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6ー2【訳あり騎士は囲われる(仮)】sideウォルフガング
※ウォルフガングの回想のため、サイカの内容と重複する部分があると思います。ご了承ください。
本日は第三騎士団の新団員の入団式。
一月前に行われた入団試験を見事合格した実力者達だ。
その中に一人、訳ありの入団者がいる。
───サイカ・オリエール。
十五になったばかりの、オリエール男爵家の養子。
私は入団式に向かいながら、一月前のことを思い出していた。
◇◇◇
入団試験の日。
事前に届け出のあった受験者の資料にザッと目を通していると、一人、気になる者がいた。
「サイカ・オリエール、十五歳……左目を眼帯で覆っている、か。ということは左側は死角になるだろう。大丈夫なのか、まだ成人したてだろう」
もちろん、ちゃんと身元保証人がいるから受験資格はあるが。しかし、よほど腕に自信があるのか、それとも無鉄砲なのか。
妙に気になったので、ちょっと覗いてみるかと、受付会場に自分で足を運んだ。
すると、ちょうど誰かが受付で揉めていたので、声をかけると──。
受付の方に気を取られていたのか、私の声に驚いて横飛びし、振り向いたその顔に、今度はこちらが驚いて目を瞠った。
───ガイスト侯爵家の血筋の者か?
輝くような銀髪に、眼帯といっていいのか分からないが、バンダナで隠れていない右目も同じく銀色。
精霊の祝福を持つというガイスト侯爵家が受け継ぐ銀髪銀目よりも、遥かに艶やかで輝いている。
こんな人物は現在のガイスト侯爵家には、分家にもいなかったはずだ。
一瞬で思考を巡らせてから、眼帯で気付く。
今、まさに目の前にいる彼が、例のオリエール男爵家の養子か。
お互いに自己紹介をして話を聞くと、やはり左目のことで不安があるらしい。
なので、詳しい話を聞こうと、団長室まで連れてきた。ここなら人払いをしてから防音結界の魔導具を使えば、秘密は漏れないからな。
団長室には、いつからいたのか副団長のスコーピオ・ロマネスがいたが、ちょうどいいと同席してもらう。
彼は、私が飛び級して中等部の同学年になったときからの親友で、気の置けない男だから安心だ。
オリエールから話を聞いて、どうやら左目は見えないとかではなく、変わっているのでわざと隠していることが分かった。
義家族からの言い付けで信頼できる人になら見せてもいいらしい。
しかし、この目のせいで入団試験を受けられないときは困るから、ここだけの話だと、躊躇いを見せた。
本当は他言無用と言いたいのだろうが、私達がかなり高位の貴族だと予測したのだろう。口約束だと反故にされても、いち男爵家では強くは言えないから。
「入団試験は受けてもらおう。今は他言無用にしよう」
そう言って安心させて、左目を見せてもらうことになった。そして左側をかなり覆い隠していた眼帯代わりのバンダナを外すと──。
わざと伸ばして隠していた前髪を彼がかき上げると、そこにはとんでもない美人がいた。
成人したてで、幼さの残る大きなアーモンド型の瞳。左目の目尻にある泣きぼくろが、少年と青年の狭間の何とも言えない色気を出している。
何より、その左目が──。
銀色の瞳に、同じく銀色のために非常に見づらいが、ガイスト侯爵家の家紋である五芒星が浮き出ていた。
よく見ようと、思わずオリエールの顔を両手で掴んで覗き込む。そこには更なる驚きが!
