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エピローグ
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「戻る用意ができたぞ!」
建物の方から担任の若宮の声が聞こえた。
その声を聞いて、中庭にいた伊藤が江川の方を振り向く。
「で?用件さっさと言えよ。若ちんが呼んでんだろ」
既に魔王を倒した為、今は勇者と聖女としての服でなく、ここに来た時に着けていたウェイター姿と制服姿だ。
「伊藤くんはどうして…田中さんが鈴木くんと付き合うの黙って見てるの?あの身代わりの石だって、伊藤くんが田中さんの為に死ぬ思いで取って来たのに」
「お前に関係ないだろ。前にも言ったけどアイツは妹みたいなもんだから鈴木みたいな良い奴なら文句は言わねえよ」
「…わかったわ。口出ししてごめんなさい」
「加藤、お前またアイツに何かすんなよ。俺、お前がした事、まだ許してねーからな」
「わかってる。もうあんな事…二度としないわ。田中さんは命の恩人だもの」
江川は項垂れる様に顔を伏せた。
「ただ…私のせいで伊藤くんが責任を感じてるなら申し訳なくて…」
「…余計なお世話だ。もう俺に関わるな」
そう言って伊藤は江川を置いて行ってしまった。
1人残された江川の瞳から堪えきれず涙が溢れた。
ガサゴソ、近くの垣根から音がして、若宮がやって来た。
「なーにやってんだお前。もうみんな儀式の間に向かってるぞ」
「…すみません」
「はぁ…また伊藤と揉めたのか?」
「……私が悪いんです」
落ち込む江川に、若宮が、はぁーとため息を吐いた。
「確かによ。お前は悪い事をしたかもしれない。でも同じ位、良い事もしてる」
「……若ちん」
「今、田中が今のクラスメイトが好きだって言えてるのは委員長のお前が普段気を使ってやってるのもあんだろ?」
「……」
「大丈夫さ。お前達若者には未来がある。失敗して後悔した分を取り戻せる位、これから頑張ればいい」
「…ありがとうございます。儀式の間に向かってますね」
ぺこりと頭を下げて、江川は中庭を出て行った。
誰もいなくなった中庭を見回して、若宮はガシガシ頭を掻いた。
色々ともどかしい。みんな自分にとっては可愛い生徒だ。だから誰か1人だけの肩を持つ事はしたくない。
正直なところ。問題の3人を自分が担当する事になった時はどうしようかと思ったのが本音だ。
中学の頃クラスのいじめが原因で引きこもり不登校になった田中。
クラスを先導していじめていた張本人の江川。
そして、いじめのキッカケになった伊藤。
クラスのみんなには伏せているが、伊藤大河と田中あかりは兄妹だ。幼い頃に親が離婚したせいで苗字が違うが、仲の良い兄妹だったらしい。
ところが中学のイジメがキッカケで、精神的なショックから田中は過去の記憶を所々無くしてしまったらしく、兄の大河を幼馴染だと思い込んでしまったらしい。
そんな田中をフォローするさせる為に兄の伊藤をあえて一緒のクラスにしたのだが…。
想定外だったのは江川だ。
中学を転校した後に親が離婚し苗字が変わった彼女は、たまたま2人と同じ高校、同じクラスになってしまった。
それが判明したのは、実際授業が始まってからだ。その時にはもうクラス分けのしようが無かった。
今のところ江川は自分のイジメで引きこもりになった田中に対して、心から後悔して接してる様だ。
だがもし田中の記憶が戻った時。このクラスがどうなってしまうかはわからない。
それでも担任として。少しでもみんなが幸せになれるよう手を貸してやりたい、そう思う。
◇◇◇
儀式の間に戻ると、若宮のクラスの生徒達は全員揃っていた。
1人も欠けることなく。無事な姿で。
若宮は生徒全体を見渡した。みんな、無事に帰れる喜びからか、とても良い笑顔だ。
元々仲の良いクラスだったが、今回の件でより一層絆が深まった気がする。
そんな中、伊藤はクラスの男子とふざけて遊んでる。
江川は少し表情が暗いが、仲の良い山田が側に寄り添ってるから大丈夫だろう。
田中あかりと鈴木忍は、仲良く手を繋いでおしゃべりしている。2人の幸せそうな雰囲気が周囲をほっこりさせている。
「若ちん殿!準備できました!」
ローブを羽織った翁に声をかけられた。
いよいよだ。
「よしみんな!今から帰還するぞ」
生徒達が注目してくる。
「バタバタして大変な14日間だったが、みんなよくやった。こうやって…誰1人欠けることなく…帰れて本当に….良かった」
ちくしょう。何だか、込み上げて来る物があるな。
若ちんガンバレーとか言ってる奴がいる。しめるぞコラ。気合いで目から出そうな何かは引っ込ませた!
