそれなりの爵位を」
「ほう、それを得て何をするつもりだ?」

 面白いものを見つけたと顎を摩りながら問う。全てを話すつもりは無いが掻い摘んで私の計画を話した。

「見返りは母のこの国での永住。勿論父付きですが」
「彼奴は要らんがディアーヌが悲しむのは不本意だからな。カミユ、お前が望むなら国王の座を譲らせることも出来ないくは無いぞ」
「現国王と関係の良好な方の言葉とは思えませんね。国王になどなってしまえば私の自由も奪われるというもの。私はそんなことを望んでおりません」

 苛烈な祖父ならばやり兼ねないので即座に断りを入れる。

「あと、叔父を押し退けて公爵位を継ぐつもりもありませんので」

 先手を打ってそう告げれば祖父はガハハハと豪快に笑い、ついでだから国王に挨拶していけと何の約束も取り付けていない王の元へ連れて行かれた。私の周りには予定を合わせるというのを知らない者ばかりだ。
 
 いとこ違いの国王は広い視野で物事を捉え、柔軟な考えをする穏やかな人物で、国民からも慕われている。私は初めて会ったにも関わらず、知らぬ間にこれからの展望を語っていた。いや、語らされていたと言った方が良いだろう。

「これまでに無いことだが、なかなか面白いな。カミユ、私の力が必要な時はいつでも申し出てくれ」
「身に余る光栄とは存じますが、いとこ違いという立場でお言葉に甘えさせていただきます」


 こうして二年半後に向けて着々と計画を進めていった。





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