なんと、五芒星のある場所に、星の欠片のような金色の小さな粒が散らばっているのである。
神秘的で美しいその瞳に、釘付けになる。
そして無意識に、右手の親指の腹で泣きぼくろを撫ぜた。
途端にオリエールがかあっと赤くなり、もういいだろうと言ったので、ハッとして離れる。
私は何をしているんだ。
最終的に、左目は隠そうということになった。今日の試験で合格したら、魔法を付与したバンダナを贈ると伝えると、素直に喜ぶ様に和む。防音結界の魔導具を一度切ると騎士を呼んで、試験会場に案内するように頼む。
オリエールは心なしかウキウキしているように見えた。
可愛らしいな。
オリエールはそのまま、案内係の騎士のあとについて出て行った。
それを見送ると、防音結界の魔導具を再び作動させて、スコーピオと密かに話をする。
「───まずいぞ、アレ。最初に顔を見たときは目を疑ったが。あんな見事な銀髪と銀の瞳は、あの家の血筋でも、見たことがない」
ガイスト侯爵家は精霊に愛されていることで有名だ。
その証拠に、直系はどんなに外部の血が混じろうとも、生まれる子は精霊の愛し子が持つという銀髪銀目のみ。分家も銀髪銀目の者は生まれるが、全員がそうとは限らない。そして本家の直系ほどの輝きはなく、その色を持つ者は少ない。
それが、地方の貧乏男爵家の養子で、ガイスト侯爵家直系に匹敵する──いや、凌駕するほどの美貌と家紋。
普段、冷静沈着なスコーピオでさえ、動揺していた。
……うん、長年の付き合いのある私くらいしか分からないだろうが。
「……まさか入団試験で目にすることになるとは……。あの噂は本当だったんだな」
あの噂とは、ガイスト侯爵家の第一子が十五年前に死産で届け出がされ、その葬儀の際に、赤子の棺はたくさんの花で埋め尽くされていて、その顔を見たものが誰もいないというもの。
さらには死産だというのに、使用人の中には産声を聞いた、赤子の泣き声が聞こえていたという者もいた。
そんな中、ガイスト夫妻は悲観に暮れるどころか憤っていたという。
『出来損ない』『役立たず』『家紋がないなんて』
そう言って憤慨していたそうだ。
これらはガイスト侯爵が箝口令を敷いたようだが、人の口に戸は立てられぬというように、密かに囁かれ、疑惑は膨らんでいた。
そこに、十五歳で養子、銀髪銀目の青年が入団試験を受けに王都に現れた。
サイカ・オリエール。
その左目を見て。
そして疑惑は確信に変わる。
「私は早急に動かねば。ああ、彼の試験の時は立ち合いたいから、ちょっと時間をずらせ、スコーピオ」
「分かった。では俺は試験会場へ向かう。そちらも上手くやってくれよ」
「任せろ」
オリエールのあの様子を見るに、本人は左目の意味も、銀髪銀目の容姿も、何も気付いていない、知らないようだった。
しかし義家族は隠せという。その言葉を疑いもせずに従っているようだった。
おそらく、義家族の男爵家は事情を知っている。その上で、サイカのためにひた隠しにしているのだろう。
その証拠に、よく見ないと気付かないが、あのバンダナには隠蔽魔法が付与されていた。サイカ本人が施したのか、どこぞの腕のいい魔導師に付与してもらったのか分からないが、恐ろしく精緻な付与魔法だ。
あれ以上の物となると、王宮魔導師に依頼するしかないが……。
とにかく極秘に進めないと危険だ、
あの噂が事実ならば、今さらだが、死産を真実にするために命を狙われかねないし、瞳の中にある家紋が知られたら、いいように利用され、搾取されるだろう。
そしてきっと、今までのような自由はなくなる。
噂に聞くオリエール男爵家は、貧しくとも領民達に慕われ、家族ぐるみで助け合って生活をしている、善良な領主だそうだ。
