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最終話

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『あかりちゃん!目を覚まして!』
『あかり!おい!勝手に死ぬな!』
『あかりちゃん!お願い戻って来て!』
『ふえーん、死んだらダメですぅ』
『田中、死んだら許さねぇぞコラ!』

 自分を呼ぶ声がする。
 最後の怖いのは、きっと若ちんだ。

 顔に何か雫みたいな温かい水滴が当たった。

 少し瞼が震えて、うっすら目を開く。

 目の前には、忍くん、大河、菜穂ちゃん、くるみちゃん、若ちんの泣き顔があった。

「…みんな、どうしたの?」
「あかりちゃん…良かった」
「おせーよ。起きんの…」

 忍くんが、泣き笑いし。大河は目元を押さえて余計に泣き出した。菜穂ちゃんとくるみちゃんがわたしに抱きついて、良かったと号泣した。側にいた若ちんは、言葉も泣く男泣きしてる。

 周囲からも、大歓声があがった。

 わたしは、何が起きたのかよく分からなくて。そのまま横たわったまま、空に目をやる。暗かった空が少しずつ赤らみ始めて、遠くに眩しい光が感じられた。

「日の出…」

 ポツリ、口から溢れたわたしの呟きを、忍くんが拾った。

「そうだよ。長かった夜が明けたよ。もう戦いも終わった。みんなで元の世界に帰ろう」

 長かった夜が明けた。
 戦いも終わった。

「うん」

 そうか。わたし…助かったんだ。

 喜びで胸がいっぱいになって。
 涙が一筋溢れた。



◇◇◇



「あかりちゃん、もう大丈夫?」
「うん、平気。ふぅ」

 食堂で温かい飲み物をもらって身体を温めると、自然と溜め息が溢れた。

 みんなほぼ徹夜で戦っていたから、少し休憩したら元の世界に帰る予定だ。

 今、王様達が帰還の儀の準備をしてくれている。

 わたしも幸い特に後遺症とかも無く、むしろ呪いを受ける前より体調が良いくらいだ。

「わたしね、帰ったらしたい事があるの」
「なに?」

 忍くんが側に座って優しく尋ねてくれた。

 今は近くに誰もいない。みんな、わたし達に気を使って少し距離を開けてくれていた。

「忍くんにメガネをプレゼントしたいの。もうボロボロでしょ?」
「メガネ?」

 忍くんが不思議そうに呟いて、メガネを外してメガネをチェックした。

「そういえばボロボロだね」
「……」
「あかりちゃん?」

 メガネを外した忍くんが不思議そうに、わたしを見る。その顔は…。

「メガネ外してるの初めて見た…」
「あ、うん。僕人見知りだから滅多に外さないんだけど…変?」
「ううん!全然!むしろー」

 ものすごく好みでした!

「変じゃないなら、良かった」

 照れ笑いする顔を見て、ドスッと弓矢がハートに刺さった!

 やばい!元々性格に惹かれて好きになったのに見た目もドストライクなんて!

 わたしドキドキで死ぬかもしれない…!

 その時、戻る用意ができたぞ!と若ちんが食堂に入って来た。みんなが歓声を上げて席を立ち始めた。

「僕達も行こうか」
「うん」

 忍くんが欠けたメガネを掛け直す。
 メガネがキラリと光った。
 きゅん。こっちも好きだ。

 2人自然に手を繋いで、他のクラスメイト達と一緒に歩き出す。

「あかりちゃん。帰ったら沢山デートしよう」

 デート!人生初!
 ドキドキしながら、うんと頷いた。
 何だか気恥ずかしくて、忍くんの顔が見れない。

「出来ればクリスマスも一緒に過ごしたいな」

 彼氏と初クリスマスデート!
 またもドキドキして、うんと頷いた。

「あと初詣も一緒に行きたいな」

 初詣。多分、家族くらいとしか行った事ない。なんだか胸があったかくなって、思わず笑みがこぼれた。

「ふふ、イベント沢山だね。楽しみ」
「…うん。これからは僕があかりちゃんの1番身近な男になりたいんだ。伊藤くんよりも。だから…僕と過ごしてくれる?」
「もちろん。嬉しい」

 すごく楽しみ!

 忍くんのお陰で、キラキラした高校生活が待っている気がする。そんな予感がした。

「……っ」
「あかりちゃん?」

 忍くんが足を止めて、驚いた気配がした。

「何で泣いてるの?もしかして僕強引だった?」

 忍くんの焦った声が聞こえる。

「違う。違うの、嬉しくて…っ」

 気づけばわたしは、ボロボロと涙が溢れて止まらなかった。

 違うの。苦しいとか、悲しいとかじゃなくて。わたしの、わたしのなかの、傷ついて引きこもっていたわたしが、嬉しいって。

 こんなに、明日が楽しみと思える日が来るなんて思ってなかったって。喜んでるのが分かる。

「ありがとう。忍くん、わたしの事を、ぐす、好きなってくれて、ありがとう」
「あかりちゃん?どうしたの?」

 忍くんの焦った声が聞こえてくる。
 ちゃんと伝えたいのに、言葉に詰まって、うまく話せない。

 周囲で、おい鈴木、彼女泣かせんなよ!と言われてるのが聞こえた。
 
 忍くんは、悪くないのに、申し訳ない。

 言葉の代わりに、そのまま忍くんに抱きついた。

「あ、あ、あかりちゃん!?」
「忍くん、大好き。わたしを救ってくれて、ありがとう」
「…あかりちゃん」

 きっと何を言ってるか、忍くんはわからないだろう。わたしが何も事情を言ってないから。

 それでも、忍くんは何も聞かず、そっとわたしを優しく抱きしめ返してくれた。

 あぁ。わたしはきっともう大丈夫だ。
 そんな気がした。

 周囲のクラスメイトが、見せつけんなー、とか、ひゅーとか、囃し立ててる声が聞こえた。

「…えーと、そろそろ向かう?」
「うん」

 クラスメイトに囃し立てられる中、真っ赤で茹でタコみたいになった忍くんと手を繋いで、儀式の間に向かって再び歩き出した。

 きっと、今日よりも明日。
 明日よりも明後日。
 わたしの未来は楽しい事が待ってる。

 そんな予感を感じながらー。



ーーー


 あかり視点の物語は以上です。
 次回エピローグ。最後はあかり以外の視点です。
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