「おし、帰るぞお前ら!」
「はい!」
生徒の声に呼応する様に、光がみんなを包んだ。
◇◇◇
光が収まると、よく知っている教室だった。
あの日のあの時のままの、カフェ仕様の教室だった。時計の時刻も同じだった。
「帰って来た…」
誰かが呟き、クラス全体が歓喜に包まれた。
よっしゃーと叫んだり、泣き出したり、笑い出したり、とにかく大騒ぎで、よそのクラスが何事かと顔を覗かせて来てる。
「ホームルームするぞ!席につけー!」
「えー!今それ言う?」
「あたりめーだ!今から学園祭だぞ!」
みんなが、えぇ~と不満そうだ。
「こういう日常がどんだけ大事か身に染みただろ!」
「そうだけど~」
「若ちん、あの時も言ったけど、もうセッティング終わってるから席無いよ~。今さらホームルームいる?」
「うっせえ!いる!じゃあ注意事項話すから適当に立ったまま聞け!」
「ええ~!」
晴れた秋空に生徒達の不満声が響き渡った。
オタク女子はクラス転移で愛を知り哀を察る 完
ーーー
物語は以上です。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
最後に登場人物一覧の最終版を追加します。エピローグまでの全てのネタバレ、裏事情を記載してます。
気になる方はぜひそちらもお読み頂けたら嬉しいです。
建物の方から担任の若宮の声が聞こえた。
その声を聞いて、中庭にいた伊藤が江川の方を振り向く。
「で?用件さっさと言えよ。若ちんが呼んでんだろ」
既に魔王を倒した為、今は勇者と聖女としての服でなく、ここに来た時に着けていたウェイター姿と制服姿だ。
「伊藤くんはどうして…田中さんが鈴木くんと付き合うの黙って見てるの?あの身代わりの石だって、伊藤くんが田中さんの為に死ぬ思いで取って来たのに」
「お前に関係ないだろ。前にも言ったけどアイツは妹みたいなもんだから鈴木みたいな良い奴なら文句は言わねえよ」
「…わかったわ。口出ししてごめんなさい」
「加藤、お前またアイツに何かすんなよ。俺、お前がした事、まだ許してねーからな」
「わかってる。もうあんな事…二度としないわ。田中さんは命の恩人だもの」
江川は項垂れる様に顔を伏せた。
「ただ…私のせいで伊藤くんが責任を感じてるなら申し訳なくて…」
「…余計なお世話だ。もう俺に関わるな」
そう言って伊藤は江川を置いて行ってしまった。
1人残された江川の瞳から堪えきれず涙が溢れた。
ガサゴソ、近くの垣根から音がして、若宮がやって来た。
「なーにやってんだお前。もうみんな儀式の間に向かってるぞ」
「…すみません」
「はぁ…また伊藤と揉めたのか?」
「……私が悪いんです」
落ち込む江川に、若宮が、はぁーとため息を吐いた。
「確かによ。お前は悪い事をしたかもしれない。でも同じ位、良い事もしてる」
「……若ちん」
「今、田中が今のクラスメイトが好きだって言えてるのは委員長のお前が普段気を使ってやってるのもあんだろ?」
「……」
「大丈夫さ。お前達若者には未来がある。失敗して後悔した分を取り戻せる位、これから頑張ればいい」
「…ありがとうございます。儀式の間に向かってますね」
ぺこりと頭を下げて、江川は中庭を出て行った。
誰もいなくなった中庭を見回して、若宮はガシガシ頭を掻いた。
色々ともどかしい。みんな自分にとっては可愛い生徒だ。だから誰か1人だけの肩を持つ事はしたくない。
正直なところ。問題の3人を自分が担当する事になった時はどうしようかと思ったのが本音だ。
中学の頃クラスのいじめが原因で引きこもり不登校になった田中。