彼を利用しようとかいう後ろ暗いところはみじんも見えない。そこには確かに愛情しかない。
───そういえば……。
「確か、オリエール男爵家の令嬢──サイカの義母は、婚姻で辞職するまでは、ガイスト侯爵家の使用人をしていたような──」
これは、早急に詳しい調査が必要だな。
今日の入団試験で、彼は注目を浴びるだろうし、確実に合格するだろう。
ガイスト侯爵家に情報が伝わって手を出される前に、こちらが先に動いて囲わねばならない。
───あの銀の瞳に散っている金の粒。父に昔、聞かされたお伽話に出てきた、精霊王の祝福の証。
「サイカが、ガイスト侯爵家直系の第一子で、ガイスト家の初代だけが賜ったという、精霊王の祝福を受けた愛し子だというのならば……」
今は男爵家で幸せに過ごしているため、支障はなかったのだろうが、もし、その幸せが崩れたら、そのときは……。
「───ガイスト侯爵家もそうだが、これは国が荒れるぞ」
愛し子の意思にかかわらず、気まぐれな精霊達が暴れ回るかもしれない未来を想像してしまい、私は口元を引きつらせて、急ぎ、この国の宰相である父の元に向かった。
父はディザード大公で、国王陛下の実弟で宰相の地位にある。
宰相の執務室に着いて、扉を警護する近衛騎士に父へと取り次ぎを頼むと、すぐに許可が下りた。
「珍しいな、仕事中にお前から尋ねてくるとは。どうしたんだ、今日は第三騎士団の入団試験日で忙しいだろう?」
「そのことで、ちょっと。すみませんが人払いを。そして防音結界の魔導具を作動させてください」
「……分かった。皆は少し席を外してくれ」
父は、私の尋常じゃない様子に気付いて素早く人払いをすると、二人きりになった執務室に防音結界の魔導具を起動させる。
「で、一体どうした?」
父は私にソファを薦めて自身も向かい側に落ち着くと、時間がもったいないとばかりに早速切り出してきた。
私も時間が惜しいので、単刀直入に話す。
「実は先ほど、受験者の中にガイスト侯爵家の血筋と思われる青年がおりまして」
「───はあっ!?」
驚き、腰を上げる父に、まあそれが普通の反応だよなと、苦笑する。
「あの家は、最近はろくでもないヤツが増えてきて、精霊の祝福が弱くなったり、消えてしまったり、祝福がない状態で生まれたりと、色々、問題の多い家だろう? そんな家の子が、入団試験を受けに来たって!?」
今ここに私達しかいないとはいえ、あまりに酷い言い草にさらに苦笑する。
実際、ガイスト侯爵家の品位は数代前からだいぶ落ちていた。過去にすごい偉業を成し遂げてはいるが、その栄光にあぐらをかいて、他者を見下し、自分達を遇するのが当然という態度。
確かに祝福持ちが行使する『精霊魔法』は、その威力が桁違いだ。
精霊魔法を使える精霊魔法師もいるが、力を借りる精霊の位階に左右される。それを考えれば、ガイスト侯爵家の力は確かにすごい。
しかし、今は他国との争いなどない状況だからいいが、アレでは有事の際には役に立たないだろうと言われているほどだ。
当人達は気付いていないだろうが。
そんな、悪評が高くなりつつあるガイスト侯爵家の血族が、なぜ第三騎士団の入団試験に来るのか。
そりゃあ、驚くだろう。
「それがですね、この資料を見ていただけると分かると思いますが──おそらく、あの噂が関係しているかと」
そう言って持ってきた資料を渡すと、急いで目を通す。
「……っ、これは……これが本当ならば、故意にその存在を隠蔽したうえに書類改ざんの疑いが出るぞ。その子がガイスト侯爵家の直系の第一子と確信があるのか?」
