主にショートのいろんな小話集【R18版】

エウラ

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9ー2【始まる前に終わってた】sideシルフィエール

※本日二話目の投稿です。ご注意ください。



俺の話に呆然とするラスト・アルヴァンス。
そんな彼を医師に診察させ、許可を得て具のないスープを少し食べさせる。

きっと久しぶりの温かい食べ物だったのだろう。口にした途端に顔が無意識に綻ぶ。その様子がとても可愛い。光の消えた瑠璃色の瞳に少しずつ輝きが戻ってホッとする。

しかしずいぶんと長いこと満足な食事を与えられていなかったのだろう。彼の片手のひらサイズのカップ一杯でお腹が膨れたようだ。

そのあとすぐにウトウトと船をこぎ出したので、ベッドに横たえて上掛けをかけてやると、すぐに眠りについた。

俺はそっとその寝顔の額に口付けてから天蓋の薄絹を下ろしてベッドを離れる。

「進捗は?」

隣の部屋に移って、待機していた執事のゴーシュに尋ねる。ゴーシュは四十代の見た目だが実年齢はゆうに五〇〇歳を越える金髪碧眼の龍人だ。
なんの気まぐれか、俺がまだ五歳のときに不意に現れて、それ以来俺を主と定めて行動を共にし、今は執事の真似事をしている。執事以外にも邸の采配や防犯、情報収集など様々なことを熟すハイスペックな執事だ。

「はい、ラスト様の叔父夫妻と子息はアルヴァンス公爵家の領地にある別邸に隠れておりましたが、王宮騎士団によってすでに捕縛済み。今は尋問を行っているところです」
「洗いざらい吐くまで、多少欠損してもいいから徹底的に尋問をしろと伝えろ。何、俺の光属性の治癒魔法なら欠損も治せるから遠慮はいらない」
「畏まりました」

そう言って一礼をして部屋を出るゴーシュを見送り、俺はソファに座った。部屋の隅で控えている俺の専属侍従のナーヴが素早く紅茶を淹れてくれる。

ナーヴは灰色の髪に薄い水色の瞳、ケモ耳尻尾のある狼獣人だ。今でこそ侍従をしているが、元々はでシーフの上位職であるローグだった。
も何故か俺に付いてきてくれて、聞けばこちらもゴーシュ同様、俺を主と定めたのだそうだ。

どうやら狼獣人は人生で一度きり、主を決めて命ある限り仕えるのだそうだ。もちろん自分のお眼鏡にかなう相手がいなければ一生仕える主がいないという狼獣人もいるそうだが。
その主が何故俺なのかはわからないが、まあ、何くれと世話を焼いてくれるから俺としては重宝している。

「──はあ……」

それを一口飲んで、息を吐き出す。するとナーヴが微笑んで言った。

「よかったですね、シルフィエール様」
「あー、うん、そうだな。ひとまず目覚めてくれて、よかった」

せっかく助け出せたのに、傷もきれいさっぱり治ったのに、ずっと昏睡状態で気が気じゃなかった。
あのとき、もう少しでも助け出すのが遅れていたらと思うと、本当に間に合ってよかった。

「もうじき目が覚めるだろうという医師の言葉は正しかったですね」
「全くだ」

それでも気がかりだったのは仕方がないだろう。

「……それにしても、食が細すぎますね。栄養失調と言っておりましたが、あれでは骨と皮しかありませんよ。少しでも栄養価の高い食事をとらせてあげませんと……」
「ああ。当分はベッドの上でこまめに食事をさせよう。料理長には──」
「ゴーシュさんが逐一連絡をしておりますので心配ないかと」

ナーヴの心配ももっともだ。どれほど虐げられていたのだろう。本当にもっと早く助け出してやりたかった。

寝室のドアを見つめて、溜め息をつく。




──俺が前世の記憶を取り戻したのは五歳の誕生日を迎えたとき。

その日の夜、夢の中で前世の記憶を見たと言えばいいのか……

前世で社会人だった俺は、同性愛者と言うことを隠しながら生活をしていて、いろいろとストレスが溜まっていた。
そんな中でたまたま知ったBLゲームに嵌まったのだ。

そのBLゲームのストーリーはこうだ。
あるとき、魔王が生まれたと知った国王が、魔王討伐のための勇者を募る。
魔王を討伐するために選ばれた主人公は学園で攻略対象者達と交流を深め、その中から魔王討伐メンバーを選び、勇者となって討伐に挑む。
やがて魔王を討ち滅ぼしハッピーエンドとなる。
しかしそのあと、実は魔王は冤罪で処刑されそうになった某公爵子息だったと知る。これはちゃんと調査せずに処刑を決めた騎士団や王家が醜聞を恐れて隠蔽していて、最後までひとかけらも出てこなかった情報だった。
勇者達はその魔王が生まれる原因となった悪辣非道な貴族を捕らえてしっかりと裁き、王家も非を認めて、これで本当に平和が戻った。めでたしめでたし。

……いやいや、それ、ハッピーエンドか? って思ったヤツはかなりいたようで、ネットでめちゃくちゃ二次創作が投稿されていた。

その冤罪で魔王になってしまい討伐された公爵子息のビジュアルも格好良かったし、裏設定があまりにも酷すぎて、せめて二次創作の中だけでも幸せにしてあげようという気持ちが大きかったように思う。