クラスを先導していじめていた張本人の江川。
そして、いじめのキッカケになった伊藤。
クラスのみんなには伏せているが、伊藤大河と田中あかりは兄妹だ。幼い頃に親が離婚したせいで苗字が違うが、仲の良い兄妹だったらしい。
ところが中学のイジメがキッカケで、精神的なショックから田中は過去の記憶を所々無くしてしまったらしく、兄の大河を幼馴染だと思い込んでしまったらしい。
そんな田中をフォローするさせる為に兄の伊藤をあえて一緒のクラスにしたのだが…。
想定外だったのは江川だ。
中学を転校した後に親が離婚し苗字が変わった彼女は、たまたま2人と同じ高校、同じクラスになってしまった。
それが判明したのは、実際授業が始まってからだ。その時にはもうクラス分けのしようが無かった。
今のところ江川は自分のイジメで引きこもりになった田中に対して、心から後悔して接してる様だ。
だがもし田中の記憶が戻った時。このクラスがどうなってしまうかはわからない。
それでも担任として。少しでもみんなが幸せになれるよう手を貸してやりたい、そう思う。
◇◇◇
儀式の間に戻ると、若宮のクラスの生徒達は全員揃っていた。
1人も欠けることなく。無事な姿で。
若宮は生徒全体を見渡した。みんな、無事に帰れる喜びからか、とても良い笑顔だ。
元々仲の良いクラスだったが、今回の件でより一層絆が深まった気がする。
そんな中、伊藤はクラスの男子とふざけて遊んでる。
江川は少し表情が暗いが、仲の良い山田が側に寄り添ってるから大丈夫だろう。
田中あかりと鈴木忍は、仲良く手を繋いでおしゃべりしている。2人の幸せそうな雰囲気が周囲をほっこりさせている。
「若ちん殿!準備できました!」
ローブを羽織った翁に声をかけられた。
いよいよだ。
「よしみんな!今から帰還するぞ」
生徒達が注目してくる。
「バタバタして大変な14日間だったが、みんなよくやった。こうやって…誰1人欠けることなく…帰れて本当に….良かった」
ちくしょう。何だか、込み上げて来る物があるな。
若ちんガンバレーとか言ってる奴がいる。しめるぞコラ。気合いで目から出そうな何かは引っ込ませた!
「おし、帰るぞお前ら!」
「はい!」
生徒の声に呼応する様に、光がみんなを包んだ。
◇◇◇
光が収まると、よく知っている教室だった。
あの日のあの時のままの、カフェ仕様の教室だった。時計の時刻も同じだった。
「帰って来た…」
誰かが呟き、クラス全体が歓喜に包まれた。
よっしゃーと叫んだり、泣き出したり、笑い出したり、とにかく大騒ぎで、よそのクラスが何事かと顔を覗かせて来てる。
「ホームルームするぞ!席につけー!」
「えー!今それ言う?」
「あたりめーだ!今から学園祭だぞ!」
みんなが、えぇ~と不満そうだ。
「こういう日常がどんだけ大事か身に染みただろ!」
「そうだけど~」
「若ちん、あの時も言ったけど、もうセッティング終わってるから席無いよ~。今さらホームルームいる?」
「うっせえ!いる!じゃあ注意事項話すから適当に立ったまま聞け!」
「ええ~!」
晴れた秋空に生徒達の不満声が響き渡った。
オタク女子はクラス転移で愛を知り哀を察る 完
ーーー
物語は以上です。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
最後に登場人物一覧の最終版を追加します。エピローグまでの全てのネタバレ、裏事情を記載してます。
気になる方はぜひそちらもお読み頂けたら嬉しいです。
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