「ええ。左目を確認いたしました。銀の瞳に銀の五芒星。さらに金砂が舞っています」
「───っ!!」
私にお伽話を読み聞かせてくれた父だからこそ、その意味を瞬時に悟ったのだろう。息を飲んだのが分かった。
「精霊王の……愛し子」
「ええ。そしてどうやら今の彼は、自分の出自を知らされていないようです。おそらく男爵家総ぐるみで隠しているのでしょう。彼を護るために」
「……そうか。かの男爵家は善良な一族だと聞く。今までずっと、護られていたのか」
「それでですね、義母はガイスト侯爵家に使用人として勤めていたことがあるので、何か知っているのではと思っています。その辺りも含めて、ガイスト侯爵家に悟られずに、極秘で、早急に調査をお願いしたいのです」
そう進言すると、父はニヤリと笑った。
「任せろ。陛下に進言し、王家の影を貸していただこう。他に要望はあるか?」
「助かります。おそらく入団試験は一発合格と思われますが、かなりの美貌でさらに銀髪銀目なので、もの凄く目立つと思われます。左目を覆うバンダナに特殊な魔法を付与して贈りたいので、こちらも王宮魔導師に極秘に依頼をお願いします」
私よりも宰相の父の方が、そういう采配は上手いからな。
「ふむ。ならば適任者がいるな。それと……お前、惚れたな? 彼が嫌でなければ、お前と婚約させて我が家が後ろ盾になるぞ」
ニヤリとしながらそう言われて、父には誤魔化しが効かないなと、溜め息を吐く。
「ええ。一目惚れのようなものですね。……そうですね、嫌われてはいないと思いますが、外堀から埋めていきましょうか」
「なら、内緒で婚約だけしておけばいいな。心が通い合えばそのまま、なびいてもらえなければ解消すればいい」
「いや、なびかせてやりますけど!」
私は大公家の次男でスペアだが、婚約は政略でなく自由にさせてもらっているので、たとえ解消となっても、痛くもかゆくもない。
まあ、解消なんかしないけどね。
はっはっはっと、二人で腹黒く笑い、魔導具を止めて、それそれのやることに向けて動き出す。
父はこれから宰相として陛下に進言し、私は入団試験の見学に向かう。
こうしてサイカの知らぬ間に、着実に外堀を埋めにかかったのだった。
───そしてあれから一月後の今日、サイカは第三騎士団員となり、そして私の婚約者になる。
※あとで修正とか加筆があるかもしれません。
※ウォルフとスコーピオの年齢差で学生時代の仲って、おかしいよね?と思われた方に。
修正して、ウォルフが飛び級してスコーピオと同学年だったというという補足をしました。
本日は第三騎士団の新団員の入団式。
一月前に行われた入団試験を見事合格した実力者達だ。
その中に一人、訳ありの入団者がいる。
───サイカ・オリエール。
十五になったばかりの、オリエール男爵家の養子。
私は入団式に向かいながら、一月前のことを思い出していた。
◇◇◇
入団試験の日。
事前に届け出のあった受験者の資料にザッと目を通していると、一人、気になる者がいた。
「サイカ・オリエール、十五歳……左目を眼帯で覆っている、か。ということは左側は死角になるだろう。大丈夫なのか、まだ成人したてだろう」
もちろん、ちゃんと身元保証人がいるから受験資格はあるが。しかし、よほど腕に自信があるのか、それとも無鉄砲なのか。
妙に気になったので、ちょっと覗いてみるかと、受付会場に自分で足を運んだ。
すると、ちょうど誰かが受付で揉めていたので、声をかけると──。
受付の方に気を取られていたのか、私の声に驚いて横飛びし、振り向いたその顔に、今度はこちらが驚いて目を瞠った。
───ガイスト侯爵家の血筋の者か?