かく言う俺も、ゲームクリア後は主人公よりも魔王に感情移入していて、幸せにしてやりたいと思っていた。

──そして気づいたら、そのBLゲームの世界に転生していたのだ。勇者となる主人公として。

そして即座に思ったことは『俺が公爵子息を護って魔王になんかさせない!』だった。

幸い、俺は侯爵家の次男で金も権力も(今はまだ親のものだが)ある。これを最大限に使って公爵子息の動向を探り、魔王になる前に救うのだ。

そう意気込んでいた誕生日翌日に、何故か俺を主と定めたゴーシュと出会い、協力して裏で動いていたのだが──

ゲームとは似て非なる世界なのか、それとも俺が転生者のせいなのか、公爵子息は俺よりも五年ほど早く生まれて年上のはずなのに、実際には何故かまだ生まれていなかった。

そしてその少しあとに生まれた公爵子息はその一四年後に馬車の事故で両親を亡くし、こちらが手を打つ前に叔父夫妻に公爵家を乗っ取られた。
そのわずか数日後に、公爵子息は病気療養との発表があり表舞台から姿を消した。

それから数ヶ月、ありとあらゆる情報網を使って公爵家の地下室に監禁されているという情報を何とか得たが、そこは万が一のための避難場所として過去に公爵家が誂えた部屋らしく、防護が堅く、龍人のゴーシュでさえも打ち破るのに一苦労するという。

何とか手はないかと模索するもどうにもならず、そうして三年が過ぎ俺が二二歳になった年に魔王が生まれそうだという情報が入った。

まさか公爵子息が!?
そう思うも、未だに公爵家の地下室に監禁されているだろう彼が魔王になるはずはない。
この頃にはすでに俺は学園で仲間にした勇者パーティーメンバーで冒険者として活動し力を付けていたので、一も二もなく調査に向かった。

それから一年かけて調査し、魔王が生まれそうだという洞窟へ向かうと、そこには魔王の卵と言うべき高濃度の瘴気の塊が渦巻いていた。
長い年月をかけて人の形のようになっているその瘴気を、俺の聖属性の浄化魔法ピュリフィケーションで徹底的に消し去る。

きっとコイツが絶望した公爵子息に取り憑いて魔王化させたに違いない。
後顧の憂いを残さぬためにも、コイツにはここで消えてもらう。二度と復活せぬように、広範囲を徹底的に浄化してやった。

『お前、やり過ぎじゃねえ?』
『いやはや、恋は盲目と言いますか……まあ、一途ですねえ』
『さすがシルフィエール様です!』
『お前も相変わらず主馬鹿だな』

仲間の剣士ランドール、魔導師カイン、ローグのナーヴに重戦士ウルブがめいめいに騒ぐが聞き流す。

『よし、サッサと帰って王に報告だ』

俺がそう言うと、皆はピタリと静かになる。

『帰りは転移してくれるよな?』

ランドールがニカッと笑って聞いてくるから、俺は苦笑する。

『仕方ないから、お前らも転移で連れ帰ってやるよ』
『やりい!』
『さすがに徒歩では数ヶ月かかりますからねえ』
『ありがとうございます、シルフィエール様! お前らも感謝しろ!』
『お前、やっぱり主馬鹿だな』

途端にわちゃわちゃと騒がしくなるコイツらを見て、公爵子息はこういう経験もできない状態なんだよなと顔が暗くなる。それに気づいたカインが宥めるように言ってくる。

『大丈夫ですよ、魔王の元は絶ちましたし』
『そうそう! だから次はその子の救出に専念できるだろう?』
『お前は成すべきことを成せ。俺達も手伝うから』
『シルフィエール様ならできるはずです!』
『……ああ、そうだな。ありがとう、皆』

コイツらは俺のやろうとしていることを知っていて、それに協力してくれている大切な仲間だ。

助け出せたら、彼にも紹介したい。



──しかしそれからも救出の糸口が掴めないまま進展なしで、また二年ほど経ったあの日。
アルヴァンス公爵家のあまりの悪辣非道な不正行為を重く見た王家から、ようやく突入の許可が下りた。

──もう、本当に遅いよ!

内心で悪態を吐きながらも、自分達の力ではなかなかどうすることも出なかった状況が動いて、気が逸る。

そうして公爵子息が監禁されてから六年──

叔父夫妻と子息はすでに逃亡してしまったが、王家の影が追いかけているはず。

そのまま邸に突入し、隠し扉から光の差さない薄暗い地下室に足を踏み入れる。そしてその冷たい床に血を流して倒れる公爵子息を見つけて、血の気が引いた。

かろうじて伸ばされた手を掴むも、骨と皮ばかりの痩せ細った姿に、グッと奥歯を噛みしめる。

ここで俺の治癒魔法で完治させることは可能だが、公爵子息の置かれていた環境を分かってもらうためにもこの状況を保たねばならない。
ただ、頭部の出血だけは止めることにした。
命が失われては元も子もないのだ。

こうして救出した公爵子息──ラスト・アルヴァンスを自分の邸に連れ帰り、王宮の医師に診てもらい、それから俺が完全に治癒する。

そうして治癒したにもかかわらず三日も眠ったままのラストにヤキモキして、ランドール達に笑われるのだった。



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