輝くような銀髪に、眼帯といっていいのか分からないが、バンダナで隠れていない右目も同じく銀色。
精霊の祝福を持つというガイスト侯爵家が受け継ぐ銀髪銀目よりも、遥かに艶やかで輝いている。
こんな人物は現在のガイスト侯爵家には、分家にもいなかったはずだ。
一瞬で思考を巡らせてから、眼帯で気付く。
今、まさに目の前にいる彼が、例のオリエール男爵家の養子か。
お互いに自己紹介をして話を聞くと、やはり左目のことで不安があるらしい。
なので、詳しい話を聞こうと、団長室まで連れてきた。ここなら人払いをしてから防音結界の魔導具を使えば、秘密は漏れないからな。
団長室には、いつからいたのか副団長のスコーピオ・ロマネスがいたが、ちょうどいいと同席してもらう。
彼は、私が飛び級して中等部の同学年になったときからの親友で、気の置けない男だから安心だ。
オリエールから話を聞いて、どうやら左目は見えないとかではなく、変わっているのでわざと隠していることが分かった。
義家族からの言い付けで信頼できる人になら見せてもいいらしい。
しかし、この目のせいで入団試験を受けられないときは困るから、ここだけの話だと、躊躇いを見せた。
本当は他言無用と言いたいのだろうが、私達がかなり高位の貴族だと予測したのだろう。口約束だと反故にされても、いち男爵家では強くは言えないから。
「入団試験は受けてもらおう。今は他言無用にしよう」
そう言って安心させて、左目を見せてもらうことになった。そして左側をかなり覆い隠していた眼帯代わりのバンダナを外すと──。
わざと伸ばして隠していた前髪を彼がかき上げると、そこにはとんでもない美人がいた。
成人したてで、幼さの残る大きなアーモンド型の瞳。左目の目尻にある泣きぼくろが、少年と青年の狭間の何とも言えない色気を出している。
何より、その左目が──。
銀色の瞳に、同じく銀色のために非常に見づらいが、ガイスト侯爵家の家紋である五芒星が浮き出ていた。
よく見ようと、思わずオリエールの顔を両手で掴んで覗き込む。そこには更なる驚きが!
なんと、五芒星のある場所に、星の欠片のような金色の小さな粒が散らばっているのである。
神秘的で美しいその瞳に、釘付けになる。
そして無意識に、右手の親指の腹で泣きぼくろを撫ぜた。
途端にオリエールがかあっと赤くなり、もういいだろうと言ったので、ハッとして離れる。
私は何をしているんだ。
最終的に、左目は隠そうということになった。今日の試験で合格したら、魔法を付与したバンダナを贈ると伝えると、素直に喜ぶ様に和む。防音結界の魔導具を一度切ると騎士を呼んで、試験会場に案内するように頼む。
オリエールは心なしかウキウキしているように見えた。
可愛らしいな。
オリエールはそのまま、案内係の騎士のあとについて出て行った。
それを見送ると、防音結界の魔導具を再び作動させて、スコーピオと密かに話をする。
「───まずいぞ、アレ。最初に顔を見たときは目を疑ったが。あんな見事な銀髪と銀の瞳は、あの家の血筋でも、見たことがない」
ガイスト侯爵家は精霊に愛されていることで有名だ。
その証拠に、直系はどんなに外部の血が混じろうとも、生まれる子は精霊の愛し子が持つという銀髪銀目のみ。分家も銀髪銀目の者は生まれるが、全員がそうとは限らない。そして本家の直系ほどの輝きはなく、その色を持つ者は少ない。
それが、地方の貧乏男爵家の養子で、ガイスト侯爵家直系に匹敵する──いや、凌駕するほどの美貌と家紋。
普段、冷静沈着なスコーピオでさえ、動揺していた。
……うん、長年の付き合いのある私くらいしか分からないだろうが。
「……まさか入団試験で目にすることになるとは……。あの噂は本当だったんだな」
あの噂とは、ガイスト侯爵家の第一子が十五年前に死産で届け出がされ、その葬儀の際に、赤子の棺はたくさんの花で埋め尽くされていて、その顔を見たものが誰もいないというもの。
さらには死産だというのに、使用人の中には産声を聞いた、赤子の泣き声が聞こえていたという者もいた。
そんな中、ガイスト夫妻は悲観に暮れるどころか憤っていたという。
『出来損ない』『役立たず』『家紋がないなんて』
そう言って憤慨していたそうだ。
これらはガイスト侯爵が箝口令を敷いたようだが、人の口に戸は立てられぬというように、密かに囁かれ、疑惑は膨らんでいた。
そこに、十五歳で養子、銀髪銀目の青年が入団試験を受けに王都に現れた。
サイカ・オリエール。
その左目を見て。
そして疑惑は確信に変わる。
「私は早急に動かねば。ああ、彼の試験の時は立ち合いたいから、ちょっと時間をずらせ、スコーピオ」
「分かった。では俺は試験会場へ向かう。そちらも上手くやってくれよ」
「任せろ」
オリエールのあの様子を見るに、本人は左目の意味も、銀髪銀目の容姿も、何も気付いていない、知らないようだった。
しかし義家族は隠せという。その言葉を疑いもせずに従っているようだった。
おそらく、義家族の男爵家は事情を知っている。その上で、サイカのためにひた隠しにしているのだろう。
その証拠に、よく見ないと気付かないが、あのバンダナには隠蔽魔法が付与されていた。サイカ本人が施したのか、どこぞの腕のいい魔導師に付与してもらったのか分からないが、恐ろしく精緻な付与魔法だ。
あれ以上の物となると、王宮魔導師に依頼するしかないが……。
とにかく極秘に進めないと危険だ、
あの噂が事実ならば、今さらだが、死産を真実にするために命を狙われかねないし、瞳の中にある家紋が知られたら、いいように利用され、搾取されるだろう。
そしてきっと、今までのような自由はなくなる。
噂に聞くオリエール男爵家は、貧しくとも領民達に慕われ、家族ぐるみで助け合って生活をしている、善良な領主だそうだ。
彼を利用しようとかいう後ろ暗いところはみじんも見えない。そこには確かに愛情しかない。
───そういえば……。
「確か、オリエール男爵家の令嬢──サイカの義母は、婚姻で辞職するまでは、ガイスト侯爵家の使用人をしていたような──」
これは、早急に詳しい調査が必要だな。
今日の入団試験で、彼は注目を浴びるだろうし、確実に合格するだろう。
ガイスト侯爵家に情報が伝わって手を出される前に、こちらが先に動いて囲わねばならない。
───あの銀の瞳に散っている金の粒。父に昔、聞かされたお伽話に出てきた、精霊王の祝福の証。
「サイカが、ガイスト侯爵家直系の第一子で、ガイスト家の初代だけが賜ったという、精霊王の祝福を受けた愛し子だというのならば……」
今は男爵家で幸せに過ごしているため、支障はなかったのだろうが、もし、その幸せが崩れたら、そのときは……。
「───ガイスト侯爵家もそうだが、これは国が荒れるぞ」
愛し子の意思にかかわらず、気まぐれな精霊達が暴れ回るかもしれない未来を想像してしまい、私は口元を引きつらせて、急ぎ、この国の宰相である父の元に向かった。
父はディザード大公で、国王陛下の実弟で宰相の地位にある。
宰相の執務室に着いて、扉を警護する近衛騎士に父へと取り次ぎを頼むと、すぐに許可が下りた。
「珍しいな、仕事中にお前から尋ねてくるとは。どうしたんだ、今日は第三騎士団の入団試験日で忙しいだろう?」
「そのことで、ちょっと。すみませんが人払いを。そして防音結界の魔導具を作動させてください」
「……分かった。皆は少し席を外してくれ」
父は、私の尋常じゃない様子に気付いて素早く人払いをすると、二人きりになった執務室に防音結界の魔導具を起動させる。
「で、一体どうした?」
父は私にソファを薦めて自身も向かい側に落ち着くと、時間がもったいないとばかりに早速切り出してきた。
私も時間が惜しいので、単刀直入に話す。
「実は先ほど、受験者の中にガイスト侯爵家の血筋と思われる青年がおりまして」
「───はあっ!?」
驚き、腰を上げる父に、まあそれが普通の反応だよなと、苦笑する。
「あの家は、最近はろくでもないヤツが増えてきて、精霊の祝福が弱くなったり、消えてしまったり、祝福がない状態で生まれたりと、色々、問題の多い家だろう? そんな家の子が、入団試験を受けに来たって!?」
今ここに私達しかいないとはいえ、あまりに酷い言い草にさらに苦笑する。
実際、ガイスト侯爵家の品位は数代前からだいぶ落ちていた。過去にすごい偉業を成し遂げてはいるが、その栄光にあぐらをかいて、他者を見下し、自分達を遇するのが当然という態度。
確かに祝福持ちが行使する『精霊魔法』は、その威力が桁違いだ。
精霊魔法を使える精霊魔法師もいるが、力を借りる精霊の位階に左右される。それを考えれば、ガイスト侯爵家の力は確かにすごい。
しかし、今は他国との争いなどない状況だからいいが、アレでは有事の際には役に立たないだろうと言われているほどだ。
当人達は気付いていないだろうが。
そんな、悪評が高くなりつつあるガイスト侯爵家の血族が、なぜ第三騎士団の入団試験に来るのか。
そりゃあ、驚くだろう。
「それがですね、この資料を見ていただけると分かると思いますが──おそらく、あの噂が関係しているかと」
そう言って持ってきた資料を渡すと、急いで目を通す。
「……っ、これは……これが本当ならば、故意にその存在を隠蔽したうえに書類改ざんの疑いが出るぞ。その子がガイスト侯爵家の直系の第一子と確信があるのか?」
「ええ。左目を確認いたしました。銀の瞳に銀の五芒星。さらに金砂が舞っています」
「───っ!!」
私にお伽話を読み聞かせてくれた父だからこそ、その意味を瞬時に悟ったのだろう。息を飲んだのが分かった。
「精霊王の……愛し子」
「ええ。そしてどうやら今の彼は、自分の出自を知らされていないようです。おそらく男爵家総ぐるみで隠しているのでしょう。彼を護るために」
「……そうか。かの男爵家は善良な一族だと聞く。今までずっと、護られていたのか」
「それでですね、義母はガイスト侯爵家に使用人として勤めていたことがあるので、何か知っているのではと思っています。その辺りも含めて、ガイスト侯爵家に悟られずに、極秘で、早急に調査をお願いしたいのです」
そう進言すると、父はニヤリと笑った。
「任せろ。陛下に進言し、王家の影を貸していただこう。他に要望はあるか?」
「助かります。おそらく入団試験は一発合格と思われますが、かなりの美貌でさらに銀髪銀目なので、もの凄く目立つと思われます。左目を覆うバンダナに特殊な魔法を付与して贈りたいので、こちらも王宮魔導師に極秘に依頼をお願いします」
私よりも宰相の父の方が、そういう采配は上手いからな。
「ふむ。ならば適任者がいるな。それと……お前、惚れたな? 彼が嫌でなければ、お前と婚約させて我が家が後ろ盾になるぞ」
ニヤリとしながらそう言われて、父には誤魔化しが効かないなと、溜め息を吐く。
「ええ。一目惚れのようなものですね。……そうですね、嫌われてはいないと思いますが、外堀から埋めていきましょうか」
「なら、内緒で婚約だけしておけばいいな。心が通い合えばそのまま、なびいてもらえなければ解消すればいい」
「いや、なびかせてやりますけど!」
私は大公家の次男でスペアだが、婚約は政略でなく自由にさせてもらっているので、たとえ解消となっても、痛くもかゆくもない。
まあ、解消なんかしないけどね。
はっはっはっと、二人で腹黒く笑い、魔導具を止めて、それそれのやることに向けて動き出す。
父はこれから宰相として陛下に進言し、私は入団試験の見学に向かう。
こうしてサイカの知らぬ間に、着実に外堀を埋めにかかったのだった。
───そしてあれから一月後の今日、サイカは第三騎士団員となり、そして私の婚約者になる。
※あとで修正とか加筆があるかもしれません。
※ウォルフとスコーピオの年齢差で学生時代の仲って、おかしいよね?と思われた方に。
修正して、ウォルフが飛び級してスコーピオと同学年だったというという補足をしました。
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